ここからは、〈第13の使徒〉の正体を探りつつ、いよいよ「第1使徒の僕が13番目の使徒に堕とされるとは…」の真相に迫っていく。
〈第13の使徒〉はリリンである
前ページで出した“クイズ”の答えは下記のとおり。
〈死海文書外典〉に記述されている〈第13の使徒〉は〈リリン〉である
先に〈死海文書(正典)〉に規定された〈第1使徒〉について考察した際、「ヒトも使徒になりうる」という旧劇場版のコンセプトをヒントにしたのを覚えておられるだろう。〈第13の使徒〉にもそれを適用した。「始まりと終わりは同じ」だからだ。
「だったら、〈第13の使徒〉は〈リリン〉ではなく〈ヒト〉ではないのか?」
ごもっともな疑問だが、次の事実を見落とすわけにはいかない。
カヲルは自分が「第13の使徒」だとは思っていなかった
カヲルは、自分を〈ヒト〉だと認識しているが、〈リリン〉だと思っていない。だから、「第13の使徒=ヒト」は成りたたない。
〈ヒト〉は「〈リリン〉+〈カヲル〉」である(冒頭で示した下の図を参照)。
したがって、〈第13の使徒〉は、〈ヒト〉から〈カヲル〉を除いた〈リリン〉が正解となる。
ここまでわかったことを表に書きくわえてみる。
〈第13の使徒〉を「リリン」とした。カヲルのあつかいはこれから考察するので「?」を残しておく。
表に残った「?」を解決していこう。
まず、〈外典〉では「第13の使徒=リリン」をどのように説明しているのだろうか?
そもそも〈外典〉がめざしているコトはなにか? これまで考察したきたように〈インパクト〉だ。
〈リリス〉や〈アダムス〉は「〈インパクト〉の道具」。これはこれまでの考察と上の表からもわかる。
何度も説明しているとおり——。
インパクト
=世界のコア化
=インフィニティの創造
=人類の消去
である。したがって——。
〈死海文書外典〉の目的 = 人類(リリン)の消去
なのだ。
ということは、〈外典〉では次のように説明されていると考えられる。
〈第13の使徒〉 = 〈インパクト〉による消去対象
表に反映してみる。
〈第13の使徒〉について〈外典〉では「〈インパクト〉による消去対象」と説明されているとした。
カヲルの計画は「人類の消去」を阻止すること
〈第13の使徒〉 = 〈インパクト〉による消去対象
この真実がイマイチ腑に落ちないあなたのために、もう少し説明を加えておく。
くり返しになるが、次の事項を思い出されたい。
以上のように考えると、『ヱヴァ』には次の4つの“ひみつの計画”があることになる。
- 〈死海文書(正典)〉にもとづく計画
- 〈死海文書外典〉にもとづく計画
- ゲンドウの秘めたる野望にもとづく計画
- カヲルのもくろみにもとづく計画
劇中で描写される出来事や登場人物の言動が、どの計画にもとづいたものなのか、つねに意識しておきたい。
4つめの「カヲルのもくろみ」とは何だろうか? もはやあなたに説明する必要はないと思われるが、復習を兼ねて確認しよう。
カヲルは『破』の終盤、次のようにつぶやく。
今度こそ君だけは
幸せにしてみせるよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
このセリフの意味するところは、完全に解明されたとは言いがたいが、少なくともカヲルが〈死海文書外典〉の目的を素直に果たそうとしているとは考えられない。先に述べたように「〈死海文書外典〉の目的」とは「人類の消去」だ。過去の考察でも結論づけたとおり——。
『破』の終盤、〈Mark.06〉に搭乗していたとき、おそらくカヲルは〈ゼーレ〉の意向に逆らうつもりだった可能性が高い。
〈ゼーレ〉の意向に従って計画を実行すれば人類は滅亡するのだから、シンジを幸せにすることにはならないだろう。
このことを逆に考えると、〈死海文書外典〉に「リリン=〈インパクト〉による消去対象」と記述されている(〈ゼーレ〉がカヲルに伝えている)からこそ、「今度こそ君だけは幸せにしてみせる」などという発想が出てくるわけだ。〈死海文書外典〉によって「シンジが不幸になる」状況が起こらないのなら、カヲルが〈ゼーレ〉を裏切る必要などない。
〈正典〉のめざすモノは「〈使徒〉の殲滅」。これは、シンジの利益になる。一方、〈外典〉の目的は「人類の消去」。これはもちろんシンジの不利益になる。〈正典〉は人類を騙す大義名分にすぎず、〈外典〉こそが真実であることをカヲルは知っているので、自分なりの計画を実行している。そんな構図が浮かびあがってくる。
そこに『新劇場版』の物語の核心があるわけだ。
〈外典〉の〈第1使徒〉は〈インパクト〉のプレイヤー
苦労をかさねてつくりあげてきた表がだいぶ完成に近づいた。
ここまでくると、〈外典〉の〈第1使徒〉に残る「?」が気になってくる。これを解消しよう。
〈リリス〉や〈アダムス〉が「道具」、〈リリン〉が「消去対象」とくれば、〈インパクト〉の要素として残っているのは? その答えが「?」にあてはまることになる。
これは“クイズ”にせず、ずばり答えを示そう。
〈外典〉の〈第1使徒〉 = 〈インパクト〉の主体(プレイヤー)
これも表に反映してみる。
〈第1使徒〉を「〈インパクト〉のプレイヤー」とした。
ここで、あなたの頭に浮かんだことを言いあてよう。
「〈第1使徒〉が〈ヒト〉なのだから、ゲンドウやシンジも『〈インパクト〉のプレイヤー』となってしまうぞ」
この疑問は、あなたが意地悪な性格だからではなく、論理的に考えていけば必然的に生まれるものだ。
たしかに、ゲンドウはどちらかといえば〈インパクト〉を防ごうとしており、〈インパクト〉のプレイヤーと考えるのは不自然だ。
〈第1使徒〉については、注釈というか一歩ふみこんだ考察が必要かもしれない。
〈死海文書〉の主役はシンジとカオル
〈第1使徒〉について考察するにあたり、興味深いセリフがある。『序』のラスト、カヲルと〈ゼーレ〉が会話をするシーン。
わかっているよ
あちらの少年が目覚め
概括の段階に入ったんだろ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー
「あちらの少年」がシンジを指すことは言うまでもあるまい。ここで注目すべきは「あちらの」の部分。カヲルが「あちら」と言ったとき、「こちら」も意識していたはずだ。つまり——。
「あちら」 = 〈死海文書(正典)〉
「こちら」 = 〈死海文書外典〉
これをさらに深めていくと、次のように考えられる。
「あちらの少年」 = 〈死海文書(正典)〉のプレイヤー
「こちらの少年」 = 〈死海文書外典〉のプレイヤー
これまでの考察のおさらいになるが、〈死海文書(正典)〉のめざすゴールとは何だったか?
