『ゴーン・ガール』が120%楽しくなる〈ネタバレなし〉の4ステップ

ホラー

主人公は幸せそうに夫婦生活を送っていたが、あるとき妻が突然いなくなる。誘拐? 殺人? 謎は物語が進むにつれて深まっていく──。これが本作のあらすじ。これ以上ストーリーに踏み込めば〈ネタバレ〉となり、本作をまだ観ていない人の楽しみを奪うことになる。しかし、この説明だけでは、作品の魅力はわからない。

今回は、真相に一切ふれずに本作の楽しみ方を伝える。そんな難題に挑戦してみよう。

[ステップ1]ジャンルを見極める

『ゴーン・ガール』

予備知識をまったく持たずに映画を鑑賞する場合、最初に確かめなければいけないのは、どんな心構えで作品に向き合えば良いかだ。本作はSFなのか、ホラーなのか。ファンタジー? それともコメディー?

冒頭で、夫婦の日常が映し出されるが、妻が忽然と姿を消す。

本作がSFなら、妻は異星人に連れ去られたのかもしれない。ファンタジーなら異世界に取り込まれたのかも。そんな想像ができる。

ストーリーが少し進むと、警察が到着し、捜査が始まる。そして、手がかりらしきものが次々と見つかっていく──。

この物語展開から、本作はミステリー・サスペンスだと推測できる。そのつもりで映画を楽しんでいけばいいわけだ。

[ステップ2]犯人を推測する

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ミステリーならば、観る側の関心は「犯人は誰か」という点に向く。そして、怪しそうな人物を探し始める。すると、いろいろと違和感がわいてくる。

まずは、妻。有名な絵本作家の娘で、本のモデルにもなっている。だから、ちょっとした有名人だ。「きわめて特殊」というほどでもないが、「いたって平凡」と言い切ってしまうのも抵抗がある。

次に、夫。主人公なのだから、順当に考えれば、彼の知らないことは観ている側もわからないし、彼が劇中につかんだ情報はわれわれの前に示されるはず。

ところが、本作の主人公にも、何か秘密が隠されているような気配が漂う。となると、観る側も全面的に主人公を信用するわけにはいかなくなる。もしかしたら、夫が“事件”を起こしているのでは? そんな疑念がわく。

いったん疑いの目を持つと、主人公、妻、妹、事件を捜査する警官、あらゆる登場人物が怪しく思えてしまう。

このあたりは、まさにミステリー・サスペンスの醍醐味だ。

[ステップ3]物語を振り返る

『ゴーン・ガール』

本作を見終わったら、ストーリーを振り返ってみる。ミステリー・サスペンスだから、何か問題が起こり、その問題が(どのような形であれ)解決する。つまり、物語のセオリーは守っている。

そう。すべては丸くおさまっている、表面的には。少なくとも、劇中に広げられた“風呂敷”は、きれいにたたまれているのだ。

しかし、何か煮え切らないものが残る人もいると思う。

それは、なぜなのか?

[ステップ4]結婚の“嘘っぽさ”を知る

『ゴーン・ガール』

本作は、結婚生活を描いたものだから、既婚者と未婚者とで、観終わったあとの感じ方が異なる。そんな意見もある。たしかに、結婚をしていない人は、本作の終わり方に対して、「え? それでほんとにいいの?」「それはおかしい」「常軌を逸している」などという感想を抱くかもしれない。そして、こう考えることでモヤモヤを解消させる。「なんだ。頭のイカれた人の話だったのか」「荒唐無稽」「お伽話」「リアルな話ではない」「自分の住む世界とは別次元の出来事だ」。

ここで、“未婚者”の当ブログが本作から読み取った「結婚の本質」を述べておこう。

結婚とは、そもそもが虚飾に満ちたもの。本作は、物語としておかしくもないし、常軌を逸しているわけでもない。登場人物の頭もイカれていない。とてつもなくリアルな結婚が描かれているのではないだろうか。

登場人物のとった行動は極端ではあるが(そして犯罪でもあるが)、その精神は既婚者であれば共感できること。未婚者なりにそう想像する。

そう思いながら結婚をしていない人が本作を観ると、「結婚なんてしたら、こんなにヒドい目に遭う」「まさに人生の墓場」と震えあがる。別次元の絵空事などではなく、まさに自分の住む街、隣の家で起こりうる出来事だからだ。つまり、最初から最後までミステリー・サスペンスとして観るわけだ

一方、実際に結婚生活を送っている人は、「あるある」「よくできた物語だ」「ウチも同じ」と、心の中でニヤリとしながら楽しむのではないか。つまり、最初はミステリー・サスペンスだと思っていたけど、じつは平日のお昼にテレビで放映しているホームドラマみたいな作品だとわかるのだ。

といったわけで、本作は、観る人が既婚者か未婚者かでジャンルが変わるという珍しいタイプの作品なのであった。

©2014 Twentieth Century Fox

夜見野レイ

夜見野レイ

このサイトでは、ホラー作品のレビューを担当。幼いころ、テレビで最初に観た映画がホラー作品だったことから無類のホラー好きに。ガールズラブ&心霊学園ホラー小説『天使の街』シリーズをセルフパブリッシングで執筆。ライターとしては、清水崇・鶴田法男・一瀬隆重・落合正幸・木原浩勝の各氏にインタビュー経験を持つ(名義は「米田政行」)。

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