〈特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」〉で仏教初心者が空海さんの絶大なプロデュース力の秘密を探る

1200年以上も密教が親しまれているのは空海のプロデュース力に秘密があった。

真言宗・密教の開祖である空海にまつわる名宝の数々を展示する〈特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」〉が東京国立博物館で催されている(終了しました)。

当ブログは仏教にくわしいわけでも、仏像にとくに興味があるわけでもない(仏教系の大学で学んではいるが宗派が異なる)「仏像、なんか格好良いカッケー」ぐらいの軽い気持ちで足を運んだクチだ。あくまで仏教初心者。これから述べることは、まちがっているわけではないにしても、仏教関係者や仏教に傾倒している人から見れば深みはないかもしれない。

だが、まさに「なんかカッケー」と思わせることこそが空海さんの狙い。そこに1200年以上経った現代でも親しまれている(信仰されている)理由があることが、この展覧会でわかった。

それに、初心者だから見える、初心者にしか見えないモノもあるはずだ。

展覧会の概要と、会場で得られたインスピレーションについて記述していこう。

東寺の国宝の魅力をあますところなく堪能できる

東寺展

帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839)

簡単にまとめるなら、本展覧会の見どころは3つ。

まずは、東寺講堂に保管された仏像の出品。〈立体まん〉の構築に用いられた21体の仏像のうち、15体が展示されている。国宝11体は360度から鑑賞が可能。〈たいしゃくてん騎象像〉は撮影もできる(国宝に光を当てるのはご法度。フラッシュはあらかじめオフにしておこう)

また、しちにち〉の道場を再現した展示も見どころとなる。〈後七日御修法〉は真言宗で最重要視される秘密の儀式。空海さんが唐から持ち帰った貴重なアイテムのほか、国宝・重要文化財が惜しげもなく公開されている。

さらに、東寺が保管する〈両界曼荼羅〉を掲示。高さ5メートルにおよぶ巨大なものを含め、4つの〈曼荼羅〉を間近で鑑賞できる。

私たちもビジネスに空海さんのノウハウを応用しよう

東寺展

帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839)

真言宗・密教を開いた空海さんは、いうまでもなく日本を代表する僧のひとりである(日本でその名を知らぬ者はいまい)。しかし、ここでは僧ではなく、仏教プロデューサーとしての仕事ぶりに着目してみたい。

人々のココロになにが生まれるか計算する

空海さん自身が信仰の対象にもなっているし、本展覧会に展示された品々は国宝級——ではなく国宝そのものなので、畏れおおい。会場内には荘厳な雰囲気が漂ってはいる。だが、1200年前、当時の人々はもう少しだけカジュアルに真言宗・密教に接していたのではないか、と想像している(そこで今回は空海を「さん」付けしてみる)

そもそもなぜこれほどまでに大量の宝物が展示されているのか。それだけ空海にまつわる品々が多いから。なぜ多いのか。空海さんが「密教に理解には造形物は不可欠」という師の教えにしたがったから。積極的に「カッケー」アイテムの数々をつくらせたわけだ。

「コトバでいくら説明しても、密教の真髄を彼奴きゃつらにわからせるのは難しい。四の五の言わず、カッケー仏像とかでインパクトを与えるのだ。さあ、かかれ!」。これが空海さんがスタッフにかけた号令だったにちがいない。

象徴的なのが、唐の師から譲り受けた〈密教法具〉。神々しさと同時に禍々しさを感じる代物だ。本来ならこんなモノを使う必要はないはず。コトバで伝えればいい。でも、空海さんにとっては、人々に説得力を持たせるために、思想や観念を具体的なアイテムにたいさせることが不可欠だった。だからこそ、当時の人々——いや現代の人々のココロをもとらえた。効果はてきめんだった。

およそ宗教の儀式にはなんらかの道具を用いるものだが、空海さんは知り尽くしていたにちがいない。人々がこれらの品々を目にしたとき、どのような気持ちになるかを。

これは現代のビジネスにも通じる。商品やサービスを提供する側は、受ける側のココロになにが生まれるのかを計算したうえで設計することが肝要なのだ。

会場に展示された仏像たちは、そんな空海さんのプロデュース力の賜物といえる。人々のココロを惹きつけてやまないカタチやポーズ。ついつい見惚れてしまう。空海さんの「ドヤァ顔」が目に浮かぶようだ。

“神”でなく“ヒト”だから私たちも到達できる

本展覧会でもっとも大きくスペースが割かれているのが、仏像の展示コーナー(なにせ15体が一堂に会しているのだ)。

そもそも仏像として表現されたこれらの存在はなんなのか? ——というのも変な問いかけだが、当ブログはいままで誤解していた。これらは“神”である、と。

「いや、神様でしょ?」と訝る人もいるだろう。実際、明王たちは「軍」と表現されることもある。信仰の対象という意味では「神」だ。しかし、唯一絶対的な存在とか創造主というわけではない

密教においては“神”というのはまた別に存在している。そこを誤解していた。

では、仏像で表現されているのはなにか、といえば“ヒト”なのだ。といっても、ふつうのヒトではなく、修業によって悟りを開いた人間。真実に到達した人間ということ。

なるほど展示された仏像は大きい。かといって、何十メートルも高さがあるわけではない。ちょっとガタイの良い人といった感じ。このサイズは絶妙だ。大きさによっておどしをしていない。

じつは、仏像のうしろにまわりこんでみると、正面から見た場合と印象が変わる。けっして尋常ならざる存在ではなく、ヒトが特別な衣服を身にまとい、特別な道具を手にしている、といった趣なのだ。あくまでそこに立つのは“ヒト”。

卑近な例にたとえるなら、ふつうの人間が特殊なスーツを着込んで戦隊ヒーローになる、ふつうの人間が特別な改造をほどこされて変身ヒーローになるイメージだ(イケメンとして名高い〈帝釈天〉などはまさにヒーローと呼ぶにふさわしい)

先に「当時の人々はもう少しだけカジュアルに真言宗・密教に接していたのではないか」と書いた。仏像は当時の人々にとっても畏怖の対象ではあったとは思う。一方で、私たち人間とまったく別の世界に住む存在ではなく、あくまでこの世の延長線上にある世界に生きる者たち。そんなふうにとらえていたのでは? 彼らの存在はいまよりずっと私たちに近かった。「いつか私たちもその境地に達するはず」。そう思わせることが仏像の基本コンセプトなのではないだろうか。

やはりそれも空海さん(の意志を受け継いだ者たち)のこだわり。まさにプロデュース力がいかんなく発揮された結果なのだろう。

提供する商品・サービスとユーザーとの絶妙な距離感。それを巧みに演出することが成功の鍵である。それを空海プロデューサーは教えてくれる。

今回はプロデューサー・空海という視点から会場を眺めてみた。かなり特殊な見方であることは否定できない。だが、それさえも受けれ入れてくれる懐の大きさも本展覧会の魅力だ。1200年つづく宗教は伊達じゃない。

特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」
開催日時……2019年3月26日(火)〜2019年6月2日(日) 9:30~17:00 *会期中の金・土曜日は21:00まで(入館は閉館30分前まで) 月曜日休館
会場……東京国立博物館[平成館](東京都台東区)
料金(当日券)……一般1,600円 大学生1,200円 高校生900円 中学生以下 無料
〈国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅〉公式サイト https://toji2019.jp

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