〈死海文書(正典)〉のゴール = 〈使徒〉との生存競争に勝利する
では、「生存競争」の主体(プレイヤー)となっているのはだれか? 〈ヒト(人類)〉であることはまちがいないが、もっと厳密に考えれば、次のようになる。
〈死海文書(正典)〉のプレイヤー = シンジ
もちろん、〈使徒〉と戦っているのは、シンジだけでない。レイやアスカも立派なパイロットだ。さらに、エヴァを動かすためには、ミサトや赤木リツコ(およびネルフのスタッフ)の力も欠かせない。
また、〈死海文書(正典)〉の内容を伝えられている人類は、ゲンドウと冬月だけであることも先に述べた。
そう考えると、劇中において〈人工知能〉と対峙しているのはゲンドウと冬月だけということになる。
しかし、〈死海文書(正典)〉というフィルターを通すと、主役はあくまでシンジであり、ゲンドウやミサトは脇役になってしまうのだ。
実際、『序』において〈ゼーレ〉は次のように語る。
第4の使徒襲来とその殲滅
そして 3番目の子供の接収
及びエヴァ初号機の初起動
概ね規定通りだな『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー
レイやミサトたちネルフのスタッフは〈ゼーレ〉の眼中にはなく、あくまで〈正典〉のプレイヤーたるシンジにしか関心がないのだ。
一方で、〈外典〉のほうに視点を移せば——。
〈死海文書外典〉のプレイヤー = カヲル
となる。これは、あなたにも納得していただけるはずだ。『Q』におけるカヲルの次のセリフも、あなたの背中を押してくれる。
君と同じ
運命を仕組まれた子どもさ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
カヲルは、自分がシンジと対照となる存在であると語っているわけだ。
以上のように考えていくと、『新劇場版』では、〈死海文書(正典)〉と〈死海文書外典〉の2つの聖典によって物語が設定され、両者が見事に対比されながら描かれていることがわかる。
いささか強引な部分もあるが、表にまとめてみた(☆印は劇中に登場しない便宜的なもの)。
この表を頭に入れておくと、『新劇場版』がスッキリ理解できるようになるだろう。
カヲルは〈知恵の実〉を持つ〈使徒〉である
疑りぶかいあなたは、これまでの考察に穴はないか、血眼になって探しているかもしれない。ノートにロジックの流れを書き出し、矛盾点を見つけようと必死になっている——当ブログはそんなふうにあなたを疑っているわけではないが、考察の“穴”をあなたが発見する手間を省いて差しあげたい。
たしかに“穴”はあるのだ。そこを追求されれば反論できないロジックの矛盾が。
“穴”は大小あわせて3つある。まず大きいほうから紹介していく。
〈正典〉の〈第1使徒〉の条件が破綻!?
〈死海文書(正典)〉に記述された〈第1使徒〉について考察する際、条件を下のように3つ挙げた。
- 〈リリス〉より先に人類に発見されている
- ほかの〈使徒〉とは別格の存在である
- カヲル本人、またはカヲルに深く関連する
上記のうち、「〈リリス〉より先に人類に発見されている」は、ミサトの発言(第2の使徒——リリスよ)にある問題を解決する条件。ほかの2つはカヲルの発言がもたらす問題を解消するためのものだった。
しかしながら、そのあと「カヲルは〈正典〉の記述が真実でないことを知っていた」と結論づけた。
ということは、上記の条件のうち「ほかの〈使徒〉とは別格の存在である」と「カヲル本人、またはカヲルに深く関連する」は満たす必要がないことになる。
となると、〈正典〉の〈第1使徒〉にカヲルが含まれている必要がないので、〈ヒト〉からカヲルを除外した〈リリン〉でも良いことになる。
むしろそのほうが「始まりと終わりは同じ」という図式がより明確になるともいえる。
かりに「第1使徒=リリン」とすると、〈外典〉が「〈インパクト〉のプレイヤー」と説明している点にも説得力がなくなる。「〈インパクト〉のプレイヤー」はカヲルのはずだからだ。
……こんなふうに、これまでの考察のロジックがボロボロと崩れていってしまうのだ。
「おいおい、そんな脆弱な論理で、ここまでわれわれを騙してきたのか? 時間を返せ!」
安心してほしい。やはり〈第1使徒〉は〈リリン〉ではなく、カヲルを含んだ〈ヒト〉でなければならないのだ。
DSSチョーカーは〈生命の実〉を検知する
〈第1使徒〉がカヲルを含む〈ヒト〉でなければならない理由。それは、次のシーンを説明するためだ。
『Q』において、エヴァ第13号機に乗りたくないと駄々をこねるシンジを見て、カヲルはシンジの首のDSSチョーカーをはずし、自分の首に付けかえる。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
よくよく考えてみると、このシーンには奇妙な点がある。
DSSチョーカーには〈使徒〉を感知する機能がある。下記の劇中の描写からそれはまちがいない。
DSSチョーカーにパターン青?
