『中間管理録トネガワ』は、福本伸行の代表作である『カイジ』シリーズのスピンオフ作品だ。『カイジ』の主人公を窮地に追いやる金融グループの幹部・利根川幸雄にスポットを当てる。
本作は、『カイジ』シリーズの読者はもちろん、『カイジ』を知らない人も楽しめることを保証する。
そんな本作の圧倒的魅力を探っていこう。
[圧倒的っ…1]『カイジ』の舞台裏がわかる
悪徳金融グループ〈帝愛〉に勤める利根川と部下の〈黒服〉。彼らはふだんどのような仕事をし、どんなトラブルに見舞われ、どういった悩みを抱えているのか。
本編『カイジ』の、そんな舞台裏が覗ける。本編を知る者には、ただそれだけでもページをめくる手は止まらない。
たとえば、本編でもっとも印象に残る〈限定ジャンケン〉。その恐るべきギャンブルがどのように生み出されたのか。ベールに包まれていた部分が明らかになる。まるでミステリーの最後のタネ明かしを見るように、好奇心をくすぐられるのだ。
[圧倒的っ…2]勤め人の悲哀に共感できる
もちろん、それだけでは『カイジ』を知らぬ者は楽しめまい。未見の人にも本作を勧める理由はこうだ。
本編で強敵に見えた利根川も、じつは完全無欠ではなく、弱点もあるひとりの人間……いや、あくまで組織に雇われている勤め人として描かれている。
だから、むしろクズ人間のカイジより、中間管理職の利根川にこそ、われわれは感情移入してしまう。
利根川の姿には本編を読んでいない者も共感してしまうはずだ。
[圧倒的っ…3]仕事の現場がドラマチック
本作『トネガワ』は、本編とは異なりギャンブルの話ではない。仕事、労働、お勤めの物語だ。『カイジ』で描かれるのはダイナミックな世界、非日常空間だが、本作はその舞台裏。そこで起こるトラブルは、同じようなことが現実世界に生きるわれわれに降りかかってもおかしくない。
いわば等身大の世界がそこにある。
となると、本作は地味な作品なのか? いや、そうではない。
利根川や〈黒服〉たちは、われわれとなんら変わらない人間として描かれているが、振る舞いや心理の描写は“『カイジ』流”だ。つまりディフォルメ。徹底的なディフォルメ。なんでもないことを一大事にしてしまう、そのおかしみ。
少しネタバレだが、一例を挙げよう。
手洗いとは
‥‥‥‥‥ただ泡を立て
水で流せば
いいという単純なもの
ではないっ‥!指と指の間に
爪の中‥‥!
果ては‥‥
手だけに
とどまらず
‥‥‥‥‥行けっ‥!
ギリギリ
‥‥‥!肘まで‥‥!
あまり
なめるなっ
‥‥‥‥!手洗いを
‥‥‥!『中間管理録 トネガワ②』
なじみのある仕事の現場もことごとくドラマチックな舞台と化す。その意味では非日常的空間。
そこがまさに『トネガワ』の醍醐味、圧倒的魅力なのだ。
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