〈ゼーレ〉がくりかえし行なっている〈インパクト〉もじつに4回目。

過去の考察でも〈フォースインパクト〉についてつぶさに考察したが、そこでは「ゲンドウvsカヲル」の対立軸に重きを置いた。

あえて〈インパクト〉のプレイヤーとしてのカヲルをはずし、「〈ゼーレ〉vsゲンドウ」の対立を浮き彫りにすると、どんな真実が見えてくるだろうか。

〈フォースインパクト〉は〈ゼーレ〉vsゲンドウの前哨戦

〈インパクト〉が「過去のやり直し」であるという真実を前提とするならば、〈ゼーレ〉とゲンドウは、今回も本来の目的を実現するために奮闘していたと考えられる。

〈フォースインパクト〉の一部始終は『Q』で描かれているわけだが、にもかかわらず、なんとも腑に落ちないセリフがある。

たとえば、『Q』の時点ですでにゲンドウと〈ゼーレ〉の関係は断絶していると思われるのだが……。

 icon-arrow-circle-down ゲンドウと〈ゼーレ〉はもはや語る必要はないと言っている。

(冬月)
ゼーレは まだ
沈黙を守ったままか

(ゲンドウ)
人類補完計画は
かいもんじょ通りに遂行される
もはや 我々と語る必要はない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

しかし、のちのシーンでは「沈黙」していたはずの〈ゼーレ〉が口を開き、次のように語る。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

我らの願いはすでに かなった
よい 全てこれでよい
人類の補完
安らかな魂の浄化を願う

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「語る必要はない」はずなのに対話をしているのは、いかにも不自然だ。それには目をつぶるとしても、〈人類補完計画〉はこれから遂行されるはずなのに、〈ゼーレ〉は「願いはすでにかなった」と言い、にもかかわらず「人類の補完」を願っているという。こうしてセリフだけを抜き出してみると支離滅裂だ

これはどう考えればいいのだろうか?

ホンネとタテマエを使い分ける“汚いオトナたち”

まず前提条件を確認しておこう。

そもそもゲンドウと〈ゼーレ〉の思惑は異なっている。これは劇中の描写からあきらかだ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

だが ゼーレとて
気づいているのだろう?
ネルフ究極の目的に

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

〈ゼーレ〉は「自分たちとは異なる目的をゲンドウたちが持っている」ことに気づいている。なおかつ「それをゲンドウたちも知っている」ことも把握している。

〈ゼーレ〉とゲンドウはお互いに本心を隠しているが、お互いにその事実を知っており、なおかつ「知っている」こともお互い承知している。にもかかわらず、お互いに「知らない」フリをしているのだ。

ようするに、両者ともホンネとタテマエを使い分けているわけだ。なんとも“汚いオトナ”のふるまいといえるかもしれない。

となると、劇中で語られるコトバ、とくにゲンドウと〈ゼーレ〉が対峙しているときのセリフは、額面どおりに受けとるわけにはいかない

先のセリフの矛盾を解消しておこう。

まず、「人類補完計画は死海文書通りに遂行される」のは真実だろう。ここはゲンドウと冬月の会話であり、なにかを偽る必要はない。実際、人類は消滅していないのだから、〈ゼーレ〉の目的は達成されていないと考えるべきだ。

では、〈ゼーレ〉の「我らの願いはすでに かなった」とはどう意味か? これにはホンネとタテマエが含まれている。ホンネは、過去の考察で述べたとおり、「この世界での失敗を生かして、さらに別の仮想現実をすでに創っている」ということ。あるいは、この世界をキレイに掃除したあとに新たな世界をつくり、また〈インパクト〉をやり直す。〈インパクト〉の正しいやりかたはわかったから、ゲンドウ(人類)がいなくても、〈インフィニティ〉は創造できる。したがって、ゲンドウは用済みである。あんたお払い箱ってことよ。これが真意だ。

タテマエは、ある種の虚勢。ゲンドウに真意を探られないための欺瞞であると考えられる。上記の真意をふまえたうえでの皮肉のようなニュアンスも含まれているだろう。

つづく「人類の補完 安らかな魂の浄化を願う」にも、ホンネとタテマエがある。ホンネは、「自分たちの手で〈人類補完計画〉を実行するから、予定どおり人類は補完されるよ」「(ゲンドウを含めて)人類は消滅するからサヨナラ」といった皮肉。タテマエは「〈人類補完計画〉は〈リリス〉との契約なのだから、しっかり遂行してね(実際に行なうのは自分たちだけどね)」といったところだろう。

話が入り組んできたので、あらためて〈フォースインパクト〉におけるゲンドウと〈ゼーレ〉のホンネとタテマエを整理してスッキリさせよう。

まず、両者ともタテマエは、死海文書どおりに〈人類補完計画〉を遂行する。これは、過去の考察でも述べたとおり、〈第13号機〉や2本の〈槍〉、〈リリス〉などを用いるものだ。

ゲンドウのホンネは? くどいようだが、虚構世界からの突破だ。

では、〈ゼーレ〉のホンネとはなんだろう? じつはゲンドウの想像どおりでない可能性が浮上してくるのだ。

〈ゼーレ〉も〈ガフの扉〉を開いた

〈ゼーレ〉の思惑について、過去の考察でも気になるセリフがあることを指摘した。マリの次の発言だ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

ガフの扉がまだ閉じない!
ワンコ君が ゼーレの保険か!

