心霊ビデオの類は巷にあふれているが、作品の質は玉石混交だ。『封印映像』は、心霊現象などが映り込んだためにお蔵入りになってしまった映像を紹介するDVDシリーズ。心霊ビデオの元祖である『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズのスタッフが制作に関わっているため、ホラーのツボをおさえた映像が楽しめるのが魅力だ。
撮影された映像が必ずしも心霊現象ではなかったり、怪異の撮られた現場にスタッフが足を運んで原因や背景を探ったりする趣向もおもしろい。
とはいえ、すべてのエピソードが手放しで評価できるわけではない。あからさまに手抜きのようなものもある。
そこで、ホラー好きを自称する当ブログが「ほかの人にもぜひ観てもらいたい」と思ったエピソードを紹介していく。作品選びの参考にしてほしい。
[2018年6月30日更新]『封印映像36 きれいになりたい』の寸評を追加しました。
[2018年7月29日更新]『封印映像37 廃工場に蠢く』の寸評を追加しました。
[2018年11月23日更新]『封印映像38 心霊スポット案内人』の寸評を追加しました。
もくじ
- 観ておいて損はない!〈松〉レベルのエピソード
- 時間があればこれもチェック!〈竹〉レベルのエピソード
- スタッフ遊びすぎ!〈梅〉レベルのエピソード
- 各巻のおすすめエピソードのまとめ
- 『封印映像 呪われた森』
- 『封印映像2 呪殺の記録』
- 『封印映像3 廃トンネルの呪い』
- 『封印映像4 犬神の呪法』
- 『封印映像5 ラブホテルの怨念』
- 『封印映像6 呪いのパワースポット』
- 『封印映像7 練炭自殺の女』
- 『封印映像8 自傷女王』
- 『封印映像9 制服の怨念』
- 『封印映像10 呪われた同窓会』
- 『封印映像 再恐スペシャル』
- 『封印映像11 天井裏の呪念』
- 『封印映像12 ひとりかくれんぼ』
- 『封印映像13 黒電話の呪文』
- 『封印映像14 猫塚の呪い』
- 『封印映像 再恐スペシャル2』
- 『封印映像15 廃墟の死霊』
- 『封印映像16 八尺様の呪い』
- 『封印映像17 けもの霊』
- 『封印映像18 人形の呪縛』
- 『封印映像19 トンネルの怨響』
- 『封印映像20 生け贄の霊説』
- 『封印映像21 霧の村の呪祭』
- 『封印映像22 心霊スポット探訪』
- 『封印映像23 シャドーピープル』
- 『封印映像24 続・ひとりかくれんぼ』
- 『劇場版 封印映像25 天井裏の呪念 除霊編』
- 『劇場版 封印映像26 ラブホテルの怨念 北関東〇〇県』
- 『封印映像27 結婚呪い コープスブライド』
- 『封印映像28 幽霊アプリ』
- 『封印映像29 池のほとりの蓮美さん』
- 『封印映像30 シャドーピープル 包帯少女』
- 『封印映像31 監死カメラ』
- 『封印映像32 呪いの生き人形/長身の男』
- 『封印映像33 呪われた地下アイドル』
- 『封印映像34 ひよいくぐり』
- 『封印映像35 心霊パパラッチ』
- 『封印映像36 きれいになりたい』
- 『封印映像37 廃工場に蠢く』
- 『封印映像38 心霊スポット案内人』
- 『封印映像39 都市伝説 赤シャツの男』(レビュー準備中)
- 『封印映像』はフェイクとして楽しもう
観ておいて損はない!〈松〉レベルのエピソード
まずは、ホラー好きの当ブログが「おお、これは怖いぞ」と図らずも震えてしまったり、「ほほう」と思わず感心したりしたエピソードを挙げていこう。たいていの人に気に入ってもらえるはずだ。
おつけものさん
©2014 AT ENTERTAINMENT
女子高生が遊び心で「おつけものさん」と呼ばれる儀式を行なってしまう。
「おつけものさん」とはとどのつまり「こっくりさん」のことで、設定や展開に目新しさはない。だが、女子高生が無邪気に儀式を始めてしまう危うさ。そこに青春の甘酸っぱさと、ホラーとしての辛さがうまく混じり合い、味わい深いテイストの作品に仕上がっている。
なにより主役の女の子が可愛らしく(モザイク補正もあるかもしれないが)、怪異が起こったあとの演技も素晴らしい。実力派の女優さんなのかもしれない。
『封印映像18 人形の呪縛』に収録
かごめかごめ
©2011 AT ENTERTAINMENT
深夜3:33に「かごめかごめ」のキーワードで検索をすると、ふだんは表示されない動画が現れる。
問題の「かごめかごめ」という動画の異様さもさることながら、検索したあとに起こる異変と出演者の反応が絶妙に恐怖を煽っている。
ただ、このエピソードの本題は最後に現れる異形や後日談であって、表向きは「かごめかごめ」はただのきっかけにすぎない。とはいえ、制作者の真意としてはむしろ「かごめかごめ」こそが“本題”だったのではないかと想像する。
『封印映像4 犬神の呪術』に収録
心霊スポット探訪
©2015 AT ENTERTAINMENT
心霊スポットとして知られる廃墟で、異様な映像を撮影してしまう。
「心霊スポットで幽霊が撮れちゃった」という絵に描いたようなお話。しかし、幽霊の現れ方にひとひねり加えてあり、そこで感じる恐怖はありふれたものではない。
映像そのものは地味なのだが、仕上がりが丁寧で、恐怖感がじわじわとやってくる。そこに真実味がもたらされている。
『封印映像22 心霊スポット探訪』に収録
呪いのパワースポット
©2011 AT ENTERTAINMENT
パワースポットを紹介するDVDの撮影中、洞窟で「奇妙な骨」を発見する。
「奇妙な骨」のいわくがオカルト好きにはおなじみのもので、恐怖に奥行きを与える。
このエピソードで特筆すべきなのは、途中に出現する幽霊らしきものの映像だ。心霊ビデオに映る幽霊といえば、まるであとから合成したようなシロモノばかりだが、ここでは確実に“そこに存在したモノ”を映している(『封印映像』にはほかにもいくつかそういう例がある)。
レポーターの女性も美人で(顔にモザイクもかかっていない)、振る舞いも的確に恐怖につながっている。完成度の高い一作といえる。
『封印映像6 呪いのパワースポット』に収録
DEVIL TUBE
©2012 AT ENTERTAINMENT
見た者は必ず死ぬと言われている映像。
「最後の10秒をカットしたバージョンなので安心してご覧ください」という趣旨のメッセージが出る。最後まで見ても大丈夫というわけだ。
見ると死ぬと言われている映像の内容そのものが必ずしも怖いとは限らないが、本作はなかなか不気味に仕上がっている。
ときどきふと思い出し「また見たいな」と思う。そんな魅力にもあふれている。最後のオチもちょっとした付け足しだけどじつに効果的。
『封印映像8 自傷女王』に収録
赤ずきんちゃん
©2012 AT ENTERTAINMENT
エレベーターの監視カメラに赤いフードをかぶった奇妙な女の子が映っている。
このエピソードの“女の子”がふつうの幽霊の類と異なるのは、エレベーターに乗っている人にその姿が見えていること。乗り合わせてしまった人は不運だ。妙にソワソワしたり、ボタンを連打したりする様子もとらえられている。
この“赤ずきんちゃん”は何者なのか? それはラストで明らかになるが、謎はさらに深まってしまう。
『封印映像10 呪われた同窓会』に収録
廃屋の呪術
©2011 AT ENTERTAINMENT
心霊写真を紹介する番組で悲劇が起こる。
