前回までは、謎解きといっても作品の基本的な設定を確認しただけだ。本格的に考察するための準備にすぎない。
今回は、謎解きの本題ともいえる『Q』における〈フォースインパクト〉の真相を探っていこう。
まず、前回の結論をおさらいしよう。
〈ゼーレ〉は〈メタフィクション〉の世界の人物である。
〈ゼーレ〉は〈ネルフ〉に〈使徒〉というウィルスの駆除をさせている。
ゲンドウの目的は虚構世界から〈ゼーレ〉のいる“現実世界”へ行くことである。
本記事は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開前に書かれたもので、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序/破/Q』のネタバレが含まれています。また、コメント欄にて『シン・エヴァ』の内容に触れている場合がありますので、あらかじめご了承ください。本編鑑賞後の感想はこちら→『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[レビュー編]なるべくネタバレなし感想と暫定的答え合わせ
カヲルの夢とその顛末
『Q』の終盤に起こった〈フォースインパクト〉は、渚カヲル・碇ゲンドウ・〈ゼーレ〉という三者三様の思惑が交錯し、なおかつその詳細が語られない。まさに「シッチャカメッチャカな状況」。その真相を読みとくのは困難を極める。
ただ、謎だらけとはいえ、その一部始終が描写されているため、考察の材料はそろっているともいえる。
手始めにカヲルの思惑から見ていこう。
カヲルは、自分たちの行動をあらかじめ次のように説明している。
カヲルは2本の槍と〈エヴァンゲリオン第13号機〉があれば世界を修復できると言っている。
碇シンジ君
君の希望はドグマの爆心地に残る
2本の槍だけだ
それが補完計画発動の
キーとなっている
僕らでその槍を手にすればいい
そうすれば ネルフも——
フォースインパクトを
起こせなくなるし
第13号機とセットで使えば
世界の修復も可能だ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
このセリフから、カヲルはネルフ(ゲンドウ)の意向に逆らう腹づもりであることがわかる。カヲルたちがやろうとしたのは「世界の修復」であり、そのために槍が必要だった――。
ここまでは問題ない。だが……。
カヲルは自分たちが槍を手にしてしまえば、ネルフが〈フォースインパクト〉を起こせなくなると言っている。ここで、多くの人が疑問に思うはずだ。
――「世界の修復」には〈フォースインパクト〉が必要なのでは……?
なぜならば、そもそも世界がこのような状態になったのは、〈インパクト〉が原因のはずだからだ。
カヲルはこの惨状は〈サードインパクト〉のせいだと言っている。
君が初号機と
同化している間に起こった——
サードインパクトの結果だよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
変わり果てた世界を再び変えるには、それこそ天変地異のような事象、つまり〈インパクト〉が必要のはずだ。〈インパクト〉を起こさずに、どうやって世界を修復するつもりなのだろうか?
その疑問を解消するために、このときカヲルが使おうとしていた道具が何だったのかを検証してみよう。
〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉だけでは世界は変えられない
カヲルたちが世界の修復に用いようとしたのは「2本の槍」だ。これは〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉と呼ばれている。
世界の修復には〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉という対の槍が必要だという。
カシウスとロンギヌス
対の槍が必要なんだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
「2本の槍」とは、セントラルドグマにある槍のことでまちがいない。
〈リリス〉と〈エヴァンゲリオンMark.06〉にそれぞれ槍が刺さっている。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
ただし、ご存じのとおり、この2本の槍は〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉という別種の槍ではなく、実際は2本とも同じものであったらしい。
カヲルは槍の形状が同じことに気づき、不審感を募らせる。
おかしい 2本とも
形状が変化して そろっている『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
論理的には、両方とも〈ロンギヌス〉だったか、あるいは両方〈カシウス〉だったかのいずれかになるが、どちらだろう?
じつは『新劇場版』において槍について語っているのはカヲルしかおらず、セントラルドグマにあった槍はどちらだったのか断定できないのだ。
とはいえ、旧劇場版を観た者なら、あの槍にはなじみがあるはずだ。そう。〈ロンギヌス〉だ。
旧劇場版では零号機が「ロンギヌスの槍」を〈使徒〉に向かって投擲する。
『新世紀エヴァンゲリオン』 第弐拾弐話「せめて、人間らしく」
©カラー/EVA製作委員会
〈第13号機〉が手にした2本の槍も上の「ロンギヌスの槍」と同じ形をしている。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
セントラルドグマにあった槍は2本とも〈ロンギヌス〉だったと断定してよいだろう。
では、もう一方の〈カシウス〉とは? おそらく『破』のエンドロールのあと、〈Mark.06〉が〈初号機〉に投げつけた槍と考えられる*1。
*1:[2019年1月21日追記]読者の方から「この槍は〈カシウス〉に擬態した〈ロンギヌス〉である」との説を教えていただきました。「『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の謎を本気で解明する[その5]あれから14年たってるってことよ」のコメント欄を参照。
〈初号機〉に〈カシウス〉が刺さり〈サードインパクト〉が中断する。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
フィルムだと形がわかりづらいが、劇場用パンフレットの表紙に〈カシウス〉とおぼしき槍が描かれている。
明らかに〈ロンギヌス〉とは形が異なる。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』劇場用パンフレット
©カラー
パンフレットをどこまで信用してよいかという問題はあるが(公式の資料でさえ疑うべきなのが『エヴァ』だ)、ほかに槍は登場していないので、〈カシウス〉と断定してよいだろう。
さて、この〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉はどんな働きを持っているのだろうか?
〈カシウス〉は先に述べたように〈サードインパクト〉を止めるために使われている。
一方、〈ロンギヌス〉は、これも先に確認したように〈リリス〉に刺さっていた。
『序』においても〈リリス〉に刺さった〈ロンギヌス〉が確認できる。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー・GAINAX
また、『Q』で〈フォースインパクト〉を止めるのにも使用されている。
〈第13号機〉が2本の〈ロンギヌス〉を胸に刺している。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
これらの事実から、〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉は、エヴァや〈リリス〉の活動を停止させる働きを持っていると考えられる。
しかし、ここでまたしても疑問が生じる。
カヲルは2本の槍で「世界を修復する」と言っている。つまり、槍に「活動を停止させる」といったマイナスではなくプラスの価値を見出している。
ということは、〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉は、それぞれを単独で使うとエヴァなどの活動を停止させる働きをするが、対の2本で使用すると別の機能を持つと想像できる。たとえば、2本が合体して別の槍に変化し、〈インパクト〉を止めるのではなく、なにかの能力を向上させたりできるのかもしれない。
では、カヲルは何の能力を向上させようとしたのか?
真っ先に思いうかぶのは〈第13号機〉だ。なにせ「第13号機とセットで使えば」と言っており、可能性はもっとも高い。
しかし、これはのちに述べるように、ゲンドウや〈ゼーレ〉の思惑を考慮すると矛盾が生じる。よって、別の可能性を探りたい。
槍を使って能力を引き出し、世界を修復できそうな存在はほかにないか?
前回、この世界はコンピューターのシステムであると結論づけた。そして、システムを制御しているモノについても述べた。それはなんだったか?
