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『ZARD MUSIC VIDEO COLLECTION』はこの世とあの世を結ぶ何か

音楽

ZARD MUSIC VIDEO COLLECTION』は、ZARDのミュージックビデオを4枚のディスクに収録したコレクターズ・アイテムです(特典映像ディスクも入った全5枚組の商品)。

ZARDが活躍した時代には、YouTubeなどの動画配信サービスは始まっておらず、いまのように自由にミュージックビデオを見ることはできませんでした。

ですから、本作はじつに貴重な逸品であるわけです。

どんな魅力があるか、探っていきましょう。

坂井泉水が動く

ZARDは、全盛期でさえも特にメディアへの露出が少なかったユニットです。テレビ番組で楽曲が紹介されるときも、静止画をコラージュしたような映像ばかりが流れていました。放映時間も短い。そもそも動いている坂井泉水を見たことがほとんどなかったのです。

ですから、本作によって動画として坂井泉水を見られる。それだけでも、高い付加価値があるといえます。

ほとんどがオフショット

ZARDの楽曲はメジャーなものばかりですが、そのミュージックビデオとなるとほとんど記憶にありません。サビの部分には見覚えのある映像がチラホラ見受けられますが、そこだけがテレビでくりかえし流されていたのですから、これは当然といえば当然です。

で、あらためてじっくり本作の世界に浸ってみると──。

ミュージックビデオというよりは、ほとんどが坂井泉水のオフショットなのですね。映像作品として凝ったものではありません。

スタジオで録音しているか、どこかの街を歩いているか、ステージで歌っているか。ほとんどがそのいずれかのパターンです。

言ってみれば、坂井泉水のイメージビデオのようなものです。

天国にいるのは彼女? 私?

本作をビデオクリップ集として観ると、やや違和感を覚えます。先に述べたオフショットばかりであることに加えて、曲と曲がほぼ途切れなく続き、タイトルは表示されません。映像や楽曲を楽しむというよりは、エンドレスで坂井泉水の姿を眺めていることになります。

これは、ふつうのビデオクリップを鑑賞するのとは、まったく異なる映像体験です。

なんでしょう? この特異な感覚は?

そもそも坂井泉水は〈永遠〉に歳をとらず、外見はずっとこのままです。実世界ならあり得ません。自分の部屋で本作を鑑賞するならば、なじみのある部屋なのにそこは尋常でない空間へと変わります。

天国。そう。強いて言えば、本作を観ることは、天国に自分の身をおくこと。天国にいる坂井泉水と空間を共有することなのです。

坂井泉水は永遠の世界に

坂井泉水が天国に旅立った年齢。いつのまにかその年齢を私は追い越してしまいました。でも、私にとって坂井泉水は〈永遠〉に“となりのお姉さん”であり続けます。

そういえば、ZARDには「永遠」という名曲があります。

君と僕との間に 永遠は見えるのかな
この門をくぐり抜けると
安らかなその腕にたどりつける また夢を見る日まで

「君」はDVDを観る私たち、「僕」が坂井泉水のこと。「また夢を見る日まで」とは、ズバリDVDを再び再生する日までの意だと考えられます。

いつでも好きなときに映像を観ることができ、そこに映る彼女は「永遠」に歳をとらない。

映像を眺めるうちに湧き上がる多幸感は、まさに坂井泉水の「安らかなその腕」に触れているかのよう。

この『ZARD MUSIC VIDEO COLLECTION』は、この世とあの世を結ぶ「門」の役目を果たしている。そう思えるのです。

赤根夕樹

赤根夕樹

ミュージックビデオ評論家(自称)。このサイトでは音楽系のレビューを担当。洋楽・邦楽・アニソンと、さまざまなジャンルの音楽をつまみ食いしている。名前の由来は夜見野レイの小説『天使のしるし』の主人公・赤根夕子から。

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ぎゃふん工房(米田政行)

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