セルフ・パブリッシングの電子書籍である藤井太洋『Gene Mapper -core-』が、紙の本『Gene Mapper -full build-』(ハヤカワ文庫)としてリリースされた。
ほぼ全面的に改稿されているものの、基本的なテーマやストーリー展開は同じ。作品そのものの魅力はすでに述べているので、今回はあくまで、電子書籍と紙の本における読後感の違いのようなものを探ってみる。
個人的にセルフ・パブリッシングを目指す者として、電子書籍・紙の本それぞれの特性を知っておくことは重要だと思うからだ。
紙の本は電子書籍に比べて〈虚構性〉が高い
電子書籍版『Gene Mapper -core-』は、未来のテクノロジーを操る主人公と、最新デバイスで読書をする自分自身とが奇妙にシンクロする感覚があった。一方、紙の本『Gene Mapper -full build-』は、そこに一枚フィルターがかかっているように感じる。
電子書籍と紙の本を比べると、視覚でいえば「ビデオカメラ」と「フィルムカメラ」の映像、聴覚的には「コンサートの生演奏」と「CD」の音、食感として「刺身」と「焼き魚」、といった味わいの違いがあるように思う。
つまり素材を生のまま体に流し込むか、加工品としてかみ砕くか、の違いといえる。
この相違点によって、紙の本のほうが電子書籍に比べて、物語の〈虚構性〉が高まるといえる。
〈虚構性〉が高まることで得られる新たな魅力
電子書籍版で気づかなかっただけかもしれないが、紙の本では、ユーモラスなアクションの描写が目を引く。黒川さんの「ジャパニーズ・サラリーマン」、キタムラの「犬」の挙動など、映像化したら笑いを誘いそうだ。
また、新たな登場人物も追加され、終盤のストーリー展開もよりドラマチックになっている。
電子書籍であれば、ひょっとしたら白けてしまったかもしれない劇的な展開がうまく効いている。
これは一枚ファイルターがかかり〈虚構性〉が高まったことによる効果とも考えられる。
とはいえ、ハヤカワ文庫として出版する際に、文章をその方向で直したということであって、電子書籍と紙の本の違いではないのもしれない。
五感に訴える描写が強化
電子書籍版と紙の本の描写を比較してみると、たとえば冒頭、黒川さんに起こされ“二度寝”をするシーンでは、主人公の皮膚感覚を読者が共有できるよう書き直されている。
ほかにコーヒーの味や匂いなど、バーチャル・リアリティを扱った作品だからこそ、五感に訴える描写が際立つ。そのあたりが改稿のポイントだったのかもしれない。
五感に訴える表現は、紙の本のほうが得意ということだろうか(その逆というイメージもあるが)。
映像化も期待できる?
『Gene Mapper』の視覚に訴える描写は、読み手の創造力をかき立てると同時に、「映像で見てみたい」という強い欲求も生じさせる。一昔前なら難しかったかもしれないが、今の技術なら映像化も可能なのではないか。
『アバター』なんかより、3D映画という表現をもっと生かせるのではないか。そんな可能性を秘めている作品だと思う。
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