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白目じゃないほうの『死霊のはらわた』に隠された制作陣の真意とは?

ホラー

リメイク版『死霊のはらわた』を観ました。

1981年に公開されたサム・ライミ版『死霊のはらわた』は、個人的に今まで観た映画の中でベスト3に入る傑作です。この作品が好きな人はみんなそのくらい惚れ込んでいるのではないでしょうか。

すでに『死霊のはらわたII』という続編があり、これ自体サム・ライミ監督によるリメイク作品みたいなものですから、今さら『死霊のはらわた』を作り直すことはかなり無謀な賭けであると言えます。

『リング』などの脚本家として知られる高橋洋氏が「ニコ生」で語っていた言葉が印象的でした。

──白目じゃないのはおかしい。

そう。オリジナル版の“悪魔”はみんな白目を剥いており、これだけで目の前の相手が「自分たちとはまったく異なる存在」であることが問答無用で理解できる(理解させられてしまう)ようになっています。

ですが、このリメイク版は白目じゃない。

この1点だけでも、『死霊のはらわた』という看板を掲げる資格がない──と断罪することもできるのですが、かといって単なる駄作と切り捨ててしまうのも惜しい気がします。

なぜリメイク版の監督は白目にしなかったのか?

“悪魔”に〈人間味〉を持たせたかった?

『死霊のはらわた』の重要な要素である〈白目〉をあえて捨てた理由。それは──。

“悪魔”に〈人間味〉を感じさせたかった

ではないかと思われます。

このリメイク版では、「薬物依存症である妹の治療のために山小屋に来ている」というオリジナルにはない設定が加わっています。これにより、悪魔に襲われた妹の体験が現実なのか幻覚なのか、登場人物はすぐに判断できないようになっています。

悪魔に取り憑かれたとき、オリジナル版のように〈白目〉になってしまえば、目の前の人物はもはや恐怖の対象でしかなく、戦うしか選択肢がなくなります。しかし、リメイク版のように〈白目〉になっていないなら、まだ救い出すチャンスはある(ように感じる)わけで、実際、劇中の人物はそのように行動します。

やりたかったのは『エクソシスト』?

少女の首がぐるりと180度回転するシーンで有名な『エクソシスト』というこれまたホラーの大傑作があります。

この映画も「悪魔に取り憑かれる」という点で『死霊のはらわた』と似ています。しかし、『エクソシスト』のほんとうの恐い部分は、首が回るシーンなんかではなくて、シングルマザーである少女の母親が誰からも手を差し伸べてもらえず、変貌した娘と孤独に戦わなければ(救い出さなければ)ならない、という点にあります。

少女は「悪魔に取り憑かれた」という設定ですが、よく見ると、じつは少女は精神的な病なのかもしれない、という解釈ができる余地を残しています(悪魔にダメージを与えるため「聖水」を振りかけるシーンがありますが、実際はただの水だったりします)。

さすがに『死霊のはらわた』は「精神的な病」ってことはないでしょうが、しかし、〈家族愛〉を描いている(むしろそっちのほうがメイン)という点で、目指そうとした方向性は『エクソシスト』だったのではないかという仮説を立ててみました。

そう考えるとやっぱり物足りない

“悪魔”が白目じゃないのは〈人間味〉を失わないため。それは〈家族愛〉を描くため。

というのがこのリメイク版『死霊のはらわた』に隠された制作陣の真意ではないか──と言いたいのですが、じつはこの持論には自信がありません。

『エクソシスト』みたいな〈家族愛〉を描こうとしていると考えると、でもやっぱり物足りないという感じがするからです。

「妹の体験が現実なのか幻覚なのかわからない」というのは映画としては面白い要素なのですが、これが存分に活かされているとは言えない。「もうちょっとやりようがあったのでは?」と思ってしまいます。

薬物依存症の妹に観客が感情移入してしまうような、それゆえ他の登場人物にもどかしさを覚えるようなシーンがもっと必要だったのではないでしょうか。

理由がつくと恐くない

──家族愛? なにそれ?

もし私の考えを監督が聞いたらこう答えるかも。私の解釈は単なる妄想で、リメイク版はオリジナル版と同様、ホラー表現をただただ追究したかっただけなのかもしれません。

でも、そう考えたとしても、中途半端である感じは否めません。

リメイク版では、冒頭に「前日談」のようなものが描かれています。しかし、これはまるまる不要ではないでしょうか。

ホラー映画において、「こうなった理由」というのを丁寧に説明する(つまり理屈がわかる)と、恐怖は半減するのです。

オリジナル版『死霊のはらわた』では、因果関係の説明らしきものはたしかにあるのですが、必要最低限になっており、わけがわからないうちに、観客に考える余地を与えずに、恐怖描写が展開していきます。

ホラー映画としては決して悪くない

「スプラッター描写」は『死霊のはらわた』の特徴で、オリジナル版ではこれを突き詰めた結果ギャグの領域に達してしまった、というところが画期的・革命的で面白いのですが、リメイク版ではそうなっていません。

「そうなっていないからダメ」という批判もあるかもしれませんが、しかし同じことをやるならリメイクする意味はない(しかもオリジナルを越えることはあり得ない)のですから、リメイク版の方向性はその部分においては間違ってはいないでしょう。

なんだかんだいって『死霊のはらわた』という名前がついているから、オリジナルと比べてしまうし、過度な期待を寄せてしまうのですが、ひとつのホラー映画として観れば、駄作というほど悪くはありません。

オリジナル版のことはいったん忘れてホラー映画のひとつとして観るもよし、あらためてオリジナル版の魅力を発見するもよし。

これが本作品の正しい鑑賞のしかたになるでしょう。

夜見野レイ

夜見野レイ

このサイトでは、ホラー作品のレビューを担当。幼いころ、テレビで最初に観た映画がホラー作品だったことから無類のホラー好きに。ガールズラブ&心霊学園ホラー小説『天使の街』シリーズをセルフパブリッシングで執筆。ライターとしては、清水崇・鶴田法男・一瀬隆重・落合正幸・木原浩勝の各氏にインタビュー経験を持つ(名義は「米田政行」)。

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ぎゃふん工房(米田政行)

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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