『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[解決編 その1]ゼーレは未来のゲンドウである

エヴァ考察

『エヴァ』の謎解きにぼくの落とし前をつけたい

シン・エヴァンゲリオン劇場版』および『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『破』『Q』の真実のひとつとして、下記をぼくはあなたに提示したい。

ゼーレは未来のゲンドウである

ただし、この真実に至るまでには長い長い考察の道をたどらなければならない。

考察の道を歩む過程で、あなたには〈イマジナリー世界〉と〈因果律の破れ〉という、ぼくが考え出した2つの理論を受けれ入れていただく。また、作品へ向き合うぼくの姿勢として〈シャシン主義〉と〈ファンクション考察法〉という考えかたにも同意していただく。

また、ぼくは2017年から『新劇場版』の謎の考察をおこなってきた。そこで独自の理論として〈メタフィクション(仮想現実)〉説を提唱した。2021年に『シン・エヴァ』が公開される前だから、この説にはもちろん問題点がある。だから、『シン・エヴァ』をふまえて、〈メタフィクション(仮想現実)〉説の修正も試みるつもりだ(議論を先出しするなら、ぼくの説を修正・発展させたものが〈イマジナリー世界〉説になる)。

そこまで回り道をして、やっと「ゼーレは未来のゲンドウである」という真実、および『シン・エヴァ』の謎の数々が解けるようになるのだ。そうやって、2017年から続けてきた『序』『破』『Q』と『シン・エヴァ』の謎の考察に「僕の落とし前をつけたい」

今回の記事の概要を説明しておこう。

まず、〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉という理論によって、『シン・エヴァ』のどんな謎が解けるのかを紹介する。次に、〈シャシン主義〉や〈ファンクション考察法〉など、今回の謎解きに必要な前提条件について説明する。

したがって、本格的に謎の考察をおこなうのは次回以降となる。興味がなければ今回はスルーしていただいてもかまわない。あるいは、次回以降の記事を読みながら適宜こちらの記事に立ち返っていただいてもいい。読みかたはあなたの自由だ。

ここでちょっと余談を。

ぼくの『エヴァ』考察は複数の記事で構成されている。これまでは、すべての記事を書き終え、綿密なチェックを経てから公開するようにしていた。しかし、記事の文字数が5万字以上にもおよび、今回もおなじようなやりかたをしてしまうと、いつまで経っても公開できない恐れがある。いまの世のなか何があるかわからない。明日、寿命が尽きる可能性だってある。

そこで、あるていど内容がまとまった段階で記事をアップしていくことにした。後々、記述に矛盾が生じたり、考えが変わったりする可能性も大いにあるが、その場合は過去にさかのぼって修正していく方法を選びたい。修正が入った場合はその旨を告知するつもりだが、網羅的におこなうのは難しいかもしれない。その点、ご了承いただきたい。

ちなみに、「記事の内容が確定しない」。これは『序』『破』『Q』および『シン・エヴァ』の時間観・世界観ともいうべきものに整合している点も付記しておこう。


凡例

  • 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、必要に応じて『序』『破』『Q』『シン・エヴァ』と表記する。
  • 『序』『破』『Q』『シン・エヴァ』の4作をまとめて『新劇場版』と表記する。とくに断わりのないかぎり、『新劇場版』に『シン・エヴァ』が含まれる。
  • 1995年にテレビ放映された『新世紀エヴァンゲリオン』と、1997年に劇場公開された『THE END OF EVANGELION(Air/まごころを、君に)』の2作をまとめて、便宜上『旧劇場版』と表記する。『旧劇場版』にはビデオフォーマット版なども含まれる。なお、『旧劇場版』には描写等に微妙な差異のある複数のバージョンが存在するが、特別な事情がないかぎり、それらの差異は考慮しない。
  • 『新劇場版』で展開する物語や設定を総称して『エヴァ』と表記する(例:『エヴァ』の物語、『エヴァ』考察)。とくに断わりがないかぎり、『旧劇場版』も含まれることが示唆される。ただし、本ブログは『新劇場版』と『旧劇場版』とで物語や世界がつながっているという見解を支持しない。
  • 二重カギカッコを用いた『エヴァンゲリオン』または『エヴァ』は作品名を示す。ヤマカッコを用いた〈エヴァンゲリオン〉または〈エヴァ〉は劇中に登場する機体を指す。
  • 劇中の固有名詞や当ブログで特別な意味を持たせている単語をヤマカッコ〈 〉でくくる。

新理論で『シン・エヴァ』のどんな謎が解けるのか

今回の考察のハイライト(予告編)として、ぼくが提唱する〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉によって、『シン・エヴァ』のどのような謎が解明できるのか、おもなものを紹介していこう。

アスカのオリジナルとは何者なのか?

