クォリティの高いミュージックビデオ(MV)は、もちろんこの世にあふれている。今回はストーリー性があったり、最後にあっと驚く結末が用意されていたり、心に強く残ったりと、「なにこれ映画?」と思わず感心してしまうものを選んでみた。
邦楽も洋楽も区別せず、ジャンルもバラバラ。楽曲そのものは評価の対象にせずビデオの内容のみでピックアップした。
ただ、メジャーなヒット曲を中心に挙げているので、楽曲のクォリティもすこぶる高い。万全の環境で試聴していただければ、みなさんの好きなもの、これから気に入るものが見つかるはずだ。
なお、物語や世界観の解釈は当ブログ独自のものであり、制作者の意図やほかの視聴者のとらえかたとは異なる場合もあることをおことわりしておく。
しばしの間、すばらしきMVの世界に浸ってほしい。
もくじ
ミュージックビデオの原点からオマージュへ
まずは、MVの原点ともいうべき作品から始め、オマージュ作品をおさえて、MV鑑賞の態勢を整えていこう。
【1】Michael Jackson「Thriller」
あらゆる“映画のようなMV”の原点
暗い夜道を歩く男女。男が立ち止まり、女に言う。「ぼくはふつうの男と違うんだ」。やがて男の顔がみるみる変貌していく……。
中高年の人は「なぜいまさらこれを?」、若い人は「なんでこんな古いのを?」と、首をかしげるかもしれない。しかし、「映画のようなMV」ということになれば、このビデオをはずすわけにはいかない。なぜなら、古今東西、世にはびこるMVはすべて、この「Thriller」の亜流。そう言っても過言ではないからだ。個人的にはこれを超えるMVに出会ったことがない。今回紹介しているMVは、いずれもこの「Thriller」を原点としている。
あまりに有名な作品だが、最初から最後まできちんと鑑賞したことのある人は意外に少ないかもしれない。初見の人も、そうでない人も、この機会にじっくりとご堪能あれ。
【2】Taylor Swift「Look What You Made Me Do」
墓場から蘇った死者が過去の自分を嗤う
墓場から死者が蘇る。それはTaylor Swift本人だった。
ゾンビのように墓場から這い出してくる冒頭のシーンからして、もう「Thriller」のオマージュとしか思えない。
Taylor Swiftの過去のMVに登場した“本人”をときにユーモラスに、ときに自虐的にあつかっているのが見どころ。
全体的なテイストがゴージャスなのは、Taylor SwiftのほかのMVと同様で、そこも注目ポイントになる。
【3】AKB48「ギンガムチェック」
刑事モノ、怪獣モノ、幽霊モノ、暴走族モノのごった煮感
近未来の警察署。ひとりの女性警官が署長の机に近づくと、警察手帳を叩きつけ、辞意を告げる。彼女はこの署のナンバーワンだった。入れ替わるようにして別の警官がやってきて……。
この警察の物語、学園ホラー、特撮怪獣モノ、暴走族の抗争の話が同時並行的に展開していく。いずれも手が込んでいて完成度が高い。さすが、トップアイドルのMVといった風格。メンバーもじつに楽しそう。楽曲のスピード感もあいまって、心が踊らされる逸品だ。
ゾンビのようにも見える女子高生がダンスを踊るシーンは、もちろん「Thriller」へのオマージュである(たぶん)。
バイオレンスな女どもがもたらすカタルシス
「ギンガムチェック」では、バイオレンスな女どもが登場した。まるでアクション映画を観ているようなカタルシスを得られる。そんな作品をもう少し集めてみよう。
【4】TAYLOR SWIFT「Bad Blood ft. Kendrick Lamar」
女スパイ軍団の壮絶な戦い
女スパイがとあるビルに潜入。敵に見つかり戦いの火蓋が切って落とされた。
まさにハリウッド映画の予告編を観てるようなド派手かつゴージャスな映像が魅力だ。
演出が「ギンガムチェック」になんとなく似ている。「あれ? パクリ?」と思ったが、ディレクターが同じなのであった。
いわば〈洋楽ポップスの女王〉vs〈邦楽のトップアイドル〉の戦いとして楽しむのも一興だ。
【5】Alexandra Stan「Mr Saxobeat」
女の悪党が持つ“武器”とは?
