『翻訳がつくる日本語』で「女言葉」がよくわかるわ

映画

現代の日本で「○○だわ」「△△のよね」という話し方をする女性や、「やあ、●●かい?」「◎◎◎さ」のようにしゃべる男性は見かけません。

しかし、外国人が登場する洋画の字幕や吹き替え、スポーツ選手へのインタビューなど、「翻訳」の世界では当たり前のように使われています。

「○○だわ」「△△のよね」「やあ、●●かい?」「◎◎◎さ」というセリフを口にすると、それが日本語であるのにもかかわらず、その発言者は日本人ではないことを表すという不思議な現象が起こります。

なだぎ武と友近がやる「ディラン&キャサリン」が面白いのは、「日本語だけど話しているのは日本人ではない」はずなのに、それをやっぱり日本人がしゃべっているからなのです。

また、(とくに昔の映画で)白人は標準語なのに、黒人は変な方言を使っていたりします。

さらに、少女マンガなどでは、「あなた、○○○のかしら?」というと、“女言葉”なのに〈攻撃的〉になります。

それはなぜなのか? 背景にある文化的背景は? といったことを追究していくのがこの本の目的です。

〈日本語〉に興味がある人、洋画や外国の本が好きな人などはとくに興味を持って読めるはずです。

アニメのキャラクターはどうか?

ここからは、本書で述べられていることではなく、したがって蛇足になるのですが、アニメのキャラクターが「○○だわ」という話し方をすることがあります。

「あなたは死なないわ……私が守るもの」
(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』)

外国人のセリフの翻訳ではなく、攻撃性を表すものでもない。しかし、違和感はまったくありません。

では、アニメのキャラクターがみんなこんな話し方をするのかといえば、そうではない作品もたくさんあります。

このちがいはなんなのか? という点にも興味があります。

結論はまだ出ませんが、ひょっとしたら作品の〈虚構性〉に関係するのかな? などと思ったりします。

つまり、『ヱヴァ』は荒唐無稽なフィクションだけども、リアルな日常生活を描いたようなアニメの場合は、現実の女の子のように「○○だわ」とは話さないとか……(でも、これも例外がいくらでも見つかるので、正しいとは言えないか)。

自分の小説の主人公は「だわ」としゃべらない

さらに、付けたしというか、宣伝になってしまうのですが、自分の小説『天使の街』の登場人物は、「○○だわ」のようには話しません。

「盆おどりには行かないほうがいいってこと?」
「いや……それはいいと思うよ。ここの名物だし、想い出にはなると思う。でも、わたしの言いたいのは『気をつけて』ってこと」

しかし、その一方で──

「なにに気をつけるの? ひょっとして、私がナンパされちゃうとか思ってる? 言っとくけど、そんな軽い女じゃないわっ!」

と、「○○だわ」の話し方をする場面もあります。これはふだんこういう言葉遣いをしないからこそ、これがおどけた表現になるわけです。

この小説の登場人物が「○○だわ」と言わないのは、限りなく現実世界の若い女の子の口調に近づけたかったからですが、かといってリアルな話ではなく、やはりフィクション性の高い、つまり荒唐無稽な“ファンタジー”です。

この作品のキャラクターは日本人という設定ですが、これを外国人にすれば「○○だわ」がしっくりくるのかもしれません。

──と、こんなふうに、考えを膨らませて楽しめる良書といえるでしょう。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

関連記事

オススメ記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

好評シリーズ

最近の記事 おすすめ記事 特集記事
  1. 『このテープもってないですか?』の恐ろしさがあなたにわかりますか?

  2. [〈社会契約論〉に対抗する死刑否定論]〈死〉がわからないから死刑を科せない

  3. [死刑否定論者が構築する死刑肯定論]自分が裁くなら死刑は正しい

  4. 神田神保町〈猫の本棚〉で ぎゃふん工房のZINEを販売!

  5. 「世界を革命する力を!」という言葉はこれからの人生のキャッチフレーズだ

  6. 関連サイト

    人生を彩るオススメの〈アニソン〉をぎゃふん工房がレビュー!

  7. 私たちはいつのまにかまちがった考えかたを身につけていた

  8. 〈考える〉ことで新しい価値を見出せば自分の人生を救済する

  9. 『天使の街』10周年! サイトリニューアル&新作制作開始

  10. 哲学者・池田晶子先生から「人生を考えるヒント」をいただく

  11. 僕のつくるZINEがAIに乗っとられた日

  12. 関連サイト

    リトルマガジン(ZINE)『Gyahun(ぎゃふん)』好評発売中!

  1. アニメとは一味ちがう映像体験★アニソンのミュージックビデオ・セレクション

  2. 『天使の街』10周年! サイトリニューアル&新作制作開始

  3. 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の謎を本気で解明する[その1]何をいまさらなんだよっ!

  4. PR

    ぎゃふん工房のメルマガはいかがでしょう?

  5. 〈フェイクドキュメンタリーQ〉の「フェイク」は「ニセモノ」ではない

  6. とある20代女性は『天使の街』をこう読んだ

  1. 名作アニメがヒント! 知的になれない人の3つの生存戦略

  2. ゾンビ映画の初心者に贈る! いますぐ観たくなる名作10+α選[保存版]

  3. 人生に行き詰まった40代が観たい最新アニメ7選

  4. 関連サイト

    〈心霊ビデオ〉をぎゃふん工房が独自の視点で検証・考察!

  5. 日本のおすすめホラー映画をお探しのあなたへ最恐の15作[2019年改訂版]

  6. 万策尽きた40代がいま観るべき〈お仕事アニメ〉5選

TOP