19世紀から24世紀の500年にわたり、6つのエピソードが展開する大作。みなさまの評価はおおむね高く、その理由も理解できるので、ひとにオススメはするのだが、個人的にはどうも気にくわない。
今回は、オススメする点と、不満が残るところを書いていこう。
[オススメ1]6つの物語を破綻なく展開させる語り口
6つのエピソードはひとつが完結したら次が始まるのではなく、同時並行に展開していく。こんなことをすれば頭が混乱するはずだ、ふつうなら。
しかし、本作はそんなことは起こらない。脚本と編集の完成度が異様に高いことがわかる。
しかも「観客に混乱させない」だけでなく、きちんと画面に釘づけにさせる。この手腕は見事としか言いようがない。
[オススメ2]時代の空気を再現する画面づくり
現在・過去・未来と、さまざまな時代の空気感をスクリーン内に再現している。相当な手間ひまをかけて制作されている。画面を見ているだけも楽しい。大作ならではの貫録たっぷりのたたずまいは魅力だ。
[気に入らない]仕掛けに必然性がない
ひとつの映画の中で6つのエピソードが展開するのはおもしろい試みではあるが、少し視点を変えると「だからどうしたの?」という冷めた思いも去来する。
本作品では、同じキャストがさまざまな役に扮している。これがひとつのウリというか注目ポイントになっていて、「え? これがそうなの?」とエンドクレジットで驚かされるものもある。こういう遊びは嫌いじゃない。嫌いじゃないけども、それが物語とリンクしていないことに不満を覚える。
いや、リンクしているという意見もあるかもしれない。同じ役者が演じている人物は、別のエピソード(時代)の生まれ変わりだ、と。しかし、エンドクレジットを見るまでわからないのは、本編を見ている最中にも人物同士のつながりがつかめないことを意味する。
異なる時代の人物が同じ名前だったり、小道具などに奇妙なつながりが見出せたりはするのだが、それが映画全体の仕掛けまで昇華されていない。
──いや、そんなのは別にいいだろ。
という考え方もある。大いなる実験作、野心作という見方もできよう。つまり究極的には好みの問題にすぎない。
だからこそ、あえて個人的な「好み」を言わせてもらえば、こういうタイプの映画は、やはり「なぜ6つのエピソードが同時並行に進むのか」という点に必然性が必要なのではないか。たとえば、『アイデンティティ』や『ステイ』のような大どんでん返しがラストにあるべきなのではないか。
そういうのを期待しなければ十分に楽しめることは間違いない。だから、くりかえすが好みの問題だ。ひとには勧めるが自分は物足りなさを感じてしまった、というのが本作品の感想になるわけだ。
コメント