ぎゃふん工房が制作しているZINE『Gyahun』を、神田神保町にあるシェア型書店〈猫の本棚〉で販売することになりました!
今回は、〈猫の本棚〉をご紹介しながら、ZINEを販売することになった経緯、シェア型書店に自分の〈棚〉をつくることの魅力などについて、とりとめもなく語っていきます。お時間がありましたら、ぜひお付き合いいただけると幸いです。
本の聖地で自分の“書店”を持てる〈猫の本棚〉
〈猫の本棚〉は、本の聖地として世界的に知られる東京の神田神保町にあるシェア型書店です。
シェア型書店とは、お店のなかにたくさんの〈棚〉がしつらえてあり、それぞれの〈棚主〉が自分の好きなように本を並べている本屋さんのこと。
〈猫の本棚〉は、大通りから少しはずれた路地に立地し、“隠れ家”の雰囲気を醸し出しているのが特長です。店内は、天井の豪勢なシャンデリアがやわらかな明かりを落とし、そこかしこに猫のモチーフがあしらわれていて、異空間に足を踏み入れたような錯覚に陥ります。
お店の壁につくられた150コの〈棚〉に、さまざまなジャンル・サイズ・カタチの本が、ところせましと並べられている様はまさに圧巻。ひとつひとつの〈棚〉には〈棚主〉が好き勝手に本を置き、思い思いの“世界”を構築しています。両隣や上下の“世界”にはお互いにまったく関連性はないものの、お店全体を眺めてみると、どこか洗練されたひとつの“宇宙”を形成しているような不思議な感覚を抱かせます。
そのなかに『Gyahun』を置くのは、いささか場違いな感じもしますが、だからこそ、ミスマッチの妙を生むのではないかと勝手に考えています。
猫の本棚
所在地●東京都千代田区西神田2-2-6-102
営業時間●毎週木~日曜日/14:30~19:30 (定休日:月火水)
*支払いはすべてクレジットカードもしくは電子マネーのキャッシュレス決済となります。現金でお買い物はできませんのでご注意ください。
ネット社会で“ニーズ”のない本を読んでもらうには?
『Gyahun』は、2001年の創刊以来、ずっと無料で配布していました。当初は友人・知人に渡し、ここ数年はウェブサイトで読者を募って、毎年1月1日に年賀状代わりに送っていたのです。
では、なぜ〈猫の本棚〉に『Gyahun』を置くことにしたのか?
近年、インターネットの状況は激変し、ウェブサイトはSEOが施された企業のものしか読まれなくなりました。その企業サイトさえも最近はSNSやAIの台頭によって苦境に立たされています。細かい分析は専門家にまかせるとして、個人が趣味で制作するZINEの読者をインターネットで集めることには限界を感じていました。
そもそも『Gyahun』で利益を得ることは露ほども考えておらず、年に数人でも興味を持ってくれる人に出逢えたらいいな、という考えで制作していました。しかし、最近はその数人との出逢いすら叶わなくなっています。
『Gyahun』は、情熱のおもむくまま好き勝手につくっているので、万人受けする内容ではありません。万人受けする——インターネットの検索に引っかかったり、SNSで受けたりするような内容にすれば、あるいは活路が見出せるのかもしれません。
でも、それはなにかちがう。抽象的な表現をすれば、ネット社会の“市場性”を持たないコンテンツにも価値があるのではないか、と思うのです。
ネット社会的な“市場性”を持たないコンテンツを読者に届けるにはどうしたらいいか。たどりついたのが「ネットではなくリアル書店に置く」という答えでした。
とはいえ、ご存じのとおり、ふつうの書店にZINEを置いてもらうのは現実的ではありません。ほんとうに全国の書店に自分のつくった本を置いてもらおうとするなら、たとえば出版社をみずから興すといった方法がありますが——それはそれで実現できればいいなと思える夢ではあるとしても——こと『Gyahun』に関していえば、そういうことがやりたいわけではありませんでした。
『Gyahun』が置かれるのは一般の書店というより、小洒落たカフェとか雑貨屋さんのイメージ。そんなイメージを実現する方法はないかと調べるうちに、「シェア型書店」に行き着きました。
