『Stellar Blade』をプレイした9か月は10年に一度のゲーム体験

ゲーム

Stellar Blade(ステラブレード)』をクリアするのに9か月もかかってしまった。「なぜそんなに手こずった?」という問題は重要ではない。「なぜそこまで飽きずに遊べたのか?」。その答えを、ぼくはこの9か月を振り返って見つけることにした。

週に30分のプレイでは「三歩進んで 二歩さがる」

『Stellar Blade』をぼくは2025年の1月に購入し、10月にいちおうエンディングまでたどりついた。クリアまでに約9か月間かかったことになる。

なぜそれほどの時間を要したのか? その理由はカンタンだ。

まず、週に30分〜1時間ほどしかプレイできなかったこと。おもに毎週日曜日の夕方、ひととおり用事をすませたあと、夕食までのわずかな時間を使って遊ぶ。その習慣を9か月つづけた。

『Stellar Blade』はアクションゲームだ。それも、高度な反射神経や動体視力を求められるタイプ。カラダとアタマをならし、感覚をとりもどすだけでその週のプレイ時間がおわってしまう。「三歩進んで 二歩さがる」どころか「三歩進んで三歩さがる」結果になってしまうことも珍しくなかった。

「毎週日曜日の夕方」という時間帯もよくない。仕事は休みだが、家事やら何やらで意外とせわしなく活動しており、アタマが疲れている。『Stellar Blade』のプレイ中、傍目にはコントローラーをもつ手の指先が動いているだけだが、アタマはフル回転している——いや、フル回転させなければならないのだが、アタマは“死んでいる”。だから、プレイも遅々として進まない。そんな事情もあった。

そもそもゲーム好きとはいえ、50歳過ぎの“老兵ロートル”が手を出していい類のゲームではなかったのかもしれない、『Stellar Blade』は。それでも、凄腕のゲーマーであれば卒なくこなせただろうが、ぼくのアタマはポンコツなので、複雑な操作を要求されるゲームはもとより得意ではない。そこも“ハンディキャップ”となった。

ここまで極めて個人的な事情を述べてきたのは、べつに「9か月かかった」ことの言い訳をしたかったからではない。稚拙なプレイも他人に責められる所業ではあるまい。「なぜ9か月かかったのか」を問題にしたいのではなく、「なぜ9か月も飽きずにプレイしつづけられたのか」。その謎に迫るための布石を打ちたかったのだ。

死闘に倒れてもぼくは闘志を燃やす

世のなかには〈パレートの法則〉と呼ばれるものがあると小耳にはさんだ。「80:20の法則」とも言うらしい。「売上の8割は2割の顧客が生み出している」とか「収益の8割は2割の商品から得ている」といった例を挙げられるそうだ。

ぼくの『Stellar Blade』のプレイを〈パレートの法則〉で考えるなら、「プレイ時間の8割は2割の敵キャラクターとの戦闘に費やした」といえるだろう。実際に計測したわけではないので正確な数値ではないが、体感的にはあてはまる。

いまから振り返ってみると、『Stellar Blade』の序盤はともかく、終盤に登場する敵を1体倒すのに1か月ほどかかった。そんな感覚がある。おそらく1体の敵に100回以上バトルを挑んだのではないか。つまり100回敗北しながらも途中で挫折することなくプレイしつづけた。何度たおされようと不屈の精神で立ち上がったのだ。

なぜそこまで“傷つき”ながらも、闘志を燃やしつづけることができたのか? その答えに『Stellar Blade』の真髄が隠されている。

答えを言葉にするのはたやすい。「面白いから」。この一言に尽きる。

プレイキャラクターである〈イヴ〉は、巨大なブレードを手に敵を斬り刻んでいく。そのしなやかで洗練された立ち居振る舞いにプレイヤーは魅了されるとともに爽快感すなわち生理的な快楽をおぼえる。プレイヤーの実力がおよばず、たとえ敗北することになったとしても、それまで味わった「快楽」は帳消しにはならず、再びアクションの醍醐味を味わおうとコントローラーを握りつづける。

プレイヤーの意欲にかかわらず何度もゲームオーバーの憂き目を見る。しかしながら、少しずつではあるが着実にゲームは進展していく。敗北を喫したとしても、前回よりは敵にダメージを与えている。爪痕は残せている。武器が強くなかったからでもパラメーターを操作したからでもない。成長したからだ。それはプレイヤーの成長であると同時に〈イヴ〉の成長でもある。ゲームの仕様として用意されたパワーアップではないからこそ悦びは大きい。そこに「闘志を燃やしつづけることができた」理由がある。

