[死刑否定論者が構築する死刑肯定論]自分が裁くなら死刑は正しい

社会認識

犯罪を行なった者に〈死〉を与える〈死刑〉という刑罰。そこには、罪とは? 人を裁くとは? といった哲学的なテーマも存在している。ここでは、新たな死刑論を提示し、みなさんに〈考える〉材料を提供したい。

死刑否定論者だからこそ原理的に“肯定”できる

死刑に賛成するか反対するか。まさに人類を二分する問いかけといえる。国際社会は死刑廃止の方向に進んでいるが、ご存じのとおり、日本では存続している。死刑存置論や死刑廃止時期尚早論など「肯定論」も根強い。だが、巷の肯定論の根拠にはいくばくかの理は認められるものの、決定打には欠けるように思う。

たとえば、殺された人の遺族の報復感情に応えることを目的とする。これは代表的な肯定論の根拠だ。そこでは、遺族の救済という課題の解決策ソリューションとして死刑を導入する。しかし、まずは解決策として実効性があるかどうかの問題がある(遺族が「死刑を望まない」と主張したら死刑を適用しないのか、また被害者に遺族がいない場合は死刑を科さないのか、という疑問も生じる)。かりに実効性があったとしても、解決策として死刑を導入しなければいけない原理的な理由がない(実効性があるだけでは原理にはならない)。

ほかにも肯定論には凶悪犯罪を防止する目的などの根拠が挙がるが、やはり実効性の問題もさることながら、「原理的な理由がない」ものがほとんどではないか。

そこで、死刑を原理的に肯定しうる理論を構築するのが、ここでの目的だ。

「なるほど。あんたは死刑を肯定するわけだな」と早合点しないでほしい。その逆。別の記事で述べるように、当ブログは死刑否定論者だ。では、なぜ否定論者が肯定論を述べようとするのか。

死刑肯定論者と否定論者の間で永らく侃々諤々かんかんがくがくの議論が交わされてきた。それらが重要でないとは言わないけれど、足踏みしている状態がつづいてきたのも事実。それは自分にも社会にとっても好ましいとはいえない。死刑に賛成するにせよ反対するにせよ、使い古された理論を持ち出して自分と異なる意見に対抗するのは、〈考える〉ことを放棄している。〈考える〉ということは、なんらかの新しい理論が生み出されなければならないはずだ(「〈考える〉ことで新しい価値を見出せば自分の人生を救済する」)。否定論者があえて“肯定論”を練りあげようとするのも、ユニークで新しい理論を創るためなのだ。

死刑肯定の原理を構築し、さらにそれを否定すれば、死刑否定論に「原理的」に正当性を持たせられるはずだ。

自分自身を裁くために“処刑人”を生み出す

さて、死刑肯定論を考えるにあたり、まずひとつの作品を参照したい。2001年にプレイステーション2のソフトとして発売されたホラーゲーム『サイレントヒル2』だ。

3年前に死んだはずの妻から主人公のもとに手紙が届く。真相を探るために「サイレントヒル」と呼ばれる街を訪れる、というストーリーだ。ネタバレになるが、「サイレントヒル」を訪れた者はみな殺人の罪を犯していたことが劇中であきらかになる(ただし、物語の解釈はプレイヤーに委ねられている)。

本作には〈三角頭(レッド・ピラミッド・シング)〉と名づけられたキャラクターが登場する(下の画像)。みずからの背丈以上に長く巨大ななたを振るい、主人公の攻撃を受けつけないほどの屈強さを誇る強敵だ。じつは、〈三角頭〉は、主人公が自分の罪を罰するために生み出した存在であった。〈三角頭〉に攻撃されヒットポイントが尽きればゲームオーバーとなる。つまり、主人公はみずからを死刑にするわけだ。

サイレントヒル2 ©Konami Digital Entertainment

自分で自分の存在意義を判断すれば公平である

もうひとつ作品を紹介する。イギリスのBBCテレビで1988年から放映がはじまった『宇宙船レッド・ドワーフ号』というSFコメディだ。第26話(第5シリーズ)「地獄の人生審判官」に〈インクイジター〉というキャラクターが登場する(下の画像)。自己修復機能を持ったアンドロイドで、タイムトラベルをしながら、無駄に生きている人間を抹殺しているのだった。〈インクイジター〉にとらえられた主人公たちは、「なんの権利があってこんなことをする? 裁きの公平性は?」と命乞いをする。すると〈インクイジター〉は自分のマスクをはずす。そこには主人公たち自身の顔があった。自分で自分を裁くから公平だと〈インクイジター〉は主張したのだ。

宇宙船レッド・ドワーフ号 ©BBC Worldwide Ltd, 2003

死刑は〈社会契約論〉で肯定できる

死刑はどのような理論で肯定できるか。結論を言おう。死刑を原理的に肯定しうるのは、〈社会契約論〉だ。

私たちは、ほかの人々と〈契約〉を結び国家というシステムをつくりあげている。国家システムがどんな行動をするかは、私たちがあらかじめ〈契約〉によって決めている。とてつもなく乱暴にまとめるなら、これが〈社会契約論〉だ。

死刑も国家システムの行動のひとつであるから、〈社会契約論〉によって私たちがあらかじめ決めたことのはずである。つまり、私たちは、みずからが殺人のような重罪を犯したときに、みずからを裁く方法をあらかじめ用意している。死刑において、国家システムは〈三角頭〉や〈インクイジター〉のような存在といえるのだ。

死刑否定論は、基本的人権の尊重や冤罪の可能性などを根拠とすることがある。しかし、それらは〈社会契約論〉で論破が可能である。言いかたを換えれば、死刑を原理的に肯定する根拠は、〈社会契約論〉しかありえないのだ。

〈死刑〉は“ゲームオーバー”である

ところで、〈三角頭〉には、示唆的な事実がある。前述のとおり、〈三角頭〉に攻撃され体力が尽きればゲームオーバーとなる。そこで物語は中断してしまう。ゲームをつづけるにはどうすればいいか。まずは、敵の攻撃を回避し死なないようにする。だが、〈三角頭〉は、ことあるごとに主人公に襲いかかってくる。もちろん、おなじように攻撃を避ければプレイはつづけられる。でも、キリがない。最終的にどうすればゲームをクリアできるか。それは、主人公がみずからの罪を自覚し、自分自身を罰する存在は不要と判断することだ。それで〈三角頭〉を倒せるようになる。『サイレントヒル2』では、死刑はゲームオーバーで、罪の自覚こそがゲームクリアの条件なのだ。私たちにとって〈死刑〉とは、ゲームオーバーとゲームクリア、どちらなのだろうか? 

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この記事は、『ぎゃふん⑩ 考えろ』に掲載された内容を再構成したものです。

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ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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