心霊写真に呪われる──。よくある話のようだが、後日談としてではなく、番組の放送中にリアルタイムに呪いが発動される点が画期的だ。
電話で話している投稿者の様子がいかがわしく、なぜか挿入される謎の映像も不気味。細かいところで小技が効いている佳作だ。
『封印映像3 廃トンネルの呪い』に収録
呪殺の記録
©2010 AT ENTERTAINMENT
亡くなった超能力者の娘が念写をすると、意外な結果に……。
当ブログのようなオカルト好きの人は途中で「あれ? 念写ってそうやるんだっけ?」と違和感を覚えるはず。だが、それが後の伏線なのだった。
細かい部分にもネタが仕込まれ、うまく怖さを引き立てている。
『封印映像2 呪殺の記録』に収録
練炭自殺の現場
©2011 AT ENTERTAINMENT
練炭集団自殺の現場を盗撮した映像。
自殺の現場を撮影するというシチュエーションからしてすでに剣呑な雰囲気が漂う。映像はけっしてインパクトがあるものではないが、よく考えると怖いというか、あとから背筋が冷えるというか……。
なお、このエピソードには続編があるが、どれも蛇足な気がする。
『封印映像4 犬神の呪術』に収録
ラブホテルの怨念
©2011 AT ENTERTAINMENT
ラブホテルの一室で発見されたカメラに残っていた映像。
ジャパニーズホラーの基本を踏襲──いや、パクったような表現。ただ、最後にどんでん返しがあり、これがなかなかひねりが効いている。基本と応用の合わせ技で恐怖の質は高い。
『封印映像5 ラブホテルの怨念』に収録
時間があればこれもチェック!〈竹〉レベルのエピソード
出来栄えはこれまで紹介してきたエピソードに劣るものの、なかなかの意欲作、意外に満足できる佳作。ここからはそんな作品を挙げていこう。
霧の村の呪祭
©2015 AT ENTERTAINMENT
「奇祭」とラベルの貼られたテープに残された映像。
映像そのものは画期的というわけではないが、怪異が十重二十重に仕込まれ、なおかつそれらが効果的に展開していく。
構成がしっかり練り込んであり、ホラーとしての質が高い。心霊現象が合成ではない点も評価できる
『封印映像21 霧の村の呪祭』に収録
砂浜
©2015 AT ENTERTAINMENT
深夜、男ふたりが浜辺を訪れ、恐怖に遭遇する。
ともすれば「やりすぎ感」があふれかねないタイプの作品。しかし、シリーズを重ねるごとにスタッフも手慣れてきたのか、雰囲気の盛り上げ方、編集のリズムが絶妙。観ている者を白けさせない。
後日談もほどよく悲惨で、手堅い仕上がりになっている。
『封印映像21 霧の村の呪祭』に収録
石子詰
©2015 AT ENTERTAINMENT
山でタイムカプセルを埋める場所を探していると、おそるべき異形に出会う。
肝心の心霊現象のつくりが雑なのが惜しい。ここがしっかりしていれば〈松〉に入れていたかもしれない。
その代わり怪異の背景にある昔話がよくできている。そこでしっかり怖がらせてくれる。
『封印映像22 心霊スポット探訪』に収録
ドッキリ
©2011 AT ENTERTAINMENT
廃校で肝試しをしている最中、女の子にドッキリをしかける。
途中からお話が意外なほうへ転がり始め、それが肝を冷やすものになっている。最後にきちんとオチはつくものの、腑に落ちない部分も残り、じわじわと恐怖感を高める。
ちなみに、このエピソードに登場する女の子の美貌は「おつけものさん」の彼女と双璧をなす(モザイクもかからない)。そこも見どころ。
『封印映像5 ラブホテルの怨念』に収録
廃ビル
©2011 AT ENTERTAINMENT
数人の若者が廃ビルを探索する映像。
廃ビルといえば心霊スポットの定番だが、このエピソードで展開するのは、いわゆる心霊現象とは異なる。では、何が起こっているのかといえば、表現する言葉が思い浮かばない。そこに言い知れぬ不気味さが漂う。
映像の撮影時間は日中なのだが、理屈で説明できない怪異には、昼夜を問わず薄ら寒いものを感じてしまう。
『封印映像5 ラブホテルの怨念』に収録
ひとりかくれんぼ
©2013 AT ENTERTAINMENT
降霊術の一種として知られる「ひとりかくれんぼ」。その様子を撮影した映像。
「ひとりかくれんぼ」をテーマにした長編の映画もあるが、本作は短編だから、手軽にその雰囲気を味わえる。
ありがちな展開ではあるが、緊張感が途切れないのは、構成がしっかりしているからだろう。
『封印映像12 ひとりかくれんぼ』に収録
古着
©2013 AT ENTERTAINMENT
昼間のショッピングで買った古着を試着すると、信じがたいことが起こる。
映像のインパクトのみで押し切る一発ネタ。よくこんなことを思いついたなと、怖がるより感心してしまう。
結局どういうことかはわからない。だが、その不条理さが本作の魅力でもある。
『封印映像13 黒電話の呪文』に収録
三つ目
©2013 AT ENTERTAINMENT
映像の専門学校に通う投稿者が課題を制作している最中に偶然撮影してしまった異形。
これも一発ネタのエピソード。異形の造形が興味深い。
スタッフが異形の背景を探っていくが、かなり無理がある──というより、わけがわからないまま終わったほうが良かったようにも思う。
『封印映像13 黒電話の呪文』に収録
猫塚の呪い
©2013 AT ENTERTAINMENT
友人宅に集まった若者3人に降りかかる悲劇。
なんの変哲もない日常が、まったく唐突に非日常の空間に変貌する。そんなホラーならではのダイナミズムが味わえる。
悲劇が起こった理由を解明していくので合点はいく。ただ、超常的なものとはいえ理屈で説明がなされると、ただ残虐な映像でしかない。このエピソードもあえて背景はあいまいなままにしたほうが恐怖感が高まった気がする。
『封印映像14 猫塚の呪い』に収録
生け贄の霊説
©2015 AT ENTERTAINMENT
田舎の観光地の夜道で恐怖に遭遇する。
映像もなかなかおもしろいが、その地にまつわる恐るべき伝説も手が込んでいる。
撮影者たちがどんどん死の淵に追い込まれていく。画面から伝わる戦慄はホラーならではの醍醐味だ。
『封印映像20 生け贄の霊説』に収録
浮気調査
©2011 AT ENTERTAINMENT
浮気調査のために部屋へ侵入した興信所の調査員が遭遇した怪異。
芯となるアイデアはよくあるものだが、外堀を埋めるように、恐怖のネタを着実に積み上げていく。
ラストに登場する異形の造形も素晴らしい。ただ、映像がリピートされ、肝心な部分を見直すことになると、つくりの粗さがわかってしまう。その点は惜しい。
『封印映像6 呪いのパワースポット』に収録
廃トンネルの呪い
©2011 AT ENTERTAINMENT
ある心霊番組でアイドルたちが廃トンネルにまつわる噂の真相を確かめる。
夜中のトンネルで心霊現象を映像に収めようとする。何千回と繰り返し観ているシチュエーションで、悪く言えば凡庸、良く言えば王道だ。
やはり構成や編集が巧みに恐怖を盛り上げ、観ている者を画面に釘付けにさせる。
後日談も絶妙に嫌な感じで、作品としてきちんとまとまっている。
『封印映像3 廃トンネルの呪い』に収録
車載カメラ
©2012 AT ENTERTAINMENT
ひき逃げ事件の現場をタクシーの車載カメラがとらえた映像。
事件の直後の映像なのでそれなりに緊張感がある。その後の展開はあるていど予測できたものの、その理由付けが新しい。