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

なぜ「ゼーレの保険」なのだろう? 「ネルフの保険」「ゲンドウ君の保険」ではないのか? このセリフを問題にする人は当ブログ以外に見当たらないが、きわめて重要な真実が含まれている気がしてならない。カヲルの「形状が変化して そろっている」とおなじように。

このセリフについては、やはり過去に考察している。

あくまで〈ゼーレ〉の意図はシンジが〈第13号機〉に乗ることであって、〈ガフの扉〉を開くことではないと考えざるをえない。〈ガフの扉〉が閉じないのは、〈第13号機〉が覚醒したことの結果なのだろう。

いまもこの考えかたを否定する材料はない。だが、なんだかモヤモヤしたものが残るのも事実。もっとすっきりとした論理ロジックをなんとか組みたてられないだろうか。

「〈ゼーレ〉の意図はシンジが〈第13号機〉に乗ること」は間違っていないだろう。問題は「〈ガフの扉〉を開くことではない」という点。じつは真実は逆で〈ガフの扉〉を開くことも〈ゼーレ〉の目的だったのではないか? つまり〈フォースインパクト〉において〈ガフの扉〉を開くことは、ゲンドウと〈ゼーレ〉ともに必要だったのだ。

どういうことか? その謎を解く前にもうひとつ気になる点を検証してみたい。

〈リリス〉の崩壊も〈ゼーレ〉の意図

先に見たように〈フォースインパクト〉が発生したとき、〈ゼーレ〉が次のように語る。

我らの願いはすでに かなった
よい 全てこれでよい
人類の補完
安らかな魂の浄化を願う

過去の考察では、このシーンは「〈フォースインパクト〉が起こる直前」と述べたのだが、厳密にはシンジが〈槍〉を抜き、〈リリス〉が形象崩壊したあとなのだ。これらは、ゲンドウの策略の核心だから、〈ゼーレ〉の思惑には反するはず。にもかかわらず、〈ゼーレ〉はそのことに触れていない。

これはどういうことか? 3つの可能性が考えられる。

1つ目は、〈ゼーレ〉は異変に気づいていないという可能性。ふつうに考えれば、なんともマヌケな話になるが、当ブログの〈メタフィクション〉説を前提とすれば、あながち不自然とはいえない。〈ゼーレ〉はこの世界の細かい事象までは把握できないのかもしれない。だからこそ、〈人類補完計画〉はゲンドウたちにやってもらわなければならないわけだ。

2つ目の可能性は、異変は〈ゼーレ〉の意図したものではないが、ゲンドウを責める必要もないということ。先に述べたように、すでにゲンドウとの関係は絶たれているのだから、ゲンドウの行動をいまさら問題にしてもしかたがないわけだ。

3つ目として、やはり異変は〈ゼーレ〉の意図したものである可能性が考えられる。

はたして〈ゼーレ〉の真意はどこにあるのか? どこかにヒントになる描写はないだろうか?

〈ゼーレ〉は“ひみつの行動”を起こそうとしていた

〈ゼーレ〉の真意を知る手がかりは、過去の考察でも見つけている。次の冬月の発言だ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

ひどいありさまだな
ほとんどが
ゼーレのもくろみ通りだ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

『Q』で起こったことのほとんどは、〈ゼーレ〉の意図どおり。少なくともゲンドウたちがそう考えているのは間違いない。

一方で、〈ゼーレ〉の思惑からはずれる事態も起こっていた。これはゲンドウが語っている。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

だが ゼーレの少年を排除し
第13号機も覚醒へと導いた

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「カヲルの排除」と「第13号機の覚醒」は、〈ゼーレ〉の意図したものではない(とゲンドウは考えている)ことがわかる。

そもそもの条件である

〈ゼーレ〉はホンネとタテマエを使い分けている

という真実。そして、

〈ゼーレ〉の究極の目的は〈インフィニティ〉の創造

であり、さらに

〈ガフの扉〉を開くことは〈ゼーレ〉も意図していた

〈リリス〉の形象崩壊も〈ゼーレ〉にとって問題ではなかった

という仮説を前提としつつ想像力を働かせると、次のような真実を導き出すことができる。

〈ゼーレ〉は究極の目的である〈インフィニティ〉を創造するために、ゲンドウにはタテマエの〈人類補完計画〉を遂行させようとした。しかし、〈ゼーレ〉はゲンドウのホンネに気づいているので、2つの手段を講じていた。ひとつは、ゲンドウが虚構世界から突破するのを阻止すること。もうひとつは、ある“ひみつの行動”を起こすこと。それが〈ゼーレ〉のホンネの〈人類補完計画〉であった。

〈ゼーレ〉は、ゲンドウがタテマエの〈人類補完計画〉を実行するつもりがないことは先刻承知。具体的になにをしでかすかはわからないが、なにか仕掛けてることは想定済みだった。だから、先の対話ではゲンドウを責めたてたりしなかったわけだ。

となると、先に挙げた3つの可能性のうち、2つ目の「異変は〈ゼーレ〉の意図したものではないが、ゲンドウを責める必要もない」と、3つ目の「異変は〈ゼーレ〉の意図したものである」の両方が正しいと考えられる。

では、〈ゼーレ〉はなぜ〈ガフの扉〉を開いたのか? これは、途中で〈扉〉が閉じてしまったので、わからずじまいだ。しかし、もし〈扉〉が閉じずにいれば、“ひみつの行動”を起こしていたにちがいない。

〈インパクト〉がやり直しのプロセスであることをふまえると、〈ゼーレ〉が〈フォースインパクト〉で失敗した“ひみつの行動”を、今度は〈ファイナルインパクト〉でしかけてくると予想される。

“ひみつの行動”については、〈ファイナルインパクト〉の項で考察しよう。

〈トリガー〉は〈ガフの扉〉を開く

ところで、先に挙げたマリのセリフ

ガフの扉がまだ閉じない!
ワンコ君が ゼーレの保険か!

を別の角度から考えてみよう。

マリは、〈ガフの扉〉はワンコ君(シンジ)のせいで閉じないと言っている。

また、『Q』においてリツコは次のように叫ぶ。

彼を初号機に優先して
奪取ということは
トリガーとしての可能性が
まだあるということよ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

これらのセリフから連想できるのは、〈フォースインパクト〉はシンジが〈トリガー〉になった、ということだ。

一方で、『Q』においてカヲルは次のように発言している。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

僕が第13の使徒に
なってしまったからね
僕がトリガーだ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

カヲルは自分が〈トリガー〉になったと言っており、リツコのセリフと矛盾する。

これについては過去の考察を訂正することになるが、もしかするとカヲルの認識が間違っているか、あるいはカヲルとシンジの両方が〈トリガー〉になっているものと考えられる。