『シン・エヴァ』には、式波=アスカ=ラングレーが「私のオリジナルか」と称する人物が現れる。『序』『破』『Q』には一切登場せず、『シン・エヴァ』本編においても、この人物が映し出されるのはこのシーンだけである。

最後のエヴァは神と同じ姿。
あなたも愛とともに私を受け入れるだけ

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

はて、この人物はいったい何者なのか? アスカとはどういう関係なのか? それまでどこにいて、なんのためにいまになって出てきたのか? 

もはや『シン・エヴァ』を制作している最中に思いついた後付けの設定としか思えない。

とにもかくにも謎だらけのキャラクターだが、〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉で説明がつけられる。論点を先取りするなら、まさに「アスカのオリジナル」とやらは「後付け」、つまりこのとき・この場面で生まれた存在なのだ。

では、彼女が残した一言一句まるごと意味不明なセリフはどうか? ここであらかじめお断りしておくと、このセリフの謎を〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉で解くことはできない。

しかしながら、新理論の説明をする過程で、なんとか解明を試みるつもりだ。

ユイの「いた」場所とは?

マイナス宇宙〉と呼ばれる空間で、碇ゲンドウと碇シンジは〈ゴルゴダオブジェクト〉と称される建造物へたどりつく。そこでゲンドウは語る。

私の妻、おまえの母もここにいた

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

ここで違和感をおぼえるのはぼくだけではないはずだ。ゲンドウは「私の妻、おまえの母」すなわち碇ユイがかつて「ここにいた」と言う。それまでの描写をふまえると、この場所へ人類がたどりついたのは初めだとおぼしいのに、「いた」とは何事か!? ユイは過去に〈ゴルゴダオブジェクト〉にたどりついていた、とでも言うのだろうか。人類がここに到達することこそがゲンドウの計画ではなかったのか!? 『新劇場版』の物語がまるごと空虚なものにならないだろうか?

この謎は『シン・エヴァ』全編を観ても解決されない(説明されない)。ユイが〈ゴルゴダオブジェクト〉に「いた」という描写は『新劇場版』のどこを探しても見当たらない。

ゲンドウの発言の意味、そしてユイの正体もやはり〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉で解釈可能だ。

結論を少し先取りするなら、「いた」のような時制を表す表現は『新劇場版』では無意味であり、“過去”にユイが「いた」わけではない。さらに、この“時点”ではユイという人物は存在すらしていないのだ。

〈ネオンジェネシス〉で世界はどうなったのか?

物語の終盤、綾波レイと再会したシンジは語る。

僕もエヴァに乗らない生き方を選ぶよ。
時間も世界も戻さない。
ただ“エヴァが無くてもいい世界”に書き換えるだけだ

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

それに対しレイはこう答える。

世界の新たな創生、ネオンジェネシス

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

そのあと「さようなら、すべてのエヴァンゲリオン」となり、最終的に大人になったとおぼしきシンジが、真希波=マリ=イラストリアスと駅で会話を交わして物語が終わる。

ネオンジェネシス〉そのものはぼくたちにもなじみのある言葉であるが*1、いったいなにが起こって、その結果どうなったか、にわかには理解できない。

結論を簡単に述べるなら、「〈因果律の破れ〉た世界から〈因果律の成立〉する世界になった」と解釈することで、一連のシーンをすんなり受け入れられる。

*1:テレビ放映版『新世紀エヴァンゲリオン』のラテン文字表記「Neon Genesis」をカタカナで読んだもの。

〈エヴァンゲリオンイマジナリー〉とはなんだったのか?

〈マイナス宇宙〉における一悶着のあと、ゲンドウはシンジに〈エヴァンゲリオンイマジナリー〉と称する存在を見せる。

エヴァンゲリオンイマジナリー。
葛城博士が予測した現世には存在しない想像上の、架空のエヴァだ。
虚構と現実を等しく信じる生き物、人類だけが認知できる

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

そして、〈エヴァンゲリオンイマジナリー〉は「絶対、変!」と北上ミドリに評されるモノに変化し、〈アディショナルインパクト〉が始まる。

〈エヴァンゲリオンイマジナリー〉は『旧劇場版』には登場しないこともあり、鑑賞者のほとんど(全員?)にとって理解不能なシロモノだ。

理解できない理由のひとつと思われるのは、〈虚構〉と〈現実〉の描かれかたが、『新劇場版』と『旧劇場版』とで異なっているからだ。そのことに『シン・エヴァ』を観るまでぼくは気づかずに〈メタフィクション(仮想現実)〉説を構築してしまった。だから修正する必要が生じた。修正した理論が〈イマジナリー世界〉というわけだ。

ちなみに、「イマジナリー」は、虚数(イマジナリーナンバー)を連想していただくと理解の助けになる。このあたりは後ほどくわしく考察していく予定だ。

〈神殺し〉はなにをどうすることなのか?