ただ、チラッとでもそれらしい何かを見せて欲しかった。核心部分はナレーションで説明されるだけだ。
『封印映像9 制服の怨念』に収録
八尺様の呪い
©2014 AT ENTERTAINMENT
宿で談笑している大学生たちを襲う異形のモノ。
心霊ビデオで、異形のモノが人を襲う様を見られる機会は意外に少ない。後日談として「死んだ」「行方がわからない」などと語られる場合がほとんどだ。
『封印映像』はできるだけバケモノの攻撃シーンを描こうと頑張っているわけだが、このエピソードはそのひとつ。
八尺様にまつわる作品が『封印映像9』にもあり、それと比べてみるのも一興。
『封印映像16 八尺様の呪い』に収録
盗撮者
©2016 AT ENTERTAINMENT
女性の部屋を盗撮した映像。
本作は、まさに一発勝負の「ビックリ系」。ただ驚かされただけなら評価はしないが、ビックリポイントの発生する状況、そこに至るまでの段取りが的確。その点を評価したい。
『10』に収録されている「カーテンの中」にネタが似ているが、こちらは怪異の背景やストーリー展開に工夫が施されている。腑に落ちない部分もあり、そこに不気味さも感じる(単に脚本の不備なのかもしれないが)。完成度の高い一編だ。
『劇場版 封印映像25 天井裏の呪念 除霊編』に収録
スタッフ遊びすぎ!〈梅〉レベルのエピソード
ここからは、あきらかに制作者のウケ狙い、ツッコミ待ちとしか思えないエピソードを紹介していく。ふつうの人なら怒ったり白けたりするかもしれない。でも、当ブログは嫌いじゃない。そんな作品だ。興味のある人はぜひチェックを。
除霊
©2014 AT ENTERTAINMENT
霊媒師が除霊を行なう様子をオカルト雑誌の記者が取材する。
霊能力者にとんでもないことが起こる。その要となるシーンにおいて、ほかにいくらでも表現する方法があるはずなのに、あえて笑える手段をとっているのがポイント。
怖い作品にすることは十分にできたはずだから、これはもう制作者は狙ったとしか思えないのだ。
『封印映像18 人形の呪縛』に収録
人形の呪縛
©2014 AT ENTERTAINMENT
母子が久しぶりに再会する番組で予想外の出来事が起こる。
終盤までホラーとして良い感じに話が進んでいく。そのまま行けば〈松〉レベルに仕上がっていたはず。ところが、ラストで「これよりご覧いただく映像はあなたの心身に重大な影響を与える可能性がありますのでご注意ください」などという脅迫めいた注意書きが出て、“衝撃映像”が展開する。
これがまたほとんどギャグとしか思えないシーンになっている。制作者の実力が足りないからクォリティーの低いものが出来上がってしまった──というわけではなく、やはりわざと視聴者の予想を裏切ろうと企んだ結果だと思われる。
本作を受け入れられるかどうか。まさに観る者の度量が試されている。
『封印映像18 人形の呪縛』に収録
ドライブレコーダー
©2015 AT ENTERTAINMENT
タクシーに搭載された防犯カメラが乗客に起こった怪異をとらえる。
これも人によっては大笑いするだろう。そもそも怪奇現象のつくりが粗っぽすぎる。
しかし、だからこそ映像に狂気が漂っている。見てはいけないものを見てしまったという不快感が残る。
ホラー作品としては、じつに正しい作り方ではあるのだ。
『封印映像22 心霊スポット探訪』に収録
鏡中
©2015 AT ENTERTAINMENT
行方不明になった姉の携帯に残っていた映像。
鏡に映った自分の背後に幽霊がいる! ……ありがちな映像ではあるが、王道なだけに丁寧に作られていて、全体的には良質の作品のたたずまいを持っている。
ラストでとんでもないことになるのだが、本作はウケ狙いではなく、制作者は真剣だと思う。当ブログはその創作姿勢を評価したいものの、万人にオススメできないのもまた事実だ。
『封印映像19 トンネルの怨響』に収録
トンネルの怨響
©2015 AT ENTERTAINMENT
バラエティ番組の撮影で立ち寄ったトンネルでおぞましい出来事が起こる。
話の運びは的確で、うまく恐怖を盛り上げている。にもかかわらず、肝心なところでポカをやらかしている。
これは勝手な想像だが、もともとこれはツッコミ待ちのエピソードではなかったと思う。作っているときは真面目にホラーをやろうとしていた。しかし、仕上げの段階で技術的なトラブルか、予算や時間の問題が生じて、土壇場で笑いに走ってしまったのではないか。
残念な結果ではあるが、なぜか憎めない作品でもある。
『封印映像19 トンネルの怨響』に収録
各巻のおすすめエピソードのまとめ
ここでは、上で触れなかった作品を中心に各巻をざっとレビューしていこう。注目すべき作品には☆を付けた。また、上で〈松〉としているエピソードには★★★、〈竹〉には★★、〈梅〉は★を付している。それぞれの巻の総合的な評価がわかるはずだ。
なお、とある事情から『27』以降の作品は判断基準を変更しているため、★ではなく◆を記している。
『封印映像 呪われた森』
- 「ダンス・スタジオ」☆
- 「よつんばい」☆
- 「スプーン女」☆
- 「影整形」
- 「呪われた森」
記念すべき第1作目のエピソードは、残念ながら〈松〉〈竹〉〈梅〉のいずれにも入っていない。ただ、「ダンス・スタジオ」「よつんばい」「スプーン女」は、粗削りではあるが、シリーズの方向性を決定づける作品として一度観ておくのも悪くない。
『封印映像2 呪殺の記録』
- 「怨念人形」☆
- 「アイドル撮影会」
- 「呪殺の記録」★★★
- 「家探し」☆
- 「廃墟探訪」☆
「怨念人形」は、本題の怪奇現象より、人形とおばあさんの雰囲気が不気味。〈竹〉に入れても良かったかもしれない。
「家探し」は、よく見る絵面ではあるが、心霊のデザインにぬかりがない。一番ビックリしたのは、突然フレームインする投稿者の奥さんだったが。
「廃墟探訪」は、「心身に重大な影響を……」の脅し文句が出る。このエピソードの場合、そんな警告を出すのは不謹慎な気がする。怖いというより、亡くなった人に同情したくなるお話だ。
『封印映像3 廃トンネルの呪い』
「赤い服の女」は、合成ではなく“そこにいたモノ”が映るパターン。撮影者がその場で気づくというのも新しい(最近の作品ではむしろ主流だが)。
『封印映像』シリーズの初期の作品にはエロ要素の含まれるものがあって、「のぞき」はそのひとつ。出来栄えも悪くないが、後の作品とネタが被っていて、いま観ると色褪せてしまうのが残念。
『封印映像4 犬神の呪法』
「恋愛の代償」も衝撃映像という点で興味深いが、もうひとひねり加えてほしかった。
「犬神の呪法」は、AV女優を面接する話なので、上で述べたエロ作品のひとつ。ホラーとしての完成度はまずまずといったところだ。
『封印映像5 ラブホテルの怨念』
「初詣」は出来はけっして悪くないのだが、やはりほかの作品とネタが重複する。後のエピソードと比較した場合、どうしても初期の作品のほうが不利になってしまうのはしかたがない。
『封印映像6 呪いのパワースポット』
- 「悪魔祓い」☆
- 「海辺の女」☆
- 「浮気調査」★★
- 「先導者」☆
- 「呪いのパワースポット」★★★
「悪魔祓い」は、カルト集団に潜入取材をする話。人間の心の闇を映し出すという趣旨で、シリーズの中では異色作。
「海辺の女」「先導者」は、本家『ほんとにあった!呪いのビデオ』のようなテイスト。やや迫力に欠けるものの、それなりに恐怖感を与えてくれる。
『封印映像7 練炭自殺の女』