過去の考察では、エヴァはパイロットの意志や感情を読み取り増幅させる機能があると述べた。この考えを拡大するなら、

トリガー = エヴァ + パイロット

という図式が成り立つ。

〈ニアサードインパクト〉は「初号機+シンジ」、〈フォースインパクト〉は「第13号機+カヲル+シンジ」の組み合わせが〈トリガー〉となったと考えられるのだ。

また、そこから類推して、〈サードインパクト〉においても「初号機+シンジ」が〈トリガー〉になったと想像できる(というより、ほかに〈トリガー〉になりそうなエヴァやパイロットがいない)。過去の出来事をふまえて、ミサトたちはシンジが〈フォースインパクト〉の〈トリガー〉となることを恐れたのであり、DSSチョーカーをシンジに装着せざるを得なかったわけだ。

〈サードインパクト〉の際はシンジは〈初号機〉と「同化」しており自覚はなかったと思われるが、本人がはっきりと意識しなくてもエヴァが動作することは『Q』で表現されている。

 icon-arrow-circle-down シンジは〈初号機〉と同化していたにもかかわらず、アスカの要望にこたえて“行動”を起こしている。

とはいえ
先に突如12秒間も
覚醒状態と化した事実は
看過できない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

さて、〈トリガー〉はどんな役割を担っているのだろうか。

先の考察では、〈トリガー〉は文字どおり引き金(きっかけ)にすぎず、〈インパクト〉を起こす本体が別に必要と述べた。その考えはいまも変わらないが、じつは〈トリガー〉は〈ガフの扉〉を開く役割を担っているのではないだろうか。

〈フォースインパクト〉の〈ガフの扉〉が閉じなかったのは、「初号機+シンジ」の組み合わせが健在だったためだと考えられる。

〈サードインパクト〉において、ゲンドウと〈ゼーレ〉は「初号機+シンジ」を〈トリガー〉として利用した。これはマリを始めとするヴィレの人たちには周知の事実なのだろう。

そして〈フォースインパクト〉において、ゲンドウがカヲルを〈トリガー〉にしたのは〈ゼーレ〉の息のかかったカヲルを排除するため——あらかじめ意図したのではなく結果的にそうなっただけかもしれないが、少なくともマリは「ゲンドウ君の狙い」と考えていたはず——だから、シンジを〈トリガー〉としているのは、ゲンドウではなく〈ゼーレ〉の“保険”ということになる。それが真実とは限らないが、少なくともマリはそう思っているので、あのようなセリフになったのだろう。

ところで、先の考察で、〈セカンドインパクト〉が失敗したのは、〈ゼーレ〉が〈インパクト〉を起こすのに〈トリガー〉が必要なことを知らなかったからだと述べた。これを言い換えると、〈セカンドインパクト〉では〈ガフの扉〉がしっかり開かなかったのではないか。

あるいは、もっと妄想を膨らませれば、〈ガフの扉〉を開く役割を〈トリガー〉ではなく〈リリス〉が担ったために、リソースが足りなくなり、本来の〈インパクト〉にならなかった。だから〈セカンドインパクト〉は失敗した。

『破』の〈ニアサードインパクト〉では、「初号機+シンジ」の〈トリガー〉が開いた〈ガフの扉〉のほかに、別の〈扉〉が出現している。

 icon-arrow-circle-down 〈初号機〉の頭上とは別の場所でも〈ガフの扉〉が開いている。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

これは前回の〈セカンドインパクト〉において、〈リリス〉が〈ガフの扉〉を開いたことの名残なのかもしれない。

〈槍〉がニセモノだから〈人類補完計画〉は遂行されない

セントラルドグマにある2本の〈槍〉はニセモノだった——先に考察したこの仮説を前提とすると、〈フォースインパクト〉時に起こったさまざまな現象に説明がつけられる。

ニセモノだから「僕らの槍じゃない」

まずは、〈槍〉を考察するきっかけとなった問題を片づけておきたい。

カヲルは、セントラルドグマの〈槍〉が形状変化していたことを重要視していた。

〈槍〉が2本とも〈ロンギヌス〉だったことよりも、

〈槍〉がニセモノだった

ことにカヲルは絶望したのだ。

ニセモノなのだから、当然「世界の修復」はできない。カヲルが次のセリフを吐いたのはそこに理由があったのだ。

もういいんだ…
あれは僕らの槍じゃない

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

ニセモノだからシンジは〈槍〉を抜けた

シンジが〈リリス〉と〈Mark.06〉に刺さった〈槍〉を抜いたとき、形状が変化するのを確認できる。これはもちろん、〈槍〉が2本ともコピーだからだ(なお、〈カシウス〉が変化するところは劇中では表現されていない)。

本来、〈槍〉を抜く作業には2人のパイロットが必要のはずだった。ところが『Q』では、シンジがカヲルを操縦不能にしてしまう。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

(シンジ)
えいっ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

(カヲル)
操作系が…

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

にもかかわらず、〈槍〉は抜けた。もちろん、〈槍〉がニセモノだったからだが、シンジはそのことにもう少し注意を向けるべきだった……。

ニセモノだから第12の使徒が生き残った

シンジによって〈槍〉の抜かれた「第12の使徒」(〈Mark.06〉だったもの)は、活動を再開する。

その様子を見てアスカは叫ぶ。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

まずいっ!
第12の使徒がまだ生き残ってる

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

〈サードインパクト〉の際、〈槍〉を刺して息の根を止めたはずなのに生きていた。これも〈槍〉がニセモノだったからだ。

ニセモノだから〈インパクト〉が止まらない

カヲルは、〈フォースインパクト〉を止めようと、〈第13号機〉のコアに〈槍〉を刺す。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

カヲルの意に反して、〈ファーストインパクト〉は完全には停止しなかった。これも〈槍〉がニセモノだったからだと考えられる。

この世界ではいろんなモノが〈コア化〉する

ところで、『Q』には『序』『破』にはない特徴がある。〈自分と世界の禁じられた融合〉=〈コア化〉があちこちに描かれているのだ。

まずは、先に考察したように、シンジがカヲルに見せられた惨状はそのひとつ。

それ以外にもさまざまな場面で〈コア化〉する様子が見られる。その理由は、先に考察したように

〈虚構A〉の世界に存在するものはすべて〈インフィニティ〉の部品の材料にすぎない

からだ。これを別のコトバで表現すると、

〈虚構A〉の世界に存在するものはすべて潜在的に〈コア化〉の可能性を持っている

ということになる。先に述べたように、それは人類にとってはカオスでも〈ゼーレ〉にとっては本来あるべき状態なのだ。

仏教には〈いっさいしゅうじょうしつぶっしょう〉という教えがある。「生きとし生けるものはすべて仏性を持っている」ことを意味し、簡単にいえば「だれでも仏になれる」ということだ。