警察にとらえられた女。“女の武器”を使って、脱走を試みる。
警察署という武骨な雰囲気の漂う場所が舞台だが、楽曲のポップさと、Alexandra Stanの可愛らしさもあいまって、観ている者にワクワク感を与える。
ルーマニアの警察は、こんなにチョロいのか……と思ったが、相手が相手だけにしかたがないのかも。
【6】SCANDAL「Image」
メンバーの裏の顔は“正義の味方”
倉庫のような空間で演奏を楽しむ女たち。彼女らにはもうひとつ別の顔があった。
演奏の途中にパトランプが回りだし、彼女たちは演奏を放り出して街へ繰り出す。SCANDALのメンバーたちは、世のため人のために活動する“正義の味方”に扮している。
楽曲と演奏のレベルの高さもさることながら、メンバーのビデオジェニックな姿も堪能したいところだ。
ミュージシャンたちは恋を応援する
「Image」に登場する“正義の味方”の役目のひとつは、人の恋路を助けることだった。MVは恋の応援歌の役割を果たすのかもしれない。そんな作品をいくつか紹介。
【7】AAA「風に薫る夏の記憶」
恋人たちを見つめていたのは誰?
夏の縁日。浴衣を着た少女と少年が出店の建ち並ぶ中を歩いている。少女は、少年と手をつなごうとするが、いま一歩、勇気が出ない。その様子を温かい眼差しで見つめる女性がいた。そして、少女たちに奇跡が起こる。
提灯や風車、金魚、りんごあめ、着物の柄など、赤の色彩が印象に残る。情感たっぷりの楽曲とともに味わえば、至福のひとときが過ごせるだろう。
そして、少女たちを見守る女性は誰なのか? その正体がわかったとき、ちょっとした感動も生まれるはずだ(目元のほくろに要注目)。
【8】ケラケラ「さよなら大好きだったよ」
卒業式の学校であふれる想い
とある高校の卒業式。女友達と一緒に校内をめぐり、高校生活の想い出を記憶に焼きつけていく。やがて、少女の表情が曇っていく……。
卒業式の学校は、友達と別れなければいけないさびしさと、新しい生活の待つ期待感が入り混じる。社会人になってしまえば味わえない特別な感覚。それをこのビデオでは疑似体験できる。
少女が泣き出したのはなぜか? 理由は歌のタイトルが語っている。
女たちは自分の恋心に正直に
恋の応援歌で勇気づけられた女たちは、どんな行動を起こすのか? MVで確認してみよう。
【9】Carly Rae Jepsen「Call Me Maybe」
気になるオトコのお目当ては……
気になるのは、隣の家に住むオトコ。どうやってアプローチする? 彼が近づいてきた。さあ、いまがチャンス!
Carly Rae Jepsenのように、ミドルネームが入るのは、古風な名前らしい(日本人でいえば「花子さん」みたいな感じかしら?)。それと関係あるのかないのか、ポップな曲調なのに、画面の色調が時代がかっているのが印象的。
歌詞のとおり、「これが私の電話番号だから電話して……くれたりする?」っていう展開になるわけだが……。衝撃のラストはビデオで確認せよ。
【10】Taylor Swift「You Belong With Me」
窓から眺める憧れの彼にはライバルが……
窓の外を見ると、隣の家に住む男の子の姿。紙にメッセージを書いてやりとりをしているけど、とある言葉を書いた紙だけは見せられない。その言葉は「I love you」。
「Call Me Maybe」とシチュエーションが似ている。まあ、だいたい若い娘さんの考えることは同じようなものだ。
ただ、Carly Rae Jepsenが積極的な女を表現しているのに対し、こちらは地味な女の子(黒縁メガネ)が主人公だ……といっても、演じているのがTaylor Swiftなので、あふれる可憐さは隠しきれない。この隠しきれないっていうのが見どころで、なおかつ、終盤の伏線になっているのだった。
