『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト

〈ゼーレ〉がくりかえし行なっている〈インパクト〉もじつに4回目。

過去の考察でも〈フォースインパクト〉についてつぶさに考察したが、そこでは「ゲンドウvsカヲル」の対立軸に重きを置いた。

あえて〈インパクト〉のプレイヤーとしてのカヲルをはずし、「〈ゼーレ〉vsゲンドウ」の対立を浮き彫りにすると、どんな真実が見えてくるだろうか。

〈フォースインパクト〉は〈ゼーレ〉vsゲンドウの前哨戦

〈インパクト〉が「過去のやり直し」であるという真実を前提とするならば、〈ゼーレ〉とゲンドウは、今回も本来の目的を実現するために奮闘していたと考えられる。

〈フォースインパクト〉の一部始終は『Q』で描かれているわけだが、にもかかわらず、なんとも腑に落ちないセリフがある。

たとえば、『Q』の時点ですでにゲンドウと〈ゼーレ〉の関係は断絶していると思われるのだが……。

 icon-arrow-circle-down ゲンドウと〈ゼーレ〉はもはや語る必要はないと言っている。

(冬月)
ゼーレは まだ
沈黙を守ったままか

(ゲンドウ)
人類補完計画は
かいもんじょ通りに遂行される
もはや 我々と語る必要はない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

しかし、のちのシーンでは「沈黙」していたはずの〈ゼーレ〉が口を開き、次のように語る。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

我らの願いはすでに かなった
よい 全てこれでよい
人類の補完
安らかな魂の浄化を願う

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「語る必要はない」はずなのに対話をしているのは、いかにも不自然だ。それには目をつぶるとしても、〈人類補完計画〉はこれから遂行されるはずなのに、〈ゼーレ〉は「願いはすでにかなった」と言い、にもかかわらず「人類の補完」を願っているという。こうしてセリフだけを抜き出してみると支離滅裂だ

これはどう考えればいいのだろうか?

ホンネとタテマエを使い分ける“汚いオトナたち”

まず前提条件を確認しておこう。

そもそもゲンドウと〈ゼーレ〉の思惑は異なっている。これは劇中の描写からあきらかだ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

だが ゼーレとて
気づいているのだろう?
ネルフ究極の目的に

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

〈ゼーレ〉は「自分たちとは異なる目的をゲンドウたちが持っている」ことに気づいている。なおかつ「それをゲンドウたちも知っている」ことも把握している。

〈ゼーレ〉とゲンドウはお互いに本心を隠しているが、お互いにその事実を知っており、なおかつ「知っている」こともお互い承知している。にもかかわらず、お互いに「知らない」フリをしているのだ。

ようするに、両者ともホンネとタテマエを使い分けているわけだ。なんとも“汚いオトナ”のふるまいといえるかもしれない。

となると、劇中で語られるコトバ、とくにゲンドウと〈ゼーレ〉が対峙しているときのセリフは、額面どおりに受けとるわけにはいかない

先のセリフの矛盾を解消しておこう。

まず、「人類補完計画は死海文書通りに遂行される」のは真実だろう。ここはゲンドウと冬月の会話であり、なにかを偽る必要はない。実際、人類は消滅していないのだから、〈ゼーレ〉の目的は達成されていないと考えるべきだ。

では、〈ゼーレ〉の「我らの願いはすでに かなった」とはどう意味か? これにはホンネとタテマエが含まれている。ホンネは、過去の考察で述べたとおり、「この世界での失敗を生かして、さらに別の仮想現実をすでに創っている」ということ。あるいは、この世界をキレイに掃除したあとに新たな世界をつくり、また〈インパクト〉をやり直す。〈インパクト〉の正しいやりかたはわかったから、ゲンドウ(人類)がいなくても、〈インフィニティ〉は創造できる。したがって、ゲンドウは用済みである。あんたお払い箱ってことよ。これが真意だ。