それを無理矢理『エヴァ』の世界観にあてはめれば、“一切衆生悉有性”。「この世にあるモノはすべて〈コア〉としての素質を持っている」わけだ。

『Q』において冬月はシンジにこう語る。

世界を崩す事は造作もない
だが 造り直すとなると
そうもいかん

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

じつはきわめて脆弱な均衡の上に世界は成り立っている。わずかでもこの世のことわりとか秩序が乱れれば、どんなモノも〈コア化〉してしまうのだ。

人類を含めてこの世界のすべてが「失敗作」であるならば、その存在が盤石でないのは、なんとなく納得できるだろう。

『Q』においては、さまざまな場面で世界の均衡がちょっとずつ崩れている。その例を挙げよう。

エヴァや〈使徒〉も〈コア化〉する

〈槍〉の抜かれた〈Mark.06〉は第12の使徒と化していた。〈改2号機〉の攻撃を受けつけない。それを見てマリは言う。

姫 ムダ弾はやめときなよ
あれ全部コアだから

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

また、ヴンダーの制御を奪おうとする〈Mark.09〉を〈改2号機〉が攻撃したとき、〈Mark.09〉が異様な状態になり、やはり攻撃は効かない。それを見てアスカはこう叫ぶ。

 icon-arrow-down 

こいつ 全身がコアか!

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

これらの現象は、本来のエヴァや〈使徒〉の理を超えていることの表われと考えられる。〈Mark.06〉や〈Mark.09〉は〈アダムスの器〉であり(〈Mark.06〉は〈リリス〉と融合までしている)、“この世”と“あの世”(=虚構世界と現実世界)の狭間にいるような存在だ。この世界の秩序からはずれているのは、むしろ当然といえる。

〈エヴァの呪縛〉は“あの世”に渡ってしまったから

『Q』で新たに登場した用語に「L結界密度」がある。〈フォースインパクト〉が止まったあと、〈コア化〉した場所を歩きながらアスカが言う。

ここじゃL結界密度が強すぎて
助けに来れないわ
リリンが近付ける所まで
移動するわよ

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

「L結界密度」の高い場所には、人類リリンは立ち入ることができないらしい。でも、アスカやシンジはその場所にいられる。アスカたちも言わば〈コア化〉してしまっているからだろう。

なぜ、人類は〈コア化〉した場所にいられないのか。酸素がないなどの環境的な問題もありそうだが、別の理由があるように思う。やや想像は飛躍するが

〈コア化〉したモノに触れると〈コア化〉する

のではないだろうか。

『破』には、零号機が〈使徒〉の〈コア〉をつかむ場面がある。

 icon-arrow-circle-down つかんだ手がなんらかのダメージを受けているように見える。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

「ダメージを受けている」というよりも、より正確には〈コア化〉しているのではないだろうか。

また、『シン・エヴァ』の「アバン」では、〈コア化〉した世界で戦闘を繰り広げた8号機とそのパイロットの足が〈コア化〉しかけているようにも見える。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT 1(冒頭10分40秒00コマ) 0706版』
©カラー

これまでの考察もふまえて別のコトバで表現すれば

コア化 = この世の理からはずれること

を意味すると考えられる。〈エヴァの呪縛〉によって歳をとらないのは、シンジたちが物理的な法則からはずれてしまったからだ*8

*8:ただし〈エヴァの呪縛〉にはそのほかの謎も多く、もう少し深く検証する必要はありそうだ。

ここへきて、エヴァや〈使徒〉が持っているとおぼしい〈コア〉。その正体がだんだんとわかりかけてきた気がする。

〈コア化〉が“この世”の理からはずれる現象ならば、〈コア〉も“あの世”と“この世”の狭間にあるような存在ともいえる。

たとえば『破』のラスト、シンジはレイを救うため、エントリープラグの奥(〈コア〉のあるほう)へっていく。しかし、物理的には、シンジの進む先にレイがいるわけではない(レイがいるのは〈使徒〉のなかである)。

とすると、シンジはどこへ行き、どこからレイを救い出したのだろうか?

 icon-arrow-circle-down そこはもはやエントリープラグのなかではなく、“この世”と“あの世”の狭間なのだろう。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

シンジがレイに向かって手を伸ばすとき、シンジの顔が異様な状態になる。

 icon-arrow-circle-down シンジの顔の表面がはがれていく。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
©カラー

これは、ヒトが〈コア化〉する場合の様子で、このときシンジは〈エヴァの呪縛〉にかけられたのかもしれない。

なぜネルフは最新兵器を造れるのか?

最後に、ほかと比べて重要度は下がるが、考察しておいたほうがよさそうな事項を考えてみよう。

『Q』を観た人は、少なからず次のような疑問を持つはずだ。

「なぜネルフは兵器を造れるの?」

ヴィレがありあわせの材料でエヴァを修理しているのとは対照的だ。

ずばり、

〈ゼーレ〉がネルフを手助けしている

からだと考えられる。

「手助けしている」といっても、別に〈ゼーレ〉がのこのことネルフ本部にやってきて、ゲンドウや冬月の手伝いをしているわけではないだろう。そもそも〈ゼーレ〉自身はこの世界に入れない。また、〈ゼーレ〉の息のかかった人間が働いている、というのも考えにくい(ネルフ本部には、ゲンドウと冬月、カヲル、シンジ、レイ以外の人物は見当たらない)。

〈ゼーレ〉としては、あちら側からちょっとプログラムを書き換えるだけで良い(その作業は簡単ではないかもしれないが)。

先に見たように、ネルフ本部が“不思議な力”で宙に浮いているのも、〈ゼーレ〉の技術を使っているから、と考えれば説明がつく。

〈ゼーレ〉がネルフを助けている理由は、タテマエではネルフに〈人類補完計画〉をやってもらわなければならないからだ。

たとえば、『Q』において、〈第13号機〉が完成したとき、冬月は次のセリフ口にする。

碇 今度は
第13号機を使うつもりか?