ないはずの13番目?
ゲンドウ君の狙いはコレか!『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
そもそも人類(より正確にはネルフ)は、生存競争の相手である〈使徒〉をどのように判別しているのだろうか? 巨大ななにかが現われたら、とにかく〈使徒〉と認定するのだろうか?
これはあなたもご存じのとおり、「パターン」の色で判別している。
『破』において、3号機が暴走するが、「パターン」が「オレンジ」だったため、人類は〈敵〉として認定できない。
事故現場南西に
未確認移動物体を発見
パターンオレンジ
使徒とは確認出来ません『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
「パターン」が「青」になってはじめて、〈使徒〉は殲滅対象になる。
(日向)分析パターンでました
…青です(ゲンドウ)エヴァンゲリオン3号機は
現時刻をもって破棄
監視対象物を
第9使徒と識別する『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
ところが、カヲルは紛れもなく〈使徒〉のはずなのに、件のシーンではDSSチョーカーは「パターン青」を検知していない。これは奇妙ではなかろうか。
ということは……?
〈フォースインパクト〉が起こった際に、カヲルの身に“なにか”が起こったと考えられる。
過去の考察ではこう述べた。
この一連のシーンをくりかえし観直してみたが、なにか特別なことが起こっているようには見えない。劇中に描かれているのは、先のカヲルのセリフと〈DSSチョーカー〉の反応だけだ。
「なにか特別なことが起こっているようには見えない」のは、何百回と映像を見返そうと変わらない。映像が変わってしまったら、それは心霊現象だ。
しかしながら、このシーンの前後で変化があったわけだから、“なにか”が起こったことだけはまちがいない。
DSSチョーカーが反応したとき、カヲルになにが起こっていたのか?
ここで、先に示した図が生きてくる。
「パターン青」を検知する存在を〈使徒〉と認定するのだから、「パターン青」とは〈生命の実〉が検知された状態だと考えられる。
カヲルの首に付けかえられたDSSチョーカーが「パターン青」を検知しなかったのは
カヲルは〈生命の実〉を持っていない
ためだろう。
つまり、カヲルはほかの〈使徒〉とその点がちがうわけだ。
上の図を見ながら想像を広げると、カヲルは次のいずれかがあてはまる。
- カヲルは〈生命の実〉を持っていないが〈知恵の実〉を持っている
- カヲルは〈生命の実〉も〈知恵の実〉も持っていない
上記のうち、どちらが正しいのか?
〈知恵の実〉や〈生命の実〉がどんなモノなのかはわからない(劇中で具体的に描写されていない)。もしかすると、具体的なモノを指すのではなく、抽象的な概念なのかもしれない。
いずれにしても、カヲルが「ないはずの13番目」にされた際、「パターン青」が検知されたということは、このときカヲルは〈生命の実〉を持っていた。これはまちがいない。
すると、次の可能性が考えられる。
- カヲルはもともと〈知恵の実〉を持っていたが、「13番目の使徒」にされたことで、〈知恵の実〉が〈生命の実〉に変わってしまった
- カヲルはもともと〈生命の実〉を持っていなかったが、「13番目の使徒」にされたことで、〈生命の実〉を持たされてしまった
どちらが正しいのか?
もともと存在しないモノを存在するようにする(0を1にする)よりは、もともと存在するモノを別のモノに変える(1を2にする)ほうが、より易しいようには思える。
また、「知恵の実」という言葉のイメージから、カヲルはもともと〈知恵の実〉を持っていたと考えるほうがしっくりくる。カヲルが人類とコトバでコミュニケーションをとれるのは、〈知恵の実〉を持っているからだと想像するほうが自然な気がする。
つまり、次の可能性が高い。
カヲルは、ほかの〈使徒〉と異なり〈生命の実〉を持っていないが〈知恵の実〉を持っていた。「13番目の使徒」にされたことで、〈知恵の実〉が〈生命の実〉に変えられてしまった
図示してみよう。「13番目の使徒に堕とされる」までの状態は下のとおり。
あなたは『ヱヴァ』の物語を観ているとき、次のような疑問を抱いていたのではないだろうか?
「カヲルは〈使徒〉なのに、なぜ殲滅されず、『Q』でもしれっと登場していたのか?」
その疑問もここで氷解するはずだ。
カヲルは〈使徒〉といっても〈ヒト〉でもあるから、殲滅の対象にはならかなったのだ。おそらくカヲルのパターンを調べても「青」にならなかったのだろう。
そして、「13番目の使徒に堕とされた」ときに下のように変化したと考えられる。
では、視点を変えて、だれがカヲルの〈知恵の実〉を〈生命の実〉に変えたのか?