そう。〈リリス〉だ。システムを司るモノならば、〈インパクト〉を起こさずに、世界を元の状態にもどすことができるのではないだろうか?
ただ、カヲルが〈リリス〉を指して「だったモノ」「骸」と言っているのは、いささか気になる。「もう道具としての用をなさない」というふうにも聞こえるからだ。
(シンジ)
これがリリス?(カヲル)
だったモノだ
その骸だよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
しかし、それは「槍が刺さった状態では」という意味だと解釈できないわけではない。槍を抜けば〈リリス〉は「骸」ではなくなり、活動を再開できる。「だからこそ槍が重要」と言いたかったのではないか。
実際は、セントラルドグマにあったのは2本の〈ロンギヌス〉だったために、カヲルの夢は潰えてしまった。なぜ2本とも〈ロンギヌス〉だったのかは機会をあらためて考察したい。
このときカヲルがシンジに自分たちがやろうとすることをもっと丁寧に説明していれば惨事は防げたはずだが、この問題もあらためて検証する。
[2019年2月10日追記]カヲルのやろうとしていた「世界の修復」とは、時間を巻き戻すことだった可能性もある。巷の〈ループ〉説に似ているが、ある時点Aから別の時点Bに飛ぶのではなく、映像を逆再生するようなイメージだ。そう考えると、〈リリス〉はいわば“時計”の本体で、〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉は(合体して融合するというより)それぞれ時計の“短針”と“長針”の働きをするのではないか。だからこそ両者は「対」になっており「セット」で使わなければならないわけだ。ちなみに、旧劇場版の世界観では「時計の針はもとにはもどらない」。『Q』においてカヲルの願望が実現しなかった理由はそこにあると想像できる。
カヲルが誤解していたゲンドウの思惑
カヲルはゲンドウに一杯食わされたわけだが、そもそもカヲルはゲンドウの思惑をどのようなものだと誤解していたのだろうか?
人類(リリン)の目的は〈人類補完計画〉だとカヲルは思っていただろうから、ゲンドウの目的もそうだと考えていただろう。
〈第13号機〉を用意したのはゲンドウなのだから、それにシンジと乗ることはゲンドウの要請であったはずだ。〈第13号機〉は「ダブル・エントリー・システム」であることを考えると、セントラルドグマの2本の槍を抜くことも、ゲンドウの命令に含まれていたにちがいない。
ということは、ネルフ(ゲンドウ)の〈フォースインパクト〉に必要なのは、〈第13号機〉と〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉だ――とカヲルは考えただろう。
カヲルは「ダブル・エントリー・システム」について「槍を持ち帰る」ために必要だと説明している。
2本の槍を持ち帰るには
魂が2つ必要なんだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
〈第13号機〉でセントラルドグマに降りるのは、〈カシウス〉と〈ロンギヌス〉を持ち帰るためであって、その場で〈フォースインパクト〉を起こすためではない――カヲルはそう踏んだはずだ。
なぜならば、もしゲンドウがセントラルドグマでコトを起こす(とカヲルが思っている)なら、ゲンドウの計画とカヲルの思惑とのちがいがなくなってしまう。そうなると、カヲルがゲンドウを出しぬくことはできないだろう。
では、カヲルがゲンドウの企みを次のように考えていた可能性はあるだろうか?
ゲンドウは〈第13号機〉〈カシウス〉〈ロンギヌス〉に加えて〈リリス〉を道具として使って〈フォースインパクト〉を起こす。
じつはこれにも問題がある。
ゲンドウが使おうとしている道具がカヲルと同じになってしまい、カヲルがどうやって〈フォースインパクト〉を防ごうとしているのかがわからなくなるのだ。自分たちが槍を手にしてしまえば、ネルフが〈フォースインパクト〉を起こせなくなる、というカヲルの説明にやや矛盾が生じてしまう。
以上より、カヲルが想像したゲンドウの計画には、〈第13号機〉〈カシウス〉〈ロンギヌス〉〈リリス〉とは別のなにかが必要となる。
まずは〈第13号機〉で2本の槍を持ち帰り、槍を“なにか”に使用する――これがカヲルの考えたゲンドウの計画だろう。実際、ゲンドウからそう説明されている可能性もある。
その“なにか”はいまのところ不明だ。〈アダムス〉がどこかに隠されているのかもしれないし、〈アダムスの器〉である〈Mark.09〉に刺すのかもしれない。あるいは、まだ劇中に登場していないモノということもありえる(ちなみに、槍を刺す行為そのものは〈第13号機〉が担う、とカヲルは思っていたのだろう)*2。
*2:[2019年5月6日追記]“なにか”は〈ヴンダー〉かもしれない。可能性はかなり低いが検討の余地はありそうだ。
ゲンドウは虚構世界からの脱出を試みた
セントラルドグマにあった槍が2本とも〈ロンギヌス〉だったことを知ったカヲルは、自分が大きな誤解していたことを悟る。
そうか!
そういうことか… リリン!『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
映像では、カヲルが「リリン」と言うところでゲンドウの姿が映し出されるので、ここでいう「リリン」とはゲンドウのことだろう。つまり、ゲンドウの真意に気づいたということだ。
では、ゲンドウの真意とはどんなものだったのだろう?
前回、ゲンドウの目的について次のような結論を出した。
ゲンドウの目的は『新劇場版』の虚構世界から〈ゼーレ〉のいる現実世界へ行くことである
つまり、ゲンドウは〈ゼーレ〉の言う〈人類補完計画〉など行なうつもりはなかった。カヲルが想像したように〈カシウス〉と〈ロンギヌス〉を“なにか”に使うこともない。おそらく槍そのものがゲンドウには無用の長物だったのだ。
ゲンドウの真の目的は〈第13号機〉の覚醒だった。これこそが〈フォースインパクト〉の最大のポイントなのだ。
[2019年8月18日追記]ゲンドウにとって〈槍〉にどんな意味があるかは、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト」でさらにくわしく考察している。
カヲルを〈使徒〉にすれば〈第13号機〉が覚醒する
〈第13号機〉は覚醒した。まずこの点を確認しておこう。
だが ゼーレの少年を排除し
第13号機も覚醒へと導いた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
では、なぜ〈第13号機〉は覚醒したのか? この疑問を解くのは簡単ではない。覚醒の前にさまざまな出来事が起こっており、どれが覚醒の条件になっているのかを見極めるのは至難のワザだ。
結論を言えば、当ブログは「カヲルが第13使徒に堕とされた」ことが覚醒に導いたと考えている。
カヲルは「13番目の使徒に堕とされた」ことに気づき、悔しさをにじませる。
まさか第1使徒の僕が
13番目の使徒に堕とされるとは…『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
このとき真希波・マリ・イラストリアスも「ゲンドウ君の狙い」に気づいたようだ。
カヲルが首につけていた〈DSSチョーカー〉も13番目の〈使徒〉と認識する。
↓
DSSチョーカーにパターン青?
ないはずの13番目?
ゲンドウ君の狙いはコレか!『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
では、第1使徒であるカヲルが第13使徒に堕とされるとは、具体的にどういうことか?