- 「練炭自殺の女」☆
- 「傷」
- 「人形使い」
- 「舞台霊」
- 「交換日記」
「練炭自殺の女」は『4』に収録されている「練炭自殺の現場」の続編。ストーリー展開はミステリーの謎解きみたいでおもしろいが、実話という体裁をとっている作品としてはカメラワークが不自然なので、怖いというより笑ってしまう。
「傷」「人形使い」「舞台霊」は、ふつうの心霊現象といった感じで、少なくとも『封印映像』でやることではないように思う。「交換日記」は、制作者の意欲は認めるものの、凡庸な印象を受けてしまう。
『封印映像8 自傷女王』
- 「リダイアル」
- 「前世療法」
- 「DEVIL TUBE」★★★
- 「カラオケ」
- 「自傷女王」☆
「自傷女王」は、ネットの生放送(ニコ生かな?)を模した映像。それなりに斬新な外見なので興味深い。ニコ生だとすると、コメントの出方が不自然な気もするが、まあ細かいことは言うまい。
そのほかの作品は、『封印映像』にしてはおとなしい仕上がり。
『封印映像9 制服の怨念』
- 「車載カメラ」★★
- 「制服の怨念」
- 「奇妙な影」☆
- 「猿の手」☆
- 「八尺様」☆
「奇妙な影」はおもしろい趣向の作品だが、「まるで動画を編集したかのように」とナレーションが入り、「そりゃそうだろ」と心の中でツッコんでしまう。編集や加工でも構わないのだが、もう少し丁寧な仕事をしてもらいたい。
「猿の手」は、恐怖という点ではイマイチだが、物語はそれなりに楽しめる。
「八尺様」は、『16』でも同じバケモノを扱っており、そちらのほうが完成度は高い。ただ本作の映像も悪くない。
「制服の怨念」は表題作なのにほかの収録作より質が劣る。『封印映像』は、なぜかサブタイトルになっている作品ほど奮わないという特徴がある。字面がいいという理由だけで採用しているのだろう。
『封印映像10 呪われた同窓会』
- 「鏡の住人」☆
- 「赤ずきんちゃん」★★★
- 「カーテンの中」
- 「漫画喫茶F-6号室」
- 「呪われた同窓会」
「鏡の住人」はよく出来ているのだが、投稿者のショートパンツのお尻に目を奪われてしまい、心霊現象に集中できなかった。エロ要素の入れ方にもっと配慮をしてほしかった……と思ったが、制作者はエロ作品のつもりはなかったかも。
『封印映像 再恐スペシャル』
- 「家探し」
- 「練炭自殺の現場」☆
- 「廃ビル」
- 「呪いのパワースポット」
- 「廃トンネルの呪い」
これまでの映像を再検証したり、追加取材を行なったりする。まあ、完全に“蛇足”で、スルーしてもよいかもしれない。
ただ、われらが田中さん(シリーズの途中からレポーター&ナレーターを務める女性)が、過去の投稿映像を見直し、当時のスタッフが見逃した異変を発見したりする。そんなスーパーウーマンぶりを楽しむのも良かろう。
とくに「練炭自殺の現場」は、謎の女の住処に乗り込んでいく田中さんがカッコいい。
『封印映像11 天井裏の呪念』
- 「殺して」☆
- 「テガタ」☆
- 「黒み」
- 「軋む声」☆
- 「天井裏の呪念」☆
「殺して」「テガタ」は『封印映像』らしいダイナミックな展開で悪くない。
「軋む声」は、それなりに怖い心霊現象と、適度に嫌な感じの後日談がセットになったエピソード。いわば『封印映像』の典型的なパターンといえる。
「天井裏の呪念」は、ひとつのエピソードとしてはたいしたことないが、『23』や『25』に収録されている続編を楽しむためにチェックしておくのもいいかもしれない。
『封印映像12 ひとりかくれんぼ』
- 「呪顔」☆
- 「道ズレ」☆
- 「廃墟の女」
- 「姿見」☆
- 「ひとりかくれんぼ」★★
「呪顔」は、まさにツッコミ待ちエピソードの類。でも、どうせふざけるのなら、もっと派手にやってもよかった気もする。
「道ズレ」は、「のぞき」や「車載カメラ」とネタが似ているが、単独のエピソードとしてはおもしろい。
「姿見」は、地味ながらゾワッとする恐怖を味わえる佳作。
『封印映像13 黒電話の呪文』
「古着」「三つ目」は傑作だが、それ以外は小粒の印象。「ブチャルナ」「黒電話の呪文」には努力の跡はうかがえるが。
『封印映像14 猫塚の呪い』
- 「首」
- 「落書き」
- 「壊れた家族」
- 「騒音被害」☆
- 「猫塚の呪い」★★
「騒音被害」は、本題の心霊現象より、それまでの過程に力が入っている。珍しい設定なので、興味のわく人は観てほしい。
「首」「落書き」は悪い作品ではないが、プラスアルファの何かが欲しかったところ。「壊れた家族」は普通の心霊現象で、『封印映像』らしさに欠ける。
『封印映像 再恐スペシャル2』
- 「怨念人形」
- 「ダンススタジオ」
- 「浮気調査」
- 「制服の怨念」
- 「かごめかごめ」☆
本作も大いなる“蛇足”。例外は「かごめかごめ」で、田中さんが問題の動画を実際に検索するという暴挙に出る(投稿映像の女性がどうなったかを知らないわけではあるまい)。いつも冷静沈着な田中さんが動揺する。そこが見どころ。
『封印映像15 廃墟の死霊』
- 「訴えるもの」
- 「寝言」
- 「空き巣被害」☆
- 「橋の女」☆
- 「廃墟の死霊」
「空き巣被害」は、映像のインパクトは小さいが、薄ら寒いものを感じる作品。
「橋の女」は、他の類似エピソードと比べると完成度は落ちるが、制作者の意欲は買いたい。
そのほかの作品は、心霊現象が地味。
『封印映像16 八尺様の呪い』
- 「髪子さん」☆
- 「憑き人」
- 「踏切」
- 「映り込み」
- 「八尺様の呪い」★★
「髪子さん」は、映像はどうということはないが、投稿者と同じ状況に自分が置かれることを想像するとゾッとする。
そのほかのエピソードは『封印映像』にしては出来栄えがしょぼい。「憑き人」は『1』の「スプーン女」の焼き直しという感じがするし。
『封印映像17 けもの霊』
- 「人形の家」☆
- 「闇の墓場」
- 「白い着物」☆
- 「公衆電話」☆
- 「けもの霊」☆
「人形の家」はつくりこそ雑だが、設定はかなり不気味。むしろ雑なつくりがいい味を出している。
「白い着物」「公衆電話」は、カメラワークや編集が的確。怖さはそれほどでなくても完成度は高い。
「けもの霊」は、意外にダイナミックな展開を見せる。構成は粗削りだが、視聴者を楽しませようというスタッフの心意気が伝わってくる。『封印映像』にはこれと似たようなエピソードがいくつかあるので、今となってはやや印象が薄れてしまっているのが残念なところ。
『封印映像18 人形の呪縛』
「呪われた階段」は、途中までモタモタしているのだが、最後の締めがなかなかの出来栄え。「やりすぎ感」がないではないが、『封印映像』らしいオチではある。
「忘れられた人々」は頑張っているけども、アイデアにもうひとひねりほしい。
『封印映像19 トンネルの怨響』
「鏡中」「トンネルの怨響」以外は、失礼ながら手抜きっぽい。だからこそ、その2作のおもしろさが引き立つともいえるのだが。
『封印映像20 生け贄の霊説』
- 「カセットテープ」
- 「線路沿い」☆
- 「下げ屋」
- 「非常階段」
- 「生け贄の霊説」★★
「線路沿い」は、ありそうでなかったアイデア。一発ネタだし、ほとんどギャグだが、『封印映像』の持ち味が出ていると思う。
「カセットテープ」「下げ屋」は、手抜き作品としか思えない。「非常階段」は健闘していると思うが、凡庸な印象はぬぐえない。ただし、幽霊の女性が美人なのは評価したい。
『封印映像21 霧の村の呪祭』