これはもうゲンドウしかありえない。
過去の考察でこう述べた。
ゲンドウは〈ネブカドネザルの鍵〉を使い、システムに干渉して、カヲルを〈使徒〉と認識させた。
これまでの考察をふまえれば
ゲンドウが〈ネブカドネザルの鍵〉を使ってシステムに干渉し、カヲルの持つ〈知恵の実〉を〈生命の実〉に変えた
という可能性が高い。
「ゲンドウ君の狙い」とは、「ないはずの13番目」を創ることではなく、もともと〈外典〉に存在した「13番目」にカヲルをあてはめた、と理解するほうがより正確といえるだろう。
以上のように、〈外典〉に規定された〈第13の使徒〉にカヲルは含まれない。したがって、〈第13の使徒〉は〈ヒト〉ではなく〈リリン〉が正しいことになる。
〈第13の使徒〉にカヲルは含まれないとした。
死海文書が書かれたのは〈セカンドインパクト〉のあと
さて、当ブログの考察に“穴”は大小3つあると述べた。ここからは小さいほうの“穴”を紹介しよう。
前回の考察で次のように結論づけた。
〈セカンドインパクト〉が失敗して〈使徒〉が生まれた
ということは、〈死海文書(正典・外典)〉は、〈セカンドインパクト〉のあとにつくられたことになる。いずれも〈使徒〉について記述しているからだ。
しかし、これまで述べてきたように、〈インパクト〉について規定していたのは〈死海文書外典〉だったはずだ。
〈死海文書外典〉が存在しないうちから〈インパクト〉が起こされた。これは矛盾しているように思える。
「そうだよ、前からおかしいと思っていたんだよ」
あなたの鼻をへし折るようなマネをして申し訳ないが、この矛盾点を解消するのは難しくない。
まず、もっとも簡単な解決法は、〈セカンドインパクト〉は〈死海文書外典〉を聖典として起こされたわけではない、と考えてしまうことだ。「〈死海文書外典〉に定められた〈インパクト〉は、〈セカンドインパクト〉ではなく〈サードインパクト〉」とするならば矛盾は生じない。また、制作陣がそのように設定している可能性も高いだろう。
もう少し手間をかけるなら次のように考えることもできる。
〈ゼーレ〉が〈セカンドインパクト〉の失敗で〈使徒〉を生み出してしまった。それを見て人類に行動させるための〈死海文書〉を創ったとする。しかし、〈ゼーレ〉は人類の住む世界(虚構A)の外側(虚構B)にいるのだから、虚構Aの時間を過去に巻き戻してしまえばいいのだ。たとえば、何百年も前に〈死海文書〉が存在していたことにすればいい。
「時間を巻き戻す」と考えるのが乱暴なら、〈死海文書〉の制作年代を捏造したとしてしまえばいい。「〈死海文書〉が発見されたのは〈セカンドインパクト〉以降だけど、書かれたのは〈セカンドインパクト〉以前だよ」などと誤魔化すのは〈ゼーレ〉にとっては造作もないだろう(先に述べたように、人類は〈死海文書〉の実物を見ることはできないのだ)。
当ブログの考察にあった2つ目の“穴”はこのように埋めることができる。
生存競争の相手が10体だった理由とは?
3つ目の穴はさらに小さいもので、ここで言及する必要もない。ただ、あなたが疑問に思っているかもしれないので、軽くふれておこう。
ゲンドウはこう述べた。
いかなる手段を用いても
我々はあと8体の使徒を倒さねばならん
表を確認してみよう。
ゲンドウはこれまで倒した〈使徒〉2体と、これから倒すべき8体、合計10体の〈使徒〉を殲滅対象として認識している。これはすでに確認したとおり。
ところが、〈外典〉で規定する「殲滅対象=コンピュータのバグ」は合計8体。真実とゲンドウの認識にズレがあるのだ。
破綻。すべてのロジックが水泡に帰す——というわけでは当然ない。この問題を解決するのも容易だ。
これは単純に〈ゼーレ〉が偽りの真実を伝えていただけのことだろう。ほんとは8体なのに「〈使徒〉は10体と〈死海文書(正典)〉に書かれているよ」と誤魔化していたのだ。
なぜ、そんなことをする必要があったのか。〈ゼーレ〉がゲンドウを完全には信頼していないのはこれまで見てきたとおり。なにかを企んでいることを察知していた。自分たちが〈サードインパクト〉を起こす前にゲンドウがコトを始めないよう手を打っていたのだ。
〈使徒〉の殲滅はゲンドウにとっても必要だから、すべての〈使徒〉を倒すまで計画を実行することはできない(ゲンドウのセリフがそれを証明している)。
だが、実際には偶然が重なったこともあって、8体目の〈使徒〉を殲滅したのと同時に初号機が覚醒したのは、あなたもご存じのとおりだ。
「13番目の使徒に堕される」のほんとうの意味を解明
さて、長い長い回り道をしてきたが、ようやく元の道にもどってくることができた。いよいよ今回の考察のメインとなる「第1使徒の僕が13番目の使徒に堕とされるとは…」の謎を解明していこう。
〈死海文書外典〉は〈サードインパクト〉のあとも活かされた
これまで述べてきたように、〈死海文書(正典)〉は〈使徒〉の殲滅、〈死海文書外典〉は〈インパクト〉を目的としていた。
では、〈使徒〉を殲滅し、〈サードインパクト〉が起こったあと、2つの〈死海文書〉はどうなったのだろうか?
