近未来を舞台にした藤井太洋『UNDER GROUND MARKET』が描く世界は「今でしょ」

その名のとおり「地下経済」をテーマとしたSF小説。2018年という近未来を舞台にしていて、描かれているのはまさに「今」ではないかと錯覚する。そんなリアリティにあふれている。

電子書籍によるセルフ・パブリッシングの金字塔『Gene Mapper』。その作者・藤井太洋氏による書き下ろし第2弾を、僭越ながらレビューさせていただく。

[ここを読もう1]ストーリー展開のメリハリ

物語そのものは、30分程度で読める短編。『Gene Mapper』も良い意味でその短さが惜しまれたが、本作品はさらに短い。

しかしながら、きっちり起承転結、序破急がつけられている。SFにありがちな、へ理屈を並べるだけの頭でっかちな小説ではない。

このメリハリのあるストーリー展開が生理的快楽をもたらしてくれる。だから、物語世界に浸れる時間こそ短いが、読後の満足感は低くない。

[ここを読もう2]魅力的なキャラクター造形

あとで知ったことだが『Gene Mapper』の登場人物には女性がいない(主人公は女性であるとする説もある)。

『Gene Mapper』のキャラクター造形が魅力的でないわけではないが、本作には女性が登場するのが一歩前進と言えるかもしれない。これだけで作品が華やかになる。その他の人物の持ち味も引き立つ。

ま、女性といっても、相当な食わせ物らしい。作品では、あまり容姿に関する描写ないが、とてつもなく美形だと想像する。

そんな読み方ができるのも本作品の魅力だ。

[ここを読もう3]身近に迫る世界観

『Gene Mapper』も、現実と地続きの世界観が魅力だった。高度なテクノロジーに関する描写も、現実の感覚に照らし合わせてなんとなく理解できた。

本作品は2018年が舞台だから、さらにわれわれの住む世界に近い。

そして、今回はテクノロジーというよりも、〈経済〉や、それに関連する〈労働環境〉に“サイエンスフィクション”が加味されている。

来年には15パーセントにもなる消費税と源泉徴収はジジイとおっさん共が使い切る。逃げ切りを決めたつもりのバブルやロスジェネと沈むより、地下経済をアテに海の向こうからやってくる移民と競い、共に生きる方がいい。

この作品を読み進めると、自分が従来の経済システム(および労働システム)の下で暮らしていることに不安を覚えてくる。「このままではダメなのではないか」「早く何か手をうたなければならないのではないか」。そんな強迫観念が湧き上がってくる。

これも、作品の舞台・設定が「われわれの住む世界に近い」からこそ抱く感情だ。無邪気な空想を描くSFとは一線を画しているのだ。

そして、あらたな国家観へ

ここからは、余談めいたものになるが──。

個人的に興味のあるテーマとして、「国家と人々の関係の変化」がある。既成の〈国家観〉を捨て、新たな〈国家観〉を創成すべき。そんなことをしばしばブログでも述べてきた。

〈国家観〉と一口にいっても、壮大なテーマだ。抽象的すぎる。だから、具体的な検討課題に落とし込む必要がある。

この『UNDER GROUND MARKET』は、〈経済〉や〈労働〉への問題を提起する資料として、個人的には大いに参考になる。

「地下経済」は国家主権を脅かす。
ネット決済サービスはいかなる国家の監督下にもなく、そのためそれを介した取引は、結果的に国家の徴税権を回避できる。
平たく言えば税金逃れだが、金融機関ではなく、多数の国に分散設置された仮想サーバーを束ねて運用されているネット決済サービスは、その成り立ちから言っても、「領土、国民、主権」を3つの柱とする国民国家とは相性が悪い。
(巻末の林智彦氏[朝日新聞社デジタル事業本部]の解説より)

まさに藤井氏の次の作品が読みたくなってくる今日このごろ。そこでもやはり必然的に〈国家〉の未来像が描かれるに違いないからだ。

それと、この『UNDER GROUND MARKET』は朝日新聞出版からのリリースで、それ自体は問題ではないが、『Gene Mapper』はやはり自力で世に送り出したことに大きな卓越性があった。

だから、次回作はぜひセルフパブリッシングでの展開を期待したいところだ。

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