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〈百年の編み手たち - 流動する日本の近現代美術 -〉は私たちに〈世界〉への向き合い方を示唆する
近現代美術を概観する企画展〈百年の編み手たち - 流動する日本の近現代美術 -〉が東京都現代美術館で開かれている(終了しました)。
当ブログは美術を専門的に学んだわけでも、またアートに造詣が深いわけでもないが、初心者だから見える、初心者にしか見えないものあるはず。そんな観点から会場で考えたことをメモしておこう。
近現代100年にわたる芸術家たちの活動を一挙に振り返る
本展覧会は、美術家たちを「編み手」としてとらえ、東京都現代美術館が所蔵する作品を中心に展示するものだ。キーワードは「編集」。作品制作をとおして、彼ら・彼女らはなにを「編集」してきたのか。それを探っていくのが趣旨だ。
会場は14の章で構成されている。ざっと概要を記しておこう。
「1章 はじまりとしての1914年」は、ヨーロッパ大戦のはじまった1914年を近現代美術の起点ととらえる。このコーナーではとくに、「編集」的な制作態度に自覚的であった作家を最初期の編み手として紹介していく。
「2章 震災の前と後」では、関東大震災の直後の美術活動に着目する。被害の大きかった地域を歩き記録を残した画家などの作品をとおして、当時の美術家たちの制作をひもといていく。
「3章 リアルのゆくえ」は、プロレタリア美術運動やシュルレアリスムによる活動に見られる現実の関わりかたを見ていく。美術家たちが社会状況をどのようにとらえていたのかを探る。
「4章 戦中と戦後」では、第二次大戦中や終戦後の体験に根ざした芸術活動をひもといていく。1950年代のオリンピック開催による都市の変貌、第五福竜丸の事件を主題とした作品などをとおして、芸術家たちの批判精神を読み解く。
「5章 アンフォルメルとの距離」では、アンフォルメル(不定形なもの)を主題とした作品を展示。抽象絵画の理論がその時代にどのように取り入れられていったのかを見ていく。
「6章 光を捉える」は、文字どおり〈光〉を主題とした作品に注目する。空間をどのようにとらえ、作品に取り込んでいったかを解明していく。
「7章 イメージを編む」では、コラージュをはじめとする多種多様な手法で展開する作品群を展示。1960〜1970年代に加速するこれらの手法はなにをもたらしたのか。
「8章 言葉と物による再編」は、芸術の役割をコトバに置き換えた試みを紹介。編み手は世界をどう認識していたのかを確認する。
「9章 地域資源の視覚化」は、人間と環境の関係に焦点をあてる。地域資源という観点から美術はどう見えるのか。
「10章 複合空間のあらわれ」では、作家たちの空間表現に着目。時間と空間、文化と歴史の流転をどうとらえていたかを探っていく。
「11章 日本と普遍」は、「国際化」「グローバリゼーション」がキーワードとなる時代に、編み手たちが日本とどう向き合ったのか。彼ら・彼女らの日本観の変遷を読み解く。
「12章 抵抗のためのいくつかの方法」では、国や歴史といった枠組みを解体し、要素を編み直す試みを眺めていく。世界と自分とのつなぎ直す作品を展示する。
「13章 仮置きの絵画」は、日本の伝統的絵画の文脈をとらえ直す作品に注目する。編み手たちが世界をどう構築したのか。
「14章 流動する現在」は、美術館の建つ〈木場〉の風景をモチーフとする作品を紹介。都市と美術館の関係性を読み解いていく。
どの作品も「編み手たちの〈世界〉に対する批評性」が鑑賞のポイント
本展覧会は3階から地下2階まで、おびただしい数の作品が展示されている。それぞれの作家や作品に明るくない美術の初心者としては、このボリュームはやや駆け足気味の観もある。ひとりの作家をフィーチャーした展覧会と異なり、受容すべき作品世界が多種多様なので、初心者は受けとめきれない。いや、ことによると美術にくわしい人でも手にあまる内容かもしれない。
ワンフロアごとにイスに座って(場合によってはトイレで顔を洗ったりして)頭を休めながら鑑賞していくべきだった。当ブログの反省点だ。
さて、本展覧会で見るべきポイントはどこか。個別の作品ではなく全体を総括した見どころをあらためて考えたい。
本展覧会のテーマは〈編集〉。編み手たちはなにを〈編集〉したのだろうか。当ブログの拙い美術的感性でまとめてみる。
乱暴にいえば、芸術家たる〈自分〉と、表現の対象となる〈世界〉との関係性——それを〈編集〉した、ということになるだろうか。
編み手たちは〈自分〉が受容した〈世界〉をそのまま作品に反映したのではなく、世界を〈編集〉したうえで作品化している。「彼ら・彼女らが〈世界〉をどうとらえたか」だけではなく、「〈世界〉をどのように〈編集〉したのか」も鑑賞のポイントになる。
〈編集〉はどんな基準で行なわれているか。いつの時代も基準は〈世界〉や社会状況に対する批評性だろう。直接的な告発のカタチをとっているものもあるが、必ずしもそう見えない作品もある。だが、つねに作品の底流には批評の精神がある。
それは、美術家ではない私たちが活動を行なう際にも求められる態度なのだと思う。仕事だろうと趣味であろうと、〈自分〉と〈世界〉(社会)の関係性を意識することは重要だ。
それぞれの作品を細かく解釈することは初心者にはハードルが高い。だが、編み手の制作態度に着目することは、それよりも容易だ。そうやって本展覧会を鑑賞していけば、得るものも大きいのではなかろうか。
企画展「百年の編み手たち - 流動する日本の近現代美術 -」
●開催日時……2019年3月29日(金)〜2019年6月16日(日) 10:00~18:00 月曜日休館
●会場……東京都現代美術館(東京都江東区)
●料金(当日券)……一般1,300円 大学・専門学校生・65歳以上900円 中高生600円 小学生以下 無料
●東京都現代美術館〈百年の編み手たち - 流動する日本の近現代美術 -〉ページ https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/weavers-of-worlds/
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