じつは、これも解明が困難をきわめる謎のひとつだ。
この一連のシーンをくりかえし観直してみたが、なにか特別なことが起こっているようには見えない。劇中に描かれているのは、先のカヲルのセリフと〈DSSチョーカー〉の反応だけだ。
ということは……?
そう。まさにそれこそが真実なのではないか? つまり、「ゲンドウ君の狙い」とは、カヲルを13番目の〈使徒〉であると認識させることだったのだ。
だれに?
まさしくカヲル自身に。
どうやって……?
〈ネブカドネザルの鍵〉を使って。
ゲンドウは〈ネブカドネザルの鍵〉でシステムに干渉した
〈ネブカドネザルの鍵〉は、『破』において、加持リョウジがユーロ支部から極秘裏に持ちかえったアイテムだ。
加持はゲンドウの命令で〈ネブカドネザルの鍵〉を盗み出した。
(加持)
これがお約束の代物です(中略)
(ゲンドウ)
ああ 人類補完の扉を開く――
ネブカドネザルの鍵だ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
〈人類補完計画〉に関わる重要なアイテムでありながら、その後まったく登場せず、どこかで使われているような明確な描写はない。
〈ファイナルインパクト〉に備えてゲンドウが隠しもっている――その可能性もあるが、当ブログは、〈フォースインパクト〉において、カヲルを〈使徒〉にするために使用した、と見ている。
では、どのタイミングで使われたのだろう?
『Q』において、ゲンドウと冬月が会話をするシーンで、ゲンドウの前に〈ネブカドネザルの鍵〉の入ったトランクが置かれている。
『Q』のトランク。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
『破』で加持が持ちかえったトランク。『Q』と同じものだ。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
また、〈フォースインパクト〉の直前、かつて発令所だった場所で〈リリス〉のものとおぼしき生首を前にゲンドウが立っているシーンがある。そのとき、わずかな時間だが、〈ネブカドネザルの鍵〉の入ったトランクが映し出される。
ゲンドウがトランクを手にしている*3。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
*3:[2019年1月26日追記]画コンテでは、トランクではなく〈ネブカドネザルの鍵〉そのものを手にしたカットになっている。
さて、ここからは、注意深くシーンを確認していく必要がある。
〈フォースインパクト〉が始まる直前、〈リリス〉の首がわずかに反応する。
〈リリス〉の目から、血のような液体(LCL)が流れている。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
このあと、シンジは〈リリス〉に刺さった槍を抜く。つまり、〈リリス〉が反応するのは、槍を抜く前なのだ。
したがって、〈リリス〉の“流血”は、シンジの行為によってではなく、ゲンドウの働きかけであると考えざるをえない。
では、なぜ〈ネブカドネザルの鍵〉で〈リリス〉に反応させることができるのか? そのヒントは加持のセリフだ。
〈ネブカドネザルの鍵〉のことを加持はこう表現する。
予備として保管されていた
ロストナンバー
神と魂を紡ぐ 道しるべですね『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
「ロストナンバー」、つまり〈ネブカドネザルの鍵〉はなにかが欠番になったものというわけだ。なにかとは?
『エヴァ』において「ナンバー」が付けられるものとして、エヴァや〈使徒〉、エヴァ搭乗者などがありえるが、当ブログは〈ゼーレ〉のモノリスではないかと考えている。
モノリスにも番号が振られてる。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
モノリスは、システムの外側にいる〈ゼーレ〉と内側にいるゲンドウたちが会話をするための通信装置である——と前回は推理した。
〈ネブカドネザルの鍵〉はモノリスの部品なのではないだろうか? 〈ネブカドネザルの鍵〉が通信装置の一部であるならば、システムに干渉できても不思議ではない。加持の「神と魂を紡ぐ」という表現もそれを連想させる。
すなわち、ゲンドウが〈ネブカドネザルの鍵〉を使ってシステムに干渉し、〈リリス〉を完全に停止させた、というのが真相ではないだろうか。
もっといえば、本来であれば槍を抜けば〈リリス〉は活動を再開するはずだったのだろう。しかし、ゲンドウのこの行為によって、再開するどころか「形象崩壊」してしまったわけだ。
ゲンドウがなぜ〈リリス〉を亡きモノにしたのかはのちほど考察する。
ちなみに、これは妄想だが、ゲンドウの計画に槍は使わないが、「抜く」ことは必要だったと考えられる。槍が刺さったままでは、〈リリス〉を形象崩壊させることはできないのではないだろうか。
[2020年5月2日追記]「エヴァ」アプリ内で配信された『Q』のオーディオコメンタリーで、次のような発言があった。シーンは、ゼーレのモノリスの電源が落とされていくところ。
カラー2号機「白くなる前に脳が……」
小さい人「そうそう」
石森大貴「ゲヒルンっぽい感じかな」
高橋洋子「そういうとこよね。すごいなと思っちゃう。瞬きする暇もない」
カミムラ「〈ネブカドネザルの鍵〉の中って、あれと似たようなデザインだよね?」
小さい人「あはは……」
カラー2号機「そうでしたっけ?」
小さい人「あはは……」
カミムラ「あ、逆か……脳みそがないのか、ネブカドネザルのほうは……」
小さい人「いよいよ、もう『魂のルフラン』めっちゃかかりますよ、たぶん」
以上のやりとりから、やはり〈ネブカドネザルの鍵〉はモノリスに深く関連すること、さらに、この設定が『シン・エヴァ』で活かされることが想像できる(「魂のルフラン」はネタバレや問題のある発言があったときにかかる)。
〈使徒〉とは世界に存在してはならぬもの
ゲンドウは〈ネブカドネザルの鍵〉を使い、システムに干渉して、カヲルを〈使徒〉と認識させた。
これにどんな意味があるのだろうか?