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
©カラー

冬月は、ゲンドウが「第13号機を使うつもり」であることについて念を押している。しかし、「使うつもり」で〈第13号機〉が造られたのは自明なはずだ。まさかゲンドウが趣味や酔狂でエヴァづくりを愉しんでいる、と思っていたわけではあるまい。

本来は〈第13号機〉はある目的のために造られており、その点は〈ゼーレ〉の同意が得られている。だが、ゲンドウがそれとは別の目的に使おうとしていることに冬月が気づき、真意をたしかめた、といったところだろう。

言うまでもなく「ある目的」が〈ゼーレ〉の〈人類補完計画〉で、「別の目的」がゲンドウの究極の目的(虚構世界からの突破)と思われる。

〈第13号機〉のようにエヴァをまるごと1体建造できるのは、当然〈ゼーレ〉が協力しているからだ。ゲンドウたちが秘密裏にエヴァをつくることなど不可能だろう。〈ゼーレ〉はあくまで〈人類補完計画〉を行なわせるために〈第13号機〉を造らせたはずだ。

さらに視点を変えて考えてみると、〈ゼーレ〉とゲンドウが対立していることは先に見たとおりだが、それはいわゆる“ケンカ”しているのとはワケがちがう。

過去の考察でも述べたように、〈ゼーレ〉にとってネルフは、パソコンのアプリケーションのようなものなのだ。アプリが思いどおりの動作をしなかったとしても、腹を立てることはあっても、とうてい“ケンカ”にはなり得ない。アプリが妙な動きをしないか警戒しつつも、本来の役割をまっとうできるように計らう必要がある。

とはいえ、その“関係”もおそらくは〈フォースインパクト〉の失敗で崩れてしまったのだろう。いや、先に述べたように、〈フォースインパクト〉の失敗は「ゼーレのもくろみ通り」であり、すでに関係は断絶していたのだ。

〈ファイナルインパクト(フィフスインパクト)〉では、いよいよ〈ゼーレ〉が本気を出してくるものと思われる。そこが『シン・エヴァ』の見どころになるだろう。

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ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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コメント

    • 匿名
    • 2019.08.19 5:00pm

    0706においてマリの足が赤くなっているのはエヴァ4444Cの攻撃を受けたためです。エヴァ本体の足は赤くなってません。
    またコア化については接触によりコア化する、ではなく侵食の方が良いと思います。
    また、エヴァのプラグスーツを着ている場合はコア化されません。復元オペにおいてもオペレーター達はプラグスーツ同様の服装です。

    • おっしゃるとおり、「〈コア〉に触れると〈コア化〉する」については、再検証の必要がありそうですね。今後の参考にします。

      ありがとうございました!

    • かおり
    • 2019.10.04 4:21am

    このブログにたどり着けて
    本当に良かった!
    目からウロコが取れたような
    読んでいて
    とても気持ちの良い考察でした!

    気付いたら朝になっていましたよ(笑)

    本当に楽しかったです、
    ありがとう!

    • 匿名
    • 2019.10.04 4:23am

    気付いたら朝になっていました!
    一気読みです。

    楽しかった、ありがとう!

    • こちらこそ、お読みいただきありがとうございました。

      エヴァの考察って、書くのも読むもの楽しいですよね(私もいろいろな人の考察を見たりします)。

      これからもお互いエヴァを堪能していきましょう!

        • 伊勢雲
        • 2020.07.13 1:31am

        虚構から現実へとあがく物語としてゼーガペイン(2006)は外せません。またこの物語はループからの脱出劇でもあります。
        カヲルが今度はと呟くのはループのなかでのソゴルキョウたちの想いにもつながります。
        このサイトの考察に照らせばゲンドウたちは全てミサキシズノで、ユイが唯一の量子化人類、ゼーレがナーガ、インフィニティは復元者とガルズオルムと言うことになるでしょうか。
        エヴァンゲリヲン序(2007)からエヴァンゲリオンの蛍光部分が輝くようになったのは、ホロニックアーマーへのオマージュとも思えます。

        • 『ゼーガペイン』は未見ですが、なるほど、『エヴァ』の理解にもつながりそうですね。

          dアニメストアでも配信されているようなので、いま観ているアニメシリーズが終わったら、ぜひ拝見したいと思います。

          参考になる情報をありがとうございました。

    • 匿名希望
    • 2020.07.06 8:49pm

    旧エヴァのシンジの「自慰行為」など、意図的に性的な表現がされている。
    そしてこのブログを読んで、次のように感じました。
    生命の誕生(卵子と精子の出会い)→ファーストインパクト
    生殖器の発達→セカンドインパクト(女性『卵子』がリリン、男性『精子』がアダム)
    性行為→サードインパクト、フォースインパクト
    生命の誕生(卵子と精子の出会い)→ファイナルインパクト=ファーストインパクト=ループ→虚空Aもしくはリアルの世界。
    自分の中で、エヴァへの理解がひと段落したような、そんな感じです。

    • なるほど。〈世界の創造〉を〈生命の誕生〉になぞらえる。なかなか興味深い視点ですね。

      旧劇場版では〈生と死〉がモチーフになっていて、とくに〈死〉に重きが置かれていた観がありましたが、新劇場版では逆に〈生〉に重きを置いているのかもしれませんね。

      このたびはとても参考になるコメントをいただきありがとうございました。

    • ミキ・プルーン
    • 2020.07.08 7:41pm

    4ページ目の
    >『Q』のエンドクレジットのあと、〈Mark.06〉に搭乗するカヲルが〈カシウス〉を〈初号機〉に投げつけ、〈インパクト〉を中断させる描写がある。

    これはだと思うのですが(._.)

