「応用倫理学」は新しい学問分野だが、「よく考える」とはどういうことかを知るのに役立つ。今回は、加藤尚武『応用倫理学のすすめ』から、〈考える〉ための材料を拾ってみよう。
『応用倫理学のすすめ』
著者●加藤尚武
出版社●丸善
「弊害があるから廃止すべき」と〈考える〉のはまちがっている
勉強会のような本格的な場でも、家庭や職場の〝床屋談義〟レベルでもいい。「○○の制度には、△△という弊害があるから廃止すべきだ」。あなたは、そんなふうに社会情勢や政治問題を語っていないだろうか。加藤氏は、私たちがつい陥りがちなそんな思考を「正しくない」と断言する。
一般的にいうと「××には弊害があるから、弊害を除去すべきだ」というのは、正しい判断形式だが、「××には弊害があるから、廃止すべきだ」というのは正しい判断形式ではないというように公式化することができる。
たとえば、自動車の事故で毎年多くの人が亡くなっているが、「だから自動車を廃止すべき」という論法で断じるのはまちがっている。自動車事故という弊害があるならその弊害を除去すべきというのが正しい論理だ。
では、麻薬によって犯罪が起こるといった弊害があるとして、麻薬を禁止することは誤りだろうか。これは正しいと加藤氏はいう。
麻薬を服用して弊害を起こすかどうかは前もって判断できない。しかも麻薬の服用を認める社会的な利益は、自動車の利用の利益などと比べても、非常に少ない。したがって、麻薬を禁止することによって発生する社会的な利益よりも、麻薬を禁止することによって得られる社会的な利益の方がはるかに大きい。
この機会に、自分の“思考の枠組み”を見直す必要がありそうだ。
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この記事は、『ぎゃふん⑩ 考えろ』に掲載された内容を再構成したものです。
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