- 「インターホン」☆
- 「即身仏の呪い」
- 「音声認識機能」☆
- 「砂浜」★★
- 「霧の村の呪祭」★★
「インターホン」は好みの問題で上のセレクションには入れていないのだが、出来栄えは悪くないので、気に入る人もいるはず。
「音声認識機能」は、タブレットに起こる怪異。心霊現象が最新機器にも発生するという点が興味深い。設定もそれなりに手が込んでいる。
『封印映像22 心霊スポット探訪』
「はなればなれ」は、シリーズ22作目にもなってなぜこんなことをやっているのか首をかしげてしまうほど地味。
「歪んだ女」は、『封印映像』にしばしば登場する音響の専門家が怖がらせるパターン。『ほんとにあった!呪いのビデオ』の第1作目から脈々と受け継がれている伝統といえるが、心霊ビデオにおける音響の専門家ほど胡散臭いものはない(良い意味でも悪い意味でも)。
『封印映像23 シャドーピープル』
- 「いちばんのファン」☆
- 「シャドーピープル」☆
- 「深夜のいたずら」
- 「さがしもの」☆
- 「天井裏の呪念 再取材篇」☆
突出した傑作はないものの、完成度の高いエピソードがそろっている。
「いちばんのファン」は、小道具や仕掛けが凝っていて意外に楽しめる。
「シャドーピープル」は、『封印映像』シリーズのオリジナルの異形かと思っていたが、ちゃんとウィキペディアに出ていた。とはいえ、本質的にはただの黒い人影なので、映像としては迫力に欠ける。本作はいろいろ工夫しているけども、ホラーとして質を高めるには課題も多い題材だ。
「深夜のいたずら」は、ほかの作品が卒のない出来なので、比較するとかなり劣って見える。シリーズ23作目でやることではないという気もする。
「さがしもの」は、制作者のウケ狙いだとお見受けする。いくらなんでも映像の処理が雑というか遊びすぎである。個人的には嫌いではないけども。
「天井裏の呪念 再取材篇」の見どころは、ぼくらの田中さんの豹変ぶり。意外な一面を発見できる喜び。これに尽きる。
『封印映像24 続・ひとりかくれんぼ』
- 「親孝行」☆
- 「練炭自殺 再取材編」
- 「夜の地下道」☆
- 「元カノに憑いた霊」☆
- 「続・ひとりかくれんぼ」☆
シリーズを重ねクォリティーは安定してきているとは思うが、どうしようもない駄作がない代わりに、ひとに積極的に勧めたくなるような傑作もない感じだ。予告編がおもしろそうだったので、いたずらに期待をしてしまったせいもあるかもしれない。
「親孝行」は、お約束というべきか、本題の心霊現象が雑。ただ、制作者はおそらくそこに重きを置いていない。超高齢化社会の闇の部分を照らすというか、身につまされるというか、そんな社会派のメッセージすら読み取れてしまう。怖いというより哀しい一編だ。
「夜の地下道」は、怪奇現象そのものよりもそれが起こる空間が興味深い。実際こんな場所があるのだろうか。セットとも思えないから、実在するのだろう。もっと空間の特徴を活かした何かがあればもっとよかったのだが……「何か」って? と問われると困るけども。
「元カノに憑いた霊」も、心霊の現れ方がおざなり。やはりそこで勝負することを放棄している。そのぶん、お話はまあまあ楽しめる。煮え切らないまま終わるのは、続編を作る気マンマンといったところか。
「続・ひとりかくれんぼ」は、『24』のなかでは正統派の趣でいちおう怖がらせてはくれる。ただ、もうちょっとプラスアルファがほしいと思うのは贅沢だろうか?
「う~む……」と頭を抱えてしまうのが「練炭自殺 再取材編」。さすがに「練炭自殺」シリーズはネタ切れの観がある。「だから何?」という疑問符が付いてしまうのだ。
ところで、投稿心霊映像系の作品には「撮影しているシチュエーションが不自然」という特徴がある。その点、『封印映像』シリーズは、胡散臭さを拭うために工夫を凝らしている場合が多いので評価できる。
しかし、「親孝行」「夜の地下道」は、観ている途中で「そんなところ撮るかなあ?」と我に返ってしまった。他にも撮影している必然性が感じられない作品はあり、その場合もあまり気にならないのだが、なぜかこの2作は途中で少し興醒めしてしまった。
『劇場版 封印映像25 天井裏の呪念 除霊編』
- 「続・赤ずきんちゃん」☆
- 「盗撮者」★★
- 「天井裏の呪念 除霊編」☆
本作は劇場で公開されたもの。ただ、当ブログのようにDVDで鑑賞してしまうと、ほかの作品と違いはあまりわからない。
とはいえ、「大画面と大音響で観たら、もっと怖かったかも」と思わせる場面もあり、「劇場版」の看板に偽りはないようだ。
「続・赤ずきんちゃん」は、当ブログで傑作と評した「赤ずきんちゃん」の続編。これはリスキーな作品だ。正編のほうは「ワケがわからない」ところが怖いので、謎が明らかになってしまうと、好奇心は刺激されても、恐怖心は和らいでしまう。
本作は謎が解けてスッキリという終わり方ではないが、新たな恐怖を提示しているわけでもない。また、映像の内容を事前に説明してしまうという愚も犯しており、『封印映像』シリーズにありがちな〈蛇足〉のエピソードになってしまっている。よい題材なだけにじつに惜しい。
「天井裏の呪念 除霊編」も続きもの。こちらはボリュームたっぷりでなかなか手が込んでいる。表題作でもあり、制作陣がもっとも力を注いだ作品といえる。
惜しむらくは『23』に収録されている前作の二番煎じになってしまっていること。あまり新しい驚きがない。本作を劇場で公開するのであれば、前作は完全に不要だ。
『劇場版 封印映像26 ラブホテルの怨念 北関東〇〇県』
- 「続・白い着物」☆
- 「幼馴染」☆
- 「ラブホテルの怨念 北関東〇〇県」☆
「劇場版」と銘打っているため、観る側もハードルを上げてしまっているせいか、全体的にあまり満足感が得られない出来栄えになってしまった。
3本のうち2本が過去作の続編だが、その正編を当ブログは高く評価している。だから、なおさら見る目が厳しくなる。
「続・白い着物」は、怪異のあった場所を霊能者とともに訪れて検証する、その趣向は面白い。ただ、もっとネタを練りこんでもよかったと思う。
白い布から煙が出るシーンも、もっと布全体からわいている感じにしてほしかった(実際は、発煙筒のようなものから噴射しているように見える)。こういったつくりの粗っぽさは、愛嬌があればよいのだけど、そうでないなら作品の質を下げるだけだ。
「幼馴染」は、核心部分はよく出来ているとは思うものの、それを活かすなら、もっと短くシンプルな作品にしたほうがよかったのではないか。
「ラブホテルの怨念 北関東〇〇県」は、単独の作品としては悪くはないのだが、やはり正編のクォリティが高いため、『封印映像』にありがちな蛇足になってしまっているのが残念。
シリーズの初期にあったような、ちょっとした“エロ”要素が楽しめるのは魅力ではあるけども。
『封印映像27 結婚呪い コープスブライド』
- 「地下施設」◆
- 「川釣り」◆◆
- 「差出人不明」◆◆◆
- 「SNS」◆◆
- 「結婚呪い コープスブライド」◆◆
「怖さ」と「面白さ」のどちらを優先するか。じつに悩ましい問題だ。“心霊ビデオ”においてそれらは相反する要素だからだ。『封印映像』シリーズは、後者に重きを置くようになってきたようだ。すなわち、映像作品として面白いことがもっとも重要。結果的に観る者が怖がってくれるのが理想だけれど、そうでなくてもかまわない――。以前からそういうコンセプトだったのかもしれないが、当ブログはこの27作目で確信した。