    • ご指摘ありがとうございます!
      修正しました。
      今後ともよろしくお願いします。

    • 匿名
    • 2020.08.14 3:42am

    クソみたいな考察でガッカリしました。
    拙い文章で読み辛いです。
    わざわざこんなもの載せるなんて
    よほどの暇人ですか?

    • 「ごめん。これは君の望む“考察”ではなかった」
      「君が心配することはない」
      「君は、安らぎと自分の場所を見つければいい」
      「縁が君を導くだろう」
      「そんな顔をしないで」
      「希望は残っているよ。どんな時にもね」

    • いのり
    • 2020.08.28 9:26pm

    初めまして。
    私自身はアスカのプラグスーツの破損状況から「二つの世界があったら面白いな」派なのですが、インフィニティの考察がとても面白くて読み込んでしまいました。
    考察を巡るのは自分では出せない想像や気付きに出会えて良いですね。
    掲載してくださってありがとうございます。
    (くだらないコメントへの返しもエヴァ愛に溢れていてとてもGoodでした(笑))

    • こちらこそ、お読みいただきありがとうございます。

      他人の解釈や考察も楽しめるのがエヴァのいいところですよね。

      これからも一緒に作品を堪能していきましょう!

    • 1番マリが好き
    • 2020.08.29 1:38pm

    序盤のある程度は読ませていただきました。これは煽りをしようしてコメントしているのでは全くありません。”(-“”-;)”うーん 率直に言うと途中から考察に矛盾が生じて読むのを辞めました。申し訳ないです ただ指摘したい部分があり今回コメントさせていただきます。不快な気持ちにさせてしまうと思うと申し訳ないです。すみません
    1つ目は、旧劇場版と新劇場版とはそもそも設定が違うと書かれてるのですが途中から旧劇場版等の描写を使用している時点でおかしいなと感じました。
    2つ目は、槍の件です。使徒と槍は一緒に揃っていたはずです。そうすると、初めにアダムが地球へ到達し、アダムとカシウスは共にあるはず。次にリリスが地球へ到達するとこでセカンドインパクトが起きた場面でロンギヌスの槍が2本登場する。リリスと一緒にあるはずのロンギヌスが1本。流れ的にはカシウス→ロンギヌス→ロンギヌス→ロンギヌスの順になるはずと思いました。
    3つ目はカシウスの槍を抜いた初号機についてです。ヱヴァンゲリオン 新劇場版:破で第10使徒から綾波レイを救い出し取り込んだ初号機。1度カシウスの槍で貫かれた事により初号機は活動停止になります。しかしこれの初号機は後にヴンダーへと変わるのはご存じですよね?ヴンダーは初号機の無限のエネルギーを活用して起動しています。この無限のエネルギーが初号機にあるならばカシウスの槍を抜いた時点で初号機が覚醒した時と変わらないため再び活動を再会するはずです。
    4つ目は薄いですが、コア化したMrk.06を槍で貫け無かったはずのになぜリリスを槍で封じたらMrk.06を槍で封じる事ができるのか疑問に思いました。
    5つ目は槍の件です。Mrk.06→アダムの(肉体)渚カヲル→アダムの(魂)でアダム本体といっても偽りはない。アダム本体と似ているためカシウスの槍が使えたとなるなら真のヱヴァンゲリオンを待たずともインパクトを起こすことができる。←この理論でいくと2号機→アダムの(肉体)アスカ→リリスの(肉体と魂)となる。アダム、リリスどちらの本物でもないためインパクトを起こす可能性は低いと思いました。ただし、主さんが書かれていた初号機もしくは零号機なら可能性はあるかもと思いました。
    続いて6つ目です。6つ目は初号機の桶を用意し、宇宙へと運んだとありますが、アスカ、Mrk.07がリリスの結界から脱出できたのだとすると、閉じた結界を再度開け一体誰が初号機に桶まで用意し宇宙へまで運んだのか疑問に思いました。
    長文大変失礼しましたm(_ _)m 主さんの考察が気になったので読ませていただきました。まだまだ分からないこともたくさんあるのでシン・ヱヴァンゲリオンを楽しみに待ちましょう!待ち遠しいです
    ありがとうございました✨

    • コメントありがとうございます。

      矛盾点の指摘や反論はもちろん大歓迎ですので、どうぞ恐縮なさらずに。

      【1.旧劇場版と新劇場版の設定について】

      正確には「旧劇場版と新劇場版では、一部の設定に異なった部分がある」という意味で、当然、共通している設定も多くあると思われます。

      馬鹿馬鹿しい例を挙げるなら、旧も新も主人公のパイロットは碇シンジで、モノゴトを裏で操っているとおぼしき組織は、旧も新もゼーレですよね。

      問題は、旧と新の設定は、何が同じで何が異なるのかを見極めることだと思います。記事では、いくつかの根拠をもとに、それを明らかにしているつもりです(十分でない部分もあるかもしれませんが)。

      【2.槍について】

      ・使徒と槍は一緒に揃っていた
      ・初めにアダムが地球へ到達
      といった設定は、劇中に描写がないことから、旧劇場版・新劇場版のいずれにおいても確定したものではないかと思います。

      ただ、劇中にないからといって、そのように考えてはいけない、ということにはならないでしょう(そうしないと、ヱヴァの考察そのものが成り立たないですからね)。

      槍の出自については、少なくとも現時点では観る側の解釈に委ねられているといったところでしょうか。

      【3.カシウスの槍を抜いた初号機】

      初号機がヴンダーに変わったというよりも、もともとヴンダーと呼ばれる存在があり、そこに「主機」として組み込んで飛べるようにした、と表現するほうが正確かもしれません(『Q』で初号機を奪還するまでは、ヴンダーは飛べなかったのでしょう)。

      「初号機の無限のエネルギーを活用して起動して」いるというのも、劇中には説明がなく、確定した設定ではないかと思います。

      したがって、「カシウスの槍を抜いた時点で初号機が覚醒した時と変わらないため再び活動を再会」したかどうかは未確定といえます(当然、実際にそうなった可能性は否定できませんが)。

      もちろん、どういう理屈でヴンダーが空中を飛んでいるのか想像がつかないため、おっしゃるとおり、「初号機の無限のエネルギーを活用して」飛んでいると解釈する余地は十分にあるでしょう。

