『リング』『女優霊』の中田秀夫監督だから期待するなというほうが無理ってもんです。そりゃあ、『リング2』みたいな失敗作もありますよ。でも、「中田監督なら……」という思いは拭いきれないのです。
でも、やっぱりこの『クロユリ団地』は、『リング』『女優霊』の“傑作グループ”ではなく、『リング2』の“やっちまったグループ”だよなあ……。
主人公の心の闇を描くのはよいが……
伝統的な“心霊オカルト”の描写もありますが、モチーフになっているのは主人公の“心の闇”。主人公の心の揺らぎや不安感がそのまま観る者の恐怖へとつながっていきます。
もちろん、これ自体は決して悪いものではありません。
ただ、こういう手法は、よくあるとまではいかないまでも、珍しくないのもまた事実。『リング』『女優霊』の中田秀夫監督が今やることかな? という疑問がわいてくるのです。
「新感覚のホラーを見せてほしい」。これが観ている側の望みではないかと思うのです。残念ながらそれに応えていないところが本作品への評価を下げる理由です。
前田敦子の演技に注目
個人的にAKB48に注目し始めたのが、前田敦子が“卒業”する「ギンガムチェック」のころでした。だから、AKB48で前田のあっちゃんがどんな感じだったのか、あまりよく知りません。
「ギンガムチェック」のPVの冒頭にチラッと登場していて、そこで前田あっちゃんの演技(「あたし、やめさせてもらいます!」)は目撃しております。ただ、本格的な“女優”としての前田敦子を観るのは、この『クロユリ団地』がほぼ初めてだったのですが──。
これが(意外といっては失礼ながら)なかなかよいではありませんか。
「主人公の心の揺らぎや不安感がそのまま観る者の恐怖へとつながっていきます」と書きましたが、それを巧みに表現しています。主人公を演じる役者としては及第点をあげられるのではないでしょうか。
つまり、本作品は前田敦子の演技だけを見る映画といってよいでしょう。『貞子3D』における石原さとみと同じです。
中田秀夫は黒歴史、前田敦子には名刺代わり
余計なお世話ながら、中田秀夫監督にとってこの『クロユリ団地』は、いわゆる“黒歴史”になってしまうのではないでしょうか(「黒ユリ」だけに、なんてボケる気力すらありません)。
その一方で、前田あっちゃんにとっては、「こんなこともできますよ」と、この映画を名刺代わりに日本中を、いや世界をまわれると思います。
©2013「クロユリ団地」製作委員会
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