〈猫の本棚〉を知った次の日に棚主になっていた
失礼ながら、このとき初めて〈猫の本棚〉の存在を知りました。もしかしたら、かつて〈猫の本棚〉を紹介する記事を目にしたかもしれませんが、自分事とは思わず、記憶には残っていませんでした。
〈猫の本棚〉の存在に行き着いたものの、「はたして『Gyahun』を置くべきだろうか」と迷いもありました。「とりあえず“偵察”に行ってみよう」と思ったのが木曜日。「いつ行く?」「来週?」「いや、明日(金曜日)とりあえずお店の様子を調べて、土日でじっくり考えよう」と自問自答し、翌日には神保町に向かっていました。
じつは神保町は私にとって“第二の故郷”と呼べるほどなじんだ街。神保町の予備校に通い、大学は神保町ではないものの、乗換駅ではあるので、しょっちゅう本を買ったりグルメをたのしんだりしていました。社会人になってからも、神保町の出版社に出入りし、あるいは出版社に常駐して仕事をしていた時期もあります。
“第二の故郷”と言いながら神保町は久しく訪れておらず、懐かしさを覚えながら〈猫の本棚〉に向かいました。
入り口が自動ドアだったことになぜか驚きつつ、店内に入りざっと〈棚〉を眺めると、予想していたことではありますが、すべての〈棚〉が埋まっています。「う〜む、これは〈棚主〉になるのは難しいかな……」と思いつつ、おもむろに「〈棚〉の空きはありますか?」とお尋ねしました。
「どんな本を置きたいの?」
私は〈棚〉の空きがあるかどうかだけをたしかめたかったので、「空きはありませんよ」「そのうちキャンセルが出るかも」などといった答えを予想していたのですが、置きたい本についていきなり聞かれたので、少し動揺してしまいました。
いまから考えると当然の質問で、迂闊でした。もっと迂闊だったのは、置きたい本すなわち『Gyahun』の現物を持参しなかったことです。しかたがないので「毎年ZINEをつくっていまして……」と必死に説明を始めました。
——ふと我に返ると、いつの間にか〈棚〉のレンタル料を支払い〈棚主〉になっていました。〈棚〉はすでに満杯でしたが、なんとか空けていただくことになったのです。
「『Gyahun』がどんな内容か、現物をご覧いただかずに契約してもいいのかな?」という考えが頭をよぎりましたが、すでに契約してしまっているので「僕の勝ちだ」と思いました(*)。
*〈猫の本棚〉さんの名誉のためにお断りしておくと、現物こそお見せできませんでしたが、「こんなこともあろうかと」、オフィシャル・サイトに「サンプル版」を用意してあったので、それをご覧いたいだいたうえで決めていただきました。けっして〈猫の本棚〉さんがいい加減な判断をされたわけではありません。念のため。
〈猫の本棚〉は読んでほしい人に読んでほしい本を紹介できる
〈猫の本棚〉に置かれているのは、〈棚主〉の「好きな本」であり「ほかの人にもぜひ読んでほしいと思う本」です。誤解を恐れずにいえば「ちゃんとした本」ばかり。やはり、そんな本屋さんに『Gyahun』を置いていいのだろうか、という葛藤もありました。
しかし、作り手として「〈猫の本棚〉に足を運んでくれるような人に、ぜひ読んでほしい」と思ったのです。本が好きで、神保町を探索していて、ふらっと〈猫の本棚〉に立ち寄り、ふと『Gyahun』を手にとって、「あ、これは自分が読むべきZINEだ」と感じてレジに持っていく。そんな出逢いを期待しています。もちろん、〈猫の本棚〉を訪れる人みんなが『Gyahun』に興味を持ってくれるわけではないでしょう。でも、「なんだこれ?」と手にとってくれる人、いや手にとらなくても「あれなんだ?」と目に留めてくれる人がひとりでもいるなら幸せではないか。そんなふうに考えています。
当初は、『Gyahun』を置くことだけしか頭にありませんでしたが(思いついた翌日にはお店に行っていたので)、シェア型書店の本来の趣旨にそって、私が「好きな本」「ほかの人にもぜひ読んでほしいと思う本」を並べるのもおもしろそうです。『Gyahun』でも本を紹介していたりするので、ZINEと連動させてもいいでしょう(そもそも『Gyahun』は「ぜひ読んでほしい・観てほしい・聞いてほしい作品を紹介する」のがコンセプトです)。