そういう目で見ると、本作は視聴者をあの手この手で楽しませようという気概にあふれ、全体的に良い仕上がりになっていると思う。
レビューの判断基準が変わったため、上記の各エピソードに付した評価の指標も「★」から「◆」に変更した。
「地下施設」の投稿映像そのものは、まさに虚仮おどし。しかし、怪異の背景として語られる設定と、田中さんらスタッフによる取材シーンの楽しさが、このエピソードを魅力的なものにしている。
「川釣り」は怖いというより、じつは心温まる話。「ほんとにあった怖い話」の鶴田法男監督が撮る“涙モノ”のような趣――と言えば、わかる人にはわかるかもしれない。細かいことだが、女性が驚くタイミングが少し早すぎた。あと1〜2秒のタメがあったら良かった気がする。そこが惜しい。
「差出人不明」は、やや狙いすぎの観もあるが、なかなか作りこまれていて楽しめる。魚眼レンズで撮った画面も良い効果を上げている。「生活感のない家だな」という観る側のツッコミがしっかり伏線になっているのは見事。タイトルの意味も最後にストンと腑に落ちる。
「SNS」も作りこみすぎているので、そのぶん恐怖心は和らいでしまう。しかし、最新のツールを利用した演出は、将来的に新しい怪異の出現を予感させる。
「結婚呪い コープスブライド」は、設定や構成に飽きさせない工夫が施されている。田中さんの活躍ぶりも見どころ。冷静沈着を絵に描いたような田中さんが驚きの声を上げるなんて、尋常ではない事態だ。
『封印映像28 幽霊アプリ』
- 「エレベーター」◆
- 「千九山」◆
- 「死身」
- 「幽霊アプリ」◆
前作(『27』)のレビューで述べたとおり、本シリーズは必ずしも観る者を怖がらせようとしていない。だから、あんまり怖くなくてもマイナスの評価にはならない。
とはいえ、本作は「ちょっと踏みこみが足りないのではないか」という不満を抱いてしまう。それは、前作の出来が良かったので、こちらの期待値が高かったこともあるだろう。「『27』と『29』に力を入れたので、この『28』は箸休めです」ということならいいのだが……。
「エレベーター」は、エレベータの監視カメラがとらえた映像。舞台となるエレベーターそのものがどこか異界のような雰囲気を醸し出している(扉の向こう側が異様なほど暗闇に包まれている)のは評価できる。
しかし、ここまで非現実的な空間なら、もっと派手な怪異が起こってもよさそうなのだが、『封印映像』シリーズにしては、おとなしい仕上がりで、物足りない。過去作ではインパクトのある現象がたくさん見られるわけだし……。
「千九山」は、有名な異形(妖怪というべきか)を題材としたもの。伝奇小説を読んでいるみたいで興味がそそられる。
だが、いかんせんありふれた素材であり、時間も短いので、満足するまでにはいたらない。投稿者たちがもっとひどい目に遭っていればまた印象はちがっていたと思うのだが……。
「死身」は、出来が悪いわけではないのだが、2017年に、それも『封印映像』でやることではないように思う。10年前の心霊ビデオならこれでも喜んだのだが……。
「幽霊アプリ」は、文字どおり幽霊を探知するアプリがモチーフ。「ほんとに幽霊が現れちゃった!」という展開になることは、タイトルを見た瞬間に予想できるが、こちらの想像の域を出ないのが残念。異界のモノがその場にいたかのような実在感がもっとあれば……。これも現象そのものはひと昔前の味わいだ。
いくらでも怖い展開にもっていけそうな題材なだけにじつに惜しい。
また、真相を究明するために霊能力者を呼び寄せるが、肩透かしの結末に終わる。それ自体は制作者の意図したものだろうし、良い効果を上げる場合もあるだろう。だが、本作の収録作品を振り返ると、すべて「肩透かし」のように思えてしまい、マイナスに働いている。
『29』にはぜひ期待したい。
『封印映像29 池のほとりの蓮美さん』
- 「クレーム処理」◆◆
- 「竹やぶ」◆◆
- 「恋人たちの晩餐」◆◆◆
- 「池のほとりの蓮美さん」◆◆
前作(『28』)はやや不満の残る仕上がりだったが、この『29』は、『封印映像』シリーズとしては及第点に達していると思う。
「クレーム処理」は興味深い現象。ただ、恐怖度はそれほどでもない。それらしい異形のモノが出てきてもよかったと思うのだが。
とはいえ、この作品はコース料理でいえば“オードブル”みたいなものだから、これくらいの匙加減でよいのかもしれない。
「竹やぶ」は「心霊スポットに遊びにいって霊が現れる」という何億万回と繰り返されたシチュエーション。それだけに、安定感・安心感がある。
映像の仕上がりは丁寧で好感は持てるものの、この「安定感・安心感」が恐怖を削いでしまっているのが残念なところ。
結末が「えげつない」のだが、この部分が映像化されていないのもよくない。過去作には「えげつない」部分もちゃんと映していたわけだし。
「恋人たちの晩餐」は、『29』の“メインディッシュ”といったところ。ストーリーがよく練られており、オー・ヘンリーや星新一の短篇を読んでいるような“読後感”がある(……たとえとしてすごい名前を挙げすぎたか)。
画期的なアイディアというわけではないが、このような心霊ビデオ・投稿映像のフォーマットに落とし込まれると新鮮さを感じる。
しっかり「えげつない」映像があるのも評価ポイントだ。
また、プライバシー保護のモザイクを逆手にとった、さりげない演出にも注目したい。
「池のほとりの蓮美さん」は表題作で、もうひとつの“メインディッシュ”。なかなかおもしろい造形の異形が登場し、『封印映像』シリーズの面目躍如といった仕上がり。
怖がればいいのか、笑えばいいのか、戸惑いを覚えるが、「戸惑い」こそが『封印映像』の持ち味でもある。
『封印映像30 シャドーピープル 包帯少女』
- 「さっちゃん」◆◆◆
- 「ダム湖」◆◆◆
- 「離苦悲唄」◆◆◆
- 「シャドーピープル 包帯少女」◆◆
本作は、全体的に『封印映像』シリーズらしい、ほどよいハメのはずしかたをしていて、満足度が高い仕上がり。
「さっちゃん」は、古い日本家屋を探索する話(実家なので「探索」は大げさか)。幽霊とか異形のモノが出てくるんだろう——と簡単に想像できる。そこにどんなモノを出すのかがスタッフの腕の見せどころ。
「画面の端に人影らしきものが映りました」などといった生半可な“心霊現象”でお茶を濁すはずもなく、観る者の期待に応えてくれた一本といえる。
「ダム湖」も、じつは異形の造形が見どころ。ただ、スタッフが取材をして怪異の背景があきらかになるが、ここは謎のままにしたほうがよかったかもしれない。
「離苦悲唄」は、いわくありげな唄がモチーフで、これには異形は登場しない。いわば先の2本とは味付けの異なる料理を味わう感覚で楽しめる。シリーズ初期の怖い路線が少し復活したようで、少し嬉しい。
前にも述べたように、『封印映像』は表題作が振るわないという法則があり、「シャドーピープル 包帯少女」はほかの3作にくらべるとややクォリティが落ちる気がする。心霊現象がしょぼいのは、霊能力者ジョンの活躍(?)を引き立てるためだとわかるが……もう少し工夫の余地があったようにも思う。
『封印映像31 監死カメラ』
- 「あいのり」◆◆◆
- 「レシピブログ」◆
- 「獣人の怨念」◆◆◆
- 「監死カメラ」◆◆◆
このパート31は、「怖さ」と「楽しさ」がバランスよく配合され、『封印映像』シリーズのファンにとっても嬉しい出来栄えになっていると思う。