とはいえ恋に障害はつきもの
MVの応援があっても、恋がうまくいくとは限らない。ときには障害もあるだろう。いくつかの作品から恋の行方を見てみよう。
【11】MAGIC!「Rude」
彼女の父親は最大の“障害物”
恋人の父親から結婚の許しを得ようとするが、父親は首を縦に振らない。
〈親〉はときに恋の障害物となる。恋する身からは、「Rude」(意訳すれば「むかつく」)な存在だ。
本作は、楽曲とMVの内容が一致している。彼らの恋の行く末はMVでご確認を。
【12】Aimer(エメ)「あなたに出会わなければ~夏雪冬花~」
放課後の学校で繰り広げられる女の子たちの絡みあい
とある女子高の放課後。少女たちは、みずからの欲望に身を委ね、心と体を通わせる。
禁断のガールズ・ラブの世界を魅力的に描き出すビデオ。もちろん、MVなので過激な描写はないが*、だからこそよけいに観る者の想像力をかきたてる。少女たちの情念を、登場人物の視線や手の動き、相手を見つめる表情で表現している。
歌だけを聞くと、切なくてしかたがない。しかし、映像をセットにすることで、少女たちのたくましさに、生きる希望がわいてくる。
*上のオフィシャル・ビデオでは、全体の90%ほどしか視聴できませんが、世界観には十分に浸れると思います。もしかしたら、YouTubeの規制にひっかかったのかもしれません。全編は下記の商品に収録されていますので、続きが気になる方はぜひ。
Sleepless Nights(初回生産限定盤)(DVD付)
【13】KARA「バイバイ ハッピーデイズ!」
卒業は切ないよりも“ハッピー”
とある学園の卒業式。それぞれの“想い”からも卒業できる?
学校の卒業式。恋からも卒業すべき日なのかもしれない。
当ブログがKARAの最高傑作と評価する作品。サウンド、ビジュアル、パフォーマンス、まさに非の打ちどころがない。
歌詞は日本語で、卒業シーンならではの切なさはあるものの、MVのテイストはポップそのもの。だから、観終わったあと「ハッピー」な気分になれるはずだ。
どうしても踊りたい。そんな場合じゃなくても
「バイバイ ハッピーデイズ!」は、“想い”があふれだして、踊らずにはいられない女たちの姿が描かれた。ところかまわず踊りたくなる。人間はそんな欲望を持っているのかもしれない。
【14】Austin Mahone「Dirty Work」
“汚れ仕事”は意外にセクシー
とある会社のオフィス。ひとりの社員が上司から徹夜仕事を言いつけられる。
まさに「Dirty Work」(違法な仕事)というわけだが、「Dirty」には別の意味もあり、MVではそちらも表現されている。
日本においては、アーティストやMVよりも、この楽曲(とくにイントロ)がとてつもなく有名。だれがも一度は耳にしたことがあるはず。
なお、Austin Mahone本人も“彼女”の芸と自分の音楽の世界観がマッチしていると答えている。
この機会にMVと一緒に楽曲の全編を味わってほしい。
【15】LMFAO「Party Rock Anthem ft. Lauren Bennett, GoonRock」
踊らざるを得ないウィルスに冒されたらしい
新しいシングルがリリースされてから28日後、LMFAOのふたりが目をさますと、街が一変していた。
ホラー好きな人なら、すぐにこの映画のパロディだと気づくだろう。その意味では「Thriller」のオマージュともいえるが、例のバケモノは出てこない。
まさしく「踊っている場合じゃない」のかもしれないが、彼らがなにかに躍らされているのか、それとも自分の意志で踊っているのか微妙なところ。
とはいえ、彼ら・彼女らの表情を見れば、どちらなのかはあきらかなのかもしれない。
【16】Taylor Swift「Delicate」
テイラー=スウィフトがいま一番したいことは?
