【バイオハザード RE:3】ジル(プロ)とレオン(素人)をくらべれば本作はもっと楽しくなる

バイオハザード

バイオハザード RE:3』と前作『バイオハザード RE:2』は、なにがちがうか? 前作の主人公はレオンとクレア(一部エイダ)、本作はジルとカルロス。前作で操作するキャラクターはいわば素人トーシロー、本作はプロフェッショナルだ。

「それがどうした? どうでもいいじゃないか」

たしかに。ゲームをプレイすることに直接は影響しないし、そんなことを気にしなくても本作は十分に楽しめるだろう。

だが、両者のちがいをしっかりと意識すれば、本作をもっと堪能できる

今回は『RE:3』の魅力を、『RE:2』と比較しながら探っていこう。

[前作とちがう!①]主人公の身体能力が高い。プロですから

前作と1文字だけ異なるタイトルが意味するもの

本作『バイオハザード RE:3』と前作『バイオハザード RE:2』。まずタイトルを見くらべると、末尾の数字しか変わっていない——これは冗談ではなく、実際、両者のゲームとしての見た目はほとんどおなじ。タイトルはそれを象徴している。

〈ラクーンシティ〉という、『バイオハザード』シリーズのファンにとって、もはや“故郷”のような街を舞台にしている点も共通。〈ゾンビ〉を中心とする敵を銃で撃退していくのもおなじ。道中でキーアイテムを探し出し、活路を見出すのも見慣れたゲームシステムだ。しかも主人公たちが活動する時期も本作と前作はほぼ重なっている。

前作ではレオン編・クレア編と、ふたりの視点から“怪異”を体験したわけだが、そこに本作のジル・カルロスの視点が加わった格好だ。それにより〈世界〉の重厚感が増し、〈物語〉もより重層的に拡大。プレイヤーのゲームに対する没入感もより高まった。本作にはそんな魅力がある。

本作をまるっきり別のゲームに仕立てた〈アクション〉

本作『バイオハザード RE:3』では、『RE:2』には存在しなかった〈アクション〉が導入されている。ジルの「ステップ」、カルロスの「タックル」だ。敵の攻撃を回避して反撃したり、パンチをあてたりできる。

この〈アクション〉の存在が前作とのただひとつの相違点、といっても過言でない。しかしながら、たったひとつの相違点が本作を前作とまったく別のゲームにしているのだ。

どういうことか?

前作では、迫りくる〈ゾンビ〉にただただ戦慄するしかなかった。たしかに武器を持っていれば攻撃できるし、行動不能にすることもできた。しかし、弾薬に限りがあるし、床に倒れても“死んでいる”保証はない。つまり、つねに状況に翻弄される〈受け身〉をとらざるを得なかった。

一方、本作ではどうか? 登場する〈ゾンビ〉の造形や能力は前作とまったく変わらないのに、恐怖心を覚えることはない。〈アクション〉によって危機を脱することができるからだ(失敗してダメージを負うこともあるが)。状況に翻弄されるのではなく、積極的に状況を切り拓く〈攻め〉の姿勢をとれるわけだ。

なぜ、両者にこのようなちがいが生まれるのか?

答えはおわかりだろう。冒頭で述べたように、前作の主人公であるレオンやクレアは素人、本作のジルとカルロスはプロ。身体能力や判断力、精神力のちがいがゲームシステムに反映されているのだ。 

[前作とちがう!②]ゾンビはただの雑魚。でも厄介です

ゾンビが“障害物”に堕しても問題ない

ズバリ、本作のジルとカルロスは、前作のレオンやクレアよりも強い。それによって、脅威であったはずの〈ゾンビ〉がただの“雑魚ザコ”と化している。主人公たちの前に立ちはだかる“障害物”でしかない。前作の魅力でもあった〈ゾンビ〉のもたらす恐怖感はほとんど薄れている。