そもそも相手が〈使徒〉かどうかをだれがどうやって判定するのか? カヲルが〈DSSチョーカー〉を自分の首に付けたときには、なにも反応していない。「第1使徒」というのであれば、このときに〈使徒〉と識別されてもよさそうだが、実際はそうなっていない。
また、『破』の時点では、ゲンドウたちですらカヲルの存在を知らなかったようだ。
月面にいたカヲルを見て冬月が不思議がっている。
↓
ヒトか? …まさかな
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
前回も考察したように、〈使徒〉については『死海文書』に書かれているものの、ゲンドウたちですら、その詳細はわからないということだろう。
つまり、相手が〈使徒〉かどうかは便宜的なものということだ。
第1使徒であったカヲルが13番目の使徒に堕とされたことの意味は、ようするにカヲルが殲滅対象になった、ということだ。逆にいえば、いままではそうではなかったわけだ。
マリの言うところの「ゲンドウ君の狙い」とは、カヲルをあらためて殲滅対象としての〈使徒〉にする、というものだったのだ。
ここからは妄想になるが、おそらく〈ゼーレ〉がこの世界(システム)を創ったときに最初に生まれた“人間”がカヲルだったのかもしれない。カヲルはなぜかこの世界がシミュレーションであることを認識していた。いわばシステムのバグであり(だから「第1使徒」なのだろう)、本来なら排除すべき対象なのだが、それはそれで利用価値があると考え、生かしておいたのだろう——いや、前回も考察したように、そもそも〈使徒〉であるカヲルの殲滅は〈ゼーレ〉には不可能だったにちがいない。
では、カヲルを殲滅対象にすることでどんな効果が生まれるのだろうか? その鍵を握るのは〈第13号機〉だ。
〈第13号機〉はゼーレ型+ネルフ型のハイブリッド機体
覚醒したとおぼしい〈第13号機〉を見て、マリがこんなことを言っている。
〈第13号機〉は〈アダムス〉に関連する機体のようだ……。
覚醒したみたいね
アダムスの生き残りが!『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
前回、〈Mark.06〉と〈Mark.09〉は〈アダムス〉に装甲を付けて造られた機体だと述べた。このマリのセリフから考えると、〈第13号機〉の中身も〈アダムス〉であると想像できる。
とはいえ、そう単純な機体でもないようだ。
『破』において、月面で〈Mark.06〉を見たゲンドウがこんなことを言っている。
Mark.06の建造方式が
他とは違う『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
ゲンドウは、〈Mark.06〉の造りかたが〈初号機〉などとはちがうと言っている。
しかし、〈アダムス〉のような巨人に装甲を付けるのは、旧劇場版を知る者にとっては、なじみのあるエヴァの造りかただ。
となると、むしろ〈初号機〉など『序』や『破』の〈ネルフ〉が使っている機体のほうがわれわれの知らない建造方式なのではないか? という想像が働く。
とはいえ、具体的にどういう方法で造られたのかは劇中で触れられていない。
ここで注目したいのは、〈ネルフ〉のエヴァの建造方式ではなく、むしろ機能だ。
『破』の終盤、〈初号機〉が覚醒したとき、リツコがこう言っている。
ヒトの粋に
とどめいておいたエヴァが——
本来の姿を取り戻していく
純粋にヒトの願いをかなえる…
ただそれだけのために『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
やや想像は飛躍するが、〈ネルフ〉のエヴァには搭乗者の願いや意志を読みとる機能があるのではないか。もっと妄想を膨らませれば、搭乗者が頭で思うだけで操縦できるのではないだろうか。
『序』で初めてシンジが〈初号機〉に乗ったとき、リツコが次のようにアドバイスする。
今は歩くことだけを考えて
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー・GAINAX
これは旧劇場版にもあるセリフで、操縦の心構えを意味しているかと思われたが、じつは操縦法そのものなのではないか。つまり、頭で思うだけでエヴァは動くのだ。
ようするに、『新劇場版』には、〈アダムス〉に装甲を付けたゼーレ型と、乗る者の意志で動かせるネルフ型の2種類のエヴァが登場していると考えられるのだ(ゼーレ型は搭乗者の意志だけでは動かせず、ネルフ型は〈アダムス〉は無関係ということになる)。
そして――。
〈第13号機〉は、〈アダムス〉がなかに入っているという意味でゼーレ型であり、搭乗者の意志で操縦するという意味でネルフ型の両方の特徴を持つハイブリッド機体なのではなかろうか?
『Q』の描写を確認してみよう。
2本の槍を抜くために2人の搭乗者が必要だったはずだが、途中でカヲルは操作ができなくなっている。
カヲルのインテリアがうしろに移動し操作不能になる。
↓
操作系が…
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
槍を抜く段には、シンジはもはやレバーを動かしていないように見える。動かしていたとしても、ほとんど意味はなく、「槍を抜く」というシンジの強い意志こそが〈第13号機〉の原動力になっているのだと思われる。
〈魂〉とは人の願いや想いのこと
少し横道にそれるが、そのように考えると、ひとつの謎を解くことができる。
〈第13号機〉で槍を抜く作業は、アヤナミレイには無理だという。
(カヲル)
2本の槍を持ち帰るには
魂が2つ必要なんだ
そのための
ダブルエントリーシステムさ(シンジ)
それなら あっちのパイロットでも
いいんじゃないの?(カヲル)
いや リリンの模造品では無理だ
魂の場所が違うからね『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
カヲルのこの言葉を聞いて疑問に思った人もいるはずだ。
アヤナミレイがふつうの人間でないとしても、〈使徒〉であるカヲルよりはまだ人間に近いのではないか? しかし、カヲルは槍を抜くことができるが、アヤナミレイには無理だという。
アヤナミレイにはなくて、カヲルは持っている特徴とは?
ずばり、カヲルの言う〈魂〉とは、意志とか想いのことではないだろうか。
カヲルは、槍で世界を修復したい(させてあげたい)という強い想いがある。シンジも同様だ。しかし、アヤナミレイは「槍を抜く」と考えたとしても、それは命令だからで、強い意志によるものではない。
つまり、アヤナミレイでは〈第13号機〉を動かせないのではないだろうか(動かせたとしても槍は抜けない)。
冬月がシンジに真相の一部を話しているシーンでは、次の表現に着目したい。
だから今
碇は自分の願いをかなえるために
あらゆる犠牲を払っている
自分の魂もだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
冬月はゲンドウが自分の〈魂〉を犠牲にしていると語っている。この〈魂〉も「強い想い」と解釈するとすっきりする。
旧劇場版において〈魂〉は、人間を構成する部品のひとつのように扱われていたが、『新劇場版』では設定が変わっていると見るべきだろう。
〈第13号機〉はカヲルの〈魂〉を増幅した
本題にもどろう。
〈第13号機〉がネルフ型の特徴を合わせ持つということは、〈初号機〉と同じ機能を備えていると考えられる。
『破』で〈初号機〉が覚醒したときは、搭乗者であるシンジの「レイを救いたい」という強い想いを反映したのだろう。これはいわばプラスの感情を読みとったわけだ。
一方、『Q』の〈第13号機〉の場合はどうだろう?
自分がリリンによって殲滅対象とされた。これは『死海文書(外典)』にもないシナリオだ。この事実はカヲルにとって相当のショックだったにちがいない。〈第13号機〉は、このマイナスの感情を読みとったのではないだろうか。
それに加えて「エヴァのなかに〈使徒〉が入っている」という禁じ手のような状況。これも相まって〈第13号機〉が覚醒に導かれたのだと思われる。
[2020年4月20日追記]カヲルが「13番目の使徒に堕とされた」点については、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その4]13番目の使徒に堕とされる」で徹底的に考察している。
〈疑似シン化形態〉を超えると世界を制御できる
さらに、〈第13号機〉の覚醒は〈初号機〉のそれとは異なる。これも重要なポイントなので確認しておこう。
覚醒した〈第13号機〉を見て式波・アスカ・ラングレーがつぶやく。
こいつ
疑似シン化形態を超えている『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
「擬似シン化形態」とはなにか? 『破』で〈初号機〉の覚醒した状態を指すらしい。劇中では明言されていないが、公式の設定だ。
「エヴァ疑似シン化第1覚醒形態」や「エヴァ疑似シン化第2覚醒形態(通称 光の巨人)」などとされる。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録集』
(株式会社カラー)
〈第13号機〉や〈初号機〉が覚醒した場合、見た目が通常とは異なっているから、それらが〈疑似シン化形態〉、もしくはそれを超えた状態なのだろう。
〈初号機〉が覚醒し〈疑似シン化形態〉に。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
〈第13号機〉が覚醒し〈疑似シン化形態〉を超えた状態に。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
〈疑似シン化形態〉がそもそもなにかわからないため、それを「超えた」状態も意味不明だ。
ただ、いずれもエヴァの頭上に同心円状の模様が現れるのは共通している。
〈初号機〉が〈疑似シン化形態〉となり同心円状の模様が現れた。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
〈第13号機〉が〈疑似シン化形態〉を超えた状態になり、やはり同心円状の模様が出現した。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
そして、この同心円状の模様は「ガフの扉」と言うらしい。
マリが模様を見て言う。
ガフの扉がまだ閉じない!
