『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』で今後のお付き合いを考える

この本はもともと『イスラムの人はなぜ日本が好きなのか』というタイトルで刊行される予定でした。ところが、アルジェリアで事件が起こり、出版がとりやめになってしまったという経緯があります。

この本が「出版停止」になったというニュースは私も記憶しています。そのあたりの“大人の事情”も理解はできますが、著者のいうとおり、ああいう事件があったからこそ、出版の意義があるのではないかと思いました。

このアルジェリアの事件やイラク戦争のこともあり、日本でふつうに生活していると、どうしてもイラスムに対して悪いイメージを抱きがちです。

もちろん、イスラムの人が日本好きであることは知識としては知っていました。けれども、地理的にも文化的にもイスラムになじみの薄い日本人としては「どれほどのものなの?」と、その親日ぶりを実感しにくいのも事実。

この本は、そんな人に向けて「イスラムの人が実際どのくらい日本が好きか」を具体的に紹介した本というわけです。

ニッポンのアニメ大好き!

「ヨルダンの若者たちは日本のドラマにはまっています。モーニング娘。やジャニーズを話題にしたり、『ナルト』や『ワンピース』、『BLEACH』や『銀魂』といったマンガ、アニメに夢中になったりしています。ものによっては、ヨルダンの学生のほうが日本人の学生より知っていることも多いくらいです」

かねてより「日本のアニメは世界一ィィィッ!」と思ってはいましたが、自分のなかで思っているだけなので、では実際どうなの?ってなったときにイスラムの人たちが支持してくれていることを知れば、説得力が増します。

アニメやマンガなど、日本の文化は、“ガラパゴス化”している観があり、それは間違っていないとは思うものの、一方で“国際性”も持っていることもわかるので、日本文化の魅力を再確認できます。

世界の安全保障にも貢献

世界各地で起こる紛争をいかにしてなくしていくか。この問題をずっと考え続けていると、〈日本〉というのは、ひとつのキーポイントであることに気づきます。

アメリカとかロシアとか中国とか、他の大国と違って、紛争当事者に対して政治的・文化的な“しがらみ”がないために、独自の外交ができるからです。

「世界で日本文化ファンを増やし親日国を増やしていけば、将来、もし日本が外国から危害を受けそうになったり、いわれのない誤解で非難を浴びても、『あの国や国民を滅ぼしたり、危害を加えたりしてはならない、日本や日本国民に限ってそんな行動をする訳がない』と、日本ファンの国の声が大きなものとなり、力となって、武力以外の外交の場で支援してくれます。茶道を含め世界に誇れる日本の文化をもっと発信して、外交力アップにつなげるべきです」

アルジェリアの事件の真相は闇の中という感じですが、武装集団に「日本人はいるか」と言われ殺害されたと聞いています。でも、少し前なら「日本人はいるか。お前たちは助ける」となっていたはずです。

やはり、本来イスラムの人たちとは“しがらみ”がないはずのに、その“しがらみ”をあえて作ろうとするような政策をとっているのが問題なのでしょう。困ったことです。

今後イスラムの人とどうお付き合いしていくか

アルジェリアやイラクの事件だけを見て、日本がイスラムの人と敵対しようとするのは得策ではないでしょう。

この本にもあるとおり、イスラム教徒の人口は世界96億人のうち3分の1を占めるという予測もあり、世界の宗教人口のトップとなります。

われわれ日本人にとって、イスラムの人たちの付きあいは、文化的・経済的・安全保障的にも、今後ますます重要性を増すことは間違いありません。

いわゆるニュースだけを見ていると、悪いイメージが先行しがちなので、本書で──もちろん本書以外にも良書を見つけて──イスラムに対する正しい知識を身につけたいものであります。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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