『エイリアン:ロムルス』だけ観れば他のシリーズ作品は無視していい?【ポッドキャスト+テキスト】

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本作『エイリアン:ロムルス』さえ観ておけば、ほかの〈エイリアン〉シリーズ作品は観なくてもいいのか? もちろん、その答えはNO。どの作品も独自の個性と魅力があるのだから、しっかりと鑑賞すべきだ。今回のタイトルは言葉の綾。ポッドキャストを聞いていただければ(あるいはこの下の本文を読んでいただければ)、真意をわかっていただけるはず。つまり、そこに本作のおもしろさの秘密を解く鍵がある。

[ネタバレなしの映画レビュー。鑑賞後はもちろん、鑑賞前にもどうぞ]

既知の怪物に対する〈恐怖感〉と〈優越感〉

本作『エイリアン:ロムルス』は〈エイリアン〉シリーズの一作だから、当然ながら、エイリアンの基本的な設定は踏襲されている。その時点で、本作は面白さが保証されている。

というのは、過去のシリーズ作品を観ていれば、わたしたち鑑賞者は自分たちにホラー感情を与えるモンスター(本作の場合はエイリアン)がどんなヤツなのか、すでに知っているからだ。ヤツらがどれほど恐ろしい存在なのか、イヤというほど思い知らされている。

一方、劇中の人物たちにとってエイリアンは未知のものであるから、自分たちにふりかかる災厄について何も知らない。

彼・彼女たちが能天気にふるまっているなか、わたしたちは〈恐怖感〉から身構え緊張し、場合によっては心臓の鼓動が速くなり、手汗なんかもかくかもしれない。

劇中の人物たちと作品の鑑賞者たちとの感情のズレ。そこにおかしみが生まれるのだ。

ただ、この「感情のズレ」は物語が進むと様相が変わってくる。

劇中の人物たちが恐怖のどん底に突き落とされる一方で、鑑賞者であるわたしたちの安全は確保されており、高みの見物を決めることができる。いわば、彼・彼女たちに〈優越感〉をおぼえてしまう。そうなると、恐怖感もさることながら、むしろ期待感・ワクワク感を抱くようになる。

本作を観る者は、そんな相反するような感情が入り交じり、画面(スクリーン)に釘付けにされるわけだ。

登場人物に対する〈同情心〉と〈非情心〉

〈エイリアン〉シリーズに登場する人物たち、不運な目に遭う人たちは、社会の底辺で不遇をかこっていたり、過酷な現場で働いていたりする。言い換えれば、本シリーズはスーパーヒーローや強者が活躍する話ではない。1

本作も例外ではなく、虐げられる者が逆転を狙って奮闘するのがストーリーの軸となっている。だから、登場人物は(ふるまいは行儀がいいとはいえないものの)悪いヤツではないし、〈同情心〉からつい応援したくなる。

過去のシリーズ作品でも主人公は社会の底辺の人たちといえるが、必ずしも彼・彼女たちに肩入れする感情は抱かなかったように思う。登場キャラクターに寄り添いたくなるのは、本作の特徴かもしれない。

登場人物を応援する一方で、対峙するのは恐るべきエイリアンだけに、うまく事が運ばないだろうとも容易に予想できる。エイリアンによって当初の目論見がはずれるような展開にならないとむしろ困る。大いに恐ろしい目に遭ってほしい。そんな〈非情心〉ともいうべきものも生まれる。

本作は、そんなアンビバレントな想いを抱きながら物語展開を追うことになる。その点も本作を魅力的にしている要素のひとつだ。

過去のシリーズ作品に対する〈憧憬〉と〈敬意〉

過去の〈エイリアン〉を観ていれば、本作の鑑賞中に「あっ!」と思わされる場面に頻繁に遭遇する。過去作への〈憧憬〉によるオマージュと思われる要素がふんだんに盛り込まれているからだ。

ただ、本作はふつうのオマージュとは少し異なっているようにも思える。

当ブログは映画制作の素人である点をお断りしたうえで述べると、ふつう映画の制作陣であれば、みずからの個性やアイディアを主軸に物語を組み立て、そこに過去作の要素をちりばめていくのではないだろうか。つまり、自作が主(メイン)、過去作が従(サブ)だ。

しかし、本作は(やはり素人の妄想になるが)、まず過去作に〈敬意〉を払いつつ“おいしい”ところを抽出し、物語を構築。そこに自分たちの個性やアイディアを申し訳ていどにまぶしたのではないか。つまり、過去作が主(メイン)、自作が従(サブ)といった趣だ。

過去作の“おいしい”ところを寄せ集めているのだから、つまらないものになるはずがない。傑作になることは最初から約束されている。そんな戦略だったのではないか。

だからこそ、今回のタイトルを、本作を観れば「他のシリーズ作品は無視していい」とした。過去作の要素は本作で観られるからだ。ただ逆に考えれば、過去作を観ていれば本作はスルーしてもいいことになるが……。

もちろん、本作でも過去作とは異なる味わいを堪能できるのだから、鑑賞する価値があることは言うまでもない。

©2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

  1. 『エイリアン2』は例外のように一見おもえる。登場人物は武装した兵士たちだ。しかし、劇中の展開をご覧になればわかるとおり、“武装解除”を余儀なくされる。また、兵士たちも「過酷な現場で働いている」点に変わりはないだろう。 ↩︎
ぎゃふん工房(米田政行)

瑞乃書房株式会社 代表取締役。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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〈ぎゃふん工房〉は瑞乃書房株式会社 代表取締役 米田政行のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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