「あいのり」は、心霊スポットで噂を検証するお話。「どうせ禁忌(タブー)を破って、なにかが起こるんだろう」と、作品を観る前に簡単に予想がつけられる。だが、そこは『封印映像』らしく、心霊現象にひとひねり、ふたひねり加えられており、ほどよく怖がれる一編となっている。
それに対して「レシピブログ」は、怪異がおとなしい。メリハリをつけるために、あえてそうしたのかもしれない。
「獣人の怨念」は、展開はありふれたものだが、異形の見せ方が絶妙。パート28「千九山」に雰囲気が似ているが、こちらはきちんと投稿者たちが酷い目にあっているので、観る者の期待に応える良作といえる。
「監死カメラ」で起こるのは、実際に自分の身に起こったら「怖い」というより「気持ち悪い」現象。これもパート28の「幽霊アプリ」になんとなく似ているが、こちらのほうが良い仕上がり。それなりに恐ろしい異形も登場するうえ、予想の斜め上をいくオチにも拍手を送りたい。
『封印映像32 呪いの生き人形/長身の男』
- 「呪いの生き人形 その①」◆◆◆
- 「呪いの生き人形 その②」◆◆◆
- 「長身の男 その①」◆◆
- 「長身の男 その②」◆◆
このパート32におさめられているのはスピンオフ的な作品で、他のパートとは趣を異にしている。
他のパートが、投稿映像を引き立てるためにスタッフの取材があるのに対し、このパートは、スタッフのキャラクターを際立たせるために投稿映像がある。結果、〈ホラー〉の度合いが低くなっている一方で、〈エンターテインメント性〉は高められている。観る人によって好みは分かれるだろうが、当ブログはそれなりに評価したい。
「生き人形」といえば、某有名な語り手による有名な怪談がある。幼少のころに聞かされた者としてはトラウマの題材であり、その文字を目にするだけで身構えてしまう。「呪いの生き人形」の投稿映像で展開するのはオーソドックスな現象だが、それだけに王道の恐怖が味わえるといえる。スタッフの“いじりかた”も悪くない。
「長身の男」もスタッフの“活躍”が見どころ。投稿映像は、本シリーズが得意とする異形モノだが、要となる異形が本シリーズにしてはイマイチ怖くないため、スタッフの取材部分も空回りしている。体を張ってがんばっているだけにじつに惜しい。
『封印映像33 呪われた地下アイドル』
- 「音鳴り」◆◆◆◆
- 「曰く付き」◆◆◆◆
- 「メリーさん」◆◆◆◆
- 「呪われた地下アイドル」◆◆◆
『33』は、最近の“エンタメ路線”とはうって変わり、真面目に心霊現象を見せていく手堅いつくりになっている。シリーズの原点回帰といった趣だ。いずれの作品も構成が緻密に練りあげられ、長尺の映像でも飽きがこない。完成度の高い作品がそろっているといえる。
ただ、贅沢な悩みであることを承知したうえで、シリーズのファンとしてあえて文句をつけるなら、優等生すぎる嫌いがないでもない。100点満点をめざしながら結果的に80点の及第点を取ったという感じ。ほかの心霊・投稿ビデオシリーズならそれでもよいのだが、200点を得ようと実験的・意欲的な表現にもチャレンジし、結果70点の出来映えになっていた、というのが本シリーズの持ち味だったはず。だから、観る側はやや困惑してしまうのだ。
「音鳴り」は、〈霊〉とおぼしき存在にしっかりと実在感があるのがいい。これによって臨場感が高まっている。最後は、投稿者が部屋にもどったとき、〈女〉が〈行為〉を手伝っている、といった展開でもよかったかも。
「曰く付き」は、登場する女性のふるまいが撒き餌となって、絶妙に恐怖をあおっていく。ただ、異形はそこそこ不気味だが、その造形には既視感がある。手や足も曲がっていたほうがオリジナリティーが出そうだし、より怖かったのでは?
「メリーさん」は、「メリーさん」という有名な怪談が絶妙にアレンジされ、緊迫感あふれる一編に仕上がっている。ただ、卒なくまとまってしまっている観もある。ラストは〈それ〉がいつの間にか運転席におり、車が走りだしてしまう、などといったナンセンスさがあっても面白かっただろう。
「呪われた地下アイドル」は、偶然にとらえてしまったショッキングな事件の一部始終で、ほかの3編とは毛色が異なる。ややネタバレだが、心霊現象ではない。やはりシリーズ初期にあったようなテイストで楽しめるが、登場人物のいずれかがじつは“この世のモノ”ではなかった、といったオチもアリだったかと思う。
『封印映像34 ひよいくぐり』
- 「ひびわれ」◆◆◆
- 「見えるんです」◆◆◆◆
- 「犬のおもちゃ」◆◆
- 「ひよいくぐり」◆◆◆◆
このパートもクォリティの高い作品がそろい、シリーズのファンは必見となっている。
「ひびわれ」は、珍しい怪現象が投稿者を襲う。本作のように、その場にいる者が肉体的なダメージを被るのは恐怖度が高い。
ただ、本シリーズの持ち味を考えれば、もう少し“えげつない”展開になってもよかった気がする。
「見えるんです」は、最近の作品としては珍しいオーソドックスな心霊現象が発生する……と思わせながら、観る者の予想を上回る結果となる。やはり異界のモノがフィジカルなアタックを仕掛けてくると戦慄する。
ただ、そうなると異形にもう少し実在感があるべきだったように思う(〈顔〉の角度が不自然)。
「犬のおもちゃ」は、上の2作と比べると、どうしても地味な印象を受けてしまう。心霊映像もインパクトが小さい。怪異の背景にはこだわりを見せているが、それがうまく恐怖へつながっていないのが惜しい。
さて、何度か述べているが、本シリーズは表題作が奮わないというジンクスがある。しかし、「ひよいくぐり」は、それに反して『34』のなかでもっとも出来がよい。
「ひよいくぐり」という造語とおぼしきタイトルに伏線を仕込みつつ、怪異のいわくも丁寧に作りこんでいる。それがうまく恐怖を煽っており、「えげつない」映像もしっかり見せる。上の3作にあった欠点は、本作で解消されている。
例によってわがままな注文をつけるなら、〈その者たち〉の姿が映りこんだりしていれば、より恐怖度が高まったかもしれない。
『封印映像35 心霊パパラッチ』
- 「心霊パパラッチ」◆◆◆◆
- 「泥の人」◆◆
- 「帰れなかった霊体」◆◆
- 「ボウボウ」◆◆◆
「表題作が奮わない」という本シリーズのジンクスを破り、「心霊パパラッチ」がこのパートでもっとも出来が良い。一発目に持ってきていることから、制作者の自信のほどがうかがえる。
心霊スポットで心霊映像を撮影する。何億回とくりかえされてきた題材だが、けっして白けさせることなく、手堅くまとめあげている。本シリーズらしいスパイスを効かせているのも憎い。
ただ、この安定したつくりが安心感につながってしまい、恐怖感がやや和らいでしまっているのが惜しい。長くつづくシリーズの宿命ではあるが……。
「泥の人」は、ユニークな異形が登場。観る者を楽しませようする制作陣の創作意欲は買いたい。つくりが粗いのは意図どおりだろうが、〈恐怖〉か〈笑い〉か、いずれか一方に振りきれていれば、もう少し満足度も高まったのだが。
「帰れなかった霊体」も、廃墟を探索する話で定番のパターン。さまざまな怪異が起こるが、「下手な鉄砲……」の観もある。いわくが理屈めいているのも、恐怖度が下がる原因になっている。
「ボウボウ」にも、多種多様な現象が詰めこまれている。やはり恐怖度は高くないが、久しぶりにスタッフ・田中さんがインタビュー以外で現場に出張っている。さらに、異界のモノの働きかけで田中さんが被害を受ける。そこも見どころになる。