      【4.Mark.06と槍】

      「コア化したMrk.06を槍で貫け無かった」。これもそのような描写は劇中にないし、記事でそのように説明もしてないかと思います(私の勘違いでしたらすみません)。

      【5.槍と魂】

      私の読解が間違っていたら申し訳ないのですが、ここでご指摘いただいていることは、私の考えとは異なります。

      「カヲルがアダムの肉体を持っている」「アダムの魂がカヲルに入っている」とは私は考えていないのです(というより、新劇場版では設定が異なると記事では主張しています)。

      私が「ホンモノ」「ニセモノ」といっているのは、アダムスやリリスではなく2本の槍のことです。

      【6.初号機の桶】

      初号機の桶はサードインパクト時には、セントラルドグマにあったわけではないと私は思っています。では、どこにあったのか? という疑問はありますが、それは今度の課題としています。

      劇中の表現を信用するなら、リリスの結界を開けることは誰にもできないし、実際開けることはできなかったのだと解釈しています。


      こちらも重箱の隅をつつくようなお返事になってしまいましたが、今後のヱヴァ考察にお役に立てれば幸いです。

      今後ともよろしくお願いします。

    • あきらつかさ
    • 2020.08.29 8:22pm

    はじめまして。
    面白く拝読させていただきました。
    コメント欄も拝見して、そういえば「LCL=羊水」というのが過去にあったことを思い出しました。
    <生命の誕生>とするなら、これも見方のひとつかも知れません。

    拝読して、提唱されている説にあわせて思ったのは、ユイは「仮想世界内にアバターで直接介入できる」権限のあるシステム管理者(ゼーレの一員)では、ということです。その中でゲンドウに惚れてしまったために(裏切り、とすると矛盾が生じないかと)正体を(冬月にも)明かし、自らを犠牲にしてこの(仮想)世界を去った。そのユイのもとへ行くためゲンドウは「虚構世界の突破」を図っている――という流れ。あるいは、自分が無理でも息子(シンジ)を母の元へ送る――
    虚構であることを知っている者そのものがいない上にこの「世界(線)を超越する」というのはカヲルでも想定していないことで、まして他の誰にも理解されないしそもそも知らせていない(ゲンドウの目的がゼーレにバレるのを防ぐためもあるかと)、そのため「インパクトの続きを起こそうとしている世界破壊者」に見せている。

    ただ、やはり視聴者の多くが期待しているのは「シンジ(とアスカやミサト)の幸せ」だとも思っています。
    そうなると展開としては「虚構世界の再構築(再誕)」とも。TV版であったような「可能性の一つ」としての明るい世界がまた現れるのか、「消されず存続を『許された』世界、そして使徒やその他の戦いがなくなりはしたものの現状のまま」となるのか……(過去作と同じことはしない、と思っていますので「(現実の)観客席を映したシーン」はないと思っています)
    また、シンジには「主人公として」成長することで「テーマ」を視聴者に伝える、という「シナリオの大原則」としての役割もあると思っています。今作再三言われている「大人になる」がここで出てくるとも。

    なんにぜよ、実のところ数多の考察や予測を覆した意外(かつ納得感のある)次作になることを期待しています(笑)

    ありがとうございます。

    • コメントありがとうございます。なかなか興味深い視点で、私の考察でもそこまで踏み込んでいないので、とても参考になります。

      コメントを拝見して思いついたのですが、〈ゼーレ〉というのはじつは存在せず——というより、複数の人格を装っているけども、すべてユイが操作しているのではないか、という仮説を思いつきました。

      旧劇場版では、ユイの罪について追究されていないのですが、人類補完計画の首謀者ともいえるわけで、新劇場版でははっきりと悪の親玉、すべての元凶として登場するのかもしれません(そこが観客の意表を突くポイントというわけです)。

      となると、シンジはユイを選ぶのか、ゲンドウを選ぶのかという選択を迫られ、旧劇場版のように「父にありがとう、母にさようなら」となるのでは? などと考えてみました(いや「母にありがとう、父にさようなら」でしょうか)。

      また、「虚構世界の再構築(再誕)」というお話がありましたが、『序』『破』『Q』が虚構世界だとして、ミサトたちが「現状維持」もしくは「原状回復」をめざしているとすると、虚構世界を維持することになり、やや違和感がありました。そこで、別の方のコメントで教えていただいた『ゼーガペイン』のように、ミサトたちはじつはすでに(『Q』の時点では)ここが虚構世界であることを知っていて、現実世界を自分たちの手に取り戻すために奮闘していると考えると、ヴィレの行動原理に正当性が出てくるかなと思っています。

      その場合、なぜミサトたちはその真実をシンジに告げないのか、あるいはカヲルあたりが説明してもよさそうだが、といった疑問が生じますが、それは今後の考察に活かしたいと思います。

      新たな考察のきっかけをいただき、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

    • すー
    • 2020.08.29 10:48pm

    考察楽しく拝見させていただきました。
    エヴァは難しくて近寄り難かったのですが、こちらの考察を読んで楽しみ方を見つけることができました。

    こちらで展開されているメタフィクション説ですが、SAOのアリシゼーション編に酷似していますね。そちらも思い浮かべていたら分かりやすさが増しました。

    また、素人の勝手な思いつきですが、世界がコア化するとのことですが、コアというとやはり使徒のコアを思い浮かびます。使徒がどのように発生するのかわかりませんが、インパクトが成功すると使徒のコアになるなんて思ったり。そして生まれた使徒は作中で登場した使徒で、シンジたちが戦うとすると、フラクタル図形のようで面白いなと思いました。(妄想)

    シンエヴァが公開される前にエヴァの魅力に気づけてよかったです。公開が楽しみです。

    • おっしゃるとおり、世界のコア化と使徒のコアは何か関係がありそうですよね。ただ、劇中で「コア化」という表現が一度も出てこない点が気になっています(「L結界」というのが正式な言い方なのかもしれません)。

