『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[レビュー編]なるべくネタバレなし感想と暫定的答え合わせ

エヴァ考察

「我らの願いはすでにかなった」「よい 全てこれでよい」

シン・エヴァンゲリオン劇場版』について語るには、このひとことで十分だ。

もしも、『シン・エヴァ』が賛否両論だったなら、〈賛〉の立場から意見や感想を述べる意義もあっただろう。

だが、ネット上の反応を眺めるかぎり、ほぼ100パーセントに近い人が賛辞を送っている

不思議。『エヴァ』に対する反応としては、おおいに不思議だ。

そこで今回は、この〈不思議〉について考える。

誰かのためじゃない。自分自身の願いのために。初見の感想を未来の自分に向けて書きつづってみたい。

本記事は『シン・エヴァ』の物語展開には触れていませんが、作品鑑賞後の感情について述べています。これを「ネタバレ」とお考えの方は、作品をご覧になったあとにお読みください。

予想外なのに腑に落ちる〈不思議〉

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』©カラー

当ブログも含めて、『シン・エヴァ』を観た人がことごとく満足感・幸福感を覚えるのはなぜか?

それは「ずっと観たかったモノを観ることができたから」だと思う。

といっても、予定調和の展開になるわけではない。観客に先の展開を読まれてしまうようでは、娯楽作品としては失格。『シン・エヴァ』は、けっしてそんなことはなく、どちらかといえば予想外のことが次々と起こる作品だ。

にもかかわらず、どこか腑に落ちる。納得感がある。

『エヴァ』なのに、これは〈不思議〉。

予想もしなかった展開になりつつも理不尽さを感じさせないのは、「そういえば……」と、これまでに伏線ともいえる描写があったことに思いいたるからだ。

『シン・エヴァ』では、なにを描いて、なにを描くべきでないのか。制作陣によって丁寧に計算、取捨選択され、ストーリーが組みあげられているのだ。

作り手と受け手の想いが一致する〈不思議〉

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』©カラー

ここでもうひとつの〈不思議〉が頭のなかに生まれる。

制作陣は、われわれ観る側の「観たいモノ」がどうしてわかったのだろうか?

アンケートをとったのか? ネットで検索した?

余興レベルではやったかもしれないし、作品をプロデュースしたり興業したりする立場の人がそういったデータを参考にすることはあったかもしれない。だが、マーケティングのような調査結果をもとにして、作品の内容を決定したとはちょっと考えにくい。

『エヴァ』の制作陣は「創りたいモノを創りたいように創った」はずなのだ。少なくとも“マーケティング”では、『エヴァ』のような作品は生まれないはずだ。

とすると、なぜなのか? なぜ作り手の思惑と受け手が一致したのか?

その〈不思議〉を読み解くキーワードは〈時代性〉だと当ブログは考えている。

虚構と現実が融合する〈不思議〉

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』©カラー

あらためて振り返ると、『Q』で描かれた惨状は、作品の公開時期もあいまって、東日本大震災を想起せざるをえなかった。

本作『シン・エヴァ』も、感染症の蔓延によって、制作の遅れや公開延期の憂き目にあった。

否応なしに、「エヴァ」という虚構が現実から影響を受けざるをえなかった

それは作品そのものだけでなく、作り手と受け手にもあてはまる。誰ひとりとして、震災や感染症の影響を受けずにいられない

『シン・エヴァ』でもっとも強く描かれているのは、じつはシンプルな〈真実〉だ。よくいえば普遍的。悪くいえば凡庸。青臭い。真面目な顔で主張するのは気恥ずかしい。そんなシロモノ。

けれども、シンプルだからこそ強固。誰もそれを真正面から否定できない。

古今東西、あらゆる作品であつかわれ手垢のついた〈真実〉であっても、「エヴァ」という物語に落としこまれることで俄然、輝きだす

なぜ、そんな語り尽くされた〈真実〉が光を放っているのか?

これが3つめ〈不思議〉。でも、その不思議はすぐに解消できる。

『シン・エヴァ』という虚構で描かれるのは、震災を経験しウィルスがはびこる現実に生きる者たちが、意識しておかなければいけない〈真実〉だからだ。

その意味で、『シン・エヴァ』は、虚構と現実が“禁じられた融合”を果たした物語といえる。

作品というものは、いったん世のなかに放たれれば、作り手と受け手の共有財産になる。

これからの時代を生きる者として、われわれは『シン・エヴァ』を共有財産——いや〈宝物〉として大切にしていかなければならない。当ブログはそんなふうに考えた。

*次ページでは、現時点でわかる範囲で、当ブログの考察の正否を検証してみる。『シン・エヴァ』の内容に触れるため、鑑賞後にご覧ください。

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ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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コメント

  1. 2020年8月に序破Qで初めてエヴァンゲリオンを観た新参者です。
    シン・エヴァを観た感想を上のURLの記事に書きました。
    ネタバレはネタバレタグで隠してあります。
    そこにも書いたように、
    「庵野秀明スペシャル」 – プロフェッショナル 仕事の流儀 – 3月22日19時30分からNHK総合
    が放映されます。楽しみです。

    長年のファンの方々にはシン・エヴァは感銘深かったことでしょう。
    私は新参者ゆえ、シン・エヴァは最高に感動するといったほどでは無かったですが、結末が観れて、ネタバレ耐性も付き、いろいろな感想や考察を読んだりして楽しんでいます。
    自分の印象としては最後の最後の場面でメタフィクション的な解釈が浮かびました。
    やはり、いろいろな解釈・考察を可能にするようなシン・エヴァでした。

    • コメントありがとうございます!

      リンク先も拝見して、とても参考になりました。

      「プロフェッショナル 仕事の流儀」も楽しみです。

      『シン・エヴァ』も考察の余地を残してくれて、制作陣には感謝したいですね。

      今後ともよろしくお願いします。

    • 匿名
    • 2022.05.18 4:23pm

    シンエヴァで描かれてるとされる真実とは何ですかい

    • コメントありがとうございます。自分の頭のなかでは答えが出ているのですが、まだ言語化はできていません。ご要望があるようでしたら、記事を書きたいと思っています。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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