いま世界中から注目を浴びるテイラー=スウィフト。だが、有名人ならではの苦悩もあり、その表情は冴えない。ある日、まわりの人にその存在が知られなくなってしまう。理由はわからないが、彼女にとってまさに僥倖。これ幸いにと、踊りだすのだった。
まるで自分がこの世界から消えてしまったかのよう。ふつうの人なら“悲劇”でも、いまのテイラー=スウィフトにとってはとてもラッキーなことだった。
ビデオのなかで変顔をしたり、踊る姿はどこか不格好だったりするけれども、どこまでいっても“セレブ”ならではの品の良さが漂ってしまう。
とはいえ、大スターの世界を表現するセットは豪華絢爛、雨がふりしきるなかでのダンスは劇的空間。そこが本作の見どころとなる。
どこでもダンスをするのがもっとも至福
人はどこでダンスをするのか。ダンススタジオ? ステージ? 場所を問わず、踊りたいときに踊るのがもっとも至福な時間を過ごせるのではないか。
【17】Mark Ronson「Uptown Funk ft. Bruno Mars」
オーソドックスな映像美が楽曲の魅力を引き出す
男たちが街中で音楽に合わせてカラダを動かす。靴磨きをしながら、美容院でパーマをあてながら。
楽曲はMark Ronsonの手によるものだが、どちらかといえばBruno Marsの作品として知られているのではないか。MVでもBruno Marsが前面に出ており、Mark Ronsonは脇役に徹している。
制作に6か月を要したという楽曲の完成度の高さは尋常ではない。MVもその魅力を引き立てるように、奇をてらったものになっていない。MVの理想形といえるだろう。
【18】欅坂46「二人セゾン」
日常的な空間で繰りひろげられる可憐なパフォーマンス
放課後。学校からの帰り道。なにかに突きうごかされるように、少女たちは踊りだす。
若い女性ならではの〈瑞々しさ〉と〈躍動感〉、そして〈生命力〉。アイドルのMVの枠を超えた魅力にあふれている。
東京に住む者なら、見たことのある風景が連発する。現実ではない異空間ではなく、どこかにある場所で可憐なダンスが繰りひろげられる。まさに日常と隣りあわせにあるパフォーマンス。手に届きそうな存在感が本作の見どころだ。
【19】Ed Sheeran「Don’t」
人々を幸せにするパントマイム
日向ぼっこを楽しむ男。不意に彼は動きだす。
男が披露するのは、「ダンス」というより「パントマイム」だが、異様な身体能力を持つ。まさに、男のパフォーマンスが本作の最大の見どころ。
男はその奇妙な動きで人の家に入り込むが、住人のなかには、男が見える人とそうでない人がいるらしい。
男はみずからの欲望にしたがってやりたい放題だが、べつにそれが住人たちの迷惑になっているわけではない。いや、むしろ幸福をもたしているのかもしれない。歌や踊りが人々をハッピーにすることを象徴するかのように。
【20】Sia「Chandelier」
人知れず少女は華麗な踊りを披露する
どこか安いアパートのような建物の一室。音楽が鳴ると、少女は人知れず踊りはじめる。
ウィッグをかぶりSiaに扮した少女が華麗な踊りで魅せる。その高い身体能力は「Don’t」の男と肩を並べるほど。Siaの伸びやかな歌声とあいまって、少女のパフォーマンスには神々しさすら漂う。一方で、少女がときおり見せるチャーミングなしぐさと表情も本作の見どころ。
MVの設定としては、自宅で一人遊びとしてダンスを楽しんでいるといった趣。つまり、人知れず、ひっそりと、踊っている。画面のこちら側にいるわれわれは、彼女のパフォーマンスがおわったら、オーディエンスのひとりとして、大きな拍手を送りたい。
【21】TWICE「Heart Shaker」
パステル調に彩られた異空間で女たちがダンス
エレベーター、アパート、スーパーマーケット……。目まぐるしく舞台が変化する異空間で女たちが踊る。
Siaの少女が“おひとりさま”なら、こちらは“団体さま”。ダンサーが複数になったことで、MVの王道を踏襲しているといえる。
「バイバイ ハッピーデイズ!」と同様に、サウンド、ビジュアル、パフォーマンス、そしてカメラワークが一体となって、ハイクォリティな映像と音の“美”を構築している。近年まれにみる完成度の高さで、くりかえし鑑賞したくなる“中毒性”を持ち合わせている。
ワンカットでシームレスな世界を創りあげる
「Heart Shaker」は、全編がワンカットになっている。シームレスな映像は、ちょっとした驚きと感動をもたらす。MVの真骨頂といえよう。