〈ネオンジェネシス〉が進行するなか、母親のユイと会ったシンジはなにかを悟る。

やっとわかった
父さんは母さんを見送りたかったんだね
それが父さんの願った
神殺し

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

神殺し〉とは、『Q』で初めて登場した用語で、その意味は明確ではない。

シンジは「それが父さんの願った神殺し」と言っていることから、ここで表現されているのはあくまでゲンドウの〈神殺し〉であって、ほかの人(たとえば葛城ミサト)の考えているものとは異なっていることが示唆されているが、元の〈神殺し〉の意味がわからないため、ゲンドウとほかの人とでどう異なるのかは不明だ。

icon-arrow-circle-down 『Q』の序盤、ミサトは赤木リツコに対し、無茶な命令の申し開きをする。

神殺しの力
見極めるだけよ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

〈神殺し〉は〈ネオンジネシス〉と同様に、〈因果律の破れ〉を修復することだとぼくは考えているが、詳細はのちの考察に譲ろう。

結局〈ネブカドネザル〉はどんな働きをしたのか?

ネブカドネザル〉についてぼくは過去の考察で、仮想世界の上位にある現実世界(神の世界)に行くためのキーアイテムだと述べた。映画『マトリックス』では、現実世界と仮想世界をつなぐアイテム(ホバークラフト)に「ネブカドネザル」の名がつけられていた。

『シン・エヴァ』では、「碇ゲンドウ、ネブカドネザルの鍵を使い、臨んでヒトを捨てたか」とミサトに喝破され、その後、〈マイナス宇宙〉へと向かっていくから、ぼくの考察は的を射ていたと言っていいだろう。

この世の理を超えた情報を、自分の身体に書き加えただけだ。
問題はない

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
©カラー

とはいうものの、〈ネブカドネザルの鍵〉が〈マイナス宇宙〉へ行くためのキーアイテムであることはほぼ間違いないとして、どんな働きをしているのかは直接的には描写されていない。つまり、人知の及ばぬ、ものすごい機能を持ったアイテムであるはずなのに、その効果としては、ゲンドウの顔が剣呑な感じになっていることと、銃で頭を吹っ飛ばされても死なないことぐらいしか劇中では描かれていないのだ(あとは宙に浮かべるようになるとか)。そのため、鑑賞者の印象に残らず観ている間にその存在を忘れてしまう。

これでは、“重要アイテム感”が足りない。

ぼくは〈ネブカドネザルの鍵〉こそが〈因果律の破れ〉をもたらしたと考えている。つまり、ぼくの理論の根幹をなすアイテムなのだ。この点もあとで考察していこう。

なぜ「空白の14年間」が生まれたのか?

『シン・エヴァ』のシーンではないが、ぼくの理論の特長を説明するのに有益なので、ここで紹介しておく。

『破』から『Q』にいたるまで、物語には14年間の空白がある。また『破』の最後に『Q』の予告が流れるが、そこで示されるカットは本編には登場しない。あなたもよくご存じのとおりだ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

なぜこのような事態になってしまったのか? 「制作上(演出)の都合」というのが一般的な理解で、ぼくも過去にはそう考えていた。

しかし、〈イマジナリー世界〉+〈因果律の破れ〉を適用すると、物語の外側にある制作上の都合ではなく、物語の内側つまり『エヴァ』の世界観(世界の成り立ち/ありよう)として解釈が可能になる。

ずばり、『破』と『Q』との間に「空白」の時間などない、と考えられるのだ。

また、『エヴァ』の考察をおこなっている人たちは、これらの予告のカットこそが「空白の14年間」で起こったことだとして、それを前提に謎解きをしていたりする。

でも、今回ぼくが提唱する説では「『Q』の予告で示されたカットは「空白の14年間」で起こったことではない」と解釈する。言いかたを変えれば、「起こったことではない」からこそ本編に出てこない、といえるのだ。


以上、ぼくの新理論を適用することで解決できるおもな謎を紹介した。あなたの好奇心を高めることになっていれば幸いだ。

つづけて、ぼくが今回の謎解きにあたって決めた、自分なりのルールについて語ろう。

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ぎゃふん工房(米田政行)

瑞乃書房株式会社 代表取締役。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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〈ぎゃふん工房〉は瑞乃書房株式会社 代表取締役 米田政行のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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