「『サスペリア』リメイク版は難解でワケがわからない」という感想をちらほら見かける。当ブログも鑑賞直後はそう感じた。しかし、ある考えかたを取り入れると、じつに単純明快な物語に思えてきて、映画体験を価値あるものにできる。本作を手軽にたのしめる鑑賞法とは?
[ネタバレなしで作品レビューに挑戦。あなたの映画選びのご参考にどうぞ]
『サスペリア』は予想どおりに進まないから難しい
本作『サスペリア』リメイク版は、主人公の女性が舞踏団に入団し、その秘めた才能を発揮していく——というお話だ。技術や経験が未熟の若い女性が、苦悩・葛藤しながらトレーニングに励み、まわりの仲間たちから羨望と葛藤を受けながらも徐々に心を通わせ、次第に実力を開花させていく——。本作を観はじめた多くの人が、そんなストーリー展開を想像するだろう。しかし、そんな展開にはまったくならない。
主人公がみずからの不甲斐なさに悩んだりするシーンは(当ブログが記憶するかぎり)皆無。舞踏団で主人公と同じように学ぶ女性がたくさん登場するが、主人公と彼女たちが交流する場面はほとんどない1。
この点が「難解でワケがわからない」という感想につながっているのではないか。
また、物語の舞台は1970年代後半のドイツで、米ソ冷戦などの社会状況も盛り込まれている。この情報の多さも観る者の理解を妨げる一因になっているように思える。
全編を観終わったあと、あらためて振り返ると、ホラー映画らしい場面にあふれていることが認められる一方で、ホラー映画らしからぬ たたずまいだという印象も抱く。なんだか高尚な、あるいは前衛的なアート映画を見せられていると錯覚してしまう。
ふつうのホラー映画を観る感覚で本作に向き合ってしまうと、十分に満足できずに終わってしまう恐れが高いのだ。
〈シャシン主義〉は提供された素材をそのまま受けとる
本作『サスペリア』は約150分の長尺の映画であり、「ワケがわからない」「つまらない」「駄作」といった感想で片づけてしまうと、人生の貴重な150分をドブに捨てることになる。
だが、冒頭で述べたように、とある考えかたを導入すると、150分を輝かしい時間に変えることができる。言い換えると、本作はけっして駄作ではなく、それどころか、オリジナル版『サスペリア』に匹敵するほどの名作だ、と当ブログは評価している。
では、どうすれば本作を傑作として受け止めることができるのか。
今回、当ブログが提案するのは〈シャシン主義〉だ。「シャシン」は「活動写真」の略で、とどのつまり映画のこと。その心は
映画で表現・描写されているものをあるがままに受けとる
ということだ。
あらためて確認したい。本作の制作陣がおこなっているのは、あくまで〈表現〉や〈描写〉だ。「あたりまえだ」と思ったあなたは、逆に制作陣がおこなっていないことを考えてみてほしい。制作陣は本作で「説明」「説教」「弁明」「折伏」などをしようとしているわけではない。
したがって、〈表現〉や〈描写〉に対して鑑賞者であるわたしたちがすべきなのは、それをそのまま受け入れること。逆にやるべきでないのは、「理解」「解釈」「考察」「解明」「謎解き」といった類いの行為だ。
もしも本作を「難解でワケがわからない」と思ったのなら、それは理解や解釈をしようとしたからであって、本作を難しくしているのは制作陣ではなく、あくまで鑑賞者ということになる。そして、それは本作にかぎっていえば、正しい鑑賞態度ではない。なぜそう断定できるかといえば、その鑑賞態度で臨んだ結果、本作をたのしめなくなってしまうからだ。作品をたのしめることこそが正解である。その真実はあなたも納得していただけるだろう。
〈シャシン主義〉は本作だけなく、巷で「難解」と評されている作品を手軽に堪能できる鑑賞法だ2。「ワケがわからない」という理由で駄作に分類しがちな作品の数々を、反対にたのしむことができるのだから、じつに有効な考えかただといえないだろうか。
『サスペリア』はようするに「○○が△△する話」
〈シャシン主義〉で作品に向き合うと、「難解」「高尚」などと世間で評されている物語も、実際は単純明快なものとして受け入れられるようになる。ただ実際は、そういった受け身の態度をとるのではなく、〈シャシン主義〉では攻めの姿勢で、物語を「○○が△△する話」と単純化して考えるようにする。
難しいものを単純化するからといって、作品を貶めるわけではない。単純化することで、むしろ無意味と思われたシーンの数々が、じつは綿密に計算され、然るべき意図をもって映画のなかに配置されている事実に気がつく。長尺の作品もけっして無駄なシーンが連なっているわけではなく、「○○が△△する話」を表現するためには不可欠な要素であったことが明快になるのだ。
では、本作『サスペリア』の物語を「○○が△△する話」と単純化したらどうなるか? ……その答えは本作の核心に触れ、絵に描いたようなネタバレになってしまうので、ここでは控えたい(気をもませて申し訳ない)。
とはいえ、このままでは作品をレビューする者として無責任のそしりを免れないので、直接の答えではないが、単純化のヒントを提供したい。
黒澤明監督の代表作にして古典的名作として名高い『七人の侍』という映画がある。ホラー映画でも難解な映画でもないので例としてやや不適切ではあるが、単純化の参考にはなるだろう。
『七人の侍』を「○○が△△する話」の形で言い表すと次のようになる。
「百姓が侍を七人雇い、襲ってくる山賊と戦い勝利する話」3
『七人の侍』のテーマとストーリーが端的に表されている。『七人の侍』という映画はこれ以上でもこれ以下でもない。その点にあなたも異論はないだろう。
本作『サスペリア』は「○○が△△する話」。○○や△△にあてはまる言葉は、ぜひあなた自身が考えてほしい。そのほうが本作をより堪能できるはずだ。
そして、今後も難解とおぼしき作品を〈シャシン主義〉で堪能し、ぜひあなたの映画体験を充実させていってほしい。
あなたを生殺しにし今晩眠れなくさせては申し訳ないので、ネタバレのページをつくりました。
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