タテマエは、ある種の虚勢。ゲンドウに真意を探られないための欺瞞であると考えられる。上記の真意をふまえたうえでの皮肉のようなニュアンスも含まれているだろう。

つづく「人類の補完 安らかな魂の浄化を願う」にも、ホンネとタテマエがある。ホンネは、「自分たちの手で〈人類補完計画〉を実行するから、予定どおり人類は補完されるよ」「(ゲンドウを含めて)人類は消滅するからサヨナラ」といった皮肉。タテマエは「〈人類補完計画〉は〈リリス〉との契約なのだから、しっかり遂行してね(実際に行なうのは自分たちだけどね)」といったところだろう。

話が入り組んできたので、あらためて〈フォースインパクト〉におけるゲンドウと〈ゼーレ〉のホンネとタテマエを整理してスッキリさせよう。

まず、両者ともタテマエは、死海文書どおりに〈人類補完計画〉を遂行する。これは、過去の考察でも述べたとおり、〈第13号機〉や2本の〈槍〉、〈リリス〉などを用いるものだ。

ゲンドウのホンネは? くどいようだが、虚構世界からの突破だ。

では、〈ゼーレ〉のホンネとはなんだろう? じつはゲンドウの想像どおりでない可能性が浮上してくるのだ。

〈ゼーレ〉も〈ガフの扉〉を開いた

〈ゼーレ〉の思惑について、過去の考察でも気になるセリフがあることを指摘した。マリの次の発言だ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

ガフの扉がまだ閉じない!
ワンコ君が ゼーレの保険か!

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

なぜ「ゼーレの保険」なのだろう? 「ネルフの保険」「ゲンドウ君の保険」ではないのか? このセリフを問題にする人は当ブログ以外に見当たらないが、きわめて重要な真実が含まれている気がしてならない。カヲルの「形状が変化して そろっている」とおなじように。

このセリフについては、やはり過去に考察している。

あくまで〈ゼーレ〉の意図はシンジが〈第13号機〉に乗ることであって、〈ガフの扉〉を開くことではないと考えざるをえない。〈ガフの扉〉が閉じないのは、〈第13号機〉が覚醒したことの結果なのだろう。

いまもこの考えかたを否定する材料はない。だが、なんだかモヤモヤしたものが残るのも事実。もっとすっきりとした論理ロジックをなんとか組みたてられないだろうか。

「〈ゼーレ〉の意図はシンジが〈第13号機〉に乗ること」は間違っていないだろう。問題は「〈ガフの扉〉を開くことではない」という点。じつは真実は逆で〈ガフの扉〉を開くことも〈ゼーレ〉の目的だったのではないか? つまり〈フォースインパクト〉において〈ガフの扉〉を開くことは、ゲンドウと〈ゼーレ〉ともに必要だったのだ。

どういうことか? その謎を解く前にもうひとつ気になる点を検証してみたい。

〈リリス〉の崩壊も〈ゼーレ〉の意図

先に見たように〈フォースインパクト〉が発生したとき、〈ゼーレ〉が次のように語る。

我らの願いはすでに かなった
よい 全てこれでよい
人類の補完
安らかな魂の浄化を願う

過去の考察では、このシーンは「〈フォースインパクト〉が起こる直前」と述べたのだが、厳密にはシンジが〈槍〉を抜き、〈リリス〉が形象崩壊したあとなのだ。これらは、ゲンドウの策略の核心だから、〈ゼーレ〉の思惑には反するはず。にもかかわらず、〈ゼーレ〉はそのことに触れていない。

これはどういうことか? 3つの可能性が考えられる。

1つ目は、〈ゼーレ〉は異変に気づいていないという可能性。ふつうに考えれば、なんともマヌケな話になるが、当ブログの〈メタフィクション〉説を前提とすれば、あながち不自然とはいえない。〈ゼーレ〉はこの世界の細かい事象までは把握できないのかもしれない。だからこそ、〈人類補完計画〉はゲンドウたちにやってもらわなければならないわけだ。

2つ目の可能性は、異変は〈ゼーレ〉の意図したものではないが、ゲンドウを責める必要もないということ。先に述べたように、すでにゲンドウとの関係は絶たれているのだから、ゲンドウの行動をいまさら問題にしてもしかたがないわけだ。

3つ目として、やはり異変は〈ゼーレ〉の意図したものである可能性が考えられる。

はたして〈ゼーレ〉の真意はどこにあるのか? どこかにヒントになる描写はないだろうか?

