〈好き〉を極め〈仕事〉にできる文章術【著者インタビュー・Jini(ジニ)さん】

〈好き〉を極め〈仕事〉にしてしまった著者・Jini(ジニ)さんに成功の秘密をインタビュー。

〈好き〉なことを〈仕事〉にする。そうすれば幸せな〈人生〉を送れる——。その“真実”が見えてきた。では、具体的にどう行動すればいいのか? これがわからない。

そんな折り、『好きなものを「推す」だけ。共感される文章術』を読んだ。著者のJini(ジニ)さんは、〈ゲームレビュー〉を主体としたブログ「ゲーマー日日新聞」で2500万PVを達成。現在はゲームジャーナリストとして多方面で活躍している。つまり、〈好き〉を極め〈仕事〉にしてしまったわけだ。

成功の秘密を探るため、さっそくJiniさんにインタビューを試みた。

実際、どうやって〈好き〉を極めていったのか? 具体的な実践のしかたは著書を読んでいただくとして、ここでは本の裏側に隠されたマインドやノウハウについて聴いた。

〈好き〉を〈仕事〉にしたいと考えている人は必見のインタビューだ。

個人ブログだからこそ〈読者〉を意識する

ブログが2500万PVを達成できた理由

——「ゲーマー日日新聞」は、「推し」の素晴らしさを伝えたい一心で始められたわけですが、実際にその手ごたえを感じたのはいつでしょう?

2018年にSteam*1のオススメゲームを50本紹介する記事を書きました。Twitterで1万以上ツイートされ、はてなブックマークが1200以上ついたんです。これが最初の成功体験になりました。

*1:【Steam】PCゲームやソフトウェアをダウンロード販売しているプラットフォーム。

記事を読んだ人が実際にゲームを買ってくれたのは嬉しかったですね。自分とおなじ価値観を持つ人を求めてブログを書いているようなものですから、なによりも励みになります。オタクって孤独なので(笑)。

——それほど多くの人から共感を得たのはなぜでしょう?

3万字以上におよぶ長い記事なのですが、読ませかたを工夫したんです。具体的には、ひとくちに「読者」といってもいろいろな人がいます。ハードコアなゲーマーもいれば初心者もいる。友だちとワイワイ盛りあがりながらプレイしたい人、ストーリーにじっくり浸りたい人と、ゲームの楽しみかたはさまざまです。

そういった人たちがなにを求めているかを考え、ゲームをカテゴリー分けしながら紹介したのが良かったのだと思います。

ブログにかぎらず、コンテンツは受け手を楽しませることをつねに考えながらつくるべきです。この点はいまでも心がけています。

 icon-arrow-circle-down Jiniさんの成功体験となった記事(内容は2020年に一部改訂されている)。

〈読者〉を楽しませるための工夫とは?

——「読者を楽しませる」ために、どんなことに注意しながら記事を書いていますか?

基本的なことからいえば、難解な言葉と平易な表現のバランスには気をつけています。また、本旨となる部分、その記事で自分のもっとも言いたいことが最後までブレないようにするのも大切ですね。ブレてしまうと、「結局なにが言いたいの?」となって、読後感が悪くなってしまいます。

もう少し細かい話をすれば、導線を考えることですね。読者が記事を読みすすめながらどう思考していくか、読者の視点に立ちながら書いていきます。

たとえば、序盤にあまりディープな内容を詰めこまない。序盤は自分の言いたいことを簡潔にまとめ、中盤に進むにつれて深い内容を出していくようにしています。

自分の伝えたいことを最優先にする

——読者を意識するというお話がありましたが、SNSなどで読者の反応はチェックしていますか?