もともと無料で配布していたものに値段をつけて売るわけですが、それで収益を得ようとしているわけではありません。〈棚主〉さんのなかで本を売って儲けようとしている人はひとりもいないはずです。つまり、〈棚〉に本を並べることは、“経済性”とか“市場性”といったものとは別次元の価値を持った営みであり、『Gyahun』はそんな世界観のもとでつくられているZINEといえます。
〈猫の本棚〉を訪れるのは、多かれ少なかれ、自分と同じ感性・嗜好を持っている人たちでしょう。そんな人たちに自分の〈好き〉を見せることができるのは、シェア型書店の大きな魅力です。
「売り上げの3%相当を猫の保護活動に寄付」というのも私のココロをとらえました。
東京にお越しの際は、ぜひ神田神保町まで足を伸ばしていただき、〈猫の本棚〉のいろいろな〈棚〉を見てまわっていただければと思います。「え、こんな本あるの?」と、一般書店とはまたちがう出逢いがあるはずです。
〈ぎゃふん工房〉の棚は、お店を入って左手、真ん中あたりの列の最上段にあります(棚番号:67)。
〈猫の本棚〉はスタジオジブリの世界のお店かも
最後は「作品レビュー」らしく締めくくりましょう。
〈猫の本棚〉は今回はじめて知ったわけですが、一方で「どこかで見たことあるような気がする」という既視感もおぼえました。初めてのはずなのに、前にも訪れたことがあるような懐かしい感じ……。
家にもどって「あ!」と気づきました。スタジオジブリの映画『耳をすませば』に登場する雑貨屋〈地球屋〉を思い出させるのです。
「うちはそんなコンセプトではない!」と〈猫の本棚〉さんから怒られるかもしれませんが、『耳をすませば』では、主人公の月島雫が猫を追いかけるうちに〈地球屋〉へ誘われていきます。これは神保町を散策していた人が偶然〈猫の本棚〉に導かれていくのをイメージさせます。
そして、雫が〈地球屋〉で出逢うのは、猫の男爵・バロンです。
さらに、雫は本好きの少女であり、自分でも小説を執筆している。
〈猫の本棚〉と〈地球屋〉の奇妙な符合をあなたはどうとらえますか?(『猫の本棚』というタイトルのジブリ作品があっても不思議ではない)
考えてみると、本の聖地・神田神保町は、本を読む人の聖地であると同時に、本を書く人の聖地でもあります。すなわち、本をつくろうとする者、物語を書こうとする者は、すべからく月島雫であるべきだ、ともいえるわけです。
「中年男が女子中学生に自分を重ねるなんて気持ち悪い」とあなたは思うかもしれません。しかしながら、「世界でもっとも〈乙女〉なのは、おじさんである」というのもまた真実なのです。
そして——。
この真実を見出したのは私ではなく、映画評論家・映画監督の樋口尚文さんです。そう。〈猫の本棚〉のオーナーですね。
かつてこの真実についてX(Twitter)に投稿したことがあり、その投稿をリツイートしてくださったのが、樋口さんご本人だったのです。
「世界中の生き物で一番〈乙女〉なのは、おじさんですから」という映画評論家・樋口尚文氏の返しもよかった。
— 米田政行:Gyahun工房[ライター・編集者] (@GyahunKoubou) February 22, 2015
ぎゃふん工房が〈猫の本棚〉の棚主になることは、10年前から決まっていたのかもしれません。
猫の本棚
所在地●東京都千代田区西神田2-2-6-102
営業時間●毎週木~日曜日/14:30~19:30 (定休日:月火水)
*支払いはすべてクレジットカードもしくは電子マネーのキャッシュレス決済となります。現金でお買い物はできませんのでご注意ください。
『Gyahun』は1冊550円(税込)。オフィシャル・サイトでも販売していますので、遠方の方はこちらもぜひご利用ください。
オーナー・樋口さんが〈猫の本棚〉をオープンするまでの経緯がまとめられています。
© 1995 柊あおい/集英社・Studio Ghibli・NH
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