『ターミネーター:新起動/ジェニシス』 このシリーズの魅力ってなんだろう?

映画

〈ターミネーター〉と呼ばれる殺人マシーンが未来からやってきて、主人公を殺そうとする──。本作のあらすじをこれ以上説明すると〈ネタバレ〉になってしまう。それにシリーズを知る者には語るまでもないだろう。

『ターミネーター』シリーズは本作で5作目。人気のシリーズだが、映画としてのクォリティーを保ちつづけているかといえば疑問だ(ただし、評判の良くない3作目も当ブログは評価している)。

いまさら最新作をこの世に送り出す意味はあるのか──。そんなつぶやきが頭に浮かぶが……。

意味はあった。

やってくれた。

期待せずに鑑賞したことも功を奏した。

これこそがまさしく『ターミネーター』。むしろ本作でシリーズの魅力を再確認できた。それだけでも価値がある。

では『ターミネーター』シリーズの魅力とはなんだろう?

『ターミネーター』シリーズの魅力はこの2つ

『ターミネーター:新起動 ジェニシス』

[シリーズの魅力1]殺人マシーンがただ追いかけてくるだけの話

『ターミネーター』シリーズのストーリーは単純明解。殺人マシーンがしつこく追いかけてくるので主人公たちがひたすら逃げる──。それだけだ。

本シリーズでは、これ以外のプロットは許されない。なぜなら、これこそがシリーズの魅力だからだ。

きわめて単純なプロット。それだけに強固だ。有無を言わせない説得力。ぐうの音も出ない迫力がある。

もちろん、作品ごとに別の要素が付け加わってはいる。しかし、それらは蛇足でしかない。その意味で、脚本の完成度がもっとも高いのは第1作目であり、以降の作品で第1作目を超えるものはないと断言できる(第2作目ですら敵わないと思っている)。

[シリーズの魅力2]昨日の敵が今日の友になる驚き

シリーズの魅力はもうひとつある。

昨日まで恐るべき相手だったのに、今日は頼れる味方になる──。これは第2作目のコンセプトで、第2作目をして傑作たらしめている要素だ。

ただ、「昨日の敵が今日の友」というのは言わば“一発ネタ”だ。第2作目はその“驚き”で引っ張ることができた。だが、3作目・4作目になると、効力は薄れてしまっている。

本作で新たな魅力が加わった

『ターミネーター:新起動 ジェニシス』

さて、本作でも、「殺人マシーンがただ追いかけてくる 」「昨日の敵が今日の友になる」というコンセプトを踏襲している。だから、『ターミネーター』シリーズを名乗るだけの条件は備えている。

しかし、それだけでは3作目・4作目をさらに劣化させたシロモノになるだけだ。

そこで本作では、新たな〈魅力〉が付け加えられた。

[新しい魅力1]タイムトラベルの矛盾を逆手にとる

『ターミネーター』シリーズは、殺人マシーンがタイムトラベルをしてくる物語だ。タイムトラベルには、原理的なパラドックスがある。

たとえば、タイムマシンで今から5分前の過去に行くとする。でも、5分前にタイムマシンがやってきた事実はない。これは矛盾だ。

「別の並行世界が生まれて……」とかなんとか理屈をこねることはできる。実際、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ドラゴンボール』などは、その理論で処理している(『ドラえもん』はどうだったっけかな?)。

もちろん、あくまで虚構、絵空事だから成り立つ話だ。言い方を変えれば、なんでもアリ。その「なんでもアリ」を逆手にとったのが本作だ。

〈ターミネーター〉が現代にやってきて、何をしでかすか(しでかしたか)。われわれはこれまでの作品を観て知っている。

もしも、作品の登場人物も同じように知っていたら? これが本作を魅力的にしている仕掛けのひとつ。

そして、劇中で起こる出来事が、われわれ(および登場人物)の知っている“事実”と違っていたら?

本作では、シリーズを観ている者にはおなじみの事柄が、ちょっとずつ異なっている。それは、なぜなのか……?