〈ゼーレ〉は“ひみつの行動”を起こそうとしていた

〈ゼーレ〉の真意を知る手がかりは、過去の考察でも見つけている。次の冬月の発言だ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

ひどいありさまだな
ほとんどが
ゼーレのもくろみ通りだ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

『Q』で起こったことのほとんどは、〈ゼーレ〉の意図どおり。少なくともゲンドウたちがそう考えているのは間違いない。

一方で、〈ゼーレ〉の思惑からはずれる事態も起こっていた。これはゲンドウが語っている。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

だが ゼーレの少年を排除し
第13号機も覚醒へと導いた

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「カヲルの排除」と「第13号機の覚醒」は、〈ゼーレ〉の意図したものではない(とゲンドウは考えている)ことがわかる。

そもそもの条件である

〈ゼーレ〉はホンネとタテマエを使い分けている

という真実。そして、

〈ゼーレ〉の究極の目的は〈インフィニティ〉の創造

であり、さらに

〈ガフの扉〉を開くことは〈ゼーレ〉も意図していた

〈リリス〉の形象崩壊も〈ゼーレ〉にとって問題ではなかった

という仮説を前提としつつ想像力を働かせると、次のような真実を導き出すことができる。

〈ゼーレ〉は究極の目的である〈インフィニティ〉を創造するために、ゲンドウにはタテマエの〈人類補完計画〉を遂行させようとした。しかし、〈ゼーレ〉はゲンドウのホンネに気づいているので、2つの手段を講じていた。ひとつは、ゲンドウが虚構世界から突破するのを阻止すること。もうひとつは、ある“ひみつの行動”を起こすこと。それが〈ゼーレ〉のホンネの〈人類補完計画〉であった。

〈ゼーレ〉は、ゲンドウがタテマエの〈人類補完計画〉を実行するつもりがないことは先刻承知。具体的になにをしでかすかはわからないが、なにか仕掛けてることは想定済みだった。だから、先の対話ではゲンドウを責めたてたりしなかったわけだ。

となると、先に挙げた3つの可能性のうち、2つ目の「異変は〈ゼーレ〉の意図したものではないが、ゲンドウを責める必要もない」と、3つ目の「異変は〈ゼーレ〉の意図したものである」の両方が正しいと考えられる。

では、〈ゼーレ〉はなぜ〈ガフの扉〉を開いたのか? これは、途中で〈扉〉が閉じてしまったので、わからずじまいだ。しかし、もし〈扉〉が閉じずにいれば、“ひみつの行動”を起こしていたにちがいない。

〈インパクト〉がやり直しのプロセスであることをふまえると、〈ゼーレ〉が〈フォースインパクト〉で失敗した“ひみつの行動”を、今度は〈ファイナルインパクト〉でしかけてくると予想される。

“ひみつの行動”については、〈ファイナルインパクト〉の項で考察しよう。

〈トリガー〉は〈ガフの扉〉を開く

ところで、先に挙げたマリのセリフ

ガフの扉がまだ閉じない!
ワンコ君が ゼーレの保険か!

を別の角度から考えてみよう。

マリは、〈ガフの扉〉はワンコ君(シンジ)のせいで閉じないと言っている。

また、『Q』においてリツコは次のように叫ぶ。

彼を初号機に優先して
奪取ということは
トリガーとしての可能性が
まだあるということよ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

これらのセリフから連想できるのは、〈フォースインパクト〉はシンジが〈トリガー〉になった、ということだ。

一方で、『Q』においてカヲルは次のように発言している。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

僕が第13の使徒に
なってしまったからね
僕がトリガーだ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

カヲルは自分が〈トリガー〉になったと言っており、リツコのセリフと矛盾する。

これについては過去の考察を訂正することになるが、もしかするとカヲルの認識が間違っているか、あるいはカヲルとシンジの両方が〈トリガー〉になっているものと考えられる。