『破』のラストで〈第10の使徒〉は殲滅したので、〈サードインパクト〉までは下のようになる。
〈第3〉〜〈第10〉を殲滅している。
〈サードインパクト〉は、〈リリス〉(第11の使徒)と〈アダムス〉(第12の使徒)によって起こされた。〈リリス〉と〈アダムス〉からは「パターン青」が検知され、人類の敵(殲滅対象)となった。しかし、〈槍〉がニセモノにすりかえられていた。だから、完全には殲滅できなかった。
ここではこれまでの考察で述べてきたとおりなので、あなたにも異論はないだろう。
〈第11〉と〈第12〉に×印をつける。完全に殲滅はしていないので色を変えておく。
〈槍〉がニセモノだったことで、〈リリス〉と〈アダムス〉は本来の機能を発揮できなかった。わかりやすくいえば「バグった」のだ。表に反映してみよう。
〈外典〉の〈第11の使徒〉と〈第12の使徒〉を「コンピュータのバグ(殲滅対象)」とした。
ここで興味深い事柄がわかる。
先の考察では、〈第11の使徒〉(=リリス)が「コンピュータのバグ」でないことを懸命に説明した。だが、〈サードインパクト〉では、〈第11〉も〈第12〉も「バグ」、すなわち殲滅対象になってしまったのだ。
前回の考察では、『Q』において〈リリス〉が形象崩壊したのはゲンドウの仕業だが、これは〈ゼーレ〉の意向に逆らう行為であると述べた。
これらは、ゲンドウの策略の核心だから、〈ゼーレ〉の思惑には反するはず。にもかかわらず、〈ゼーレ〉はそのことに触れていない。
〈ゼーレ〉がゲンドウをとがめなかった理由は前回の考察で述べたとおり。さらに、ここでは別の理由も付けくわえることができる。つまり、〈フォースインパクト〉を発動する時点で、〈リリス〉は〈ゼーレ〉にとっても「殲滅対象」だったのだ。
そして、〈アダムス〉も〈リリス〉と同様に「殲滅対象」と考えると、合点のいく場面がある。
〈第12の使徒〉(=アダムス=Mark.06)が活動を再開すると、アヤナミレイの乗る〈Mark.09〉が〈第12の使徒〉の首をはねる。
これが命令
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
レイに命令したのは直接的にはゲンドウだろうが、本質的には〈ゼーレ〉であったと考えられる。
以上の考察から、〈死海文書外典〉は、〈サードインパクト〉の失敗により、〈第11の使徒〉と〈第12の使徒〉を殲滅対象にするように修正されたと考えられる。そして、その任は、ほかの〈使徒〉と同様にゲンドウたちにまかされたというわけだ。
ちなみに、〈死海文書(正典)〉はどうなったか? 〈第10の使徒〉を殲滅した時点で“お払い箱”になったのだろう。本来は、その時点で〈外典〉の目的である〈サードインパクト〉(=〈インフィニティ〉の創造)を達成するはずだった。だが、失敗に終わったのは、あなたもご存じのとおりだ。
ゲンドウは〈死海文書外典〉を利用した
「ゲンドウ君の狙い」について深堀りするため、『Q』の場面を分析していこう。
次のセリフに注目したい。
〈ゼーレ〉のモノリスの前でゲンドウと冬月が会話を交わす。
(冬月)
ゼーレは まだ
沈黙を守ったままか(ゲンドウ)
人類補完計画は
死海文書通りに遂行される
もはや 我々と語る必要はない『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
ここで言う「死海文書」とは、〈死海文書外典〉のことであろう(〈正典〉はお払い箱になっている)。では、「死海文書通りに遂行される」とはどういうことか?
