『遊星からの物体X ファーストコンタクト』はじわじわこない

ジョン・カーペンター版『遊星からの物体X』は、幼いころに観て、その恐ろしさに興奮しました。それ以来、自分の人生でベスト5に入る傑作として記憶されています。

そんな作品のリメイクですから、カーペンター版を超えていないことを前提に鑑賞しました。カーペンター版をリスペクトしつつ、新作ならではの魅力を見せてくれれば合格なのですが……。

続編をつくること自体は賛成

本作は、カーペンター版の前日譚ということで、詳細が明かされなかった「ノルウェー基地の惨劇」の謎が解明されるというのがひとつのウリです。

ただ、「ノルウェー基地の惨劇」に謎なんて残っていたかな? というのが正直なところです。たしかに、カーペンター版でくわしくは語られていないのですが、断片的な材料から想像することができます。むしろ想像する余地があるからこそ、かえって恐怖感が高まったのです。

したがって、本作ではあまり「謎の解明」に着目しないほうがいいのではないかと思います。

では、カーペンター版の“続編”として意義があるとすれば、それはなにか?

〈物体X〉は「どんなカタチにも姿を変えられる」というバケモノです。だから、その造形や攻撃方法のバリエーションが、仮にカーペンター版と違っていてもかまわないわけです。

ふつうのモンスター作品であれば「前作と矛盾している」と非難の対象となるところです。

〈物体X〉のバリエーションを魅力的に見せる。それができれば、“不朽の名作”をリメイクする意義があるといえます。

では、本作はそれに成功しているのか?

カーペンター版は「じっくり、じわじわくる」のが魅力

〈物体X〉から触手が伸びてきてブスッと人間の胸を貫く。ヘリコプターに同乗した仲間がすでに〈物体X〉と入れ替わっており、その正体を見せる瞬間にカットが変わり、ヘリの墜落を描写する(殺されたことを示唆する)。本作には、そんなシーンがあります。

ふつうのホラーアクションなら、よくある描き方です。カーペンター版を知らなければ違和感はなかったでしょう。

でも、『遊星からの物体X』という看板を掲げている映画では、これらはやってはいけないのでは?

カーペンター版の〈物体X〉は、すばやく移動したり、激しく攻撃してきたりはしません。人間に化けるのも、誰にも見つからない場所で、じっくり時間をかける必要があります。

正体がばれたときも、ゆっくりあわてず、じわじわと攻撃してきます。ほんとうに音楽すら流れず、淡々と〈物体X〉のおぞましさを描写する演出になっています。

この「じっくり、じわじわくる」のが、カーペンター版の魅力です。でも、そう思っているのは私だけで、少なくとも本作の制作陣は、ちがっていたようです。

でも、だとしたら、『遊星からの物体X』でなく別の作品でもいいわけで、“不朽の名作”をリメイクする意義がない、ということになるのではないでしょうか。

映像は洗練されている

とはいえ、「じっくり、じわじわくる」シーンが本作にまったくないわけではありません。一部には「うへ〜、これは嫌だな」と思わせるところがあり、そこは必見です。

そもそも「じっくり人間を取り込んでいく」のは、最新のCGを用いたほうがうまく表現できるはずです。本作では、カーペンター版のようにあくまでアニマトロニクスや操演、着ぐるみを多用し、CGはそれらを補完するものとして使っています。つまり、表現方法はシーンに応じて適切なものを選択しています。そこは評価できます。

本作の観賞後、あらためてカーペンター版を観たのですが、やはり映像作品としては本作のほうが洗練されていますし、説得力があります。

「じっくり、じわじわくる」の重要性を制作陣がもっと意識していれば、と思うと残念でなりません。

カーペンター版を知らない人向け?

カーペンター版を意識せず純粋にホラーアクションとして観れば楽しめる、とは思います。

ただ、カーペンター版を知らないと、なぜわざわざそんな描写があるのか理解できないこともあるでしょう。

カーペンター版を知っている人、知らない人のどちらに本作品をおすすめすべきか迷ってしまう。そんな惜しい作品でもあります。

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