ガールズ・ラブ&心霊学園ホラー小説『天使の街~プライマリー~』は、2013年配信を目指して鋭意制作中です。
今回はあらすじと小説の本文の一部をご紹介していきます。
もくじ
ガールズ・ラブと心霊学園ホラーのビターな融合
学園祭を7日後にひかえた〈麗宝学園〉では、連日、生徒たちが準備に追われていた。そんな、学園が1年のうちでもっとも活気づく時期に、事態は人知れず進行していた──。
主人公ハルカの所属するオカルト研究クラブ〈SDK〉(Sinrei Daisuki-Ko:心霊大好きっ子 )では、学園祭で行なう〈降霊術ごっこ〉の準備が進められていた。しかし、ハルカの心には大きなわだかまりがあった。それは、密かに憧れている部長のマヒルが数日前から学園を休んでいることだった。
業を煮やしたハルカは、マヒルの家を訪れることを決意する。マヒルの住むマンションは、東京でありながら閑散とした街にあった。数日ぶりにマヒルと再会したハルカは、彼女の変貌ぶりに驚く。まるで魂の抜けた廃人のようだったのだ。異様な雰囲気をかもしながら、なぜかハルカに迫るマヒル。抵抗できないハルカ。なされるがまま床に横たわったハルカの目に映ったのは、天井に張り付いた白装束の老婆の姿だった──。
マヒルの家に棲んでいた“老婆”は幽霊なのか。ハルカはSDKのメンバーであるサキとヤヨイとともに、老婆の正体を探るべく、再びマヒルのマンションを訪れるが……。
白の老婆はいったい何? その好奇心が不幸を招く
「マヒルさんの家には、お婆さんの霊が棲みついている……ということですかねぇ」
サキがひとりごとのように小さな声で言った。
「マヒルさんの様子がおかしかったのは、そのお婆さんの霊に取り憑かれていたから、ということになるのかなあ……」とサキは続ける。
「ちょっと待って。何を根拠にそんなこと言うの? マヒルさんが自分のお婆さんと一緒に住んでいるだけかもしれないじゃない!」
わたしは自分でも驚くぐらい強い口調で反論していた。その言葉によって、一瞬、その場に変な空気が流れてしまった。
ほんとうは、サキに悪気なんかないことはわかっている。やはり、さっき感じたマヒルさんを失ってしまうかもしれないという不安感がまだわたしのなかに燻っていたのかもしれない。
「まあ、落ち着け、ハルカ。おまえが見たお婆さんが幽霊かどうかというのは、いまの段階じゃわからないけど、天井に張り付いていたというのは、どう考えても普通じゃない。というか、怪奇現象そのものだ。たとえば、ハルカがそのとき夢うつつの状態になって、幻を見たとか……」
「夢うつつって……どういう意味です? ヤヨイさん、何か知ってるんですか?」
またしても、しかも今度は先輩に対して強い口調の言葉を吐いてしまった。
「いや、だから、たとえばの話だよ。夢を見ていたなら、なんでもありなわけだから、婆さんが天井に張り付いていても、不思議じゃない。でも、なんで、よりによって婆さんなんだ? ほかになかったの?」
「まあ、幽霊ものの定番といえば定番ですよねぇ」 とサキが茶々を入れた。
「どうせなら、ハルカの憧れのヒト、とかならよかったのにな、きゃははは」
「ヤヨイさん!」 とわたしは大きな声を出した。
ひょっとして、ヤヨイさんは、すべてを知っている? わたしとマヒルさんのあの行為のことも全部? そういえば、クラブのみんなでマヒルさんの家を訪れようという話になって、わたしがひとりで行きたいと言ったとき、最初に同意してくれたのは、ヤヨイさんだった。つまり、すべてはヤヨイさんに仕組まれていたこと?
……いや、そんなはずはない。何をバカなことを。そもそもヤヨイさんがそんなことをする理由がない。ヤヨイさんは、マヒルさんのことが好きなのだから(というのは噂ではあったけれど、わたしは真実であると思っている)、わたしとマヒルさんがああいうことをするのを許すわけがないじゃない……。
街に巣くう恐怖が生徒たちを襲う
ふと。
視界の下のほうで、白いものが動いたような気がした。
目を凝らすと、電柱に据えられた蛍光灯が、電線にぶら下がる白い大きな袋を照らしていた。
ゴミ袋……?
そんな……なんで電線にゴミ袋がぶら下がって──。
白い袋の形がいきなり変わった。
袋じゃない。
人だ。
人が電線にぶら下がっている。
レスキュー隊員がロープを伝って移動するかのように、手足をすばやく動かした。
白い着物、白髪──。
あの、老婆!?
老婆の動きは素早かった。
電線を伝って、こちらに向かってくる──というのは気のせいなのかもしれないけど──いや、ちがう。絶対、わたしを狙ってる!?
急いで窓をしめ、鍵をかけ、カーテンを引いた。
布団を頭からかぶる。
すぐに後悔の念が襲ってきた。
ホラー映画なんかを観ていて、いつも思うこと。
なぜ逃げるの? よけいに怖いじゃない?