〈第11の使徒〉と〈第12の使徒〉が『Q』の時点では、「殲滅対象」になっているのはすでに述べたとおり。だから、〈ゼーレ〉からその命令を受けていたと考えられる。
だが、ここでのゲンドウの真意は別のところにある。
表を整理してみよう。
〈正典〉の部分は除外する。〈第3の使徒〉〜〈第12の使徒〉は「殲滅対象」なので除外。〈第2の使徒〉は〈第11〉とおなじ〈リリス〉なのでやはり除外。
『Q』の時点で、〈外典〉に残った要素は、「〈インパクト〉のプレイヤー」と「〈インパクト〉による消去対象」だけとなる。具体的には、カヲルとリリン(人類)だ。
したがって、「死海文書通りに遂行される」とは、次のような意味になる。
〈フォースインパクト〉のプレイヤーによって、対象である人類が消去される
「そんなの、あんたがくりかえしがなり立てていたことじゃない?」
おっしゃるとおり。ここで着目すべきは、この〈外典〉のしくみをゲンドウが利用した点だ。
「ん? どういうこと?」
これまで考察してきたとおり、ゲンドウの目的は〈ガフの扉〉を開き、〈虚構A〉から脱出することだ。そのための手段として、第13号機の覚醒を画策していた。
第13号機をどうやって覚醒させたのか? 真実は依然として不明ではあるが、過去の考察では次のように述べた。
自分がリリンによって殲滅対象とされた。これは『死海文書(外典)』にもないシナリオだ。この事実はカヲルにとって相当のショックだったにちがいない。〈第13号機〉は、このマイナスの感情を読みとったのではないだろうか。
それに加えて「エヴァのなかに〈使徒〉が入っている」という禁じ手のような状況。これも相まって〈第13号機〉が覚醒に導かれたのだと思われる。
過去の考察では、「エヴァのなかに〈使徒〉が入っている」という状況の異様さまでしか考えがおよぼなかったが、今回はそこから一歩前へ進める。
先に述べたとおり——。
ゲンドウが〈ネブカドネザルの鍵〉を使ってシステムに干渉し、カヲルの持つ〈知恵の実〉を〈生命の実〉に変えた
つまり、
「第13号機のなかに〈生命の実〉が入っている」という異様な状況が覚醒の要件になっていた
のだと考えられる。
カヲルの持つ〈知恵の実〉が〈生命の実〉に変わったことで、副作用としてDSSチョーカーが「パターン青」を検知した。だが、おそらくゲンドウにとっては重要ではなかったはずだ。
「え? でも、カヲルを「パターン青」にするのが『ゲンドウ君の狙い』じゃないの?」
あなたが『エヴァ』初心者だったとしたら、そう思うかもしれない。無理もない。劇中の描写はたしかにそうなっている。さらにゲンドウのセリフもそれを裏書する。
だが ゼーレの少年を排除し
第13号機も覚醒へと導いた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
かりに「ゲンドウ君の狙い=カヲルをDSSチョーカーで排除すること」と考えたとしても、『Q』の物語が愉しめなくなることはない。実際、あなたも『Q』を堪能したはずだ。
しかし、少し頭を働かせると、「ゲンドウ君の狙い=カヲルをDSSチョーカーで排除すること」とするのはおかしいことに気づく。
カヲルがDSSチョーカーを自分の首に付けているのは、カヲル本人の意思によるものだ。まさかゲンドウから「DSSチョーカーを付けろ。話は終わりだ」などと命令されていたわけではあるまい。百歩譲って命令されていたとしても、カヲルがしたがうはずがない。「なにか企んでいるな」と意図がバレバレだ。
DSSチョーカーがカヲルの「パターン青」を検知することはゲンドウにとって問題ではなかった。だが、カヲルにとっては「自分がリリンによって殲滅対象」とされたことは深刻だった。先に述べたように、「〈第13号機〉は、このマイナスの感情を読みとった」のだ。
ゲンドウの目的はカヲルの「パターン」を「青」にすることではなかった。それは副産物にすぎない。しかし、そのことをカヲルは知らないので精神的な衝撃は大きかったと思われる。
ゲンドウのやったことは、あくまで〈死海文書外典〉のしくみを“悪用”して、みずからの計画を実行することだったのだ。
カヲルは〈インパクト〉の消去対象とされた
さあ、ゴールは目前だ。「第1使徒の僕が13番目の使徒に堕とされるとは…」のほんとうの意味とは?
といっても、答えはすでに出てしまっている。
結論だけをサクっと述べよう。
「第1使徒の僕が13番目の使徒に堕とされるとは…」
このセリフをこれまでの考察をふまえて言いかえると次のようになる。
「〈インパクト〉を起こすはずの僕が〈インパクト〉の消去対象にされるとは…」
ようするに、〈インパクト〉の主体が客体にされてしまった、というわけだ。
表に記せば下のようになる。
「そう……そういうことだったの……なるほどね……ふーん……」
あなたはこの結論を読んで、アタマでは納得しながらも、ココロのなかで煮えきらない想いを抱えていないだろうか? 高級料理店に入ったはずなのに、出てきた料理がコンビニ弁当の味だったような、そんな虚しい気持ち。
これまで積みあげてきた論理から、上の結論は必然。理性では否定できない。
「ここまで長い時間をかけて読みすすめてきたのに……ズバッと疑問を解決してくれると信じていたのに……」
お察しする。空虚な気分になっているのは、じつは当ブログもおなじなのだ。
虚しさの理由はわかっている。
ここまで、映画館のスクリーンとか、ブルーレイ・ディスクを再生するモニターに映し出された、表面的な描写について考察してきた。だから、論理的にはたしかに正しい。
しかしながら、物語をより深く味わうには、スクリーンやモニターの裏側にあるモノを探らなければならない。もっと登場人物のココロに寄りそわなければならない。
ここまで、その作業にはあえて力を入れてこなかった。論旨がぼやけるためだ。だから、アタマでは理解できるが、ココロが受けいれない、などという事態が起こる。
いま、あなたも当ブログも、そんな落とし穴にはまっているのだ。
もっとカヲルの気持ちに想いをはせてみよう。カヲルが〈知恵の実〉を持つ〈ヒト〉ならば、そのふるまいには、もっと深みがあるはずだから。
【コラム】もしも〈アダムス〉の魂がカヲルに入っていたら?
〈死海文書(正典)〉に記述された〈第1使徒〉について考察した際、「〈アダムス〉の魂がカヲルに入れられている」可能性を検討した。そこで述べたとおり、その考えかたに当ブログは消極的だ。
しかし、あえてその考えが正しいと仮定すると、興味深い“真実”が見えてくる。当然、これまでの考察と矛盾することになるが、「まとめ」に入る前の余興として考察を愉しんでみよう。
〈アダムス〉〈リリス〉の魂はエヴァのパイロットに
先に見たように、〈アダムス〉は4体。そのうちの1体の魂がカヲルに入っているとする。残りの3つの魂はどこに行ってしまったのか?
