『ダイ・ハード<日本語吹替完全版>コレクターズ・ブルーレイBOX』を購入した。ひとつの映画で、野沢那智版、樋浦勉版、村野武範版の3バージョンが楽しめる。1粒で3度おいしいってやつだ。
野沢那智版は繰り返し観ているし、すでにレビューもしているので、今回は樋浦勉版を鑑賞し、野沢版との味わいの違いを探ってみよう。
[樋浦版1]マクレーンはヒーローではない
野沢氏は声優界のスーパースターだ。ブルース・ウィリスは本作で名を上げ、スターにのし上がっている。だからこそ野沢氏の吹き替えがハマる。
一方、樋浦氏は名優ではあるが、主役級ではない。ただし、本作の出演当時、ウィリスは無名だった。ヒーローじゃない。あくまで「いち警官が奮闘する」ところにこの映画のおもしろみがある。シュワちゃんや、スティーブン・セガールではないのだ。
そう考えると、じつは樋浦氏のほうがオーソドックスな配役であり、野沢氏の起用は変化球であることがわかる。
樋浦版は映画の制作者の意図にもっとも近い、プレーンなキャスティングといえる。
[樋浦版2]アル・パウエルはなぜデスクワークなのか?
マクレーンと対称をなすキャラクターで、本作のもうひとりの主人公ともいうべきアル・パウエル。野沢版は坂口芳貞氏、樋浦版は内海賢二氏が務めている。
坂口氏のアルに比べると、内海アルは荒々しい印象を受ける。
アルは過去に子どもを誤射してしまったために、今はデスクワークに就いている。坂口アルが「誠実さ」ゆえに過ちを犯してしまったのに対し、内海アルは「破天荒さ」ゆえに、閑職に追いやられてしまった。そんな過去が透けて見える。
おつりを寄付金箱に入れ、奥さんを大事にしようとしている男だから、坂口・内海いずれのアルもけっして悪い人ではない。でも、上記のような性質の違いはあるわけだ。
[樋浦版3]ホリーはお姫さま?
マクレーンの奥さん・ホリーは、野沢版が弥永和子氏、樋浦版は駒塚由衣氏だ。弥永氏が「気丈なキャリアウーマン」というイメージが強いのに対し、駒塚氏は「テロリストに捕らえられてしまった悲運な女」という印象を受ける。
ホリーの気の強さ(キャリア志向)はこの映画の重要なファクターであり伏線だ。一方で、「王子さま(夫)がお姫さま(妻)を助ける」という王道の物語でもある。
弥永氏が前者を、駒塚氏が後者に重きを置いた演技になっているわけだ。これも重要な観賞ポイントだ。
セリフが文学的?
野沢版に慣れ親しんだ者として、樋浦版の〈音声〉については新鮮さを感じたが、セリフにはやや違和感を覚えた。
付属の台本で文字を目で追う限りは、外国の小説を読んでいるようで問題はない。しかし、声優さんのしゃべるセリフとしてはなんとなく粘っこいというのか、直訳すぎるというのか……。
これは野沢版のほうのセリフを一字一句覚えるくらい繰り返し観ている、という個人的な特殊事情も関係しているかもしれない。ふつうの人はそんなことは微塵も思わないはず──という点は付記しておきたい。
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