【22】OK Go「I Won’t Let You Down」
日本のミュージックビデオは世界一
OK Goのメンバーが奇妙な乗り物に乗って、屋外へ走り出す。そこから圧巻のパフォーマンスが展開していく。
MVこそ、〈浮世絵〉や〈アニメ〉と並んで世界に誇れる日本文化である——と当ブログは考えているが、MVにこだわりを見せるOK Goも同じ考えを持っているようで、本作は日本人スタッフにより制作されている。パフォーマーも日本人で、撮影場所も日本(千葉県にあるロングウッドステーション)。奇妙な乗り物はHonda製だ。さらに、あのPerfumeがカメオ出演している。
ワンカットの映像を実現するために、想像を絶するほどの準備とリハーサルを重ねたとおぼしい作品(陽が暮れかけている!)。ここまでくると、感嘆のため息しか出ない。
【23】Alessia Cara「Here」
醒めた気分がパーティの時間を止める
パーティで醒めた気分で歌を口ずさむ女がいる。
この「Here」はパーティだけでなく、人生に対してもどこかなげやりになっている歌で、本作も映像と楽曲の世界観がマッチしている。
Alessia Cara以外の人物は時間が停止しており、その間を縫うようにしてカメラが動いていく。その不思議な映像が注目ポイント。
時間が止まっている様子をどうやって表現しているのか謎だったが、よく見るとカラダが小刻みに動いている。つまり、みんな単純にじっとしているだけだったのだ(まばたきを我慢するのは、さぞかし辛かっただろう)。
【24】Maroon 5「Maps」
ほんの小さな誤解が生み出す悲劇
男が病院に駆け込んでくると、誰かの居場所を必死に聞き出そうとする。彼が向かった先は集中治療室。ひとりの女性が瀕死の状態で横たわっている。どうやら彼女は男の恋人らしい。いったい何があったのか? ここで時間が逆転し、事の真相が次第に明らかになっていく……。
映画『メメント』のように、シークエンスごとに時間を遡っていく。正確にはワンカットではないが、「時間」を意識的に扱った作品として観てみよう。
ビデオの冒頭では彼女は無残な姿。少し時間がもどると、顔を泣きはらしながら道を歩く様子。さらに遡ると、パーティーに出席する場面。結末はすでに知っているわけだから、彼女が味わう心情を逆順にたどるという、ちょっと変わった体験ができる。
ただし、ほんとうの結末は、曲が終わるまで明かされない。
世界の終わりと死の世界へ誘われる
「Maps」で描かれているのは〈死〉だった。ふつうはマイナスのイメージを持つ表現であり、MVで扱われることは珍しいが、ヒットメーカーたちは、その難題に果敢に挑戦している。
【25】ARIANA GRANDE「One Last Time」
世界の終わりはこうして始まる
車に乗る恋人ふたり。渋滞に巻き込まれ、女は苛立つ。でも、ただの渋滞ではなさそうだ。不審に思った女が車外に出ると、空から隕石が……。
全編が男の構えるビデオカメラの映像という体裁になっている。P.O.V(point of view =主観視点)であり、ワンカットで映像が展開。
世界の終わりがあるとすれば、それはこうして始まるのかもしれない。そんな寂寞感が漂う雰囲気の中で歌われるラブ・ソングが哀しい。
【26】David Bowie「Blackstar」
そこは〈死〉の世界。執りおこなわれるのは〈死〉の儀式か
地球とは別の惑星を思わせる場所が舞台。そこで不可思議な儀式が始まろうとしていた。
David Bowieの晩年の楽曲。死を予見して作られたとも言われており、なるほどこのMVにもどこか死の香りが漂う。
〈人〉に似たキャラクターも登場するが、それはわれわれ人間とは別の存在。異様ないでたちとふるまいには、ホラー映画を見ているような感覚を覚える。
10分間という長尺で描かれる圧倒的なスケールの世界観は、一度入り込んでしまったら、なかなか抜け出すことはできない。
映像のスケールは大きく。思いきって世界を描く
「Blackstar」では、惑星レベルの広大な〈世界〉が描かれた。そんなスケールの大きい映像が展開するMVを紹介。
【27】MACKLEMORE & RYAN LEWIS「CAN’T HOLD US FEAT. RAY DALTON」
世界を股にかける、あまりに豪快な世界観
とある雪山。老人が雪の中から何かを掘り出す。それは旗のようだった。この旗が各地をめぐっていく様を壮大なスケールで描く。
