『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を素直に楽しむための5ステップ

ヱヴァンゲリヲン

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』には賛否両論ある。問題は、あなたが作品を鑑賞する前に「否」の意見を目にしてしまうことだ。まだ心の中は「賛」でも「否」でもないのに、評価がマイナスに定まってしまう

今回は『ヱヴァQ』を素直に楽しみたい人のために、「賛」の立場から、5つの鑑賞ポイントをまとめてみた。作品を観る前および観た後にご覧いただきたい。もちろん、ネタバレはなしだ。

念のため。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は4部作の3作目だ。1~2作目(『序』『破』)をあらかじめ観ておこう。

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[ステップ1:ストーリー]意外にもシンプルかつ王道の物語を読み解く

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

『Q』の物語展開はじつはシンプルだ。1「動」→2「静」→3「動」と、単純な〈三幕形式〉になっている。この〈三幕形式〉は、おもしろい物語を作る際のイロハのイだ(たとえば、ハリウッド映画の脚本はほぼこの形式で書かれている)。

『序』や『破』は、このような王道の物語展開になっていない。だから、空中分解のリスクがあった。結果的には、力技で傑作に仕上げたけれど。

そこをあえて今作ではセオリーにのっとった。同じ制作陣にもかかわらず、だ。この点はもっと注目していい。何か意図があるのだ

『ヱヴァ』は難解な作品として知られている。『Q』に対しても同じ感想を抱く人がいるかもしれない。

しかし、『ヱヴァ』の難解さは設定の細部が意図的に隠されていることによるものだ。後に述べるように、それが『ヱヴァ』らしさであり、作る側と観る側の両方が求めているものなのだ。

もともと「わからないように」作っているわけだから、重箱の隅をつつくような真似は、むしろ鑑賞の妨げとなる。

細かいことはよくわからないが、キャラクターたちが何をしようとしているかは、なんとなくわかるようになっている(そのため、今作では誰もが予想しなかった仕掛けが施されている)。「あ、●●●をするために○○○へ向かっているんだな」「彼女たちはそれを止めようとしているんだな」と。

その程度の理解で十分に楽しめる。〈三幕形式〉にした理由もそこにあると思われる。

もちろん、そのような作品作りを否定する人もいるだろう。だから、大切なのは「自分はどんなタイプの作品を好む人間なのか」を見極めることなのだ。

[ステップ2:映像]超一級の戦闘シーンに浸る

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

『ヱヴァ』はバトルアクションだ。目の前に展開する映像と音に身を委ねるという至福。生理的な快楽。それが得られる映画はそれほど多くない。

鑑賞の際には、体調を万全にしておく必要がある。それくらいパワフルかつボリューム満点の戦闘シーンが炸裂する。

十分な制作環境を整え、一流のスタッフをそろえ、膨大な時間と費用をかけて、現代の日本で考えうる最強の布陣で作品作りを行なっている。スタッフクレジットなど、日本アニメーター名鑑の様相を呈している。この制作姿勢は高く評価したい。

[ステップ3:謎解き]鑑賞のあとも『ヱヴァ』の世界を引きずる

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

先に述べたように、『ヱヴァ』では設定の一部が意図的に隠されている。これは『序』や『破』はもちろん、14年前(旧世紀版)からの伝統だ。もちろん、これは『Q』が全4部作の一部であることがあらかじめアナウンスされているからこそ可能になったこと。通常の映画ではできない芸当だ。

『ヱヴァ』特有のこの仕掛けがもたらす効果は、作品を見終わったあとも、劇中の「謎」について思いをめぐらす楽しみがあること。もちろん、答えは出ないのだが、つい考えてしまう。

自分なりに仮説を立てたり、ネットで他人の考えを覗いたり。

そんな暇はないという人もいるだろう。「謎解き」は強制ではない。モヤモヤしたままでもいい。それもまた快感だったりする

もちろん、この点にも否定的な人はいるだろう。だから、4部作が完結してから鑑賞するのも手かもしれない(ただ、後に述べるように、すべての謎が解けるという保証はないが)。