課題がちょっとずつ解決していく、目標達成に徐々に近づいていく感じ。『Stellar Blade』のバトルは、仕事や日常生活ではなかなか味わえない至福の時間だ。

こんなふうに、『Stellar Blade』をプレイすることは人生における数少ない幸福な営みのひとつといえるのだが、一方で悲観的な真実もある。最後にその点に触れよう。

ぼくは『Stellar Blade』を十分に満喫したとはいえない

先に「プレイ時間の8割は2割の敵キャラクターとの戦闘に費やした」と述べた。つまり、9か月間という時間のほとんどは強敵とのバトルだった。戦闘に勝利することを最優先の課題としていたため、ストーリーはほとんど把握していない。ということは、本作の世界を十分に満喫したとはいえない。これはぼくにとって「悲観的な真実」だ。

ほかにもぼくたちプレイヤーを魅了する要素が『Stellar Blade』にはたくさんある。

たとえば、フィールドを探索する合間にちょっと耳を澄ましてみると、魅惑的な音楽が流れているのに気づく。モンスターのような存在がはびこる場所でけっして気を抜いてはいけない局面にも、癒し系(チル)のBGMが奏でられていたりする。そのミスマッチの妙。

いや、探索中だけではない。戦闘中の音楽も注目に値する。とくにクライマックスの強敵であり、まさに1か月も刃を交えた〈レイヴン〉のテーマ曲には度肝を抜かれた。緊張感が最大限に高まるなかでウィスパーボイスのボーカル、失敗の許されぬ重大な場面なのに肩透かしのような演奏。だが、そんなBGMがプレイヤーの心境にしっかりと合致する。

『Stellar Blade』の舞台はポストアポカリプスの世界とおぼしい。ヒトに襲いかかる敵を排除することを求められているのだから、けっして安住の地でないのはたしかだ。にもかかわらず、「この世界に留まっていたい」と思わせるほど魅力にあふれている。

本作の世界はプレイヤーの住む現実世界から見て“近未来”のような様相を呈している。ガジェット類は超文明のテクノロジーが使われている。洗練されたデザインは、そのままゲームとしてのUI(ユーザーインターフェイス)の卓越性にも通じ、最先端のアートに触れている感覚がプレイヤーを悦ばせる。

なによりもプレイキャラクター〈イヴ〉の美麗な容姿には目を見張るものがある。徹底的に醜く造形された敵キャラクターとは対照的に、〈イヴ〉は美のイデアを具現化したかのよう。どんな難局にも動揺することなく凛とした態度で臨む姿も美しい1

こういった『Stellar Blade』が紡ぎ出す世界にもっと積極的に浸るべきだったが、この9か月ではそれは叶わなかった。

近年、ぼくは傑作と評価できるゲームに数多く出会ってはいる。長年の経験から、ゲーム選びに失敗することはない。どんな作品なら自分は満足するかを熟知しているからだ。

数々の傑作をプレイしてきた自負はあっても、『Stellar Blade』のプレイは格別だった。ここ10年を振り返っても他に本作に匹敵するゲームは思い浮かばない。たとえ「十分に満喫したとはいえない」としてもだ。

そう、『Stellar Blade』をプレイした9か月間は10年に一度にあるかないかの至高のゲーム体験となったのだ。

©2024 SHIFT UP Corporation. All rights reserved. Published by Sony Interactive Entertainment Inc.

  1. 実際は「凛としている」のではなく「感情がない」のだと思われるが、プレイヤーの抱く印象という文脈では本質は変わらない。 ↩︎
ぎゃふん工房(米田政行)

瑞乃書房株式会社 代表取締役。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

関連記事

オススメ記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


ぎゃふん工房(米田政行)

〈ぎゃふん工房〉は瑞乃書房株式会社 代表取締役 米田政行のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

ポッドキャスト
最近の記事
おすすめ記事
  1. 『Stellar Blade』をプレイした9か月は10年に一度のゲーム体験

  2. 『ミンナのウタ』『あのコはだぁれ?』は〈呪怨〉みたいになれるか?

  3. 『白石晃士の決して送ってこないで下さい』は心霊現象じゃない場面のほうが怖い理由は?

  1. ゲーム実況姉妹がカフェを開いちゃった理由【インタビュー:鼻炎姉妹】

  2. 人生を彩る映画・小説・アニメのきらめきフレーズで癒やされる

  3. 『Stellar Blade』をプレイした9か月は10年に一度のゲーム体験

TOP
CLOSE