『封印映像36 きれいになりたい』
- 「タイムカプセル」◆◆◆◆
- 「指が好きな女」◆◆◆◆
- 「シンクロニシティ」◆◆◆◆
- 「きれいになりたい」◆◆◆◆
このパートは、4作品のいずれもクォリティが高い。シリーズとして及第点を軽くクリアしながら、それでも妥協はせず、さらに一歩踏みこんで恐怖度や娯楽性を高めている印象だ。シリーズのファンも初心者も満足できるパートとなっている。
「タイムカプセル」は、文字どおりタイムカプセルを掘りおこそうとすると怪異が訪れる。若者たちが醸し出す能天気な雰囲気がジワジワと剣呑なものに変わっていくのが見どころ。異形の現われかたが絶妙で、そのあとに起こる蛇足のような現象も小技として効いている。
霊能者のジョン氏が、予想外のかたちで“活躍”するのも興味深い。
「指が好きな女」は、ホテルに呼んだ風俗嬢が奇妙なふるまいをする。心霊というより、生きた人間の持つ異常な精神を表現することに重きが置かれている。展開は十分に予想できるものだが、だからこそ観る者の期待に応える内容ともいえる。
「シンクロニシティ」は、友人とふたりで誕生日をお祝いした際に撮られた映像。友人に異変が起こるが、本作も丁寧に恐怖を煽っていく構成が見事だ。ただ、最後に現われる異形は、おぼろげな存在ではなく、あたかも目の前にいるかのような実在感を持っていたほうがよかったかもしれない。
「きれいになりたい」は、アイドルがネット配信をしているときに体験した怪異。小道具がうまく雰囲気を盛りあげる。ラストも適度にえげつなく、本シリーズの面目躍如の仕上がりとなっている。
『封印映像37 廃工場に蠢く』
- 「脱皮」◆◆◆◆
- 「廃工場に蠢く」◆◆
- 「宝物箱」◆◆◆
- 「呪界の記録」◆◆◆
パート37は、全体的になんとも物足りない感じを覚える。ただそれは、パート36の出来栄えがあまりに良すぎたせいであって、けっして『37』のクォリティが低いわけではない。とはいうものの、あと一歩踏み込んでもらいたかったという想いもあり、シリーズのファンとしては複雑な心境だ。
そんな『37』のなかでは、「脱皮」がもっとも出来がよい。中学校の同窓会の帰りに撮影者たちが恐怖に遭遇する。本シリーズらしい思い切った表現が成果を挙げている。ポイントは、「なぜそうなるか」がよくわからない点にある。怪異をもたらす相手も幽霊なのか、それともモノノ怪の類いなのか……。その煮えきらない感じが作品に不気味なテイストを与えている。
「廃工場に蠢く」は、映像制作会社が廃工場をロケハンした際に撮った映像。「表題作は奮わない」という本シリーズのジンクスどおり、いささか不満の残る仕上がり。「廃工場」という魅力的なホラー空間を舞台にしながら、そこで起こる怪現象がその「空間」に負けている。「蠢く」というおどろおどろしいタイトルもいたずらにハードルを上げている気がする。
「過去にこういう事件があったから、このような現象が起こったのだろう」などと、論理的に説明がつけられてしまうと、物語として腑に落ちても、恐怖は殺がれてしまう。せっかく田中さんが出張ってきた案件なのにもったいない。
「宝物箱」は、同級生の隠した宝物箱を探す様子をスマホでとらえる。「いったいなにが出てくるのか」と、期待と不安をあおる展開が良い。そこで起こる現象の意味はわからないが、だからこそ、そこはかとない気味の悪さが漂う。情報の出し方が的確で、観る者に想像する余地を残しているのも評価できる。
「呪界の記録」は、肝試しの様子を映したとおぼしき映像。雨が降りしきる深夜の林のなかで、若者たちが儀式めいたことを行なっている。全編に剣呑な雰囲気が漂っているのが見どころだ。怪異の背景も、なかなか珍しい題材をモチーフにしている。もう少しえげつない現象が起これば良かったのだが……。
『封印映像38 心霊スポット案内人』
- 「トレーニングの代償」◆◆
- 「心霊スポット案内人」◆◆
- 「隣人トラブル」◆
- 「ピアノ発表会」◆
あくまで玉置さんの“ドジっ子”を堪能するパート
このパートでは、われらが田中さんは出演せず、『32』にも登場したスタッフ・玉置さんが活躍する。feat.TAMAKIといった趣で、制作陣には真面目に怪奇現象を見せようという思惑はない。あくまで玉置さんを中心とした若手スタッフの“ドジっ子”ぶりを堪能するのが、このパートの正しい嗜みかたになる。本格的なホラー・ドキュメンタリーの味わいを期待していると、当然ながら肩透かしを食らってしまうだろう。
「トレーニングの代償」は、投稿者もどこか不誠実で、作品にいかがわしいテイストが加えられていて悪くはない。ただ、怪異の表現に力を入れていないにしても、二番煎じでもよいから、ひとつでも「おっ!」となるような描写がほしかった。そうすることで、スタッフの無能ぶり(失礼)のおかしみが際立ったはずだ。
「心霊スポット案内人」は、表題作であるがゆえに、本シリーズのジンクスにしたがって期待していなかったのだが、案の定、不完全燃焼の仕上がりになっている。玉置さんのふるまいは楽しく、そこがこのエピソードの白眉ではあるのだが、やはり怪奇現象の部分が弱いと、作品全体にピンボケ感が漂ってしまう。
「隣人トラブル」は、先の2作にくらべると、今度はスタッフの挙動が平々凡々で面白くない。心霊現象の表現が雑なのは持ち味だとしても、“隣人”に対してスタッフがやらかしてしまうような展開があっても良さそうなのだが、意外にあっさり終わってしまう。“遊ぶ”余地はそこかしこに転がっていたようにも思えるのだが。
「ピアノ発表会」は、怪異の背景や設定をつくりこんでおり、本パートのなかでもっとも誠実な出来栄え。ただ、お話が理屈めいていて、無難にまとまっているぶん、恐怖感も殺がれてしまっている。メインとなる怪現象そのものは興味深いが、もっと細かい不可解な現象が立て続けに起こったり、事故と考えられているけどじつは他殺で、映像に映りこんでいるのは被害者ではなく……などといった捻りがあったりと、もう一工夫ほしい。
『封印映像39 都市伝説 赤シャツの男』(レビュー準備中)
- 「アナログテレビ」
- 「浮遊する魂」
- 「うらない」
- 「都市伝説 赤シャツの男」
『封印映像』はフェイクとして楽しもう
『封印映像』を一度でも観たことがあれば、このシリーズが作り物(フェイク)であることは一目瞭然のはずだ。ところが、個人のブログなどで、真実かどうかで悩んでいる人を見かけることがある。
もちろん、当ブログは制作関係者ではないので、「じつはフェイクに見せかけたホンモノ」の可能性を完全には否定できない。それでも当ブログは、『封印映像』はもちろん、世にはびこる心霊ビデオの類はすべてフィクションであるという立場をとる。
ホンモノかニセモノか。観る人が決めればいいことかもしれない。問題は、「どうせウソなんだろ」と疑心暗鬼になって、せっかくの傑作を満喫できなくなることだ。
たとえるなら、手品に対して「どうせタネも仕掛けもあるんだろ」と、そっぽをむいてしまう。それは愚の骨頂だ。「そうだとしてもすごいね」と言いながらも楽しめるのが優れたマジシャンの行なう手品だ。
『封印映像』も手品と同じ。「フェイクだけどよく出来てるなあ」「どうせウソならもうちょっとこうすればいいのに」などと思いながら観るのが幸せな鑑賞態度といえるのだ。
こちらの心霊・投稿系ビデオシリーズもおすすめ。
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