僕のつくるZINEがAIに乗っとられた日

『Gyahun(ぎゃふん)』

2023年は、AIが大きな話題を集めた年だった。文章や画像のつくりかたが大きく変わった。質の高い作品が続々と生み出される明るい未来が待っているのか、人間の仕事が次々に奪われていく破滅的な世界が始まるのか。それを予測できる知見を僕は持ち合わせていない。「社会に迎合する」「時代に寄り添う」ことを好まない一方で、「おもしろそう」と思えば軽い気持ちで実践してしまうのが僕だ。

僕は毎年、年賀状代わりにリトルマガジン(ZINE)の『Gyahun』を発行している。そこで、AIにまかせてみた、本号に掲載する文章や画像の生成を。

icon-arrow-down 『Gyahun⑮』試し読み版をご用意しました。をタップ(クリック)するか画像をスワイプするとページをめくれます。うまく表示されない場合はPDF版をご覧ください。

失敗した。失敗した。失敗した———。

10ページからの惨状を見てほしい。いかがだろう? 「なんとも『Gyahun』らしからぬ誌面だな」とお感じになったのではないか。

作り手として「失敗」と考える理由は2つある。

ひとつは、ほとんどが自分の書いた文章でないこと。『Gyahun(ぎゃふん)』は、創刊号は例外として、これまで20年以上にわたって、みずから執筆した文章だけで誌面を構成してきた。当然だ。〈書く〉という快楽に浸るためにつくっているのだから。本号はAIにその愉しみを奪われたことになる。

もうひとつは、読み手に伝える内容が自分の考えたものではない点。僕はAIに質問を投げかけただけで、「こういう答えを出してくれ」などと命令していない。AIの回答をそのまま掲載している。たとえ自分の意向に沿わなくてもだ。

いわば本号はAIに乗っとられてしまったわけだ。

とはいうものの、AIに乗っとられることは悪いことなのか。そう自問自答してみると、必ずしもそうとは言えない、という気持ちもわいてくる。みずから書く文章、みずから考える内容にどれほどの価値があるのか。

問題は、人は『Gyahun』になにを求めているかだ。

「だれもなにも『Gyahun』に期待などしていない」。そんな非情な真実も浮かびあがってくる。「そんなことないよ」。あなたにはそう思っていただけるかもしれないが、お気遣いは無用だ。個人雑誌を35年以上もつくりつづけていれば、自分のことが少しはわかってくる。だれかのためじゃない。『Gyahun』はあくまで自分の欲望を満たすためにつくっている。

じつはAIを活用すると、“ひとりよがり”を解消することにつながるのではないか。そんな希望すら見えてくる。AIは、多数決で勝ったほうの視点・表現を提示する。“ひとりよがり”にくらべれば、読み手にとってずっと価値のある本になるのではないか。

冒頭に「失敗した」と書いた。じつは失敗は確信的なものだった。わざとそうなるよう仕向けた。理由は、そうするとおもしろそうだと思ったのがひとつ。いかにも「ぎゃふん」的ではないか。もうひとつは、ほんとうに「失敗」なのかは断定できないことだ。

読み手にとって有益な情報が載っているのなら、失敗ではない。その意味で『Gyahun』はこれまで一度たりとも成功していないのではないか。そんな、またしても非情な真実に突きあたろうとしている。

本号が失敗か成功か。ぜひあなたに判断してほしい。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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ぎゃふん工房(米田政行)

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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