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
問題は、〈ガフの扉〉を開いたという点で、〈第13号機〉と〈初号機〉の覚醒は同じだ。しかし、一方は〈疑似シン化形態〉で、もう一方はそれを超えた状態であるらしい。両者のちがいはどこにあるのか?
その謎を解く鍵が〈トリガー〉と呼ばれる概念だ。
〈トリガー〉だけでは〈インパクト〉は起こせない
〈初号機〉が〈擬似シン化形態〉となり起こした〈ニアサードインパクト〉について、カヲルは次のように説明している。
一度 覚醒し
ガフの扉を開いたエヴァ初号機は
サードインパクトの
トリガーとなってしまった
リリンの言う
ニアサードインパクト『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
〈トリガー〉という言葉は、『破』で加持も口にしている。
数の揃わぬうちに
初号機をトリガーとするとは…
碇指令…
ゼーレが黙っちゃいませんよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
カヲルと加持のセリフから、〈サードインパクト〉は〈初号機〉が〈トリガー〉となって引き起こされた。これはまちがいない。
では、〈フォースインパクト〉はどうだろう? これもカヲルのセリフがヒントになる。
僕が第13の使徒に
なってしまったからね
僕がトリガーだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
このセリフから、〈フォースインパクト〉の〈トリガー〉はカヲルと断定できる。
さて、ここで注意すべきなのは、〈トリガー〉は文字どおり〈インパクト〉の引き金、あくまできっかけにすぎない、ということ。〈初号機〉やカヲルの力だけで世界を一変させることはできないのだ。
ということは、〈インパクト〉そのものを起こしている存在が別にいるはずなのだ。
それはなにか?
ここまでお読みのかたはおわかりだと思う。この世界(システム)を制御している〈リリス〉こそが〈インパクト〉を起こしていると考えられる。
それを裏づけるように、『破』で〈サードインパクト〉が発生したとき、〈リリス〉の姿が映し出される。
〈リリス〉の目が反応しているように見える……。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
このとき〈初号機〉や地上の様子が大変なことになっており、〈リリス〉については劇中の人物はもちろん、観ている者もその存在を忘れていた(というより、『破』において〈リリス〉はここで初めて登場する)。つまり、本来なら不要なカットのはずだ。にもかかわらず、わざわざ〈リリス〉の様子が描写されているということは、〈サードインパクト〉に〈リリス〉が関わっていることを示唆していると考えざるをえないのだ*4。
*4:[2019年2月9日追記]この前のカットでは、初号機の頭上に現われた〈ガフの扉〉とは別の〈扉〉が開いている。この〈扉〉を開いたのはおそらく〈リリス〉だろう。
そして、ここで新たな疑問が生じる。
——〈フォースインパクト〉が発生したときは、〈リリス〉はすでに形象崩壊して存在していなかったはず。
〈フォースインパクト〉が起こる前に、ゲンドウが〈ネブカドネザルの鍵〉を用いてすでに〈リリス〉を亡きモノにしている。となると、〈リリス〉以外に、世界を制御しているモノ、つまり〈インパクト〉を起こしているモノが〈リリス〉以外に存在する、と考えなければならない。
それは……?
もうおわかりであろう。〈第13号機〉だ。〈第13号機〉は、覚醒したことで〈リリス〉と同等の力を手に入れた。これが「〈擬似シン化形態〉を超える」という意味だったのだ。
同じエヴァでも、〈第13号機〉は〈アダムス〉という特別な存在が覚醒した状態であり、〈初号機〉とは異なるものになるのは納得できる話だ。
そう考えると、ゲンドウが〈リリス〉を形象崩壊させた理由も明らかだろう。〈第13号機〉で〈フォースインパクト〉を起こすには、〈リリス〉は邪魔なのだ。システムを制御するモノはひとつでなければならないからだ。
[2019年8月18日]〈フォースインパクト〉の〈トリガー〉については、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト」にてさらにくわしく追究している。
「シン」=「神」=「システムを司るモノ」
前々回(「その1」)において、〈シン・ゴジラ〉は「絶対的な存在」として虚構の世界にとどまらないモノだと述べた。つまり世界を超越した存在だ。だから「シン」をあえて漢字に直せば「神」ということになる。
『ヱヴァ』において、世界を司る〈リリス〉はまさに「神」と呼んでよいだろう。「擬似シン化」とは、これも漢字に直せば「擬似神化」であり、「擬似」的にこの世界(システム)を制御できる存在という意味が込められているにちがいない。
さらに、『ヱヴァ』の世界の人々から見れば、システムを創った〈ゼーレ〉は真の神と呼ぶにふさわしいと言えるのだ。
世界を捨てた〈ゼーレ〉の傲慢
『Q』におけるカヲルとゲンドウの思惑はおおよそつかめた。では、〈ゼーレ〉はなにをしようとしていたのか? 最後にこの点を考察しよう。
『ヱヴァ』は“神”に見放された世界
『Q』の中盤、〈ゼーレ〉のモノリスを前にして、ゲンドウと冬月が次のような会話をしている。
(冬月)
ゼーレは まだ
沈黙を守ったままか(ゲンドウ)
人類補完計画は
死海文書通りに遂行される
もはや 我々と語る必要はない『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
そして、終盤には「沈黙」していたはずの〈ゼーレ〉が口を開き、次のように語る。
我らの願いはすでに かなった
よい 全てこれでよい
人類の補完
安らかな魂の浄化を願う『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
なんと、この時点で〈ゼーレ〉の「願いはすでに かなった」という。だから、ゲンドウたちと「語る必要はない」わけだ。
では、〈ゼーレ〉の「願い」とはなにか。前回、〈ゼーレ〉の目的をこう結論づけた。
人類補完計画=インフィニティの創造
つまり、「インフィニティの創造」という目的は達成されたというわけだ。
しかしながら——。
前回も見たように、カヲルは「インフィニティのなり損ない」と表現している。
ああ 全て
インフィニティのなり損ないたちだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
「なり損ない」には「失敗作」というニュアンスが込められているように思える。つまり、〈ゼーレ〉の願いは実現していないのではないか?