過去の考察では、エヴァはパイロットの意志や感情を読み取り増幅させる機能があると述べた。この考えを拡大するなら、

トリガー = エヴァ + パイロット

という図式が成り立つ。

〈ニアサードインパクト〉は「初号機+シンジ」、〈フォースインパクト〉は「第13号機+カヲル+シンジ」の組み合わせが〈トリガー〉となったと考えられるのだ。

また、そこから類推して、〈サードインパクト〉においても「初号機+シンジ」が〈トリガー〉になったと想像できる(というより、ほかに〈トリガー〉になりそうなエヴァやパイロットがいない)。過去の出来事をふまえて、ミサトたちはシンジが〈フォースインパクト〉の〈トリガー〉となることを恐れたのであり、DSSチョーカーをシンジに装着せざるを得なかったわけだ。

〈サードインパクト〉の際はシンジは〈初号機〉と「同化」しており自覚はなかったと思われるが、本人がはっきりと意識しなくてもエヴァが動作することは『Q』で表現されている。

 icon-arrow-circle-down シンジは〈初号機〉と同化していたにもかかわらず、アスカの要望にこたえて“行動”を起こしている。

とはいえ
先に突如12秒間も
覚醒状態と化した事実は
看過できない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

さて、〈トリガー〉はどんな役割を担っているのだろうか。

先の考察では、〈トリガー〉は文字どおり引き金(きっかけ)にすぎず、〈インパクト〉を起こす本体が別に必要と述べた。その考えはいまも変わらないが、じつは〈トリガー〉は〈ガフの扉〉を開く役割を担っているのではないだろうか。

〈フォースインパクト〉の〈ガフの扉〉が閉じなかったのは、「初号機+シンジ」の組み合わせが健在だったためだと考えられる。

〈サードインパクト〉において、ゲンドウと〈ゼーレ〉は「初号機+シンジ」を〈トリガー〉として利用した。これはマリを始めとするヴィレの人たちには周知の事実なのだろう。

そして〈フォースインパクト〉において、ゲンドウがカヲルを〈トリガー〉にしたのは〈ゼーレ〉の息のかかったカヲルを排除するため——あらかじめ意図したのではなく結果的にそうなっただけかもしれないが、少なくともマリは「ゲンドウ君の狙い」と考えていたはず——だから、シンジを〈トリガー〉としているのは、ゲンドウではなく〈ゼーレ〉の“保険”ということになる。それが真実とは限らないが、少なくともマリはそう思っているので、あのようなセリフになったのだろう。

ところで、先の考察で、〈セカンドインパクト〉が失敗したのは、〈ゼーレ〉が〈インパクト〉を起こすのに〈トリガー〉が必要なことを知らなかったからだと述べた。これを言い換えると、〈セカンドインパクト〉では〈ガフの扉〉がしっかり開かなかったのではないか。

あるいは、もっと妄想を膨らませれば、〈ガフの扉〉を開く役割を〈トリガー〉ではなく〈リリス〉が担ったために、リソースが足りなくなり、本来の〈インパクト〉にならなかった。だから〈セカンドインパクト〉は失敗した。

『破』の〈ニアサードインパクト〉では、「初号機+シンジ」の〈トリガー〉が開いた〈ガフの扉〉のほかに、別の〈扉〉が出現している。

 icon-arrow-circle-down 〈初号機〉の頭上とは別の場所でも〈ガフの扉〉が開いている。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