[ステップ4:テーマ]制作者の意図を探る

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

『ヱヴァ』は、深いテーマ性やメッセージ性を帯びた作品だ。制作者はそれらを伝えることを「目的」とはしていないが、「結果」として、作品からは滲み出る。つまり、制作者は何の考えもなしに作っているわけではない。

では、どんなテーマやメッセージが込められているのか。作品から何を受け取るかは人それぞれだし、そもそも新劇場版はまだ完結していない。

ここからは、あくまで当ブログの私見だ。

旧世紀版で、制作者の言いたかったことのひとつは、

決断を恐れてはいけない。

ということではなかったか。そして、新劇場版には、

決断を恐れてはいけない。
ただし、その結果には責任がともなう。
たとえ自分が意図しなかったものであっても。
 

というメッセージが込められている気がするのだ。

今作『Q』にどこまで3.11や福島原発事故が影響しているかはわからない。制作記録の発表が待たれるところだ。

3.11後の日本の状況を作品に反映する。仮にそんな意図が制作者になかったとする。それでも作品自体は3.11なしでは語れない気がするのだ。

また、意図的に隠されている細かい設定の数々は、このテーマ・メッセージを見極めることで解明する。少なくとも旧世紀版はそうだった。

そんな深読みができるのが『ヱヴァ』の特徴であり、魅力というわけだ。

[ステップ5:次回作への期待]ループ・パラレルワールド説を否定する

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

新劇場版『ヱヴァ』は、「時間がループしている」「パラレルワールドになっている」という説がネットでささやかれている。

これは自分では思いつかなかったので、素直に感心した。なるほど、そう考えるといろいろな「謎」に説明がつく。

しかし、説得力がある説だからこそ、次回作には採用されない可能性が高い

その理由はふたつある。

ひとつは、優れた創作者は、受け手の予想を裏切るのが性分だからだ。ネットで流布された説をそのまま作品に持ち込むことは生理的に許さないはずだ。当初その予定だったとしても、破棄するだろう。

もうひとつの理由は、[ステップ4]で述べたテーマ・メッセージに関係する。つまり、「自らの決断による結果には責任がともなう」と訴えたいのに、描かれた世界が「ループ」「パラレルワールド」では意味がなくなってしまう

もっとも「裏切ると見せかけてやっぱり裏切らない」というのもクリエイターに期待する“裏切り”ではあるのだが……。

それにしても、『Q』のラストから次回作へどうやってストーリーをつなげていくのか、まったく予想できない。ひょっとしたら、現時点では制作者も考えがまとまっていないのかもしれない(あらかじめ決め込んで作らないのが『ヱヴァ』の作り方である)。

また、すべての「謎」が次回作で明かされることも考えにくい。4部作が完結してもやっぱりモヤモヤすることは十分にあり得る。

個人的にはそれでもかまわない。謎の解明の放棄で作品の評価を下げることはない。

次回作へ期待することはただひとつ。「かつての仲間たちと再び笑い合えること」。これに尽きる。

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 icon-arrow-circle-down 旧ブログの新劇場版『ヱヴァ』レビューはこちら。

ぎゃふん工房(米田政行)

ぎゃふん工房(米田政行)

フリーランスのライター・編集者。インタビューや取材を中心とした記事の執筆や書籍制作を手がけており、映画監督・ミュージシャン・声優・アイドル・アナウンサーなど、さまざまな分野の〈人〉へインタビュー経験を持つ。ゲーム・アニメ・映画・音楽など、いろいろ食い散らかしているレビュアー。中学生のころから、作品のレビューに励む。人生で最初につくったのはゲームの評論本。〈夜見野レイ〉〈赤根夕樹〉のペンネームでも活動。収益を目的とせず、趣味の活動を行なう際に〈ぎゃふん工房〉の名前を付けている。

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〈ぎゃふん工房〉はフリーランス ライター・米田政行のユニット〈Gyahun工房〉のプライベートブランドです。このサイトでは、さまざまなジャンルの作品をレビューしていきます。

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