      『シン・エヴァ』において、使徒がどのくらい重要なのかも注目したいですね(使徒は全部倒したはずなので、本来ならもう使徒は出てこないはずですが……)。

      コメントありがとうございました。

    • おたつむり
    • 2020.09.09 2:04am

    大変面白く、ご提唱の仮説の通りであってもなくても、理解や想像が一層深まり、感謝しかありません。

    コメントまでは全て目を通していないので既出かもしれませんが、ファーストインパクトとは即ち現世におけるジャイアントインパクト説、月の誕生に由来していると考えるのが自然かなと捉えています。
    そうであれば飛躍するとミクロの量子力学が宇宙の解明に繋がるように、現世の我々やあらゆる存在がまた大きな生命体を構成する分子や元素のようなもの、或いは大きな存在が産み出した仮想現実であるというような世界観の示唆、テーマであるように感じました。

    • ジャイアントインパクト説は考察に組み込んではいないのですが、おっしゃるとおり、さまざまな理論を導入することで、エヴァの世界のみならず、私たちのいるこの現実世界の解明にもつながり、知的好奇心が満たされますね。

      ただ、私はその「理論」に関する知識が乏しいので、なかなか難しいところではありますが(笑)。今後も幅広い勉強の必要がありそうです。

      記事をお役立ていただいたようで、こちらこそありがとうございました。

      • ここの考察を読ませていただきました。とても興味深い話で一気に読み上げてしまいました。ありがとうございます!そこでいくつか気になるところがありましたので送らせていただきます。どこかの考察でネルフ型のエヴァはしょごう

        • ごめんなさい途中で送ってしまいました。前の続きですが、これらの考察の中でチルドレン達がエヴァの脳となって動かすといったニュアンスの文があったかと思います。そこで思い出したのが人間の神経と脳の関係です。人間の場合脳から出ている神経には二つあります。具体的には運動神経と感覚神経です。人間は、体を動かす際には運動神経を経由して体を動かしています。エヴァでは、お馴染みの神経接続では、感覚神経だけでなく、運動神経も接続しているのではないでしょうか。具体例として、新世紀エヴァンゲリオンでシンジが初号機に初めて乗ったとき、動け、といっただけなのに初号機が動いたこと。同じく新世紀エヴァンゲリオンよりシンジが初号機を操作する前リツコが考えることだけに集中してと言っていたこと。これらのことから神経接続の際、運動神経も接続しエヴァを動かしいるのでは?と思います。一見私の考えはなにも関係ないように見えますが、ここで書かれていた考察であるネルフ型のエヴァが乗る人つまりチルドレンが脳となっているため、シンジの負の感情が初号機に現れ、動いたのではないかと言う考察一つの根拠としてあげられるのではないでしょうか。

  1. 自分で読み返すと言いたいことが多すぎて文が支離滅裂になっています。すみません。なにか質問がありましたら返信いただけると幸いです。

    • 別の記事でも同じ内容のコメントを頂戴しましたでしょうか? そのこと自体は問題ないのですが、当ブログのコメントは承認制なので、しっかり投稿されていても気づかずに何度も投稿されているかもしれません(たまにそういう方がいらっしゃいます)。

      さて、運動神経については、別のコメントのほうでもお返事しましたが、たしかに面白い視点ですね。

      問題は(これは自分の考察の問題なのですが)、ネルフ型とゼーレ型のエヴァは違うと仮定した場合、ゼーレ型は運動神経はつながっていないことになります。ですが、一見すると両者は「建造方法」は違っても、エントリープラグからなんらかの信号なり情報なりをエヴァに伝える方式は、両者に違いはないように見えます。

      制作陣はそこまで細かく設定していないのでしょうが、今後の考察に影響が出そうなので、おざなりにするわけにもいきません。

      今後の考察の参考にさせていただきつつも、問題がさらに膨れ上がってしまいましたね(笑)。

      でも、新しい視点を提示していただいたことは感謝しております。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

      • すみませんいろんなところで出してます。
        気づかずに何回かやってしまいました。本当にすみません。

        • ちょっとわかりにくいシステムですよね。

          どうぞ気になさらずに。

  2. すみません!すごいことを思い出したので送ります。エヴァンゲリオンanimaってご存じですか?この話では、ストーリー編集

    EVA弐号機がEVA量産機との戦いに敗れ、同機を中心とした補完計画の儀式が今まさに完成しようとしていたその時、シンジのEVA初号機F型装備が、本部に侵攻していた戦略自衛隊などの勢力を全て撃退して現れた。シンジは量産機を全て破壊し尽くして補完計画を妨害するも、地下のリリスはゲンドウらを呑み込む形で謎の黒い結界を展開、NERV本部は主要施設や重要人物を失うという結末を迎えた。

    その後、NERV本部は各国支部との連携が取れにくくなるものの、補完計画の再発防止・ゼーレの活動妨害のために量産機の鹵獲と解体、衛星軌道上にエヴァ零号機試製II式改・領域制圧機「0・0EVA」3機を配備するなどの後処理を進める。しかし、鹵獲した量産機のいくつかが行方不明になった、0・0EVAの配備に関して各国の承認を経なかったなどの件で疑義を抱かれ、ついにはNERV全体が新たな脅威として見られてしまう。それでも、ゼーレが壊滅した保証もない今、NERVが解体されるわけにはいかなかった。ミサトを初めとする旧NERV本部職員一同はその武力を背景にして世界各国と軋轢を重ねながらも、NERV本部を各国支部から切り離し、独立した組織 ネルフジャパン (NERV Japan)として新たに立ち上げる。物語はその3年後、ゼーレの再侵攻は無いであろうと誰もが思っていた頃から幕を開ける。  こんな話なのですがこの中で、アルマロスというエヴァがでてきます。そいつは、人類保管計画の要となるキューブのようなものを持っています!あなたの記事であったコンピューターのなかで…といった趣旨の話とかなりにて畏怖と思いますが偶然でしょうか?

    • 通りすがりの人
    • 2021.01.20 8:49pm

    https://www.youtube.com/watch?v=T3XkH4J9nss

    突然ですが、私はこの動画が今までで一番しっくりきました…

    • ありがとうございます!

      のちほどチェックして今後の考察の参考にさせていただきます。

      また情報がありましたら、ぜひお寄せくださいませ。

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