ここで、エヴァのパイロットに着目する。劇中で実際にエヴァを操縦したのは下の5人だ。
- レイ
- マリ
- アスカ
- シンジ
- カヲル
ここで大胆な仮説を立ててみる。
エヴァのパイロットに〈アダムス〉の魂が入れられた
というより、〈アダムス〉の魂が入れられているからエヴァを操縦できるのだ。
「え? でも数が足りないぞ」
〈アダムス〉が4体で、パイロットは5人。たしかに数は合わない。〈アダムス〉が5体いた、と仮定するのはたやすい。しかし、別の考えかたも可能だ。
あなたは〈アダムス〉に似た存在がほかにもいることをご存じのはず。そう。〈リリス〉だ。
「〈リリス〉の魂がエヴァのパイロットに入れられている」と聞いて、あなたはなにを連想するだろうか? もし旧劇場版を観ていたら、次の場面を思い出すのではないか。
レイが〈リリス〉に向かって言う。
ただいま
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』
©カラー/EVA製作委員会
旧劇場版では「〈リリス〉の魂がレイに入れられている」とされている。これを『新劇場版』にも援用するなら、〈アダムス〉4体+〈リリス〉1体の魂がエヴァのパイロット5人に入れられていると考えられる。すると、数はピタリと合う。
- レイ ←〈リリス〉の魂
- マリ ←〈アダムス〉の魂
- アスカ ←〈アダムス〉の魂
- シンジ ←〈アダムス〉の魂
- カヲル ←〈アダムス〉の魂
そうすると、当然ながら、レイやカヲルはもちろん、シンジやアスカ、マリもふつうの人間ではない、ということになる。
そのように考えると、いくつかの場面に合理的な説明がつけられる。
たとえば、『Q』においてアスカはミサトたちを〈リリン〉と呼ぶ。そこには「自分たちはリリン(人類)ではない」という含みがある。
ここじゃL結界密度が強すぎて
助けに来れないわ
リリンが近付ける所まで
移動するわよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
さらに、『Q』の中盤、冬月がシンジに真相の一部を打ちあける場面でこんなセリフを言う。
君も見ていたよ
記憶が消去されているがな『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
冬月によれば、シンジの記憶は(おそらく)人為的に消去されているらしい。ふつうは人の記憶を消すなんてことは簡単にはできない。これはシンジが「ふつう」ではない、つまり人ではないから、と考えられないだろうか。
そうなると、『序』の次のセリフにも注目せざるをえない。
「ヤシマ作戦」の準備が進められるなか、ゲンドウと冬月が話す。
(冬月)初号機パイロットの処置はどうするつもりだ?
(ゲンドウ)ダミープラグは試験運用前の段階だ
実用化にいたるまでは今のパイロットに
役立ってもらう(冬月)最悪の場合 洗脳か
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー
『ヱヴァ』の世界にある技術を用いれば、人を「洗脳」することなど造作もないのかもしれない。一方で、シンジが「ふつうの人」でないからこそ可能と見ることもできよう。
また、〈魂〉を部品のようにあつかえるとすると、次のセリフの解釈も変わってくる。
『Q』において、〈槍〉を抜く作業はアヤナミレイではもよいのでは? と疑問を投げかけるシンジにカヲルが答える。
(カヲル)
2本の槍を持ち帰るには
魂が2つ必要なんだ
そのための
ダブルエントリーシステムさ(シンジ)
それなら あっちのパイロットでも
いいんじゃないの?(カヲル)
いや リリンの模造品では無理だ
魂の場所が違うからね『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
「魂の場所が違う」とは、過去の考察では次の意味だと考えた。
ずばり、カヲルの言う〈魂〉とは、意志とか想いのことではないだろうか。
カヲルは、槍で世界を修復したい(させてあげたい)という強い想いがある。シンジも同様だ。しかし、アヤナミレイは「槍を抜く」と考えたとしても、それは命令だからで、強い意志によるものではない。
つまり、アヤナミレイでは〈第13号機〉を動かせないのではないだろうか(動かせたとしても槍は抜けない)。
〈魂〉は「意志とか想い」ではなく、旧劇場版と同様、「部品」だとする。そう仮定したら、「魂の場所が違う」とは、文字どおり、「〈リリス〉の魂はアヤナミレイではなく綾波レイに入っている」の意だと考えることもできるだろう。
エヴァのパイロットだけが“現実世界”に肉体を持っている
当ブログが提唱する〈メタフィクション(仮想現実)〉説では、『序』『破』『Q』で描かれている世界がまるごと「仮想現実」であったと考える。この点はあなたにいまさら説明するまでもないだろう。
この「仮想現実」について理解するために、映画『マトリックス』や小説『ループ』などを例に挙げた。しかし、両者には「仮想現実」のありかたに微妙に差があるのをあなたはご存じだろうか。
『マトリックス』は、“現実世界”において人々は機械につながれていて、人々が眠りながら見ている夢が“仮想現実”。一方、『ループ』は、“現実世界”がイコール“仮想現実”だ。前者は“現実世界”に自分の肉体が存在するのに対し、後者はどこにも肉体が存在しない。
では、『ヱヴァ』の“仮想現実”はどちらのタイプなのだろうか? 妄想に妄想を重ねる考察となるが、余興として考えてみる。