これは前回の〈セカンドインパクト〉において、〈リリス〉が〈ガフの扉〉を開いたことの名残なのかもしれない。

〈槍〉がニセモノだから〈人類補完計画〉は遂行されない

セントラルドグマにある2本の〈槍〉はニセモノだった——先に考察したこの仮説を前提とすると、〈フォースインパクト〉時に起こったさまざまな現象に説明がつけられる。

ニセモノだから「僕らの槍じゃない」

まずは、〈槍〉を考察するきっかけとなった問題を片づけておきたい。

カヲルは、セントラルドグマの〈槍〉が形状変化していたことを重要視していた。

〈槍〉が2本とも〈ロンギヌス〉だったことよりも、

〈槍〉がニセモノだった

ことにカヲルは絶望したのだ。

ニセモノなのだから、当然「世界の修復」はできない。カヲルが次のセリフを吐いたのはそこに理由があったのだ。

もういいんだ…
あれは僕らの槍じゃない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

ニセモノだからシンジは〈槍〉を抜けた

シンジが〈リリス〉と〈Mark.06〉に刺さった〈槍〉を抜いたとき、形状が変化するのを確認できる。これはもちろん、〈槍〉が2本ともコピーだからだ(なお、〈カシウス〉が変化するところは劇中では表現されていない)。

本来、〈槍〉を抜く作業には2人のパイロットが必要のはずだった。ところが『Q』では、シンジがカヲルを操縦不能にしてしまう。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

(シンジ)
えいっ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

(カヲル)
操作系が…

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

にもかかわらず、〈槍〉は抜けた。もちろん、〈槍〉がニセモノだったからだが、シンジはそのことにもう少し注意を向けるべきだった……。

ニセモノだから第12の使徒が生き残った

シンジによって〈槍〉の抜かれた「第12の使徒」(〈Mark.06〉だったもの)は、活動を再開する。

その様子を見てアスカは叫ぶ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

まずいっ!
第12の使徒がまだ生き残ってる

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

〈サードインパクト〉の際、〈槍〉を刺して息の根を止めたはずなのに生きていた。これも〈槍〉がニセモノだったからだ。

ニセモノだから〈インパクト〉が止まらない

カヲルは、〈フォースインパクト〉を止めようと、〈第13号機〉のコアに〈槍〉を刺す。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

カヲルの意に反して、〈ファーストインパクト〉は完全には停止しなかった。これも〈槍〉がニセモノだったからだと考えられる。

この世界ではいろんなモノが〈コア化〉する

ところで、『Q』には『序』『破』にはない特徴がある。〈自分と世界の禁じられた融合〉=〈コア化〉があちこちに描かれているのだ。

まずは、先に考察したように、シンジがカヲルに見せられた惨状はそのひとつ。

それ以外にもさまざまな場面で〈コア化〉する様子が見られる。その理由は、先に考察したように

〈虚構A〉の世界に存在するものはすべて〈インフィニティ〉の部品の材料にすぎない

からだ。これを別のコトバで表現すると、

〈虚構A〉の世界に存在するものはすべて潜在的に〈コア化〉の可能性を持っている

ということになる。先に述べたように、それは人類にとってはカオスでも〈ゼーレ〉にとっては本来あるべき状態なのだ。

仏教には〈いっさいしゅうじょうしつぶっしょう〉という教えがある。「生きとし生けるものはすべて仏性を持っている」ことを意味し、簡単にいえば「だれでも仏になれる」ということだ。

それを無理矢理『エヴァ』の世界観にあてはめれば、“一切衆生悉有性”。「この世にあるモノはすべて〈コア〉としての素質を持っている」わけだ。

『Q』において冬月はシンジにこう語る。

世界を崩す事は造作もない
だが 造り直すとなると
そうもいかん

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

じつはきわめて脆弱な均衡の上に世界は成り立っている。わずかでもこの世のことわりとか秩序が乱れれば、どんなモノも〈コア化〉してしまうのだ。

人類を含めてこの世界のすべてが「失敗作」であるならば、その存在が盤石でないのは、なんとなく納得できるだろう。

『Q』においては、さまざまな場面で世界の均衡がちょっとずつ崩れている。その例を挙げよう。

エヴァや〈使徒〉も〈コア化〉する

〈槍〉の抜かれた〈Mark.06〉は第12の使徒と化していた。〈改2号機〉の攻撃を受けつけない。それを見てマリは言う。

姫 ムダ弾はやめときなよ
あれ全部コアだから

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

また、ヴンダーの制御を奪おうとする〈Mark.09〉を〈改2号機〉が攻撃したとき、〈Mark.09〉が異様な状態になり、やはり攻撃は効かない。それを見てアスカはこう叫ぶ。

 icon-arrow-down 

こいつ 全身がコアか!

