『ゲーム・レジスタンス』で想い出す原田さんとのたった一度のやりとり

「熱を込める」ことに長けていたのが原田勝彦というゲームライターだった。

『ユーズド・ゲームズ』『ゲーム批評』『CONTINUE』『ゲームサイド』といったマニアックなゲーム雑誌を舞台に、編集・ライターとして名を馳せた原田勝彦氏。2008年、30歳という若さでこの世を去る。そんな原田氏の功績を讃える本『ゲーム・レジスタンス』が発売された。

じつは、原田さんとは個人的に、たった一度、それもメールだけでやりとりをしたことがある。そのときの経験が今でも強烈に印象に残っているので、この機会に書き記しておこうと思う。

原田さんは人を褒めない⁉︎

2006年のこと。『ゲームサイド』に「セガ道」というコーナーがあった。数人のライターの持ち回りで、セガのゲームについて熱く語るというページだ。私もライターの端くれとして、何度かそのコーナーに書いていた。

原田さんは、ごく短期間であったが『ゲームサイド』の編集部に在籍しており、当時「セガ道」の担当だった。

そのとき私が書いたのは、セガ・マークIII『ウッディポップ』というブロック崩しゲームだ(『ゲームサイド Vol.03』2006年12月発行)。

編集部に原稿を送ると、原田さんからこんな返信があった。

「原稿のほうを拝見させていただきました。非常によかったと思います。セガは熱く語られるべきものだという、固定観念みたいなものがあったのですが、このように落ち着いた語り口で、なおかつ興味を引く構成になっている文章を書かれるとは意外でした」

このメールを見たとき、純粋に嬉しさを覚えたと同時に、「なかなかライターを乗せるのがうまいな」と思った。つまり、社交辞令。当時、原田さんと面識はなく、どんな人なのかまったく知らなかったからだ(とうとう最後までお会いすることはできなかったわけだが)。

その後、編集部にお邪魔する機会があり、編集長の山本さんにそのことを話した(そのときすでに原田さんは編集部を辞めていた)。編集長が言うには──。

「原田さんは人やモノを褒めることはめったにない。ましてや社交辞令なんてあり得ない。だから、その言葉は本心だったと思う」

ライターとして「熱を込める」

私もプロの編集・ライターとして飯を食っている。しかし、ふだん従事しているのは、ライターとしての個性を求められない(いや、個性を殺すことを要求される)ような仕事だ。締め切りまでに誌面を卒なく作り上げる職人に徹する。だから、無難にまとめて当たり前。仕事ぶりを評価されることなんてめったにない。

その意味では、『ゲームサイド』は、そんな私のふだんの仕事とは対局に位置する雑誌といえる。単にゲームの内容を紹介すればよいわけではなく、「熱を込める」ことが必要になる。

そして「熱を込める」ことに長けていたのが原田勝彦というゲームライターだったわけだ。そんな彼にお褒めの言葉をいただいたというのは、いちライターとして、とてつもなく名誉なことだと思う。

生きた証としての「本」

陳腐な表現かもしれないが「行間からほとばしる情熱」「魂を削りながら仕上げた粒々辛苦の誌面」。そんなクサイ表現が原田さんの文章には似合う気がする。

それは、自分自身にも、そしてこの世の多くの書き手(プロ、アマ問わず)に欠けているものかもしれない──などと、今回発売された『ゲーム・レジスタンス』を眺めながら考える。

原田さん自身は、すでにこの世にいない。しかし、生きた証はこうして残っている。〈本〉という形にすることによって、多くの人が目にすることができる。これこそ、本づくりの真骨頂なのではないか。

日々、大量生産される出版物の洪水の中で、久しぶりに「この世に出す意義のある本」というのを見た気がする。

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