こういうときは、相手に向き合うの。戦うんだ。
よし、今度こそ、あいつの正体を見極める。
ずいぶんと勇敢になったじゃない、と自分でも驚いた。
こういう場面での、ホラー映画の展開はこうだ。
勇気を振り絞って、いざカーテンを開けると、何もいない。 結局、見まちがい、思い込みなんだ。
わたしはカーテンに手をかけた。 一気に開けた。
ほら、やっぱり誰もいな──。
いた。
窓の外に人が立っていた。
「きゃああっ!」 こっけいなまでに大きな声を出していた。
ベッドからずり落ちるようにして、床を這った。
コン、コン、コン。
窓を叩く音がする。
「ハルカ、開けて」 声が聞こえた。 後ろを振り返る。 白装束を身にまとったその人の顔を見た。 見覚えがある。
マヒルさんだった。
そのままわたしは固まっていた。
「ハルカ、お願い、開けて」 その声で我に返った。
ゆっくりと窓に近づき、解錠して、窓を開けた。
「マヒル、さん……?」
すべての始まりは岐阜県・郡上八幡だった
「というわけだから、今回の旅行はパス。ごめん。どうする? キャンセルする?」
「ちょっと、この私の燃え盛る『〈郡上八幡〉に行きたいなあ願望』をどうしてくれるの? しょうがないなあ。ひとりで行く」
「ほんとにごめん。でも、マヨって、どっちかといえば、ひとりで行動するほうが好きじゃない? だからこれでよかったのかも」
「そんなことはないけど……あ、お姉さんにおめでとうって伝えて」
もし、お姉さんに赤ちゃんが産まれていなかったとしたら? いや、産まれるタイミングがもう少しずれていたら? もしヒヨリと〈郡上八幡〉に行っていたとしたら、私の人生はどうなっていたのだろう。
ヒヨリが一緒だったとしたら、〈彼女〉には会わなかったのかもしれない。いや、郡上八幡に行くことは、キャンセルする前から決まっていたのだから、私たちの出会いは運命で決まっていたのだ。
では、そのあとのことは……?
いいや。それもわからない。こうなることが運命であるならば、別の形できっとそうなっていたのだから──。
女は旅先で出会った女に恋をする
──私、ナツミが好き……なの?
どうして? ついさっき会ったばかりなのに……。
いやいやいや。冷静に。冷静になろう。ナツミに恋してるかどうかは、置いておこうよ。う……。置いておける? 本人が目の前にいるのに。
「あの……ちがうからね。さっき言ったことは。誤解だからね」ナツミがなぜかあわてた口調で言う。
「ちがうって、何が?」
「いや……あの、テンシはえっちな気持ちになっているから来るとは限らなくて、そうじゃない場合もあるし、そんな気分じゃなくても現れることもあるし、そのへんのことはわかっていなくて……」
ナツミがなぜ急に取り乱したのか、しばらくわからなかったけど……。私は「あっ」と閃いた。
私が水をかけたときにナツミが怖がったのは、天使が寄ってくると思ったから。天使を呼び寄せる条件は、ナツミの話では、髪を濡らすことと、淫らな気持ちになること。つまり、あのときナツミはいやらしいことを考えていたってことになってしまう。
言い訳しなければ私は気づかなかったのに。まさに墓穴を掘ったってところ。
そんなナツミがとてつもなく愛おしく思えてきて、私はナツミのほうへゆっくり手を伸ばす。
私の指がナツミの指に触れる。
それまで何かを一生懸命しゃべり続けていたナツミが、その瞬間、黙る。
私とナツミの目線が交差した。
私は微笑む。
ナツミが私の手を握る。
それに応えるように、私も強く握り返した。
女の情念が悲劇をもたらす
「さあ、テンシよ! 私を死の世界へ導くのだっ!」
コユキさんの絶叫に近い声があたりに響いた。
「コユキさん! 何してるの!?」
私は駆け出していた。
コユキさんはとんでもないことをしようとしている。突然の出来事に、頭が混乱して、考えがまとまらなかったけど、コユキさんを止めなければならない。その衝動だけがわいていた。
「来るなっ!」コユキさんは、私の姿を認めると、手を挙げて制した。私は思わず足を止めた。
「どうしたの? コユキさんっ!」
「もうたくさんなのよっ」コユキさんの声は震えていた。
「私がこの世で幸せになるなんて無理。どんなにがんばったって、どんなに努力したって、叶わないことがあるんだよ。マヨちゃんならわかってくれるよね? だから、私はあの世に行く。テンシに導いてもらう。ほんとうの幸福な世界に」
「やめて、コユキさん! とにかく落ちついて……」
「ありがとう、いろいろと。マヨちゃんは、この世で幸せになって……」
最後まで言い終わらないうちに、コユキさんの上方に白い影が唐突に現れたのに気づいた。
コユキさんの濡れた髪の匂いに誘われて、テンシがやってきた。私はそう理解した。
──今度こそ、テンシを倒すんだ!
そんな強い決意と使命感が私を突き動かした。
体が動かない。
その理由はすぐにわかった。誰かがうしろから抱きついたのだ。
──もうひとりのテンシ?
戦慄が走った。
──やられる。コユキさんより先に。
「行かせてあげてっ!」
背中から叫び声がした。
うしろから抑えていたのは、ミライちゃんだった。
「コユキさんを行かせてあげて……」 私の体に腕をまわしたミライちゃんが涙声になる。
「ちょっ、何してるの、ミライちゃん!?」 振りほどこうとしたけど、異様に強い力で押さえ込んでいる。ミライちゃんは渾身の力を込めていた。
テンシと呼ばれる異形が跋扈する街で少女たちの想いが交錯する
2008年、ボーイズ・ラブ小説として執筆が開始され未完に終わっていた『天使の街角』。
今、ガールズ・ラブ小説『天使の街~プライマリー~』として生まれ変わる。
“男の子”の絶叫は、“女の子”の悲鳴に変わった。
生徒たちの情念はより深くなり、恐怖は大きくなる。
“ライトノベル”風でありながら、抜き差しならない緊張感と切迫感が持続する。一気読み必至の新感覚ホラー。
2013年、堂々完成予定!
今後もこの作品に対する情報をお伝えしていきます。ご期待ください。
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