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

これらの現象は、本来のエヴァや〈使徒〉の理を超えていることの表われと考えられる。〈Mark.06〉や〈Mark.09〉は〈アダムスの器〉であり(〈Mark.06〉は〈リリス〉と融合までしている)、“この世”と“あの世”(=虚構世界と現実世界)の狭間にいるような存在だ。この世界の秩序からはずれているのは、むしろ当然といえる。

〈エヴァの呪縛〉は“あの世”に渡ってしまったから

『Q』で新たに登場した用語に「L結界密度」がある。〈フォースインパクト〉が止まったあと、〈コア化〉した場所を歩きながらアスカが言う。

ここじゃL結界密度が強すぎて
助けに来れないわ
リリンが近付ける所まで
移動するわよ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「L結界密度」の高い場所には、人類リリンは立ち入ることができないらしい。でも、アスカやシンジはその場所にいられる。アスカたちも言わば〈コア化〉してしまっているからだろう。

なぜ、人類は〈コア化〉した場所にいられないのか。酸素がないなどの環境的な問題もありそうだが、別の理由があるように思う。やや想像は飛躍するが

〈コア化〉したモノに触れると〈コア化〉する

のではないだろうか。

『破』には、零号機が〈使徒〉の〈コア〉をつかむ場面がある。

 icon-arrow-circle-down つかんだ手がなんらかのダメージを受けているように見える。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

「ダメージを受けている」というよりも、より正確には〈コア化〉しているのではないだろうか。

また、『シン・エヴァ』の「アバン」では、〈コア化〉した世界で戦闘を繰り広げた8号機とそのパイロットの足が〈コア化〉しかけているようにも見える。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT 1(冒頭10分40秒00コマ) 0706版』
©カラー

これまでの考察もふまえて別のコトバで表現すれば

コア化 = この世の理からはずれること

を意味すると考えられる。〈エヴァの呪縛〉によって歳をとらないのは、シンジたちが物理的な法則からはずれてしまったからだ*8

*8:ただし〈エヴァの呪縛〉にはそのほかの謎も多く、もう少し深く検証する必要はありそうだ。

ここへきて、エヴァや〈使徒〉が持っているとおぼしい〈コア〉。その正体がだんだんとわかりかけてきた気がする。

〈コア化〉が“この世”の理からはずれる現象ならば、〈コア〉も“あの世”と“この世”の狭間にあるような存在ともいえる。

たとえば『破』のラスト、シンジはレイを救うため、エントリープラグの奥(〈コア〉のあるほう)へっていく。しかし、物理的には、シンジの進む先にレイがいるわけではない(レイがいるのは〈使徒〉のなかである)。

とすると、シンジはどこへ行き、どこからレイを救い出したのだろうか?

 icon-arrow-circle-down そこはもはやエントリープラグのなかではなく、“この世”と“あの世”の狭間なのだろう。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

シンジがレイに向かって手を伸ばすとき、シンジの顔が異様な状態になる。

 icon-arrow-circle-down シンジの顔の表面がはがれていく。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

これは、ヒトが〈コア化〉する場合の様子で、このときシンジは〈エヴァの呪縛〉にかけられたのかもしれない。

なぜネルフは最新兵器を造れるのか?

最後に、ほかと比べて重要度は下がるが、考察しておいたほうがよさそうな事項を考えてみよう。

『Q』を観た人は、少なからず次のような疑問を持つはずだ。

「なぜネルフは兵器を造れるの?」

ヴィレがありあわせの材料でエヴァを修理しているのとは対照的だ。

ずばり、

〈ゼーレ〉がネルフを手助けしている

からだと考えられる。

「手助けしている」といっても、別に〈ゼーレ〉がのこのことネルフ本部にやってきて、ゲンドウや冬月の手伝いをしているわけではないだろう。そもそも〈ゼーレ〉自身はこの世界に入れない。また、〈ゼーレ〉の息のかかった人間が働いている、というのも考えにくい(ネルフ本部には、ゲンドウと冬月、カヲル、シンジ、レイ以外の人物は見当たらない)。

