劇場公開時、予告編を観たとき、華麗にスルーしてしまった。クマのぬいぐるみが言葉を話し、なおかつ持ち主の子どもとともにおっさんになっている──。アイディアとしてはおもしろいが、「どうせそれだけだろ」って思ってた。ところが、世間の評判はいい。DVD・ブルーレイレンタルも好調。こりゃ、自分の勘がはずれたか。真実をたしかめるため、僕はブルーレイディスクをデッキに投入したのでありました──。
[真実その1]ギャグはあくまで調味料
この映画で主体となるのはパロディやオマージュ、下ネタなど。これらのギャグで笑いをしかけてくる。
とはいえ、これはアメリカの文化圏で育った人でないと、いやアメリカの人であっても、制作陣と世代が同じでないと100%は楽しめない。そう思われる。
たとえば、恋人からの電話の着信音が「ダース・ベーダー」のテーマなのはわかりやすいが、テッドからのは「ナイトライダー」。こりゃ、わかりづらい。
揚げ句の果てには、「フラッシュ・ゴードン」をとくにこの作品ではゴリ押ししているのだが、知らんがな。
「元ネタがわからん」「ギャグが寒い」という理由で途中下車してしまう人もいるかもしれない。
けれども、ギャグがわからなくても──もちろん、作品の魅力を100%は享受できないものの──じつはけっこう楽しめるのである。
その理由のひとつは、ギャグそのものは、作品に面白さをプラスする調味料であって、料理そのものではない、ということ。「おバカな理由で、おバカなことをしている」「楽しそうでなにより」と思えれば、それはそれでよいわけだ。
そのほかの理由は以下のふたつだ。
[真実その2]なぜかテッドより変な人がウヨウヨ
従来の映画であれば、クマが話すことそれ自体に焦点を当て、物語が展開していたはずだ。しかし、この映画では、テッドの存在が社会的に話題になるのは最初の数分間だけで、それ以降は人々は彼を受け入れてしまっている。こういう設定にしたのはなかなか慧眼だと思う。
スーパーのレジ係に即決で「採用」されるし、売り物の野菜でイケナイことをしてしまったのを白状しても「昇進」。なんでだよ。
ようするに、こんな突拍子もないぬいぐるみのクマよりも、クセのある人物がうじゃうじゃ登場する。これが作品をもり立てているのだ。
[真実その3]ヒロインの人物造形がすべてを決める
30過ぎのおっさんになってもクマのぬいぐるみが手放せない男と、そのクマ、そして男の恋人との三角関係が描かれる──下手な映画だったらそうなるだろう。
いや、じつは『テッド』もあらすじだけ見れば、そういうストーリーだ。「私とクマのぬいぐるみ、どっちをとるの?」みたいな話が展開する。
ところが、主人公の恋人はクマのぬいぐるみとも友だちなのである。だから、「クマと別れて」のようなセリフに軽薄さではなく深みが出る。そこにはヒロインの複雑な感情が含まれている。これがこの映画のすべてを決定していると思う。
ついでにいうと、このヒロインも「ウンチがっ!」を連発したりして、けっこう変な人だ。十重二十重に、作品に深みを与えているキャラクターなのだ。
テッド役・有吉弘行氏の演技に注目
映画公開当時にクマのぬいぐるみを有吉弘行氏が演じるというニュースは聞いていた。しかし、ブルーレイを観るころには忘れていた。だから、最初はふつうに声優さんがやっているのかと思っていた。しかし、声を聞いても思い当たる声優さんがおらず、途中で「そういえば芸人さんがやっていたな」と、有吉氏の名前を思い出した次第。
芸能人の起用は往々にして客寄せパンダとして利用されるのがオチだ。この『テッド』もそんな“客寄せグマ”の意味もあると思うが、きちんと役にはまっているし、作品を盛り上げている。これは予想外だっただけに、嬉しい誤算。
いわゆる声優さんでも卒なくこなしただろうが、突き抜けたキャラクターだけに、それこそ突拍子もないキャスティングが功を奏す。その見本みたいだ。
『テッド』のような雰囲気重視、ノリが第一のコメディ作品は、字幕より日本語吹き替え版のほうが楽しいだろうから、そのあたりにも注目してほしい。
*下の予告編のテッド(幼少期)を演じるのは釘宮理恵さんです。っていうか予告編ではなく冒頭の一部分。
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