『ひぐらしブレイクアウト!』は、同人ゲーム『ひぐらしのなく頃に奉』のイメージソングを集めた、やはり同人CDだ。
制作したのは、本木咲黒氏・xaki(サキ)氏によるユニット〈Pomexgranate.〉。
じつは、当ブログは原作のゲームのことは名前ぐらいしか知らない。どんなキャラクターが登場し、どういう雰囲気を持った作品なのか。そのあたりのことはまったくわからない。
もちろん、原作ゲームをプレイしなければ、このCDの魅力を完全には堪能できないのだと思う。本来ならば、自分はお客さんではないわけだ。
それでも、ただただ楽曲の良さだけで、このCDを買ってしまった。音楽の元となる世界を知らないのだから、むしろ純粋な気持ちで楽曲に浸る。そんな聴き方があってもいいのではないか。そう思って、ここで取り上げる次第だ。
今回はメインの4曲をレビューしてみる。
なお、本作は同人CDであるから、いま入手できるのは「とらのあな」のみ。残部も僅少。この記事で興味を持たれた方は早めに行動してほしい。
[追記]残念ながら、この記事をアップした直後に売り切れてしまったようです。Pomexgranate.の別の作品を楽しむことにしましょう。
疲れたココロに直撃する「ひぐらしブレイクアウト!」
本作の白眉は、なんといっても、アルバムのタイトルにもなっている「ひぐらしブレイクアウト!」だ。
イントロから、いきなり全力疾走。昂揚感あふれる音の運びと、きらめく音色に、胸が高鳴るの感じる。
そして、ボーカルは“ザ・女の子”といった趣の萌え声。可愛らしさ満点だ。
弾けるようなメロディーと、生命力があふれる歌声に浸っているうちに、元気がわいてくる気がする。
──あれ?
軽い気持ちで再生したのだが、じつはちゃんと襟をただして聞かなければいけない曲なのではないか。歌詞に耳を傾けていると、なぜか、そんな焦燥感にとらわれていく。
──こ、これは、ただのキャラクターソングではない……?
その疑惑は、サビの部分で決定的となる。
ここにいるよ ここにいるよ
ここで歌声は一気に高みへと飛翔する。それを聴き、自分の中にあった膿のようなものが、外へ洗い流されていく。そんな感覚を抱く。
自分では気づかなかったが、そうとうココロが疲れていたのだ。だから、音楽が精神を直撃したのだ。
おっきなお花を咲かせましょう
ボクもキミもあなたも笑顔になるように
次々と紡ぎ出されていく〈詞〉は、もはや原作ゲームのキャラクターなり世界観なりを歌い上げるというよりも、人の心の中にある生きるための源泉。それを呼び覚ます働きをしている。
もちろん、〈詞〉をがなり立てるだけでは、われわれの心には届かない。ポップな音楽という衣(しかも、とてつもなく甘いそれ)に包まれているからこそ、自分のなかに取り込むことができるのだ。
演奏時間は5分。まさに超大作の貫禄を持った作品である。
……ここまで、長々と語りすぎた。音楽の魅力は言葉だけでは伝わらない。とにかく実際に聴いていただくしかない。他の3曲は駆け足で紹介していこう。
少年が歌う?「泡沫の童歌」
雰囲気はガラリと変わり、和風テイストで、おごそかな感じ……いや、宮廷で奏でられているような高貴さもある。どこかオリエンタルムードも漂う曲だ。
たぶんこの曲は、女性のキャラクターをイメージして書かれていると思われるが、歌声は少年のようにも聞こえる。歌っているのは「ひぐらしブレイクアウト!」と同一人物(咲黒氏)。「ひぐらし〜」とは180度違う声色に、最初は戸惑った。
都会の夜の匂い「廻る咎人たち」
3曲目は、どこか都会の夜の匂いがする、しっとりとした響き。しかも、歌声には艶やかさが加わっている。1〜2曲目では、まったく艶(つや)を感じさせなかった。咲黒氏は、曲に応じて“色気”を出したり引っ込めたりできるらしい。恐るべき表現力。
遊び心が炸裂する「ノツ木☆ぱれーど」
前に述べたとおり、「ひぐらしブレイクアウト!」は、萌え声のボーカル、ポップな曲調でありながら、超大作のたたずまいを持っていた。この「ノツ木☆ぱれーど」こそ、肩肘張らず楽しめる曲だ。なにより、xaki氏と咲黒氏たち自身が遊んでいる。まさに崇高なる悪ふざけ。最後のアドリブにも注目したい。
以上、曲調も歌声もまったく異なる4曲。通して聴いてもいいし、気分に合わせて1曲ずつ愉しむのもいい。
原作ゲーム『ひぐらしのなく頃に奉』を知る人はもちろんだが、むしろ知らない人にこそチェックしてほしいアルバムだ。
*ボーカルの本木咲黒さんは、私の小説のイメージソングを歌っていただいています。また、小説の数少ない読者様でもあります。
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