〈ゼーレ〉としては、あちら側からちょっとプログラムを書き換えるだけで良い(その作業は簡単ではないかもしれないが)。

先に見たように、ネルフ本部が“不思議な力”で宙に浮いているのも、〈ゼーレ〉の技術を使っているから、と考えれば説明がつく。

〈ゼーレ〉がネルフを助けている理由は、タテマエではネルフに〈人類補完計画〉をやってもらわなければならないからだ。

たとえば、『Q』において、〈第13号機〉が完成したとき、冬月は次のセリフ口にする。

碇 今度は
第13号機を使うつもりか?

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

冬月は、ゲンドウが「第13号機を使うつもり」であることについて念を押している。しかし、「使うつもり」で〈第13号機〉が造られたのは自明なはずだ。まさかゲンドウが趣味や酔狂でエヴァづくりを愉しんでいる、と思っていたわけではあるまい。

本来は〈第13号機〉はある目的のために造られており、その点は〈ゼーレ〉の同意が得られている。だが、ゲンドウがそれとは別の目的に使おうとしていることに冬月が気づき、真意をたしかめた、といったところだろう。

言うまでもなく「ある目的」が〈ゼーレ〉の〈人類補完計画〉で、「別の目的」がゲンドウの究極の目的(虚構世界からの突破)と思われる。

〈第13号機〉のようにエヴァをまるごと1体建造できるのは、当然〈ゼーレ〉が協力しているからだ。ゲンドウたちが秘密裏にエヴァをつくることなど不可能だろう。〈ゼーレ〉はあくまで〈人類補完計画〉を行なわせるために〈第13号機〉を造らせたはずだ。

さらに視点を変えて考えてみると、〈ゼーレ〉とゲンドウが対立していることは先に見たとおりだが、それはいわゆる“ケンカ”しているのとはワケがちがう。

過去の考察でも述べたように、〈ゼーレ〉にとってネルフは、パソコンのアプリケーションのようなものなのだ。アプリが思いどおりの動作をしなかったとしても、腹を立てることはあっても、とうてい“ケンカ”にはなり得ない。アプリが妙な動きをしないか警戒しつつも、本来の役割をまっとうできるように計らう必要がある。

とはいえ、その“関係”もおそらくは〈フォースインパクト〉の失敗で崩れてしまったのだろう。いや、先に述べたように、〈フォースインパクト〉の失敗は「ゼーレのもくろみ通り」であり、すでに関係は断絶していたのだ。

〈ファイナルインパクト(フィフスインパクト)〉では、いよいよ〈ゼーレ〉が本気を出してくるものと思われる。そこが『シン・エヴァ』の見どころになるだろう。

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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その2]特報2

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コメント

  1. アバター
    • 匿名
    • 2019年 8月 19日

    0706においてマリの足が赤くなっているのはエヴァ4444Cの攻撃を受けたためです。エヴァ本体の足は赤くなってません。
    またコア化については接触によりコア化する、ではなく侵食の方が良いと思います。
    また、エヴァのプラグスーツを着ている場合はコア化されません。復元オペにおいてもオペレーター達はプラグスーツ同様の服装です。

    • おっしゃるとおり、「〈コア〉に触れると〈コア化〉する」については、再検証の必要がありそうですね。今後の参考にします。

      ありがとうございました!

  2. アバター
    • かおり
    • 2019年 10月 04日

    このブログにたどり着けて
    本当に良かった!
    目からウロコが取れたような
    読んでいて
    とても気持ちの良い考察でした!

    気付いたら朝になっていましたよ(笑)

    本当に楽しかったです、
    ありがとう!

  3. アバター
    • 匿名
    • 2019年 10月 04日

    気付いたら朝になっていました!
    一気読みです。

    楽しかった、ありがとう!

    • ぎゃふん工房

      こちらこそ、お読みいただきありがとうございました。

      エヴァの考察って、書くのも読むもの楽しいですよね(私もいろいろな人の考察を見たりします)。

      これからもお互いエヴァを堪能していきましょう!

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