記事がどう読まれたかは気になるので、検索してチェックすることはあります。ただ、もっとも優先すべきなのは「記事の内容に自分が納得できるかどうか」です。そもそも読者のほとんどは、自分の意見を表明しないんですよ。ですから、「読者がこう反応しているから」といって自分の考えを変えてまで納得できないものを書くことはありません。

それに、自分の考えを押しつけるために記事を書いているのではなく、あくまで読者が参考にするための材料を提示しているつもりです。その心構えはつねに持ちつづけたいですね。

自分のメディアならなんでもできる

個人メディアに“障害”はない

——ご自分のメディアを運営されるうえで、“課題”や“障害”になっていることはありますか?

個人メディアは企業が運営するメディアと異なって、経営部から求められる数値などないので、目に見える課題や障害といったものはないと思います。

個人的にこの記事のここがよくなかったなとか、ここをもっとよくできるなといった細かい部分の課題はあるんですが、ひとりでやってるだけのメディアなら、それを改善する余裕があります。

——課題があるとすれば自分のモチベーションぐらい。

モチベーションがなくなれば、もちろん辞めてもいいし、放置してもいいわけですからね。自分のメディアなのだから自由です。

個人メディアの良い点がもうひとつあって、それはPDCAをまわしやすいことです。

先ほどSNSで読者の反応をチェックすると言いましたが、「自分ではこういうつもりで書いたが、読者はそう読まなかった。だったら、次の記事ではこんな工夫をしてみよう」と、自分のメディアならいくらでもトライ・アンド・エラーができます

つねに自分の価値観をアップデートしておく

——自分のメディアなんだから、失敗を恐れず、とにかくなんでもやってみればいい、と。

そうですね。ただし、それはいわゆる炎上を狙うこととはちがいます。特定の価値観や特定の人々を傷つけるようなことを書くべきではありません。

つい最近も「美術館女子」*2が問題になりました。作り手に美術館や女性をバカにする意図はなかったはずです。でも炎上してしまった。悪意はなかったけれども、作り手の価値観が10年前から変わっていなかったことが原因だと思います。

*2:【美術館女子】読売新聞オンラインと美術館連絡協議会が発表したプロジェクト。アイドルグループAKB48のメンバーが各地の美術館を訪れアートの魅力を発信していく企画だったが、ジェンダーやアートの視点からSNSを中心に批判の声が上がった。

——いまの時代、価値観は急激に変化していますからね。

10年どころか、世間の価値観は1〜2年でガラリと変わることもあります。

先ほどから読者を意識するという話をしていますが、読者にはさまざまな価値観を持つ人がいることにもっと注意を払わなければいけません。「自分の言葉が人を傷つけるかもしれない」ことを想定しておく。そのためには、作り手である自分自身の価値観をつねにアップデートしておいたほうがいいでしょう。

これは自由に書ける自分のメディアだからこそ、肝に銘じておくべきです。

「推し」と向きあうには“人生”を見直す

「推し」に出会うために“偏見”を捨てる

——Jiniさんはまだお若いですが、私のような“おじさん”になると、お気に入りの作品(=推し)を見つけようとする気力も衰えてきます(笑)。新しい「推し」に出会うために、どんな工夫をしていますか?

「推し」に年齢は関係ないと思いますよ。中学生でも「オレはもうゲームは卒業したぜ」って言ったりしますから(笑)。

「推し」が見つからない原因は、ようするに思い込みとか偏見です。「このメーカーのゲームだからおもしろいはずだ」「あのメーカーだからクソゲーにちがいない」などと、知らず知らずのうちに考えてしまいがちです。

しかし、思い込みや偏見を捨て、古今東西のあらゆるメディアに接するようにしないと、新たな推しは見つかりません。

——偏見をなくすのもなかなか難しいのでは?

