なんか“家族の絆”みたいなのを描いているらしいよ。え〜、独身で子どももいない“シケ男”としては苦手だな〜、そういうの。でも、「第12回東京アニメアワード」で大賞を獲ったりしているし、Amazonの評価も高い。みんな楽しんだんだろうな〜。じゃあ、観てみるかあ──。
なんですか、これ? 開始10分で涙腺緩みっぱなしなんですけど……。
【涙腺1】劇場アニメならではのダイナミズム
まずは、アニメーションならではの、ダイナミズムにあふれる表現に目を奪われる。
おおかみこどもの「雪」(長女)が駄々をこね、人と狼の姿を行き来しながら走り回る、雪と雨が森を疾走するなど、実写やCGでは成しえないシーンはこの作品の魅力だ。
このアニメーションから得られる生理的な快楽は、実力派のスタッフの手によるものだ。クレジットを見ると、たとえば井上俊之氏の名前があったりする(井上氏は『AKIRA』『魔女の宅急便』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q 』など、傑作アニメには必ず登場する凄腕アニメーター)。
派手な「魔法」も「戦闘」もない現代劇だが、けっして「動き」の部分をおろそかにしていないことがわかる。
もちろん、自然豊かな日本の田舎を描いた背景美術も見事だ。
監督:細田守、脚本:奥寺佐渡子、キャラクターデザイン:貞本義行と、いずれも最高の仕事ぶりを見せるので、この3人には誰もが着目する。
だから、あえて当ブログでは、アニメーターや美術スタッフの功績を讃えたい。
【涙腺2】主人公は「おおかみこども」ではなく「人間の母」
作品のタイトルは「おおかみこどもの雨と雪」だが、主役は「おおかみこども」の2人ではない。あくまでふたりの母親である。『もののけ姫』の主役がサンではなく、アシタカであるのと同じだ(ちなみに、『もののけ姫』はもともと『アシタカ聶記(せっき)』というタイトルだった)。
サンがアシタカの生き様を照らす光であったように、おおかみこどもたちによって、人間の母に焦点が当たる。つまり、この作品で描かれるのは、おおかみこどもの成長ではなく、母の成長なのだ。
人間でもなく狼でもない「おおかみこども」として生まれた者の悲哀──はあまり描かれない。異形のモノが社会から迫害を受けるといった深刻な話ではない。あくまで子育ての苦悩が主眼だ。
人目を避け、田舎に引っ込んだ家族が身を寄せ合い、自給自足に近い生活を始める。そこでは、「作物の栽培」と「子育て」とが対比されながら、「生きることの大変さ」が描かれる。
物事に向き合う主人公の姿勢が作品のテイストを明るいものにしている。ある種のファンタジーにまとめあげたのはよかったと思う。
【涙腺3】さわやかな“人間賛歌”
ジブリ作品ばかりを引き合いに出して恐縮だが、『火垂るの墓』を観て胸が詰まるのはなぜか? 兄妹がかわいそうだから──ではない。必死に生きようとする二人のひたむきさに心を打たれるのだ。
『おおかみこどもの雨と雪』も、描写されるものこそ「子育ての苦労」ではあるが、作品全編を通して浮かび上がってくるのは「人間賛歌」だ。「生きるっていいな」「人間っていいな」「幸せって、こういうものかもしれないなあ」という素朴な感情なのだ。
だから、子どもを持っていなくても、田舎に住んでいなくても、十分に共感できるし、感動を呼ぶわけだ。
宮崎あおい氏に本物の力量を感じた
タレントを声優としてキャスティングし、“客寄せパンダ”として扱うことに対し、当ブログでは苦言を呈してきた(たとえば『タイム』の篠田麻里子氏)。
だが、本作で声優を務めた宮崎おあい氏は、見事に主役を演じ切っている。アニメーションという虚構の世界に、「おおかみこども」の母の存在感を定着させた。
宮崎氏のほかの作品は知らなかったが、相当の実力の持ち主であることがわかった。これは評価に値しよう。
ちなみに、物語の冒頭、病院の前で踵を返すところで早くも泣いてしまった(つまり、狼の姿をした赤ちゃんが生まれてしまうことを恐れたシーン)。こういった細かい描写が地味に利いている。
またしてもジブリ作品で申し訳ないが『耳をすませば』『魔女の宅急便』が好きな人には、とくにオススメしたい。
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