ここで、やや想像を飛躍させてみる。『新劇場版』の謎解きのきっかけとなったカヲルのセリフを思い出そう。
また3番目とはね
変わらないな 君は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
©カラー・GAINAX
今度こそ君だけは
幸せにしてみせるよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
この不自然なセリフを合理的に解釈するために、〈メタフィクション〉の世界を想定し、『新劇場版』で描かれているのは仮想現実の世界だという結論を出したわけだが……。
はたして、この仮想現実はひとつだけなのだろうか?
前々回に触れた、巷で流布している〈ループ説〉〈パラレルワールド説〉〈マルチエンディング説〉は、いずれも旧劇場版や『新劇場版』で描かれている世界のみを想定したものだ。
しかし、われわれがまったく目にしたことのない別の仮想現実が存在し、カヲルはその世界を体験していると考えても矛盾は生じないのではないか。
上記のカヲルのセリフを冷静に分析してみよう。
「また3番目とはね 変わらないな 君は」の「3番目」は、シンジがエヴァの第3の搭乗者となっていることを指している、とだれもが考えた。しかし、じつはその保証はまったくないのだ。
問題となるのは「変わらないな 君は」の部分。この表現はふつう相手の性格や考えかたを評するのに使わないだろうか。シンジが3番目の搭乗者となったのは本人の意思とは無関係であり、その事実を指して「変わらないな 君は」と言うのはやや違和感を覚える。
さらに、「今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ」というセリフ。多くの人がこれは旧劇場版の結末のことを言っていると思ってしまった*5。だが、よくよく考えてみれば、旧劇場版のラストは、シンジの決断した世界が実現しており、けっして不幸になったようには描かれてない。少なくとも旧劇場版に登場したカヲルはそう思っていないはずだ。
*5:旧劇場版ではなく『Q』の結末を指すとする説もある。
ようするに、「3番目」や「今度こそ」は、旧劇場版や『新劇場版』の出来事を意味しているのではなく、「われわれがまったく目にしたことのない別の仮想現実」におけるなにかを指しているとも考えられるのだ。
この「仮想現実」は、必ずしもエヴァが登場するような未来世界とは限らない。剣や魔法がはびこるファンタジーのような世界だったのかもしれない。シンジはそこで「第3の勇者」などと呼ばれていたのかも。そして、カヲルのせいでシンジが不幸になってしまった。偶然にも過去の記憶を持ったまま『ヱヴァ』の世界に生まれたカヲルは、この『ヱヴァ』という新しい仮想現実の世界でシンジに罪滅ぼしをしている、と考えてもよいわけだ*6。
*6:[2019年1月29日追記]カヲルがなぜそこまでシンジに執着しているのか? 漫然と観ていると見逃してしまう要素だが、不思議といえば不思議だ。ライトノベルなどでは、初めて会った相手に告白されるような展開があるようだが、本作もそれにならっているのか。もしかすると、「別の仮想現実」においてカヲルとシンジは恋人同士だったのかもしれない。
少し脇道にそれてしまったが、要点はこうだ。
この『ヱヴァ』の世界そのものが〈ゼーレ〉にとって用済みになったのではないだろうか? この世界での失敗を生かして、さらに別の仮想現実をすでに創っているのかもしれない。だから、ゲンドウたちと「語る必要はない」し、「全てこれでよい」わけだ。
[2019年8月18日追記]〈ゼーレ〉のこのセリフについては、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト」で、さらに深く追究している。
「安らかな魂の浄化」とは人類を消し去ること
そう考えると、〈ゼーレ〉が最後に語った「人類の補完 安らかな魂の浄化を願う」の意味もわかる。
人類は〈使徒〉というシステムのバグを除去し、〈リリス〉を復活させるためだけに生み出された存在だ。したがって、〈ゼーレ〉にとって、『ヱヴァ』の世界の人々はもはや不要であり、
魂の浄化=人類の消去
が『Q』における〈ゼーレ〉の意図なのだ。
もちろん、この「人類」には、ゲンドウも含まれているのだろう。ゲンドウの目的は虚構世界の外側に行くことだが、これは〈ゼーレ〉の〈人類補完計画〉を阻止するためでもあろう。
〈ゼーレ〉は〈インパクト〉を望んでいない
だとするならば、当然、ゲンドウたちがシステムの外側に行くことを〈ゼーレ〉は望んでいないはずだ(システムの外側とはすなわち〈ゼーレ〉のいる世界だ)。ゲンドウと〈ゼーレ〉はその点で対立していると考えられる。
言いかたを変えれば、
〈ゼーレ〉はゲンドウが〈インパクト〉を起こすのを望んでいない
のではないだろうか?
それを裏づけるのは冬月の次の発言だ。
ひどいありさまだな
ほとんどが
ゼーレのもくろみ通りだ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
どの部分が「ゼーレのもくろみ通り」だったのか?
『Q』のラストではさまざまな出来事が起こっているが、もっとも大きなものは〈フォースインパクト〉の中断と言えるだろう。冬月の「ひどいありさまだな」という表現もそれを物語っている。
ここで冬月が「ほとんど」と言っている点に注意したい。「すべて」ではない。例外的に〈ゼーレ〉の思惑とは異なる出来事もあったのだ。それについては、ゲンドウが語っている。
だが ゼーレの少年を排除し
第13号機も覚醒へと導いた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
〈第13号機〉が覚醒したことで〈フォースインパクト〉が発生したわけだが、ゲンドウのこのセリフからも、〈フォースインパクト〉が〈ゼーレ〉の思惑からはずれる事態であったことが読みとれる。
『新劇場版』における〈インパクト〉とは、前々回「〈虚構〉と〈現実〉の融合に関係する出来事」と述べたが、これまでの考察をふまえて言いかえれば、
〈インパクト〉とは〈虚構〉から〈現実〉に行くために〈ガフの扉〉を開くプロセス
ということになる。
もちろん、これは〈ゼーレ〉にとって許しがたい行為であり、阻止しなれけばいけない事態だ。だから、〈フォースインパクト〉の停止は「ゼーレのもくろみ通り」だったのだ。
[2019年2月9日追記]〈インパクト〉をもう少し厳密に定義してみたい。すなわち〈インパクト〉では次のような現象が起こると考えられる。
1.〈ガフの扉〉が開く
2.〈インフィニティ〉が生産される
3.〈インフィニティ〉が〈ガフの扉〉をとおり〈メタフィクション〉の世界へ行く(アウトプットされる)
4.この世界が変容する(人類が消滅する)
以上は、この順番に起こるか、あるいは順不同、もしくは同時多発的に発生するのだろう。いずれにしても、〈ゼーレ〉の本来の計画においても〈ガフの扉〉を開くことは必要だったと思われる。ただし、それは本来の〈サードインパクト〉(人類補完計画)においてであり、〈フォースインパクト〉においては「願いはすでに かなった」のだから、ゲンドウには「人類の消滅」のみを「遂行」してもらうつもりだったのだろう。〈ゼーレ〉が阻止したいのは、〈ガフの扉〉が開くことというより、あくまでゲンドウ(たち)が自分たちの世界(メタフィクションの世界)に来てしまうことである。
〈フォースインパクト〉では、「黒き月」と呼ばれる物体から〈インフィニティ〉が吐き出されているとされるが(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の謎を本気で解明する[その5]参照)、この〈インフィニティ〉は不完全なモノと思われる。〈インフィニティ〉を生み出すのは〈リリス〉でなければならないが、この時点では〈リリス〉は存在せず、その代わりを務めているのが第13号機だからだ。つまり、第13号機では、完全な〈インフィニティ〉を生産することはできないのだと考えられる(ゲンドウにとっては〈インフィニティ〉の生産は重要ではない)。
ちなみに、カヲルの“自殺”は、ゲンドウと〈ゼーレ〉にとっては想定外だったのだろう。しかしながら、〈ゼーレ〉の息のかかった(つまりゲンドウのコントロール下にない)カヲルを排除した点でゲンドウにとってはメリットがあり、〈フォースインパクト〉が止まった点で〈ゼーレ〉にもメリットがあったわけだ。
[2019年8月18日追記]〈インフィニティ〉と〈インパクト〉については、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト」で、新たに考察を行なっている。
「ワンコ君がゼーレの保険」でヴィレの認識がわかる
細かいことだが、マリのセリフの謎も解いておきたい。
カヲルがみずからを犠牲にすることで〈第13号機〉は機能を停止するが、〈ガフの扉〉は閉じなかった。その様子を見てマリが言う。
ワンコ君が ゼーレの保険か!