偏見を捨てるには、理性を働かせることです。ネットの評価は気にしない。過去の経験は参考にしない。そんなふうに自分でつくった“枠”を理性ではずしていくことが大切です。

子どものころを思い出してください。どんなものでも、ポジティブに純粋に受け入れていましたよね? 「ソニーのハードだから〜」とか「任天堂のゲームだから〜」なんて考えていなかったはず。それは偏見がないからです。

ですから、理性の力で「子どもにもどる」。そうすれば、新しい「推し」に出会えます。

ゲームは食事や運動とおなじと考える

——子どものころとちがって、社会人になると「推し」と向きあう時間もなかなかとれません……。

小島秀夫さん*3という有名なゲームクリエイターがいます。おそらく世界でもっとも忙しい作り手でしょう。多忙を極めながらも、毎日欠かさず映画を観たりテレビドラマシリーズをチェックしたりしているそうです。小島監督はそれらを必要なことだと考えているからです。

*3:【小島秀夫】おもな監督作は『メタルギア』シリーズ。2019年に発売された最新作『DEATH STRANDING』もゲーム界で注目を集めた。大の映画好きとしても知られ、映画監督ギレルモ=デル=トロなど、世界の映画関係者とも親交がある。

一般的に食事や運動は人の生活に必要なこととされています。運動が嫌いな人でも、そのための時間をなんとかつくろうとしますよね?

一方でゲームをプレイすることは、ふつうの人にとって必要なことではありません。ですが、「推し」と向きあうためには、食事や運動とおなじように、ゲームは必要だと頭を切りかえることです。

そうすると、「時間がないから食事をしない」なんてことがないのとおなじで、「時間がないから『推し』と向きあわない」という発想は出てこないはずです。

もちろん、人付き合いを減らしたり、仕事のしかたを変えたりしなければならない場合もあるでしょう。でも、「推し」と向きあうのを必要なことと思っていれば、時間は自然につくれるのではないでしょうか。

「推し」の追究は今後も有効なスキルとなる

——現在、ゲームレビューや評論はおもにnote*4で展開していらっしゃいます。noteに軸足を移されたのはなぜでしょう?

*4:【note】記事や画像、音声などをコンテンツとして配信できるウェブサービス。コンテンツを有料化することもできる。

ネットの世界には、往々にしてネガティブな雰囲気が漂いがちです。一部の“いかつい人”の声が大きくなりがちなんです。

しかし、noteは「クリエイター・ファースト」を方針に掲げていることもあり、ポジティブな空気があります。また、その方針にしたがってサイトがつくられているので、デザインやシステムがとても洗練されています。ゲームレビューとの相性もいい。

現在、サイトはスマホから閲覧する人がほとんどです。noteがスマホに最適化されている点も大きいですね。

——最後に、今後の「推し」の追究について教えてください

いろいろな展開のしかたを構想していますが、当面はいまのゲームレビューのスタイルをつづけていくつもりです。というのは、いまも魅力的なゲームがどんどん登場しているからです。ひとつひとつの作品に向きあっていくことは、これからますます重要になってきます。

先日は、PlayStation 5も発表されました。ゲームの世界は今後もどんどん広がっていきます。そんなゲーム界に寄りそいつつ、マクロな視点からもゲームを論じていきたいと考えています。

——本日はありがとうございました!

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『好きなものを「推す」だけ。共感される文章術』
[Jini:著/KADOKAWA/1430円]
好きでもない商品の広告収入をアフィリエイトで得たり、情報商材を売りつけて利益をあげたりせず、自分のお気に入りの作品を「推す」というメディア運営法。その具体的な実践のしかたを指南する。ネガティブな空気が漂いがちなネットの世界で、あえて作品のポジティブな部分に着目。自分とおなじ価値観の持ち主に語りかけたい人の“バイブル”となる一冊だ。

Jini(ジニ)
ゲームジャーナリスト、批評家、編集者。2014年に立ち上げたブログ「ゲーマー日日新聞」は2500万PVを達成。noteに有料マガジン「ゲームゼミ」を開設し、フォロワーは2万5000人を突破する。ゲームメディアの副編集長を務めるかたわら、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」にレギュラー出演するなど、多方面で活躍。魅力的なゲームを「推し」ながら、ゲームの文化的価値を追究している。著書に『好きなものを「推す」だけ。共感される文章術』(KADOKAWA)がある。
ゲーマー日日新聞
note

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