映画『TIME/タイム』日本語吹替版を平常心で見たらこうなった

意外にも重苦しい哲学的なテーマを提示する作品だった。

人類の成長は25歳で停止。以降は働くなどして「時間」を稼ぎ、寿命を延ばしていく。日用品なども「時間」で購入するため、「時間」はすなわち通貨だ。時間を「持つ者」は長生きし、「持たざる者」は短い生涯を送る──。

映画『TIME/タイム』はそんな世界の物語だ。しかし、この映画の注目ポイントは、独特の設定ではない。日本語吹替版の声優としてキャスティングされたAKB48の篠田麻里子氏だ。

が、ここではいったんその要素は棚上げし、まずは“平常心”で、映画そのものの魅力を探っていこう。

平常心で映画の魅力を探る

では、本作の映画としての魅力はどこにあるか。その点を見ていこう。

[平常心1]設定のユニークさと物語の滑り出しがいい

物語の冒頭、独特の設定が小気味よく紹介されていく。この世界の仕組みがすぐに理解できる。この滑り出しはうまい。

そして序盤では、主人公にとって大切な人物が時間切れで死を迎える。

当人にとってみれば過酷ではあるが、観ている側としては、これが物語を牽引するための魅力的な動機となっている。

[平常心2]お姫さまを奪い取るラブ・ストーリーが展開する

主人公はひとりの女と出会う。ふたりの間にはあまりに身分の差がありすぎる。通常なら恋物語は成り立たない。だから、主人公は奪う。強引な手段で。

このあたりは、a boy meets a girlの王道で、フィクションならではのドキドキ感が味わえる

[平常心3]「お金=時間=命」の哲学的テーマを提示する

この世界では、「お金=時間」であり、「時間=命」だ。したがって「お金=命」が成立する。

最初に「独特の設定」と表現したが、映画を観ているうちに、けっして「独特」ではないことに気づく。

そう。われわれも自らの「時間」をお金に買えて暮らしているのだ。

劇中では「避けられたはずの死」がいくつも提示される。「自分の寿命があらかじめわかっているのなら、もっと時間に余裕を持っていればいいのに」。映画を観ているときはそう考える。

しかし、映画の中の人たちを、私たちはわらえない。

なぜなら、私たちも本質的には同じような生活を、今まさに送っているからだ。

そこに思いをはせると、とてつもなく重い哲学的テーマをつきつけられてしまう

で、映画の出来栄えはどうなのか?

以上が、この映画の魅力だ。“腐ってもハリウッド映画”で、“箸にも棒にも掛からない”作品というわけではない。それなりに魅せる部分はある。

しかしながら、不満が残るのも事実。

その原因は、[平常心3]で述べたような哲学的テーマを内包しながら、物語としては「ラブ・ストーリー」にしてしまったことだ。

この映画の設定ならば、「持つ者」と「持たざる者」の異なる価値観を持った人物が出会い、衝突、そして和解していくような物語がふさわしいはずだ。

ところが、男と女の恋愛物語に矮小化してしまったために、哲学的部分がピンボケしてしまった。

本来ならば、ラブ・ロマンスではなく、ハリウッド映画の得意とする「バディフィルム」にすべきなのだ。

この映画には、主人公の前に立ちはだかる、時間の管理官(警察官のような存在)が登場する。このふたりの男の「バディフィルム」にすることが、ユニークな設定を活かす道だったのではないかと思う。

篠田氏じゃなければ誰がいい?

さて、篠田氏の出演が話題となった日本語吹替版の評価に移ろう。

といっても、これはみなさんの指摘どおりで、以前のブログでも指摘した『プロメテウス』と同じ愚を犯している

映画会社も観客も、そして篠田氏も誰も得をしないという事態。まさにルーズ・ルーズの関係。

じつをいうと、声質は悪くないと思う。けっこうヒロインには合っていると感じた。しかし、この映画のヒロインは、よい意味での「強引なストーリー展開」に説得力を持たせる重要な役だ。演技の素人にはあまりに荷が重かった。

ほかのキャストがよいだけに、よけいにこの欠点が目立つ。これも『プロメテウス』と同様だ。

じゃあ、誰がよかったのか。

日本の声優界が誇る豊富な人材の中では、適任者はゴマンといる。たとえば、この映画で主人公の母親役をやった魏涼子さんなどはどうだろう?(一人二役でもいいくらいだ) 最近はシブイ役どころが多いが、この映画のヒロインのように“じゃじゃ馬娘”にもぴったりの声優さんだ。

2時間の映画ではもったいない?

扱っているテーマが(制作者の)予想以上に大きすぎて、手に負えなかったのかもしれない。2時間の映画としての体裁を繕うには、やはりラブ・ストーリーに持っていくしかなかった。そんな想像も成り立つ。

だとすると、劇場映画ではなく、テレビドラマシリーズとして作品化するのも、ひとつの手だったのではないだろうか?

©Twentieth Century Fox Film Corporation

マヨ先生に見た目と性格のギャップ萌え!?【天使の街キャラクター紹介2】

近未来を舞台にした藤井太洋『UNDER GROUND MARKET』が描く世界は「今でしょ」

関連記事

  1. 『シュガー・ラッシュ』はゲーマー必見ってだけじゃ…

    人気ゲームの悪役ラルフが嫌われ役を演じることに嫌気がさし、自分のゲームから逃…

  2. 黒澤作品の脚本家・橋本忍『複眼の映像』から神映画…

    橋本忍といえば『羅生門』『生きる』『七人の侍』のシナリオを手がけている。そう…

  3. 『映画館のまわし者』で知った映写技師の意外な仕事…

    サブタイトルは「ある映写技術者のつぶやき」。『まわし者』は、映写機を「操作す…

  4. 『おおかみこどもの雨と雪』を独身・子なしの“負け…

    なんか“家族の絆”みたいなのを描いているらしいよ。え〜、独身で子どももいない…

  5. 映画『悪の教典』にあって原作小説にないものとは?…

    貴志祐介作品の原作はなかなか楽しめたが、その映画化だからといって、ふつうなら…

  6. 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解…

    とどのつまり「13番目の使徒に堕とされる」って、どういうことなのか?…

  7. 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』

    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の謎を本気で解明する…

    『エヴァ』の謎解きとは、すなわち設定や世界観を確認することだ。言うまでもなく…

  8. 『パシフィック・リム』の制作陣が“わかっていらっ…

    特撮怪獣モノやロボット・アニメに親しんだ者が『パシフィック・リム』を観ている…

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

このサイトは……?

映画・音楽・ゲーム・本など、いろいろなジャンルの作品をみなさんといっしょに楽しむ〈ネタバレなし〉ブログです。フリーランス・ライターのユニット〈Gyahun工房〉が趣味を全開にしてお届けしています。

おすすめの記事

  1. アイキャッチ画像のイメージ
  2. SCANDAL『HELLO-WORLD』のイメージ
PAGE TOP