「短編映画」というより超大作のたたずまいを持った重厚なビデオ。小耳にはさんだところでは、制作に半年を要したとか。ただ、楽曲自体はヒップホップなので、肩ひじ張る必要はない。マシンガンのようなラップに心を委ねてしまおう。
【28】Ariana Grande「God is a woman」
われわれの神はとてつもなくセクシーで
「神は女」。そんな真実がいま明らかになった。しかもその見た目はアリアナ=グランデに似ているらしい。
〈神〉をモチーフにした作品だからスケールも大きい。なにせ宇宙規模の映像が展開するのだ。
アリアナ=グランデはその〈神〉に扮している。しかもその姿はセクシャルな魅力にあふれている。歌詞もよくよく聴いてみると、かなりきわどいし、そう想いながら映像を眺めると、直接的・間接的に性的なモチーフが表現されている。
〈神〉の存在を信じる者、そうでない者。世の人は千差万別だ。しかし、もし〈神〉がこんな感じなら、迷わず信仰してもいいのではないか。
【29】Imagine Dragons「Radioactive」
最後に見られるのは“絶望”か“希望”か
地下の闘技場では〈ぬいぐるみ〉による戦いが繰りひろげられていた。
「Radioactive」は、直訳すれば「放射性の」という意味。この言葉の解釈は聴く者によって分かれるが、MVの映像と合わせて考えると、放射性物質が蔓延した退廃的な世界をイメージさせる。Imagine Dragonsのメンバーも牢のような場所にとらえられ、明るい希望のようなものは見出せない。
一方で、闘技場で戦っているのは“ぬいぐるみ”であり、おどけたムードも漂ってはいる。
冒頭に登場する女性の目的が明確になるラストは、まさに“光明”といった感じだ。
特別な能力を持つ者の不幸と幸福
「Radioactive」には、特殊な能力を持つモノが登場した。非現実的な能力を表現するのも、フィクションの世界を描くMVの醍醐味といえる。
【30】David Guetta「Titanium ft. Sia」
超能力を持つ少年の苦難の人生の始まり
なぜか荒れ果てた様子の教室にうずくまる少年。やがて意を決したように行動を開始する。
ややネタバレになるが、少年は超能力を持っているようだ。しかし、それは少年に幸福ではなく、不幸をもたらした。危険な人物として、当局に追われることになったのだから。
わずか4分ほどのこのMVでは、少年の行く末がどうなったかのかまで描かれてはいないが、彼には逃げ切ってほしいと思う。その能力を人々に幸福をもたすことができるようになるその日まで。
【31】Katy Perry「Dark Horse ft. Juicy J」
われわれの知っている古代エジプトとは少しちがう
気の遠くなるほど昔のエジプト。男が貢ぎ物を女王に献上する。
われわれの知っている古代エジプトとはだいぶ様子が異なるようだ。いや、真実はだれもわからないのだから、じつはリアルな世界なのかも——と言いたいところだが、Katy Perryが扮する女王は特殊な能力を持っている。これが真実だとするならば、現代科学の常識は覆るだろう。
ちょっと変わった古代エジプトを表現した映像は、パワフルかつゴージャス。Katy Perryの貫録ある歌声とともに味わいたい。
【32】Katy Perry「Firework」
大切な一歩を踏み出すために打ち上がる“花火”
塔のような建物から街を見下ろすひとりの女性。視線の先には、どうしても前に進むことができない人たちがいた。体型を気にして人前で水着姿になれない女の子。病魔に冒され病室に閉じこもる子ども。意中の人に想いを伝えられないゲイの青年……。やがて彼女たちの体から花火が上がり始める。
Firework(花火)というタイトルだから、ビデオでも花火が上がる。安直なようだが、もちろんただの花火ではなく、ひとひねりしてある。Katy Perryは本作でも特殊な能力を発揮する。
目の前に立ちはだかる壁に尻込みをしてい人たちが一歩を踏み出す。その姿には、Katy Perryの歌声もあいまって、とても勇気づけられる。
いままで何かをためらっていた人。やろうと思ってなかなか始められなかった人。達成したい目標がある人。そんな人は、このMVを観て、一歩を踏み出すきっかけにしてみてはいかがだろう?
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