かりに、『ループ』タイプ、すなわち『ヱヴァ』の人々はデータのみの存在で、肉体は持っていない、としてみる。だが、エヴァのパイロットだけが『マトリックス』タイプ、つまり“現実世界”に肉体があるとしよう。
すると、『新劇場版』の謎を象徴する次のセリフ——。
今度こそ君だけは
幸せにしてみせるよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
これは、カヲルやシンジが“現実世界”にいるときに、なにかしらの“不幸”があり、それを踏まえたセリフだと妄想することもできる。
さらに——。
また3番目とはね
変わらないな 君は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー
これも『新劇場版』のおける謎の代名詞のようなセリフだ。先に次のようなリストを示した。
- レイ ←〈リリス〉の魂
- マリ ←〈アダムス〉の魂
- アスカ ←〈アダムス〉の魂
- シンジ ←〈アダムス〉の魂
- カヲル ←〈アダムス〉の魂
これに番号を付けてみる。
- レイ ←〈リリス〉の魂
- マリ ←〈アダムス①〉の魂
- アスカ ←〈アダムス②〉の魂
- シンジ ←〈アダムス③〉の魂
- カヲル ←〈アダムス④〉の魂
カヲルの言う「また3番目」とは、「〈アダムス〉で3番目だったのに、エヴァパイロットでもまた3番目」の意などと想像できる。
こうして見ると、「〈アダムス〉の魂がカヲルに容れられている」と考えるのも、悪くないように思える。しかし、当ブログはやはりその説を支持しない。
前述のように、『新劇場版』に〈魂〉と〈肉体〉を分離するシーンがない点がひとつ。そのほかに、「エヴァのパイロット=アダムス」を裏づける描写がまったくないことも理由に挙げられる。
たとえば、次のセリフを見てみよう。
『Q』において、第13号機が覚醒した様子を見てマリがつぶやく。
覚醒したみたいね
アダムスの生き残りが!『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
ここでの考察を前提とすると、マリにも〈アダムス〉の魂が容れられているのだが、このセリフはいかにも他人事っぽい。マリが真実を知らないのでそう発言したと考えることもできなくはないが、スッキリしないモノが残る。
以上のように、「〈魂〉と〈肉体〉は分離できる」設定をもとに愉しむのも一興ではあるが、それを前提に考察を進めるのは躊躇せざるをえないのが正直なところだ。
こんにちは。こちらの記事に死海文書についての私の考察を全てまとめたのですが、10までと11からでは全く性質が違うことが分かりました。
こちらの記事で言われていることと整合性があると思いますので、ぜひ一読して頂ければと思います。
ありがとうございます! のちほど拝見いたします。
どうぞよろしくお願いします。
突然、失礼いたします。
去年の8月に初めて新劇場版を観た新参者です。
それ以前のエヴァンゲリオンはまだ一部しか観ていません。
いよいよ、本日から「シン・エヴァンゲリオン」が上映ですね。
ぎゃふん工房さんのメタフィクション説は非常に興味深く、引きこまれました。
メタフィクション的な解釈はどんなものでも説明がついてしまう面もありますが、壮大で意外性のある構成が魅力ですね。
メタフィクション的な展開や演出がどのくらい直接的に表現されるのかはわかりませんが、自分の好みとしては、
エヴァンゲリオン全体がもともと、ある種のゲームの世界のようなもので、ルールに従うだけではなく、そのルール自体、世界自体もなんとかして、粘り強く変えていく、そういう意志の力を信じる、というようなメッセージを感じます。世界に従うばかりではなく、世界を変えていこうとする。
エヴァンゲリオンの登場人物の多くは、ゲームのnon-player characterであり、playerは実は使徒、ユイ、シンジ(ほか選ばれた少年少女たち)であってもよいかな、とふと思います。
いずれにしても庵野監督の描いた「結末」が楽しみです。
私もそんな展開になったらおもしろいなと思っています。
一方で、私の〈仮想現実〉説、あるいは一般的な〈パラレルワールド〉説や〈ループ〉説、『シン・エヴァ』ではそのいずれが“真実”かわからないような感じにしてほしい気もしています。
そのほうが映画を観終わったあとも、考察する楽しみが残されますからね。
コメント、ありがとうございました!
ありがとうございます。
人間が空想の中で神を作り、神は世界と人間を創造する。そういうフィクションと現実の円環、ループ。
様々な人がいれば、多数の空想世界が存在する。統一する神もあれば、そうでない神々もある。
人間は自ら創りだした、道徳・宗教・法律などに縛られる。現実とフィクションの混ざり合い。
映像、台詞、キャラクターで、それぞれ色々なエヴァ感や仮説を表現したり、自由に考察できてなおかつ「結末」に着地する。かなり難しいでしょうけど、庵野監督には期待してしまいます。
個人的な意見ですが、インパクトの中心(トリガー?)になる条件は、
新旧合わせて ①アダムスや”神”の子かどうか② 知恵の実と生命の実を両方持っているか
だと思います。
TVセカンド=①のアダム? 旧サードは②の初号機、 新セカンドは①の4体のアダムス、ニアサーは②の初号機、
サードは①のリリス、フォースは①の13号機が当てはまると思います。
「アダムス」「知恵の実と生命の実」あたりは、まちがいなさそうです。
「“神”の子」というのは興味深い視点ですね。あらためて劇中の描写などを検証してみたいところです。
コメントありがとうございました!