もしも日野瑛太郎『脱社畜の働き方』を自分の部下が読んできたら?

日野瑛太郎『脱社畜の働き方〜会社に人生を支配されない34の思考法』 を読んだ。「脱社畜ブログ」の書籍化だ(電子書籍も同時発売)。

人気ブログのエントリーをまとめたものであり、なおかつそこに出版社の編集者の手が入っているから、非常に読みやすくおもしろい。本の中で述べられている内容にもほとんど同意でき、自信をもっておすすめできる。

本来ならここでレビューを終わらせてもいい。でも、それではなにか寂しい。

内容に文句はない。ないが、ビジネスパーソンで、この本を手にとる人は、多かれ少なかれ「脱社畜」の精神を身につけているとも言える。しかし、学生とか新入社員のなかには、誤解する人がいるのではないか。そんな危惧がある。

もしもこの本を自分の部下が読んできたら? そして、勘違いをしていたとしたら、どう説得する?

今回は、この本に対する直接的なレビューというよりも、この本をダシにした持論を展開してみよう。

まずは服従。それから破壊せよ

「きつい仕事は嫌だ」「残業なんかお断り」「もっとラクして儲けたい」。そんな最近の若者の労働観(と言われるもの)。それに対して「甘ったれるな!」と一喝──したいわけじゃない。いまは高度経済成長の時代ではない。これまでとは労働環境は一変している。だから、新たな労働観を身につける必要がある。ある一定の年齢以上の人間には「軟弱」にしか思えない価値観であっても、じつは正しいということも十分にあり得る。

とはいえ、「時代に合った新しい労働観」と「膨れ上がった自分本位」とを区別するのは容易ではない。〈石の上にも3年〉という言葉があるとおり、やはり一定の期間は、不条理、理不尽、苦痛、侮辱に耐える必要があるのではないか。

これに関して、思い出す言葉がある。われらが利根川幸雄先生が放ったセリフだ。

Kaizi vol6

居丈高になるのは決定してから‥‥‥‥
途中経過 過程においては徹頭徹尾 頭を垂れ服従を装った方が利口
でないと目を付けられ酷い目に遭うかも‥‥
こんなことは‥‥‥世渡りの基本も基本
大原則だ‥‥!
違うかい‥‥?

(福本伸行『賭博黙示録カイジ』第6巻/講談社)

右も左もわからない段階で「ブラック」だの「自分に合わない」などと軽々に決めつけるのは得策ではない。これは「上司」でも「経営者」の視点でもない。あくまでいち労働者としてのアドバイスだ。

次に述べるように「自分を変える」「世界を変える」ためには、仕事を通してさまざまな能力を身につける必要がある。それには時間がかかる。

仕事を覚え、チームのリーダー、部署の責任者に上りつめれば、裁量も大きくなり、自分の思い通りになる部分も増えていく。その精神こそが「社畜」だと思うかもしれない。しかし、その段階になれば、会社に辞表を叩きつけ、フリーとして独立することも可能──というか、それくらいの心がまえでいなければならない。

だから、まずは徹底的に服従せよ。搾取され、陵辱されよ。アンシャンレジューム(古い価値観・制度)を破壊するのは、自分が主導権を握ってからでも遅くない。

そして自分を変えよ

だれにでも不満はある。となりの座席に座った男のイヤホンから漏れてくる音がうるさいという“些細なこと”から、安倍政権はなっとらんといった“大きなもの”まで、われわれはイライラを募らせている。

しかし、まずは自分を変えることで、ほとんどの問題は解消することができる。もしかすると、『脱社畜の働き方』でいうところの「精神的脱社畜」に通じるかもしれない。

なにごとも深く考えず、ケセラセラと、楽しいことばかり紡いで生きていれば、不満はたまらない──ここで述べたいのはそんな精神論ではない。

『脱社畜の働き方』でも一定のページを割いて説明されているように、それなりの〈仕事術〉を身につけることだ。そもそも残業になってしまうのはなぜか。休日出勤するハメになってしまうのはどうしてなのか。会社の人員配置が悪いのか。上司が無能だからなのか。

もちろん、自分以外に原因が存在することもある。しかし、自分自身のスキルを上げることで、残業や休日出勤を回避することも、ある程度は可能なのだ。そうすれば、時間と心に余裕ができる。自分の置かれている環境にも寛容になれる。

まずは自分の足元を固める。それこそが「脱社畜」の第1ステップであると考える。

同時に世界を変えよ

当然ながら、自分を変えるだけではダメだ。だから世界も同時に変える。〈自分〉と〈世界〉の両輪で人生をまわしていこう。

では「世界を変える」とはどういうことか。

まずは、「転職」「独立」といったことがある。これは『脱社畜の働き方』のいう「経済的脱社畜」に対応するかもしれない(イコールではないが)。

しかし、今の職場に居続けるとしたら、その「会社」以外に、複数の居場所を作る、という点も重要だ。とにかくいま務めている「会社」を絶対視せず(「精神的脱社畜」を図り)、精神面だけでなく、実際に自分の環境を整える。この本では一例として「プライベート・プロジェクト」を挙げている。ほかにも「(ただの浪費としての)趣味」であってもいいし、「ボランティア」でもいい。

さらに、会社や社会そのものを変えることも意識する。ステータスが上がっていけば、チームや部署、ひいては会社そのものを変えていくことができるだろう(だからこそ〈石の上にも3年〉なのだ。実際は3年では足りないだろうが)。

また社会は、〈政治〉という“利益実現チャンネル”を使って変えていく。とはいえ、昨今は一部の政治家の私物、政争の具と化してしまって、機能不全に陥っている観もある。なお〈政治〉は、〈国家〉だけでなく、それより小さい〈地方自治体〉、国家より大きい〈国際機関〉も存在する。これらを“チャンネル”として利用することも可能だ。これらについては、別の機会に述べてみたい。

じつは著者は「脱」社畜していない!?

もし、自分の部下がこの本を読み、間違った方向に感化されていたら? 自分なら上記の3点をアドバイスするだろう。

ここからは蛇足だ。じつはこの本の著者は雇われの身となったのは2年ぐらいで、その間も「社畜」だったわけではない。だから、社畜から「脱」したわけではない──というのは、ただの揚げ足とりだが、言いたいのは、やはり「どっかで聞いたような頭でっかちの考え」であることは否めない、ということだ。

この本に書いてあることは正論だ。それだけに、実践が難しい。なんとなく今の会社というもののあり方がおかしいと薄々感じている人が手に取り、大きくうなずき共感するための本だ。

もちろん、そのことがこの本の価値を下げるわけではない。ただ「若いもんが何を意気がっているんだ」と批判する人もいるだろう。そういう人に対して、対抗する力を持たない。そこが惜しい気がする。

もし、この本の続編が書かれるならば、実践的なこと(たとえば上でも触れた〈仕事術〉みたいなこと)を中心にするのがよかろう。

──と思ったが、「そこまでいうならテメエが書けばいいじゃねえか」という心の声が聞こえてきた。

おっと、これはブログアクセスアップの予感、ビッグビジネスのチャンスかも……!?

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