「なんだ。『RE:3』ってクソゲーなのかよ」

と早合点してはいけない。ここでプレイヤーは2つの事柄を思い出さなければならない。

まず、『バイオハザード』の第1作目。ゲームの目的は〈館〉からの脱出であった。あるいは事件の真相を探ることだ。そこでは〈ゾンビ〉は“障害物”ではなかったか。けっして〈ゾンビ〉の殲滅を目的としてはいなかったはずだ。

つまり、「ゾンビ=障害物」という図式こそ本来の『バイオハザード』なのだ。ということは、本作はむしろ原点に返ったともいえる。

次に、本来の〈ゾンビ〉とはなにか? その根源的な問題を考えてみる。「本来の」とは、どういうことか? もともと『バイオハザード』が、日本で「ゾンビ映画」をつくるつもりで生み出されたことを考えれば、『バイオハザード』のゾンビとは、ゾンビ映画に出てくるゾンビを表現しているのはまちがいない(ファンタジーのそれではない)。もちろん、ゾンビ映画も無数にあり、ひとくちに「ゾンビ」といってもさまざまなバリエーションがある。ただ「本来の」ということになれば、ゾンビ映画の父・ジョージ=A=ロメロのつくり出したゾンビを考えるのが王道だろう。

ロメロ映画のゾンビは、特別な攻撃能力を持っていない。全速力で追いかけてきたり、目が光ったり、触手が伸びてきたり、鋭い爪で攻撃してきたりはしない。だから、1体1体はそれほど脅威ではない。主人公たちはパンチや体当たりで簡単に回避できる。映画でもそんな様子が描かれている。それはまさに本作の主人公たちが繰り出す〈アクション〉に通じるふるまいだ。

『バイオハザード』の第1作目だけでなく、そのさらにみなもとともいうべきゾンビ映画。そこまで本作は原点回帰しているわけだ。

戦闘が激しいのはB.O.W.が本気を出しているから

前述のとおり、本作のジルやカルロスは圧倒的な身体能力と攻撃能力を誇る手練れだ。〈ゾンビ〉など恐怖の対象ではない。

「だったら、〈ゾンビ〉というまとを射撃していくだけの“作業ゲーム”になるのでは?」

たしかに下手をすればそんな駄作に仕上がってしまいそうだが、さすが『バイオハザード』シリーズ。一味ちがった。

ゾンビ映画と同様に、本作においても〈ゾンビ〉1体だけなら恐くない。銃で簡単に撃退できるし、無視して先に進んでもよい。だが、いっぺんに無数の〈ゾンビ〉が襲いかかってくるならば話はちがう。さすがのジルたちも〈ゾンビ〉の集団には手を焼く。そこに新たな恐怖が生まれる。

さらに〈アンブレラ〉社が送り出すB.O.W.(生物兵器)の脅威も加わる。同社は、ジルたちが高い戦闘能力の持ち主だと知っているから、対抗手段として送り込まれるB.O.Wも相当に始末が悪い

必然的に本作の戦闘は激しいものになる。そこにアクション・シューティングとしての醍醐味が生まれる。前作以上の爽快感・達成感が味わえるわけだ。

[前作とちがう!③]キャラクターがより魅力的に。ジルですから

ジルが前作の主人公より“魅力的”である理由

本作『バイオハザード RE:3』の主人公はジル。多くの作品で活躍する人物であり、シリーズを象徴する存在でもある。そんなキャラクターを操作できるだけでも本作は価値の高いゲームと断言できる

「あれ? でも前作『RE:2』のレオンやクレアだって、のちの作品に登場するし、重要なキャラクターだぞ?」

たしかにそのとおり。言いかえすコトバもない。ここでジルをことさら推すのは、たんなる好みの問題かもしれない。

しかし、ゲームのなかでキャラクターの魅力がどう表現されているか、本作と前作をくらべると、やはり本作に軍配が上がるのではないか?