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
まずは、念のため「ワンコ君」がシンジを指していることを確認しよう。
『破』で、マリがシンジに初めて会ったとき、シンジに向かって言う。
ネルフのワンコくん!
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー
さて、「ゼーレの保険か!」も波紋を呼びそうなセリフだ。先に考察したように、〈ガフの扉〉を開くのはゲンドウの企みであって〈ゼーレ〉ではない。だとすると、マリは「ネルフの保険」あるいは「ゲンドウ君の保険」と言うべきではなかろうか。この矛盾はどう考えればいいのだろう?
ひとつ可能性として挙げられるのは、マリたちにとって〈ゼーレ〉も〈ネルフ〉も区別する必要がないということ。いずれも〈フォースインパクト〉を起こし〈人類補完計画〉を実行しようとしている組織だ(とマリたちは思っている)から、あながち不自然ではない。この考えかたも当ブログは完全には否定できない。
しかし、この重要な局面において、それもこんな短いセリフのなかで、制作者がわざわざ「ゼーレの」とマリに言わせているのは、なにか重要な意味があるのではないか? マリたちが区別していないなら、それこそ「ネルフの保険」「ゲンドウ君の保険」でもよいわけで、むしろそのほうがよりすっきりするはずだ。
別の可能性は、やはりシンジが搭乗しているのは、〈ゼーレ〉の意図だということ。そうすると、〈ガフの扉〉を開くことが〈ゼーレ〉の思惑になるが、先に見たように冬月のセリフと矛盾する。〈フォースインパクト〉の阻止こそが〈ゼーレ〉の「もくろみ」だったはずだ。
あくまで〈ゼーレ〉の意図はシンジが〈第13号機〉に乗ることであって、〈ガフの扉〉を開くことではないと考えざるをえない。〈ガフの扉〉が閉じないのは、〈第13号機〉が覚醒したことの結果なのだろう。
なぜ〈ゼーレ〉がシンジを〈第13号機〉に乗せる必要があったのかといえば、〈人類補完計画〉の総仕上げ(人類の消滅)のためだと考えられる。〈ゼーレ〉の計画には〈リリス〉が必要で、そのためには2本の槍が不可欠であり、2人の搭乗者が必要だったのだ*7。
*7:〈ゼーレ〉の計画においても、〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉の対の槍が必要だと考えられる。〈ゼーレ〉も槍が2本とも〈ロンギヌス〉だったことは知らなかった可能性が高い。
また、〈第13号機〉がダブル・エントリー・システムであることは、マリやアスカたちは知らなかったようだ。
アスカはエヴァにシンジが乗っているとは思っていなかったらしい。
バカシンジ!? アンタまさか
エヴァに乗ってるの?『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
ヴィレ側は、〈ゼーレ〉と〈ネルフ〉(=ゲンドウ)がカヲルだけを新しいエヴァに乗せて〈フォースインパクト〉を起こすと考えていたのだろう。シンジが〈人類補完計画〉の実行に使われるとは思っていなかった。「ワンコ君がゼーレの保険か!」は、そのことが反映されたセリフともいえる。
[2019年8月18日追記]マリのこのセリフについて、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の謎を徹底的に解明する[準備編 その3]インフィニティとインパクト」にて、さらに深い考察を行なっている。
「諦観された神殺し」とはシステムを奪還すること
さて、これまでの考察をふまえると、『Q』の終盤、〈フォースインパクト〉が起こる直前にゲンドウが〈ゼーレ〉に語った次のセリフの謎も解ける。
死海文書の
契約改定の時が来ました
これでお別れです
あなた方も
魂の形を変えたとはいえ
知恵の実を与えられた生命体だ
悠久の時を生きることは出来ても
我々と同じく
訪れる死からは逃がれられない
死を背負った群の進化を
進めるために
あなた方は
我々に文明を与えてくれた
人類を代表し感謝します
死をもって あなた方の魂を
あるべきところへ還しましょう
宿願たる人類補完計画と
諦観された神殺しは
私が行います
ご安心を『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
順番に訳読してみよう。
- 死海文書の契約改定の時が来ました これでお別れです
(人類の消去という死海文書[作業マニュアル]は変更しますので、あなたがたとはお別れです) - あなた方も魂の形を変えたとはいえ 知恵の実を与えられた生命体だ
(あなたがたはわれわれと異なる世界の住人とはいえ、われわれと同じように知性のある存在です) - 悠久の時を生きることは出来ても 我々と同じく訪れる死からは逃がれられない
(その知性でもってシステム創造・操作し、システムのなかで悠久と言える時間を活動できたとしても、生きる人間である以上は死からは逃れられない) - 死を背負った群の進化を進めるために、あなた方は我々に文明を与えてくれた 人類を代表し感謝します
([あなたがたが]死から逃れるために、われわれの世界をシステムのなかに創造した。このことは感謝します) - 死をもってあなた方の魂をあるべきところへ還しましょう
(モノリスの機能を停止させて、あなたがたの意識をあなたがたの世界に戻しましょう) - 宿願たる人類補完計画と
([あなたがたではなく私の]宿願たる計画と) - 諦観された神殺しは私が行います ご安心を
(「諦観された神殺し」によって、私はシステムの外への突破を行います。ご安心を)
このセリフからわかることは、〈インフィニティ〉の創造が、〈ゼーレ〉にとってなにを意味するかだ。「我々と同じく訪れる死からは逃がれられない」「死を背負った群の進化を進めるために」という表現から、(『ヱヴァ』の世界ではなく)〈ゼーレ〉の世界において、〈ゼーレ〉たちが死から逃れるためのなにかなのかもしれない。これについては機会をあらためて考察する。
「知恵の実を与えられた」は、旧劇場版にも登場する表現だ。そこでは、「生命の実」を与えられ永久に生きることができる〈使徒〉に対して、「知恵の実」(=知性)を与えられた代わりに永久には生きることができない〈リリン〉(=人類)のことを表していた。
『新劇場版』でもその概念が踏襲され、次の「死からは逃がれられない」ことの根拠を述べているのだろう。
「ご安心を」と言っても、〈ゼーレ〉にとってはまったく安心できないわけだが、これはゲンドウの皮肉だろう。
「諦観された神殺し」も難解な言葉だが、これまでの考察をふまえれば意味はわかる。
「諦観」とは
物事の本質をはっきりと見きわめること。