そんな、ほのかなミステリーの要素が加わったことで、5作目にしてなお作品のクォリティーが下がるのを防いでいるのだ。

[新しい魅力2]未来の敵を現代の道具で迎え撃つ

第2作目以降の作品では、主人公を襲う悪の〈ターミネーター〉と、主人公を守る善の〈ターミネーター〉との戦いがおもな見せ場となる。そして、主人公を守るほうは、もう一方より性能が落ちるのが基本だ。

だから、不利な状況でどう戦い、どう勝利を手にするか。そこが各作品の注目ポイントになる。

それぞれの監督や脚本家がさまざまな工夫を凝らすわけだが、本作の制作陣は、そのツボをおさえている。

本作の登場人物は、どんな敵がやってくるか知っている。だから、対策が立てられる。現代よりはるかに進んだテクノロジーで作られた相手を、現代に存在する“道具”で撃退するシーンは見どころのひとつだ。

[新しい魅力3]“ポンコツ”ではない悲哀を描く

ただ、それは言わば“足止め”であって、根本的な解決にはならない。簡単に倒してしまったら、シリーズの魅力である「殺人マシーンがただ追いかけてくる 」という趣向が味わえなくなってしまう。

だから、本作はさらに強敵を登場させた。

「『2』とか『3』でもそいつを送ればよかったじゃんよ」というツッコミが頭をよぎる。だが、「タイムマシンはなんでもアリ」だから、すぐに納得できてしまう。

そんな状況で描かれるのは「“ポンコツ”ではない」という悲哀だ。

どういうことか?

本作の善玉の〈ターミネーター〉がことあるごとに「“ポンコツ”ではない」という言葉を口にする。これは酔っ払いが「酔ってないよ」と言うのと同じ。真実は「ポンコツ」なのだ。

もちろん、「ポンコツ」といっても、現代人にとっては人知を超えたテクノロジーで作られたマシーンだ。しかし、未来から送られてくる宿敵との能力の差は歴然としている。

それでも戦わなければならない。みずからの体が果てるまで。

べつにド根性とか忠誠心とかによるものではない。ただそうプログラムされているだけだ。

けれども、機械であっても見た目や言動が人間然としているから、そのひたむきさには、心を動かされてしまう。

そのあたりも本作の魅力となっている。

[ただひとつ気になること]CGのプレゼン大会?

『ターミネーター:新起動 ジェニシス』

以上のように、本作はシリーズのファンが十分に満足できる出来栄えだ。

ただし、気になることがひとつだけ。

本作のようにCGで描かれたキャラクターが登場する映画は、どうしても「CGのプレゼン資料」のように見えてしまう。

第2作目で、液体金属の〈ターミネーター〉が人間に化けたり、体の一部が凶器に変わったりするシーンは、見ているだけで感動を覚えた。当時は、CGを用いた映像そのものが珍しかったからだ。

本作でも、悪玉〈ターミネーター〉はCGで表現されている。さまざまな趣向が凝らされ、スタッフの苦労がしのばれるものの、「大変だったろうな」と思ってしまった時点で、興は削がれてしまう。

『ターミネーター』といえばCG。多くの人がそんなイメージを抱いていよう。最新作としてお披露目するには、何かしら新しい映像表現を見せなければ──制作陣にそんな強迫観念があったのかもしれない。

でも、そろそろ潮時なのではないか、CGの出来栄えを競い合うのは。

もちろん、当ブログはCGそのものを否定するわけではない。

たとえば、「シリーズを観ている者にはおなじみの事柄が、ちょっとずつ異なっている」というシーンにCGが使われている──というより、CGでなければ実現できない映像が展開する。

そのシーンでは、むしろ「CGすごい!」などとは思わない。「この場面はどういうふうに撮影されたのか」。そんな裏話に考えが及ばないほど、作品にのめり込んでいるからだ。

CGをこんなふうに使うのであれば大歓迎だ。

さて、今後はどんな〈ターミネーター〉が登場するのか。ひそかに楽しみだ。

▼オフィシャル・サイトなどの予告編はネタバレしているので、本編の観賞後に見るのがいいでしょう。下のムービーはギリギリ許容範囲だと思います

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ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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コメント

    • シェンムーIIIを待つ者
    • 2017.04.30 10:50pm

    こんばんは。
    サイコブレイクに関しては語り尽したのでこちらに。

    この作品は映画館で公開初日に観ました。
    前情報はあまり仕入れていなかったので、
    せいぜいシュワちゃんが演じるターミネーターが若いのと老いたのでそれぞれ1体ずつ登場することくらいしか知りませんでした。

    最初らへんは良い意味で裏切られる展開だったのですが、
    後半は色々タイムトラベルするものですから話が良く分からなくなってしまいました。

    あとは、ジョンが敵側になってしまうのがシリーズファンとしては受け入れがたかった点です。

    まあ、物凄く軽く感想を書くなら
    『エミリア・クラーク可愛い♪』です。

    • こんにちは。

      私もほとんど事前に内容を知らなかったので、展開が楽しめました。たしかにタイムトラベルものはどうしても物語がゴチャゴチャしますね。

      ジョンが敵側にまわるのも違和感がありましたが、容貌が『2』などと違いすぎるもの気になりました。

      おっしゃるとおり、エミリア・クラークを観る映画といえそうですね。

      コメントありがとうございました。

ぎゃふん工房(米田政行)

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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