前作では〈ゾンビ〉の存在感に重きが置かれていたぶん、レオンやクレアの“人間性”は深彫りされていなかったように思う。ふたりはあくまで〈プレイキャラクター〉で、プレイヤーが同一視する存在だからだ。

それに対し、本作のジルは、ココロを持った生身の人間としての側面が強く表現されている。たとえば、ゲームの冒頭、薬(おそらく精神的な病を治すためのもの)を常用しているとおぼしい描写がある。第1作目の舞台となった〈館〉の事件以降、警察署のなかで不遇をかこっていたことも示唆されている。

つまり、本作はジルの精神状態がマイナスだったところからスタートし、徐々に“人間性”を回復していく。そんな物語と考えることもできるわけだ。

そう考えると、ジルのアクションが、レオンやクレアとくらべて激しいのも合点がいく。ジルはプロとして能力が高いだけでなく、〈ゾンビ〉をはじめとするB.O.W.に対する想いの強さが前作のふたりとまったく異なるのだ。

〈ラクーンシティ〉で起こっている問題を解決することが、自分のココロの穴をふさぐことにつながる。だから、仲間を思いやり優しい言葉をかけることもあれば、敵対する相手には厳しい態度で接する。そんな深みのある人物として描かれている

そこが前作にはない、本作の主人公たるジルの魅力であるわけだ。

本作が早く終わってしまう真の原因は?

ジルのプロとしてのふるまいと、ココロの強さ。それによって激しいアクションが展開し、プレイする側は快楽を味わえる。そこが本作のポイントだが、じつは欠点がある

それは、ゲームが早く終わってしまうこと。実際、前作とくらべてボリュームも小さいのだろう。

ボリュームだけではない。ジルもカルロスも、目の前のトラブルに対応する“問題解決能力”がズバ抜けて高いので、モノゴトがサクサク進行してしまう。これも「早く終わってしまう」原因だ。

前作は、カギをひとつ取りにいくだけでも躊躇しなければならなかった。バケモノたちの間をかいくぐらなければならず、死の恐怖ととなり合わせだったからだ。

一方、本作には死の恐怖はほとんどない。実際は前作とおなじくらい“危険”に満ちているのだが、“失敗”さえしなければいい——いや“失敗”するはずがない。〈ゾンビ〉やB.O.W. の猛攻にも立ちむかえる。そんな信頼感がジルとカルロスにはある。

ゲームには長い時間をかけてじっくり楽しむタイプもあれば、サクッと遊んでクリアしてしまうモノもある。どちらも優劣はつけられない。プレイしたあとどのくらい満足感を得られるか。それがゲーム体験としての価値を決める

本作『バイオハザード RE:3』は、ジルのプロフェッショナルぶりに着目すれば、クリアまでのプレイ時間が短くても、十分にゲームを堪能できるはずだ。

ⒸCAPCOM CO., LTD. 1999, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

〈バイオハザード〉のレビュー一覧

夜見野レイ

夜見野レイ

このサイトでは、ホラー作品のレビューを担当。幼いころ、テレビで最初に観た映画がホラー作品だったことから無類のホラー好きに。ガールズラブ&心霊学園ホラー小説『天使の街』シリーズをセルフパブリッシングで執筆。ライターとしては、清水崇・鶴田法男・一瀬隆重・落合正幸・木原浩勝の各氏にインタビュー経験を持つ(名義は「米田政行」)。

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コメント

    • シェンムーIIIを待つ者
    • 2020.07.04 2:18pm

    確かに言われてみれば、
    ジルはプロでしたね、特殊部隊所属ですし、その前は米軍デルタフォースも経験している。

    ゲームの量に関しては、
    RE:2も3もオリジナル版から削除されてリメイクされている舞台がありますから
    それもあるでしょう。
    正確には、オリジナルをリメイクしたのではなく
    オリジナルのダイジェストにしてリメイクしたが正しいのかもと思っています。
    そういう意味で、RE:2も3も期待外れな部分もありました。

    • たしかに、オリジナルで印象的だった公園などがカットされているし、もう少しボリュームはあってもよかったかもしれないですね。

      今回もコメントありがとうございました。

ぎゃふん工房(米田政行)

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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