『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店)
であるから、『ヱヴァ』でいえば、この世界がシミュレーションであると知ることを意味するのだろう。
「神殺し」の「神」とは、先に述べたように〈ゼーレ〉のことだから、ようするに〈ゼーレ〉がこの世界に関与するのを止めさせるということだろう。
なお、「神殺し」という表現は劇中にほかにも登場する。
ミサトがヴンダーの機能を指してこう言う。
神殺しの力
見極めるだけよ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
「神殺し」の意味がわかれば、ミサトたちがなにをしようとしているかも明らかだが、これについてはあらためて考えることにしたい。
〈ゼーレ〉は「神殺し」を阻止したい
もちろん、「神殺し」は〈ゼーレ〉にとって歓迎できない行為だ。だから、『Q』でもそれを阻止する様子が描かれている。その点を確認しておこう。
まず〈Mark.09〉の制御をアヤナミレイから奪っている。
エントリープラグ内に〈ゼーレ〉のマークが現れる。
なぜ? リンクが回復しない
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
〈Mark.09〉は〈ゼーレ〉のエヴァだから、その制御を奪うことはたやすいのだろう。
ゲンドウたちの手によって〈ゼーレ〉のモノリスの電源は落とされている。だが、ただコミュニケーションがとれなくなるだけであって、この世界に関与することはいくらでもできるのだ(もちろん、当人たちが死んだわけでもない)。
〈ゼーレ〉は、〈Mark.09〉を操って、「神殺し」の“兵器”であるヴンダーの制御も奪おうとする。
初号機から本艦の制御を
奪い返すつもりだわ『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー
じつは、このとき〈ゼーレ〉はシステムの外からリアルタイムで〈Mark.09〉を動かしていたのではないか――〈ゼーレ〉がシステムの外にいることを考えると、そんな想像もできてしまう。
カヲル・ゲンドウ・〈ゼーレ〉それぞれの計画のまとめ
複雑きわまりない〈フォースインパクト〉の概要はだいたいつかめたことと思う。おさらいしよう。
カヲルの計画:〈リリス〉による世界の修復
- 槍を抜いて〈リリス〉の活動を再開させる。
- 〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉を合体させて〈リリス〉に刺す。
- 〈リリス〉の機能を活性化させ、世界を修復させる。
槍が2本とも〈ロンギヌス〉だったため、カヲルの計画は頓挫。ゲンドウによって〈フォースインパクト〉を起こされてしまい、みずからを犠牲にしてそれを止めるしかなくなってしまった。
カヲルが誤解していたゲンドウの計画:〈人類補完計画〉の実行
- 槍を抜いて、ネルフ本部に持ち帰る。
- 〈ロンギヌス〉と〈カシウス〉を合体させて“なにか”に刺す。
- “なにか”の機能で〈フォースインパクト〉を起こし、〈人類補完計画〉を実行する。
槍が2本とも〈ロンギヌス〉だったことから、ゲンドウは〈人類補完計画〉を実行するつもりがないことをカヲルは悟る。なお、“なにか”は〈Mark.09〉、隠された〈アダムス〉、まだ登場していないモノが考えられる。
ゲンドウの計画:〈第13号機〉による虚構世界の突破
- シンジとカヲルを〈第13号機〉に乗せ、槍を抜かせる。
- 〈ネブカドネザルの鍵〉でカヲルを〈使徒〉と識別。同時に〈リリス〉を形象崩壊させる。
- 〈第13号機〉を覚醒させ〈リリス〉からシステムの制御を奪還、〈フォースインパクト〉を起こし、システムの外へ行く。
システムの制御を奪うところまでは成功。しかし、カヲルとシンジという2人の搭乗者が失われたことで〈第13号機〉の機能が停止。〈フォースインパクト〉が中断してしまい、虚構世界からの突破は叶わなかった。
〈ゼーレ〉の計画:人類の消滅と〈インパクト〉の阻止
- カヲルとシンジを〈第13号機〉に乗せ、槍を抜かせる。
- 〈リリス〉の活動を再開させて、人類を消滅させる(=人類補完計画)。
〈人類補完計画〉は完遂しなかったが、別の虚構世界をすでに創っているため、この世界でなにが起ころうと問題はない。懸案だった〈フォースインパクト〉と「神殺し」も阻止され、ほとんどが「もくろみ通り」となった。
さて、次回は『Q』を観た人の頭によぎる「なぜミサトのシンジに対する態度が変わったのか」という疑問。『新劇場版』で描かれる人間ドラマにスポットを当てながら、その疑問を解いてみよう。
次の考察はこちら。
ひとりよがり日記」さんの記事(現在は当該ページはなし)を参考にさせていただきました。ご慧眼に敬意を表します。
「〈Mark.06〉の建造方式のほうが、むしろわれわれのなじみのあるエヴァの造りかた」の部分は、「
「おかしい 2本とも 形状が変化して そろっている」
この文章は初視聴の時から気に掛かっていました。
①「おかしい 2本とも〈形状が変化して〉 そろっている」
②「おかしい (AとBの)2本とも(A→C、B→Cに)形状が変化して(Cに) そろっている」
普通に考えたら①ですが、私は②説です。
本来の槍の効力が無かったか、別の効力を持ってしまっていたせいでカヲルくんがやりたかった結末を招くことが出来なかったのではないでしょうか。
あまり根拠はありません。
ただの日本語の言い回しの問題かもしれません。
このセリフについては、本記事で追記で触れるにとどめてしまっています。記事を書いた当時はそれほど重要だと思っていなかったためです。ですが、いまさらながら『Q』においてもっとも大切なセリフであると認識を改めました。カヲルのこの気づきをきっかけに、みずから計画を中止しようとし、そしてシンジがカヲルの制止を聞かず槍を抜くことで〈インパクト〉が起こってしまったわけですから。
ご指摘のとおり「本来の槍の効力が無かったか、別の効力を持ってしまっていたせいでカヲルくんがやりたかった結末を招くことが出来なかった」というのは当然導き出される結論で、私も異論はありません。
このセリフの謎は、別の記事でじっくりと考察したいと思っています。
元からエヴァの操縦はイメージするだけで動きます。
操作しているように見えるレバーやスイッチはパイロットのイメージを増幅させたり、ライフルの操作を簡略する際に使ったりするのが公式の設定で存在しています。
なのでその点はアダムベース、リリスベース等に差違はと考えられます。参考までに。
たしかに、レバーだけであの複雑な動きをしているとしたら不自然ですよね。操作方法は旧劇場版と新劇場版で違いはないのかもしれません。
コメント、ありがとうございました!