〈鈴木敏夫とジブリ展〉でビジネスのヒントを探り出す

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スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏をフィーチャーした展覧会〈鈴木敏夫とジブリ展〉が神田明神 文化交流館「EDOCCO」で開催されている(終了しました)。

その概要と見どころをレポートしてみよう。

鈴木敏夫の人生=ジブリの軌跡をたどる

鈴木敏夫とジブリ展02

映画のプロデューサーといえば“縁の下の力持ち”で、本来はふつうの人に知られる立場ではない。だが、鈴木氏はいわば“ジブリの顔”であり、作品の創り手である宮崎駿監督や高畑勲監督とおなじくらい有名人。プロデューサーとしてはかなり特異な人物だ。

プロデューサーの役割は作品を創るのではなく、創られた作品を世に送り出すこと。アニメーターや演出家ではないから絵は描けない。だから〈文字〉を書く。〈文字〉で〈言葉〉を世間に伝える。そんな氏の〈言葉〉に焦点をあてた展覧会になっている。

会場では、氏のこれまでの人生をたどる。幼少のころ氏に影響を与えたマンガや映画の紹介、当時の時代状況をしのばせる品々の展示。氏の編集者時代に手がけた『アニメージュ』のバックナンバー、その雑誌制作のためにつくられた設計図なども貴重な資料だ。

そして、ジブリのプロデューサーとして作成した宣伝戦略の立案書、映画のパンフレットのラフコンテなども、氏の仕事の全容やジブリ作品の背景を知るのに役立つ。

さらに、〈書〉の達人として才を発揮する氏の作品も、アートとして展示。これも見どころになる。

ビジネスは紙と鉛筆で設計すれば成功する

注意すべきなのは、本展覧会はあくまで鈴木敏夫氏をフィーチャーしたものであって、ジブリの作品世界に深く踏みこんだ内容ではないということ。たとえば、絵コンテや原画、セル画、設定資料の類いは展示されていない(アニメーター・大塚康生氏による雑誌掲載用のラフなどは見かけたが)。氏がジブリのプロデューサーとして携わった仕事の軌跡。それがメインだ。

これを逆に考えると、ジブリを成功に導いたもの、ビジネスを“成功”させるヒントが隠されているともいえる。

その視点から会場を眺めてみると、氏が作成した映画の企画書やプロジェクトの設計書などを展示するコーナーに注目したい。これらの資料は社内のスタッフや外部の関係者に配布されるものだが、すべて手書きでつくられているのだ。

「当時はワードやパワポなんてなかったから当然」と思うかもしれない。たしかに、そのころ(1990年代初頭)はビジネスの資料をパソコンで作成することは稀だっただろう(パソコンはいまほど普及していなかった)

だが、ワープロなら仕事の現場で使われていた。複雑な図を描くのは無理でも、企画書ぐらいはワープロでつくれたはず。実際、わずかだがワープロで作成された資料も展示されている。しかし、(これは想像だが)氏はあくまで手書きにこだわっていると思われるのだ。

氏の書く文字はいわゆる“達筆”ではない。だが、じつに個性的。そう。まさにジブリ作品の世界観をそのまま表現したような筆致だ。実際、最近の作品のタイトル・ロゴは氏の手によるものだという。

“ジブリ書体フォント”ともいうべき文字で書かれた企画書は、読むだけで胸の高まりを感じる。作品を観たいと思わせる。ワープロで印字された文字ではこうはいかない。

ジブリ作品の成功は、もちろん企画書の出来栄えだけにあるわけではないが、その一因になっていたこともたしかだろう。

私たちも仕事のプレゼン資料を手書きで作成することを本格的に検討すべきかもしれない。

また、予算の配分表や制作・宣伝のスケジュール表も氏は手書きで作成している。いまの仕事の現場ならExcelでつくられるような文書だ。

つまり、氏はプロジェクトの設計を手書きで行なっていることになる。

当ブログはつねづね「クリエイティビティ(創造性)は紙と鉛筆を使わないと発揮されない」と思っている。たとえば、宮崎駿監督は絵コンテを紙と鉛筆で切るはずだ。クリエイターが“手書き”にこだわるのはめずらしくない。

だが、鈴木氏が行なっているように、ビジネスそのものを創り出し、その設計や管理を行なう場合も“手書き”が功を奏する。とくにこれからの時代、ビジネスの設計において独創性や網羅性、厳密性などは重要な要素となる。それを実現するのが“手書き”なのではないか。パソコンでつくってはダメなのでは? 氏の仕事ぶりからはそんな仮説も成り立つ。

ジブリ作品に関係する展覧会ということもあり、会場は学生とおぼしき若い女性が多かった。だが、じつはビジネスパーソンすなわち“おじさん”“おばさん”こそが足を運ぶべき展覧会ともいえるのだ。

鈴木敏夫とジブリ展
開催日時……2019年4月20日(土)〜2019年5月12日(日) 10:00〜18:00 会期中無休
会場……神田明神 文化交流館「EDOCCO」内 神田明神ホール(東京都千代田区)
料金(当日券)……大人1,300円 中高生800円  小学生600円
〈鈴木敏夫とジブリ展〉公式サイト https://ghibli-suzuki.com

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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